王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

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第一章 始まりの地 アルへム村

十三話 グロース山の闘い

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「ここが、グロース山……」

 ドリアスの街を出た私は、必死で走り続けた。
 時には森を駆け、魔物の気配を躱わし、慎重に歩き進んで。
 何度か魔物と接触してしまったけれど、ヴァンさんから頂いた武器に救われて、難なく切り抜けられていた。

「エストックは軽いから、手に持ったまま、矢も引けるね。もしかしてヴァンさんは、そこまで考えてくれていたのかな」

 無闇に魔力を消費してしまえば、代償として脱力感に襲われてしまう。
 もしもエストックとエルフィンボウが無ければ、今頃は魔力を使い果たしていたと思う。

 〈キィィィ! キィィィ!〉

 突如として響くのは、甲高い雄叫び。
 山の麓にて待ち構えていたのは、空を自在に舞う魔物だった。
 山頂からこちらに向かって飛んで来るのが四匹。明らかに、狙いは私だ。

「あれは……ガーゴイル」

 すぐに背中からエルフィンボウを取り、襲いかかる魔石像ガーゴイルへと狙いを定めた。

「……射程内に入った」

 弦を思いきり引き絞り、連続で魔力の矢を放つ。
 良かった。幼少の頃に習っていた弓術の腕は、まだ落ちていない。

〈キィィーー!〉

 雄叫びをあげながら、鋭い爪を立てるガーゴイル。
 翼を羽ばたかせ、一層加速させて魔力の矢へと駆け抜ける。

「そんな! 弾かれた!」

 放たれた二発の矢は、意図も容易く叩き落とされてしまった。

 そのまま勢いよく降下してきたガーゴイルの瞳が、私を攻撃範囲に捉えた。
 咄嗟に身構え、鞘に手を乗せる私。
 その時、攻撃態勢に入るガーゴイルが大きく腕を広げた。

「今だ!」

 その瞬間、腰に提げていたエストックを引き抜き、同時にガーゴイルを斬り抜ける。
 まずは一匹、両断させた。

「残りは、三匹」

 敵が私一人だけだと、端から油断していたガーゴイルの群れ。
 ようやく身の危機に気がついたのか、空を旋回しながら間合いをとり、私の出方を伺う。

 けど、そこはまだ、私の射程内。
 再び魔力の矢を造りだし、残りのガーゴイルに六発の矢を放つ。

 〈ギャキャギャギャ!〉

 しかし、ガーゴイルは避けようともせず、振りかざした爪で弾き飛ばした。
 してやったり。そんな顔で嘲笑う三匹のガーゴイル。

 でも、それは予想の範疇だ。
 弾かれた矢の死角になるように、全く同じ軌道で矢を放っていたのだから。

 〈ギギャャァ!!〉

 死角の矢に気が付いた頃には、すでに手遅れ。額を射抜かれて、絶命していく。
 断末魔の叫び声と共に魔石に変わり、地面へと転がり落ちた。

「ごめんね。先を急いでいるの」

 崩れるように砕け散るガーゴイルの前で、瞳を閉じる私。
 たとえ魔物でも、生命ある者。そう思うと、胸が痛む。
 彼等の住み家に勝手に足を踏み入れたのは、私だから。
 それでも私は、止まれない。

「ふぅ……よし、先に進もう」

 大きく息を吐き、呼吸を整える。
 再び足を前方へと繰り出し、グロース山の中腹を目指した。

 今回の依頼内容は、薬草を持ち帰る事。
 その薬草は山の中腹に自生している白いトリカブトだ。

 ━グロース山・中腹━

 荒れた山肌をしばらく登っていた私の前には、開けた場所が広がっていた。
 その中心には、凛と咲く白い花が。

「……あった。これだ」

 岩から岩へ飛び移り、ようやく花の咲く場所へ辿り着いた。
 このトリカブトには麻痺性の毒がある。
 その対策に用意していた革の手袋を身に付け、一輪ずつ丁寧に革袋に入れていく。

「これだけあれば、平気だよね」

 採取を終えた私は手袋を外し、革袋の口を紐で縛る。
 そして、山を降りようと振り返った。

「一体、何が……」

 いつの間にか辺り一帯が暗くなり、突風が吹き荒ぶ。
 あまりの風圧で、スカートを押さえながら、もう片方の手で顔を防ぐ。
 薄く目を開き、空を見上げると……。

 バサァッ! バサァッ!

 そこには、空を覆うほどの大きな鷲が優雅に羽ばたいていた。

「……魔鳥、ガルーダ。でも、こんな大きな個体なんて、見た事ない」

 首を大きく捻る魔鳥ガルーダは、その大きな瞳で私に狙いを定めた。
 すぐさま我に返り、距離をとりながら弓を構える。

「この間合いなら!」

 心を研ぎ澄まし、右手に魔力を集中させた。
 指の間に三本の矢を創り出し、立て続けに一二発の矢を乱れ射つ。

「そんな……無傷だなんて」

 放たれた矢は、狙い通り翼と胴に全弾命中した。
 でも、ガルーダには全く効いている様子はない。
 それどころか、感情を逆撫でてしまっただけのよう。

 〈グワァァァーッ!!〉

 ガルーダが大きな雄叫びをあげ、背筋を反りながら大量の空気を吸い込んだ。
 その巨大なくちばしから、炎を吐き散らす。

「水の精霊ウンディーネ、力を貸せ! 衝撃水魔法アクアインパクト!」

 圧縮した水の球体を放ち、ガルーダの火炎放射にぶつけた。
 でも、明らかに自力が違いすぎる。

「ううっ……魔力が持たない」

 ついに押し負けてしまった魔法の水球が、衝撃波と共に激しく爆散した。
 すさまじい衝撃波を前に、必死に踏み留まろうと堪える私。
 それでも力が及ばず、勢いよく吹き飛ばされてしまう。

 大岩に激突してしまった私は、全身に激痛が走り、その場に倒れてしまった。
 すぐに立ち上がりたくても、膝に力が入らない。震える足が、言う事を聞いてくれない。

 バサッ! バサッ!

 大業に翼を羽ばたかせ、挑発するように悠々と近付いてくるガルーダ。

「はぁ、はぁ……。私は、まだ死ねないんだ!」

 這いずるように岩にもたれ掛かり、腰に提げたエストックを抜いた私。
 その剣先を向け、最後の力を振り絞る。
 こんなところで、私は終われない。

「だって、オフィーリアを助けたいから!」

 激しく砂埃を立ち上らせたガルーダは、激しい速度で襲いかかる。
 渾身の力でエストックを切り払うが、その固い表皮に阻まれてしまった。

「くっ……うぅっ……あぁぁーっ!!」

 ガルーダの太く尖った爪に掴まれた私の身体が、握り潰されていく。
 呼吸がままならず、次第に薄れていく視界。目の前が暗くなり、声も出ない。
 全身の血の気も引き、意識も朦朧として……。

 こんな時に思い出してしまうのは、脳裏に浮かぶのは……。
 昨日の思い出ばかりだ。
 もう少しだけ、二人とお話ししたかったな。

 〈ギィャァァー!!〉

 その時、ガルーダの悲痛の叫び声が一帯に響き渡った。
 解放された私の身体が宙を舞い、そっと何かに抱きかかえられる。
 ふと、目を開くと……。

「なんとか間に合った。で、良いよな」

「うん、間に合った。で良いよ」

 そこには、ミストの姿があった。
 夢でも幻でもなく、紛れもない彼が。
 だってこの温もりが、本物だという証なのだから。

「ルーシア、ローラを頼む」

「はぁ、はぁ、了解!」

 息を切らしながら駆けつけてきたルーシアは、私の肩を担ぎ、岩影まで連れて行ってくれる。

 心の奥では、期待していたのかもしれない。二人が来てくれる事を。
 後悔していたのかもしれない。二人から、離れてしまった事を。

 ありがとう、ミスト、ルーシア。
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