王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

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第一章 始まりの地 アルへム村

七話 君との出逢い

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 王立学園を後にした俺とルーシアは、帰りの帰路を辿っていた。
 正門の外には、新入生の親族がずらりと並び、我が子を待ち侘びる長蛇の列が。
 まぁ、自分の子が寮生になるのだとしたら、そこまでしたくなるのが親心か。

「なぁ、どうかしたのか? なんだか、思い詰めた顔してるけど」

 そんな中、不安そうな顔で何か考え込んでいる様子のルーシア。

「そこまで大した事じゃないんだけど。さっきの三人、何か仕返ししてこないか気になって」

 あぁ、あいつ等か。
 あんなのに限って、陰湿で根に持つからな。
 しかし学校という組織に入ってしまった今では、下手にぶっ飛ばす事も難しい。
 学生っていうのも、やっぱ面倒だ。

「まぁ、さすがに目立った悪さはしてこないんじゃないか? 何かあれば、生徒評議会カウンシルが対処してくれるだろ」

 隣を付いて歩くルーシアの表情を窺いながら、そう返す。

「まあ、それもそうね」

 それから一〇分ほどドリアスの街中を歩いた頃、学校で気になっていた事をルーシアに尋ねた。

 それは専攻・・と呼ばれるものだ。その専攻こそ、各地からわざわざ入学してくる一番の理由らしいのだが。

「はぁ……そんな事も知らないのね。街を出たら軽く説明してあげるけど、家でもしっかり学園の案内を読みなさい。いい?」

「はーい」

 唐突な質問を尋ねられたルーシアは、呆れた顔でため息を吐く。
 俺もまた、両手を頭に乗せながら、面倒くさそうに返事をする。
 一見不仲にも見えるやり取りだが、俺とルーシアの間にそんなものはない。
 むしろ逆だ。
 本音で話せる仲だからこそ、こうして毎日いるのだから。

 ━西方地域・川沿いの街道━

 ドリアスの街を離れた俺達は、森の街道を馬で駆けていた。
 行きとは違って遅足で歩き、風景を満喫しながら。

 しばらく進む中、軽く咳払いをするルーシア。
 専攻についての説明を始める為、発声練習でもしたのだろう。

「じゃあ、今から各専攻の特徴を簡単に説明するね。まずは剣術科アサルト。これは武器や体術を用いて、近接戦の訓練をするそうよ。言ってみれば、典型的な体育会系ね」

「へえ、俺向きだな」

「次に後方支援の要、魔術科ウィザード。攻撃魔法や回復魔法を効率よく運用する訓練がメインなの。二年生になると、攻撃型と支援型で更に別れるんだって」

「魔法かぁ。氷魔法くらいなら覚えたいよな。夏の暑さ対策に」

「あとは変幻自在に戦闘を掻き乱す技術科レンジャー。短剣、弓、補助魔法など多彩な訓練ができるわ。覚える事が一番多いから、あまり実戦は学べないそうよ」

「あっ、面倒くさそうなのはパス。どうせ続かないだろうからな」

「はいはい。……って感じで、冒険者や騎士志望の人は、この中の一つを選ぶみたい」

「まぁ、俺は父さんの店があるからな。ルーシアも、親の仕事を手伝うんだろ?」

「うん。私もパパとママが働いてる村役場の手伝いをしないとだから」

「じゃあ、専攻は何にするんだ?」

「私は商業科ディーラー造形科スミスかな。商業とか農業を継ぐ人が選ぶ専攻なの。だから、これで魔法ともお別れね」

「なら、俺も剣とはお別れかな……」

 正直、俺にはやりたい事も夢もない。
 とりあえず父さんと母さんの負担を減らせたら何でもいいか。
 ……くらいにしか考えていないのだから。

 そして、沈黙のまま時間だけが過ぎていった。
 自分が何をやりたいのか。本当にその道を歩んで良いか。
 そう悩みながら……。

「ねえ、ミスト」

「んー、なんだー?」

「やっぱり剣術科アサルトを選んでみたら? アスカード先輩が助けに来た時に見せた蒼白色の力。あれって、ミストと同じ力だよね」

 ルーシアの予想外な言葉に、少しばかり動揺してしまう。
 確かに俺も、アスカードと同じ力を持っている。そしてこの力を見た人は、魔力とは似て非なるものだと言っていた。
 この力は闘気。そう教えられた。

「ミストなら、きっと勇者科ブレイブにもなれるわ」

「勇者? そんなの、俺には全然向いてないだろ」

「そんな事ないわ! いい? 勇者科ブレイブっていうのは……」

 ドオォォォン!!

 その時、耳鳴りがするほどの激しい爆発音が鳴り響いた。
 森の鳥達が一斉に飛び立ち、木立がざわめく。
 おそらくだが、この街道の近くを流れる川の方からだ。

「なぁ、ルーシア。今の聞いたか?」

「うん! 聞いたわ!」

 異変を感じた俺とルーシアは、すぐに馬から降りた。
 今の音は、明らかに自然なものではない。
 だとしたら、誰かが魔物に襲われているのかもしれない。

 そう脳裏によぎった俺達は、森の中を駆け抜けた。
 木の枝に飛び移りながら、空を駆けるように。

 〈グルルルゥゥーッ!!〉

 突然、俺達の行く手を阻むように、森の奥から魔物が姿を現した。

「ミスト、こいつ等は私に任せて!」

「一人でいけるのか?」

「当然! 余裕だわ!」

「ククク……まぁ、だろうな。俺は先に行くぞ」

 余裕の笑みを浮かべるルーシアに任せ、枝を蹴りながら魔物の群れを飛び越す。

「……確か、爆発はこの辺で聞こえたはずなんだが」

 川原に辿り着いた俺は、周囲を見渡し、感覚を研ぎ澄ました。
 普段なら穏やかなせせらぎを奏で、安らぎを与えてくれるこの川。
 だが、今日ばかりは違う。
 
 バシャーン!

 その時、川の浅瀬からすさまじく立ち上る水飛沫が上がった。
 そこには魔物の群れと戦う、一人の少女の姿が。

『くっ! 魔力が……持たない』

 魔物と戦っていた少女は必死に魔法で応戦しているが、明らかに劣勢を強いられていた。

『はぁ、はぁ……雷の精霊ボルト、力を貸せ! 雷撃魔法ライトニング!』

 少女が放った魔法は、魔物に避けられてしまう。
 その隙を突き、別の魔物が突進する。
 度重なる疲労が蓄積されているのか、少女は避ける事もできず、腹部に激突されてしまった。

『う、うぅっ……』

 勢いよく浅瀬に吹き飛ばされた少女は、力が入らずにその場で倒れ込む。
 もはや川の流れにさえ抗えず、立ち上がる事ができないようだ。

「あれは、魔狼ウェアウルフか。村の畑を荒らしに来る下級の魔物だが、数が多いな」

 一刻を争う事態だと判断した俺は、近くにあった木の棒を拾い、武器の代わりに構えた。
 魔物の数は、ざっと数えて四匹はいる。
 下級とはいえ、あれだけの数が揃えば並の戦士でも苦戦する相手だ。
 何せ、すばしっこいのだから。

 その時、俺の気配を察知したウェアウルフ達が、一斉に狙いを変えた。
 弧を描くように駆け出し、急接近してくる。

雷刃剣魔法ライトニングセイバー

 枝に雷撃を纏わせ、投槍ジャベリンのように勢いよく投げつけた。

〈ギャィィン!!!〉

 一匹のウェアウルフに突き刺さった木の枝は、その勢いを止めず、残りのウェアウルフをまとめて貫いていった。
 地面に倒れていく魔物の群れは、悲鳴と共に霧のように消滅していく。
 その跡には、紫色の石が転がる。

 この石は魔物の核のような物らしいのだが、問屋などで換金できるから、集めて損はない。……が、今はそれどころではないか。

「なぁ、大丈夫か? ……って、傷だらけだな」

 一通り周辺を確認した後、浅瀬に座り込んでいた少女の元へと向かった。
 その少女は、呆然とした顔で俺を見つめてきているが……。

 ただ、彼女の顔を見た瞬間、不思議な感覚を覚えた。
 腰まで伸びた眩い薄茶色の髪に、薔薇の髪飾り。透き通った青い宝石のような瞳をした、一際綺麗な少女。
 歳は俺と同じくらいだろうか。

「何でこんなとこに一人でいたんだ? 傭兵も無しに出歩くなんて、危ないぞ」

 しかし少女からの返事はなく、浅瀬に座り込んだまま、じっと俺を見つめている。

「これしかないけど、使えよ」

 とりあえず鞄からハンカチを取り出し、そっと差し出す。
 その少女は、我に返ったように正気を取り戻すと、ゆっくりとその口を開いた。

「あっ、あの、危ないところを、助けていただいて……ありがとうございました」

「いや、別に良いよ。俺はミストだ」

「私は、ローラです」

 少し警戒されているのか、いまだに無表情のまま、俺を見つめてくるローラ。

「ほら、手を」

 そして、ゆっくりと手を差し出す。

「……あっ、すみません」

 一瞬驚くも、ふらふらとしながら俺の手を掴むローラ。
 そして、なんとか立ち上がったローラだったが……。

 その瞬間、ある重大な事に俺は気が付いてしまった。

「す、透け……見え……」

「すけ? みえ? どうか、しましたか?」

 ……そうなんです。
 ローラの着ているドレスが、水に濡れてうっすらと透けているんです。
 しかも破れた衣服から、下着を覗かせている始末。
 思わずじっと見入ってしまうのは、思春期真っ只の性。

「あの……ミストさん?」

 小首を傾げながら、不思議そうに見つめてくるローラ。

「ねえ、そこの変態……」

 その時、背後から漂うとてつもない殺気が俺の身体を貫いた。
 あまりの恐怖に、振り返る事ができない。
 この殺気……間違いなく奴だ。
 まさか、ローラを凝視していたのがバレてしまったのか。
 あの、ルーシアに……。

「いつまで見てんのよ! この変態!」

 バチィィン!!

 そして、痛恨のビンタをお見舞いされてしまった俺。

「ミスト、その子に上着を貸してあげて」

「……あい」

 ルーシアの勅命に従い、秒で上着をローラに差し出す。

「ローラさん……だよね? 私はルーシア。そんな傷だと街には戻れないだろうし、今日はアルヘム村に泊まったらどう? ここからなら、結構近いのよ」

 ローラを気遣い、優しく微笑むルーシアが提案する。
 それを聞いたローラは少し考えた後、申し訳なさそうに頭を下げた。

「もう、魔力も使い果たしてしまって。お言葉に甘えても、良いでしょうか……」

「まあ、構わないだろ。ついでに俺んちで夕飯でも食べていけよ。どうせ今日は多めに作ってもらってるだろうし」

「えっ、ご飯……」

 ローラがそう呟いた瞬間。

 ぐぐぐぅぅぅーっ。

 獣の呻き声にも似た音が辺りに鳴り響いた。
 その発信源は、言うまでもなく。

「ご、ごめんなさい。二日前から、何も食べていなくて……」

 右手をそっと挙げながら、顔を赤らめたローラが白状する。
 そんな彼女を見た俺とルーシアは、思わず大笑いしてしまった。

「なら決まりだな。来いよ、俺達の村に」

 これが、俺と彼女が初めて出逢った日だ。
 今までの平凡で退屈な生活が終わりを告げ、やっと俺の物語が始まる。

 俺と、ローラの物語が。
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