王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

文字の大きさ
10 / 58
第一章 始まりの地 アルへム村

十話 特別な入学祝い

しおりを挟む
 二人と別れた俺は、ようやく我が家へと到着した。
 家の近くまで漂っていた香りの正体。それは間違いなく母さんの料理だ。
 という事は、予想どおり腕によりをかけて夕飯を作っている最中か。

「ただいまー……。うおぉっ! びっくりした……」

 なんと目の前には、父さんと母さんが正座をして待ち構えていた。
 この二人、何時間ほど前からこうしていたんだろうか。

「おかえり、待ってたぞ!」

「ミストちゃん! うぅっ……ビズドぢゃんががえっでぎでぐぇだよぉ! ズビィィィッ!」

 いきなり歓喜に震える両親は、覆い被さるように抱き付いてくる。

 とりあえず父さんは、頬擦りするのやめてくれ。
 そして母さん。泣きすぎて、何を言ってるのかよくわからない。
 それと、鼻をかむのに使ってる布、俺の上着。

「なぁ、母さん。いきなりで悪いんだけど、もう一人分の夕飯って増やせる?」

 父さんと母さんは突然の事に状況が読めず、顔を見合わせて困惑していた。
 事情を話すのに長くなるだろうから、二人をリビングまで連れて行く事に。

 そして、早速ローラとの出会いからアルヘム村まで連れてきた経緯を説明した。

「ミストお前、何て優しい奴なんだ!」

「ママに任せて! 今日だけと言わず、ずっと面倒を見てあげましょ!」

「しかし、そうなるとだな。お前はこの先、ルーシアちゃんとローラちゃん、どっちを選ぶんだ?」

 小さく唸りながら、そんな悩みを打ち明ける父さん。
 この人はいきなり何を言い出すのか。
 想像力が豊かすぎて、返す言葉が見つからない。

「そうよ。いつかは修羅場になるって事なのよ。でも安心して! ママ、泥沼の愛憎劇みたいな展開は大好物なんだから!」

 はっ?

「いやいや、俺の見立ては少し違う。推理小説になぞらえた、愛憎渦巻く殺人事件が起きると見た」

 こいつも何言ってんの?

「温泉の村だけに、湯けむり殺人事件って事ね! それも見所がありそうね、あなた!」

 父さんと母さんは壮大な物語ストーリーを頭の中で描き出し、勝手に盛り上がっていた。

 コンコンコン。

 その時、玄関から扉を叩く音が聞こえた。
 という事は、どうやら二人のお出ましか。

「おぉ、早かったな」

 扉を開けると、そこにはいつもの寝巻き姿のルーシアが立っていた。何やら意味深な笑顔を浮かべているが。
 怪しい。これは何かを企んでいる時の顔だ。

「じゃーん! どう? 新型ローラ、かわいいでしょ?」

 そう言うルーシアが横にずれると、そのすぐ後ろには……。

「あ、あの……こんばんは」

 そこには、綺麗なワンピースを纏ったローラがひっそりと佇んでいた。
 当の本人は恥ずかしい様子で、おどおどとしながら手を胸の間に当てている。

 ……まぁ、案外悪くない服装だ。だが、俺はそんな感想など声には出さない。
 なにせ、恥ずかしいからな。

「あなた、急いで! ローラちゃんが来たみたいよ!」

 その時、母さんも慌ててリビングから飛び出してきていた。

「やあ! いらっしゃい! ミストの父、ヴァン・アニエルでーす!」

「ママのマリーだよ! よろしくね!」

「あっ……はい。よろしく、お願い致します」

 よほど怯えているのか、その場を微動だにしないローラ。
 まるでゼンマイの切れかかった玩具のように固まり、顔だけ小刻みに動く。
 なぜか俺を見つめてきてるが、助けて欲しいって事か。

 そして、この異様な空気を戻す為にみんなをリビングに連れていく。

「さあ、みんなー! 召し上がれー!」

 今日の夕飯は村の近くで採れた新鮮な食材を使ったフルコースだった。
 テーブルの真ん中には、数種類のフルーツが乗ったパウンドケーキなんかも出てきて。

「「「 いただきまーす! 」」」

 みんなで食事をしながら、初登校の出来事なんかも話題になっていた。
 そんな中、フォークとナイフを上手に使い、綺麗に小分けにして食べるローラの姿が。
 冒険者にしては、所作のひとつひとつが綺麗すぎるような……。

「へえ、ローラも歳が同じだったのか。まぁ、近いとは思ってたけど」

 大量の夕食を食べ終えると、俺とルーシア、ローラはリビングにあるソファにもたれ掛かっていた。

「ローラの友逹一号は、私だからね!」

「別に二号で良いよ」

 しかし、一六歳で親元を離れて旅をしているのか。
 決して稀な話ではないが、実際に出会ったのはローラが初めてだ。

「ミストは、初めての男の子の友達だね」

「そうか、なら俺も一号だな」

「いや、ミストは二号だから」

 同じ歳の男女が三人も集まると、自然と会話が弾む。
 気が付いた頃には、あっという間に夜も更けていて。

「じゃあ、私達は帰るわね。ローラはしばらくの間うちに泊まる事になったから」

「ミスト、今日はありがとう。また明日ね」

「あぁ、また明日。ゆっくり休めよ」

 ローラは立ち上がると、穏やかに微笑みながら小さくお辞儀をした。

「はぁ……。やっと横になれる」

  二人を隣の家の前まで見送った後、やっと自分の部屋に戻る事ができた俺は、そのまま倒れるようにベッドへと寝転ぶ。

 いつの間にかローラの敬語は無くなっていて、俺を友達だと言ってくれた。
 心の壁が消えたような気がして、少しばかり嬉しい。
 彼女の事はまだよく知らない。でも時間はいくらでもあるし、これから少しずつ知り合えばいい。
 そう思いながら目を閉じた俺は、深い眠りについていた。

 ━翌日・寝室━

「んん……なんだ、もう朝か……」

 翌朝、今日も休まずに窓から差し込んでくる朝日。自然の目覚まし。
 早速窓の方を見ると、隣の家では楽しそうに語らうルーシアとローラが。

「ミスト、おはよう」

「おはよう」

 俺に気が付いた二人は、窓を開けながら爽やかに挨拶をしてくる。
 ルーシアもローラも昨日は疲れていたはずなのに、ずいぶんと起きるのが早いな。

「今日も学校なんだから、早く準備してねー!」

「あぁ、わかってるよ」

 ルーシアに言われ、軽い返事をしてベッドから降りた。
 部屋の窓を開けると、草花の香りが漂う。
 朝の新鮮な空気を身体いっぱいに浴び、大きく伸びをする。

 その時、向かいの家の窓からルーシアとローラが着替えているのが見えた。
 いつも通り、カーテンを閉め忘れているのか。
「おぉ、ローラって結構でかいんだな」

 窓枠に肘を置き、二人の成長を堂々と見守る俺。

「……ちょっと! 何当たり前のように見てんのよっ!」

 俺の視線を感知したルーシアが何かを手に持ち、剛球を放つ。

 ドゴォッ!

 この硬い感触は……。
 目覚まし時計を投げてきたようだ。
 さすがはルーシア。その豪腕で固形物なんて投げられてしまったなら、見事に俺の顔面にめり込んでしまうのも頷ける。

「じゃあ、俺達は学校行ってくるから」

 早々と朝食を終えた俺は、ローラに一時の別れを告げた。

「私も、街のギルドに用があるんだ。一緒に、行っていい?」

 そうだった。ローラは冒険者だから、ギルドに顔を出さなければいけないのか。
 昨日の怪我の具合も良くなってるみたいだし、まぁ平気だろう。
 慣れない土地に一人で留守番するのも落ち着かないだろうし。

「じゃあ、一緒に行くか」

 そして、いざ出発。
 そう意気込んだ瞬間、微かに誰かの呼び声がする。
 その声の正体とは、大きな革袋を担いだ父さんだ。

「悪い悪い、二人の入学祝いを渡すのを忘れててな!」

 呆けた顔で、父さんの革袋を見つめる俺達。
 今から学校に行くのだから、荷物になるものは帰ってからにしてほしいんだが。

「まずはミスト、お前には片手剣ルーンソードと短槍コルセスカだ!」

 そう言って取り出してきたのは、淡い玉虫色の剣と柄の短い三叉の槍だった。

「あぁ、ありがとう。でも俺、専攻は造形科スミスにしようと思ってて……」

 しかし、言葉を遮るように父さんが手のひらを伸ばす。

「ミスト、将来なんてものは、急いで決めるもんじゃない。大事なのは、今、何がしたいかだ。お前は剣の訓練が好きだろ? なら、やりたい事をもう一度考えてやってみろ」

「……父さん」

 俺は剣が好き……か。
 それは、自分でも気が付かなかったな。
 その勇ましい得意顔は納得いかないが、さすがは俺の父親だ。

「ルーシアちゃんには短剣ホークアイと魔力の杖だ。この杖は魔力を消費して衝撃を放てるのさ。街道も危ないから、護身用にどうかと思ってね」

「ありがとうございます! ヴァンおじさん!」

 ニカッと微笑むと、再び革袋を漁り出す父さん。

「実は昨日、気になっていた事があってね。ローラちゃんは冒険者なのに、武器を持ってないって聞いたから……」

「はい。一応、魔法が使えますので」

「……なるほど。魔法も使えるローラちゃんなら、細剣エストックと長弓エルフィンボウなんてどうだい? この弓は魔力を矢に具現化させて放てるんだ。弦には精霊石を混ぜて作っているから、応用次第で多種多様な矢が撃てるんだよ」

 誇らしげに父さんは説明するが、さすがは武器屋の店主。
 僅かな情報だけでローラ顧客に合った品を提供するとは。

「……そんな。こんな高価な物は、受け取れません。先日戴いたお食事のお礼も、まだしていませんので」

 小さく両手を振りながら、受け取るのを躊躇うローラ。

「じゃあ、こうしよう。この武器の代金は、冒険者として稼いだ報酬で払って。要は後払いって事さ」

 父さんがそう提案すると、ローラは少し考えた後、そっと武器を受け取った。

「ありがとうございます。必ず、お返しします」

 父さんはよほど満足したのか、日の光よりも明るい笑顔になった。
 眩しすぎて、後光が差しているようにすら見える。
 自分でもそれがわかっているのか、ポーズまで決めてるし。

「みんな、武器それを俺だと思って大事にしてくれよ!」

 最後にそう締めくくる父さんだが、思わず作り笑いを浮かべてしまう俺達。
 父さん、最後の一言で感動が台無しだよ。

「それじゃあ、行ってきます」
 
 そして俺達は、ドリアスへと向かった。
 新たな友と、新たな武器相棒と共に。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...