王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

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第一章 始まりの地 アルへム村

五話 入学式

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 王立学園の初登校を飾った俺とルーシア。
 だが、早々に暗雲が立ち込める事態に遭遇していた。
 はずだったんだが……。

『学園内での生徒同士の私闘は、厳罰に値するんだ。だから無闇に手を出してはいけないよ。覚えておいてね』

「……。」

 忠告をする赤髪の男子生徒は、無言の俺に笑顔を向ける。
 いや、忠告ではなく、警告か。

『そうそう! ところで君達、アルヘム村から来たんだって? 良いね、あそこの温泉宿は、僕も大好きなんだ!」

 よほど良い思い出でもあったのか、至福の笑みを溢す赤髪の生徒。
 確かに観光客は多いが、そんなに気持ちの良い湯船だったのだろうか。

『子供の頃、両親に連れられて観光に行ったんだ。もしかしたら、君とはすでに会っていたかもしれないね』

「……かもな」

 次第に冷静を取り戻した俺は、じっとこの男の顔を見る。そこにあるのは、心優しくも力強さに満ちた笑顔が。
 彼の言っている事は、決して演技でも嘘でもない。
 それだけは、この表情を見ればわかる。

『僕は生徒評議会カウンシルの三年生アスカードだ。ようこそ王立学園へ』

 呆然と立ち尽くしていたルーシアと俺に、アスカードが手を差し出す。

「えっ? あっ、はい。ルーシアです、よろしくお願いします」

「ミストだ」

 ……どうやら、今度は魔力を消そうとしてきていないみたいだ。

『ところで、そこの三人。生徒評議会カウンシルの権限により、二人に代わって僕が指導をしてあげよう』

『あぁ? 指導だぁ? 校内での私闘は禁止なんだろ? やれるもんならやってみろよぉ! ギャハハハ!』

 煽るように下卑た嗤いをする三人。
 その切っ先を見せ付けながら短剣を構え、アスカードを囲む。
 相手の力量すら、ろくに読めずに。

「安心して、もちろんやってあげるよ。生徒評議会カウンシルである僕は、学園の規則ルールから逸脱しているからね」

 アスカードの話を最後まで聞かず、三人が一斉に飛びかかった。
 その瞬間。

「無刀術! 臥龍咆哮がろうほうこう!」

 突き出されたアスカードの両手から、蒼白の衝撃波が撃ち出された。
 魔獣の姿をした衝撃波が創り出され、その鋭い牙を剥けて三人を噛み砕く。

『『 うんぎゃあぁーっ !』』

 飛びかかった三人のうち、金髪と黒髪の二人はもろに直撃。一瞬にして鈍い衝突音と共に吹き飛ばされていった。
 そして、庭園の塀には彫刻のようにめり込む二人の姿が。

「あれ、下手したら死んでるぞ」

「運が良くても、骨は折れてるわね」

 ルーシアと二人で、呆れたようにそんな会話をする。

『へっ……あっ……』

 運良く難を逃れていた銀髪の男は、仲間の身に何が起きたのか理解できず、ひたすらに硬直していた。
 よく見ると、頭のてっぺんが衝撃波で消し飛ばされていて……。
 そんな彼の回りには、哀しげに舞い降りてくる銀色の毛。

「これは失敬。銀髪だけ仲間外れにしてしまったか。だが安心してくれ。止めはしっかり刺してやるから」

『へっ……へ?』

 その場で、へたりと座り込んでしまった銀髪の男。
 股の間から何かが滲み出る音を奏でながら、湯気をも立ち上らせて。

「アスカード先輩、手加減してって、私言いましたよね?」

「い、いやぁ……まさかこんなに弱いとは思わなくて。すまない……」

「見てくださいよ! みんな気絶しちゃってるじゃないですか!」

 ミオナの指差すその先には、昏倒している三人の姿が。

『おい! なんだ今の音は!?』

 その時、騒ぎを聞き付けた大勢の教員達が駆け寄ってきてしまった。
 多少なりとも当事者な訳だから、不思議と焦りを覚えてしまう。

『なんだ、先にアスカード君が来ていたのか。すまないが、事情を説明してもらえるかな?』

「ええ、もちろん構いません。ミオナ、そういう訳だから、後の処理は任せたよ」

「はいはい。早く戻ってきてくださいね」

 すれ違いざま、アスカードがニコリと微笑みかけてきていた。あえて声をかけず、無関係だと思わせる為に。

『ヒーラーの生徒、ここに集まりなさい。そこの三人をシスターセレス先生のところに連れて行ってちょうだい』

『ほらほら、解散しなさい。もうすぐ入学式ですよ』

 連携のとれた迅速な指示を出す教員達のお陰で、とりあえずこの場は収まったみたいだ。
 というより、手際が良すぎて違和感しかないが、もしかしたら日常茶飯事なのだろうか。

「ねえ、ミスト。アスカード先輩が助けに来なかったら、暴れるつもりだったんでしょ」

「……そんなつもりねえよ」

 はぐらかすように、顔を反らす俺。

「喧嘩は駄目だからね。絶対」

「んー」

 更に適当な返事をする。

「……だって、ミストが学校辞めちゃったら、寂しいから」

 俯きながら、何かを呟くルーシア。
 そんなルーシアは、少し顔を赤らめているようだが。

 ━王立学園・講義場━

『という訳で、これから三年間、心に残る学園生活を送ってください。以上!』

 滞りなく入学式を無事終えた俺達は、なぜか深刻なほど疲労感に襲われていた。
 その原因は、壇上で語る一人の教員のせい。なぜなら、二時間にも及ぶ過酷な演説スピーチをしてくれたからだ。

「つ、つまんねえ話だったな。あのハゲが担任になったら、毎日地獄じゃねえか……」

「ええ、さすがに。学生時代の武勇伝を延々と話し始めた時は、絶望したわね……」

 そして、閉会と同時に数人の教員が新入生の前に歩いてくる。

『これから一年間、我々がみなさんの担任を勤めます。それでは、今から呼ばれた生徒は各教師の前に並んでください』

 どうやら、この場で新入生のクラス分け発表を行うらしいのだが……。

「はぁーっ、良かったぁ。ミストと違うクラスになっちゃったら、どうしようかと思ったわ」

「確かに。俺もルーシアと一緒で安心したよ」

 そう。俺とルーシアは無事同じクラスになれた。
 今年の新入生は一クラスにつき三〇人。AクラスからCクラスまでの合計九〇人だそうだ。
 入学時の新入生は毎年少ないのだが、各地から続々と編入生が入ってくるって話だ。
 頻繁に転入生が来ると思うと、少し楽しみではあるが。

『僕が……担任の……キジです……。みなさん……これから……よろしく……お願いします』

 集められた俺達の前に立つのは、ふくよかで大人しそうな眼鏡をかけた中年の男性。
 おそらくこいつがCクラスの担任か。
 超小声で囁いてくるから、何を言っているのかわからないが。

「それでは……みなさん……教室に……行きましょう。付いて来て……ください」

 ふくよか教師が手招きをしながら、本校舎の方へとのそのそ歩き出す。
 とりあえず付いて来いって、事か。

 入学式の会場として使われていた屋内闘技場アリーナから本校舎までは、二階から橋で繋がっている。
 その為、外に出る必要は無く、すぐに本校舎の中に辿り着ける設計だった。

 ようやく教室に到着した教師は、のそのそと教壇に立つ。
 振り返ると、黒板にゆっくりと文字を書き連ね始めて……。

【担任のキジです。他の生徒には『頭領』と呼ばれています。専攻は造形科スミスです】

 まぁ、外見だけなら大工の頭領だ。
 父さんの話によると、この王立学園には伝説の鍛冶師と呼ばれたドワーフがいるらしい。
 ……まぁ、この先生ではなさそう。

 再び黒板に文字を書き始める頭領を待つ間、生徒達が好きな座席へと着席していく。

 そんな中、俺が選んだのは窓側の最後尾。
 この教室は三階にある為、ドリアスの街並みが一望できるのだから、なかなか悪くない。

「はぁー……今日からここ・・が、私の聖域サンクチュアリになるのね」

「……何言ってんの?」

 当然俺の隣に座るのは、念願の学園生活に心踊らすルーシアだ。
 拝むように両手を握り合わせ、至福の溜め息を漏らしているが。
 知ってる顔が隣にいるのは、俺も助かるな。

【明日、専攻を決めてもらいます。自分に合う専攻を見つける為に、いつでも他の専攻に変えられます。まずは気軽に、やりたい事から始めてみてください。】

 ようやく頭領が書き終えた白板には、こう書かれていた。

 ……専攻か。入学したは良いものの、俺は王立学園の事全く知らない。
 頭領に訊くのもあれだし、帰りにルーシアに訊いてみるか。

 ━放課後・校舎前━

 初日の課程を終えた俺とルーシアは、帰りの帰路に着く為に本校舎を出ていた。

『おい! ちょっと待てぇ!』

 そこに現れたのは、包帯を何重にも巻いた生徒が二人。それともう一人、下半身だけジャージ姿の生徒が一人。
 どうやら俺達を待ち構えていたみたいだが。
 ……あぁ、今朝の三人組か。

『今度、地元の仲間連れて復讐してやるからな! 覚えとけ!』

『俺は都で有名な賊のパンチ躱した事あんだよ! ビビんじゃねえぞ!』

『俺の親父は元賊なんだぜ。なめんじゃねえ!』

 ここまで来ると呆れて相手にする気も起きない。
 結果、勝てないなら仲間を増やすだけ。勝つ為に己を磨くという選択肢は思い浮かばないのか。

「あぁ、気をつけるよ。また明日な。保健室で借りたパンツ、ちゃんと買って返してやれよ」

 去り際に手を振り、その場を立ち去った。
 その後ろで、少し気まずそうに軽くお辞儀をするルーシア。

『あいつ……ミストとか言ったな。……ぜってえ許さねえ!』
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