王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

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第一章 始まりの地 アルへム村

九話 初めての友だち

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「ルーシアさん、お邪魔します」

「うん、どうぞー!」

 アルヘム村へ訪れた私は、ルーシアさんの部屋に案内してもらっていた。

 入ってすぐに抱いた感想は、彼女はピンク色が好きなんだと、誰もが思うほどのピンクハウス色。
 カーテンや布団、絨毯なんかもピンク色に染まっていのだから。
 ふわふわなぬいぐるみなんかも置かれていて、思わず指を押し当ててみたくなってしまう。

 それにしても、ルーシアさんはどうしてこんなにも親切にしてくれるのだろうか。
 出会って間もない私なんかに。
  でも、あまり人と接した事がない私は、こんな時はどうお礼をすれば良いのか、迷ってしまって……。

「ごめんね。少し時間がかかりそうだから、そこの椅子に座って待ってて」

「はい。失礼します」

 窓の下に備えられた椅子に、ゆっくりと腰かける私。
 柔らかなクッションが疲れた身体を受け止めてくれる。背もたれもほどよく傾斜になっていて、思わず眠たくなってしまう。
 ふと窓から外を眺めると、向かいの家の窓にはミストさんの姿が。

 そっか。ミストさんとルーシアさんはお隣さんなんだ。
 きっと小さい時から仲が良いんだろうな。
 幼馴染、なのかな。
 ……羨ましいなぁ。

 その頃、未だクローゼットの中身と格闘中のルーシアさん。
 クローゼットの中を漁っては投げ散らかして、洋服を広げる度に私の方に向け、首を傾げる。
 床に散乱している洋服はかわいらしいものばかりで、街で見かけた若い人達が着ていたのと同じだ。
 ワンピースやミドルスカート、チュニックまで。全て私が敬遠してきた洋服ばかり。

「うーん……あっ! これなら良いかも! 」

 そう言ってルーシアさんが広げて見せてくれたのは、黒と赤を基調としたゴシック風の膝上丈ワンピースだっ。

「なんだか、スカートの丈が、短いです」

「恥ずかしがったら駄目! これくらいの短さが、今の流行りなんだから!」

 確かに、街の女の子達も肌を露出した服装が多かったような。
 でも私は、新人とはいえ冒険者。その洋服で、大丈夫かな。
 ……考えてみれば、ドレスを着ている冒険者の人もいなかったね。
 ふと頭の中で、そんな葛藤を長々と抱く。

 そして、ルーシアさんに言われるがまま鏡の前に立つ私。
 ワンピースを胸元に当てて、大きさを見立ててもらいながら。

「どう? サイズもローラに合うんじゃない? ……胸はきつそうだけど」

「いえ、ちょうど良いですよ。このワンピース、とてもかわいいです」

 そう言うと、ルーシアさんは明るい表情になり、嬉しそうに微笑む。

「でしょ? この服、去年の社交会に買ったやつなの」

「……ルーシアさんのお家は、地位の高い家柄なんですか?」

 自然と流れる冷や汗。息を飲んで返事を待つ私。
 その答え次第では……。

「まあ、一応爵位のある家系かしら。うちのお祖父様って、みんなには村長って呼ばれているんだけど。本当は、村長じゃなくて領主なんだ」

「……爵位を、お訊きしてもいいですか?」

「えっ? えっと……子爵だったかな」

「そうでしたか。この村を見てわかります。良い領主さんなんですね」

「だと良いんだけどね。まあ、将来は私も運営を手伝うつもりなんだ」

「フフフ。応援してます」

 子爵の方なら、おそらく私と顔を合わせても何とも思わないはず。
 そう安堵しながら、ルーシアさんとお話をしていた。

「そうだ! 着替える前に温泉に行ってみない? ここの温泉は怪我にも効くのよ」

「温泉……ですか?」

 私は表情に出さずも、内心驚いていた。
 この数日、森の泉で水浴びしかしていなかった私が、初めての温泉に入れるだなんて。
 そもそも温泉なんて、本でしか読んだ事がないのだから。
 まさか、ついに体験できる日が訪れるなんて……。

 ━アルヘム村・温泉宿━

 颯爽と村の温泉宿へと足を運んだ私達の前には、うっすらと湯煙が立ち上っていた。
 宿から出てくる人達からもまた、湯気が出ていて。

「ルーシアさん、せめてここの代金は、私がお出しします」

「あっ、平気平気。私と入れば、顔パスだから」

「顔……ぱす?」

 ルーシアさんの言った通り、快く宿の館長さんに無料で了承してもらえた。
 ルーシアさんが言うには、時折浴場の掃除を手伝っているから、無料にしてもらえてるんだとか。

「あっ、良い香り……」

 脱衣場に入ると、早速様々な花の香りが迎えてくれる。
 さすがは花の都と呼ばれた地域。
 とても自然が豊かで、人と自然の調和を上手に取れている。

「さあ、早く服脱ぎましょ」

「はい」

 ババッ!

 えっ、手品?
 そう錯覚してしまうほど、一瞬のうちに脱ぎ終えていたルーシアさん。
 脱いだ洋服は、ぐちゃぐちゃのままカゴに入っているけれど。
 そして私も、急いでドレスを脱ぎ、コルセットの紐に手を伸ばした。

「あれ? ローラって冒険者なのに、コルセットまでしてたの? ドレスを着てたから、まさかとは思ってたけど」

「えっと、やっぱり……変ですよね」

「変ではないけど。動き辛いんじゃないかしら。もしかして、ローラもどこかのお嬢様なの?」

「いえ……そんな」

 時が止まったかのように、ぴたりと動かなくなった私。
 薄々は感じていたけれど、やっぱり私の服装は不自然だったんだ。

「わ、私は……その……北方の出身なので……」

「ふーん、なるほど。確かにその冒険者の腕輪、北方の街の刻印だものね。北方地域はすごく寒いって聞くし、西とは違う文化があるのね」

「はい。とても……寒いんです」

 ……これからは、コルセットは付けない事に決めた。
 咄嗟に嘘を吐いてしまったけれど、実際のところ北方地域の南端の街までしか行った事がない。
 でも、これだけはわかる。北方地域に、そんな風習は無いと。

「うーん! この解放感、最高だわ!」

「はい。でも、少し恥ずかしい……です」

 脱衣場を出ると、周囲を石垣に囲まれた温泉が広がっていた。
 そんな中ルーシアさんは大きく腕を広げ、伸びをする。もちろん丸裸で。
 私は初めて人前で裸になった為か、恥ずかしさと緊張でタオルが手放せないのに。

 空には星が無数に輝き、月明かりに照らされてとても綺麗な夜空を見せてくれている。
 そこに湯気が立ち上ぼり、天の川のような幻想的な景色を演出してくれていて。
 ふと見上げた夜空は、時間を忘れてしまうほどの夜景だ。

「ローラ、こっちに来て!」

「……あっ、はい」

 ルーシアさんに手招きされ、言われるがままに洗い場の椅子に座る。
 なんと、ここの洗い場には蛇口だけではなくシャワーも付いていた。
 シャワー。それは魔物から採取した魔石の動力エネルギーを使って地下から源泉を吸い出し、お湯を噴射できるようになっている装置。

 その魔石は、魔物を倒した時に出る紫色の石の事。
 国内有数の科学者の功績で、様々な動力エネルギーに変換できるようになったんだとか。

 そのおかげで夜間の街灯を灯らす事もでき、音声や風景を残す道具の蓄電池バッテリーにも使われているらしい。
 なにより換金してお金にも替えられるのだから、冒険者の資金源の要だ。
 討伐系の依頼クエストをやっていない私は、全然集められないけれど。

「ねえ、せっかくだから背中を流してあげるわ」

 そう言いながら、私の後ろに回ってくるルーシアさん。

「そ、そんな! ルーシアさんには、お世話になってばかりなのに。そのような事、お願いできません」

「一緒にお風呂に入ったのなら、相手の背中を流すのは一種の礼儀よ。だから気にしなくていいの。それに今まで歳の近い女の子の友達っていなかったから、なんだか嬉しくて」

 そう言いながら背中に手を添えて、優しくシャワーを浴びせてくれる。
 その後、石鹸を馴染ませタオルを私の肌に滑らせてくれて。
 
 久しぶりに触れた人の温もり。
 不思議と心の中で広がるのは、安心と幸福感。

「そういえば、ローラって何歳なの?」

「私は、つい最近一六歳になりました。ルーシアさんは、おいくつですか?」

「そっか! 私も、もうすぐ一六歳よ! ちなみに、ミストも同じ歳なの! 私達、同じ歳の友達ね!」

「フフフ。私、初めて友達ができました」

「うん! これからも仲良くしようね!」

 私は、忘れかけていた。
 心が暖まるような、嬉しいという気持ちを。
 そんな感情が、私にもある事を。

 こうして私は、アルヘム村にやって来た。
 この時の私は、この先もここに住む事になるなんて、この時はまだ、知らなかった。

 悲しい事、辛い事、どんな事があっても。
 ここに帰ってくれば、笑顔になれる。
 ここが私の帰る場所。
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