王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

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第一章 始まりの地 アルへム村

八話 ようこそ、アルヘム村へ

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 怪我を負っていたローラを馬に乗せ、俺とルーシアは馬を引きながら帰りの道を歩いていた。

 馬に跨がるローラは実に様になっていて、左右の重心をバランス良くとれている。姿勢を垂直に保ち、手綱を握っていても肩の力をしっかりと抜いて。
 騎乗の経験がある事など、すぐに見てとれるほど自然体だ。

「そういえば、ローラって冒険者なの? その腕輪って、確か……」

「はい、半年ほど前に登録しました。まだ、ランクはⅡなんですけど」

「冒険者かぁ。俺もバイトがてら登録してみるかな」

「無理無理! 引きこもりのミストじゃ、絶対続かないわね」

「うるせえ」

 しばらく進むと、ようやくアルヘム村の入口が見えてきていた。
 空の景色は赤く染まり、太陽が滲むように山影へと沈んでいく。気が付けば辺りはもう夕暮れだ。

「じゃーん! 見て、ローラ! ようこそアルヘム村へ!」

「じゃーん。なんにもなさ過ぎて、びっくりしただろ」

「はい。長閑で素敵な村ですね。なんだか、落ち着きます」

 アルヘム村にたどり着いた頃には、すっかり俺達は打ち解けていた。
 相変わらずローラは無表情だけど、少しは気を許してくれたのかもしれない。

『おおっ、ミストにルーシア。ずいぶんと遅かったじゃねえか』

 村の正門には、一際大きな体格の男が仁王立ちしていた。
 坊主頭で髭を生やし、どっしりとした風貌で、端から見れば山賊だ。
 そう。この大男はアルヘム村唯一の守衛、マディガン。
 何度か木剣などで手合わせしてもらっているけど、このおっさんは結構強い。

「おっさん、ただいま」

「マディガンさん、ただいま! いつもお疲れさま!」

「おぉ! おかえり!」

 マディガンが朗らかに微笑むと、後ろをついてきていたローラに気が付いた。

「そこの嬢ちゃん、大丈夫か? その怪我……何があったんだ?」

「あぁ、この子はローラだ。街道近くの川原で魔物に襲われててさ。その時に怪我したんだ」

「そうだったか。ここら辺は野生の獣や魔物が多いからな。嬢ちゃん、怪我が治るまでゆっくりしいてきな。村長には、俺から話しておいてやるから」

 ローラはゆっくりと馬から降りると、マディガンに深々と頭を下げた。

「マディガンさん、ありがとうございます。少しの間、お世話になります」

「わっはっは! 律儀な嬢ちゃんだ! しっかし、どっかで見た顔のような……」

 小首を傾げながら、じっくりとローラの顔を覗き込むマディガン。

「マディガンさん、それって新手のナンパですか?」

「んな訳あるか! 俺には王都に残してきた妻がいるんだぞ。写真見るか?」

「「 見飽きたよ 」」

「冗談だよ。ほら、さっさと中を案内してやれ」

 そして、俺達は村の中へと入っていった。
 ここアルヘム村は、西方地域の街々から王都へ向かう際の補給地点として、行商人や旅人によく利用されている。
 温泉も涌き出ているちょっとした観光地にもなっている為か、村の人達は他所者にも寛大なのだが……。
 寛大が過ぎるんだよな。

 そしてローラに村の案内をしながら、馬主のハーシェルじいさんの家に訪れた俺達。
 ここに立ち寄った理由は借りていた馬を返す為なんだが、老人の癖に動き回るから不在がち。

「じいさん、ただいまー。いるかー?」

 馬小屋を覗くと、ハーシェルじいさんが馬達に餌をあげている姿が見えた。
 まるで本当の子供と接するように、優しく語りかけながら。

「やぁ、二人ともおかえり。……おや? お前さん、怪我をしているのか?」

 すぐにローラの怪我に気が付いたハーシェルじいさんは、ゆっくりと腰を上げた。

「はい。でも、平気です。ミストさんとルーシアさんに、助けていただきましたので」

「何を言うんだ。傷跡が残ってしまったら大変じゃないか。どれ……」

 魔力を解き放ち、小声で詠唱するハーシェルじいさん。
 しわだらけのくたびれた両手を、ローラの傷にかざした。
 すると、ローラを包み込むように光の衣が現れ出す。

「ローラ、大丈夫よ。ハーシェルおじいさんは村一番の魔導師なの。治癒魔法だってすごいんだから」

 ルーシアの言う事に安堵したのか、心地良さそうにそっと瞳を閉じるローラ。
 傷口も穏やかに塞がっていく。

「ハーシェルさん、ありがとうございました」

 あっという間に傷口が無くなっている事に驚いたローラは、深々とお辞儀をした。

「じいさん、色々とありがとな」

「ああ、気を付けて帰りなさい」

 そして馬を返した後、ハーシェルじいさんに手を振って別れた。
 ようやく村の一番奥にある俺の家へと向かう事にする俺達。
 だったのだが、今度は屋台の店主達がローラを取り囲んできて……。

『あらまっ、そんなに痩せ細っちゃって。お腹空いてるでしょ? これ、お食べ』

『よお嬢ちゃん、ボロボロじゃねえか。こいつでも飲んで、シャキっとしな!』

 川魚の塩焼や焼き菓子、果実を絞ったジュースなど、ひっきりなしに渡し始めたみんな。
 つくづく他所者に対して好意的な村民だ。
 何かを貰う度に深々とお辞儀をするローラも面白いが。

 気がつけば、ローラの両手には持ちきれないほどの食べ物が積み重なっていた。
 とりあえず道端の長椅子に座らせ、食べる時間を作ってやる事に。

「わぁ……美味しい……」

 ローラは感動したようにニコリと微笑み、ちびちびと果実のジュースを両手で飲む。
 串を外した川魚は、フォークを使いながら丁寧に身を取り出し、口へと運んでいく。

 二日も絶食していたのなら、てっきりがっつくかと思ったのだが……。
 意外とお淑やかに食べるのか。
 年頃の女の子だし、それはやっぱり恥ずかしいのかもな。

「あっ、ごめんなさい。私、食べるの遅くて……」

「いや、気にすんな。そんなに美味そうに食べてると、見てても飽きないから」

 その後も、食べている姿をじっと見られているローラ。
 少し恥ずかしいのか、時折見せてくれる微笑みがぎこちない。
 あぁ、これぞ可憐・・。可憐と清楚を具現化した人物だ。

「って、言いたげな顔するのやめてくれる? 私だって食事マナーは完璧でしょ?」

「……ルーシア、お前って心が読めんの?」

 ━アルヘム村・自宅━

 完食し終えたローラを連れて、やっと俺の家に到着した。
 この家を出てからほんの半日なのに、色々ありすぎて久々な気がするが。

「じゃあ、私は一旦家に帰るわね。ローラに着替えをさせてあげたいし」

「あぁ、確かに。その格好は、やばいな」

「ミストさん、ありがとうございました。お借りしていた上着を、お返しします」

 俺が貸した上着を脱ぎ、綺麗に畳むローラ。大切そうに、そっと返してきた。

「あぁ、そんなに丁寧に畳まなくても良かったの……に」

 その時、俺は気が付いてしまった。
 ローラの着ている破れたドレスの隙間から……。

「おい」

「いえ、見てません!」

 殺気を感じたので、すぐに視線を逸らしながら上着を受け取った。

 怯える俺を背に、隣のルーシアの家へと楽しそうに入っていく二人。
 見送りを終えた俺も、自分の家へと帰った。
 平穏な生活が好きだけど、たまにはこんな刺激も悪くないな。

 たまには……な。
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