王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

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第一章 始まりの地 アルへム村

十四話 静かな怒り

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 間一髪で、ローラを救出する事ができた俺達。
 当然、ローラを傷付けたガルーダあいつを許す訳にはいかない。

「おい、そこの鳥。偉くローラをいたぶってくれたな。その罪、死んで詫びろ」

 空高く舞い上がるガルーダに向けて、俺は怒りを露にするように片手剣ルーンソードを突きつけた。
 それにしても、あの大きさは不自然だ。普通のガルーダなら、せいぜい二メートルで成体のはず。
 ここで仕留めておかないと、近くの街や村、旅人にまで危害を加えるかもしれない。

 〈グワアァァァ!!!〉

 高らかに雄叫びをあげるガルーダが、疾風の如く迫りくる。
 その極大の爪で、斬りかかろうとしながら。

「残念、惜しかったな」

 ルーンソードを逆手に持ち、ガルーダの片脚諸とも、胴まで斬り裂く。

 〈グギャァァァ!!!〉

 激痛の中、再び上空に逃げたガルーダ。
 よほど斬撃が効いたのか、その大きな瞳が血走り、まるで悲鳴のような雄叫びをあげていた。

 その時、大きく開かれたガルーダのくちばしから、燃えさかる火炎が溢れだした。
 大きく息を吸い込んだその刹那。空気を吸い尽くすほどの業火を吹き出す。

「なら、こっちは氷だ。 氷結剣魔法アイスブランド!」

 ルーンソードに氷の魔力を纏わせ、迫り来る炎に向けて思いきり飛び上がる。
 炎に飲まれる寸前、ルーンソードを横薙ぎに一閃。炎を真っ二つに両断した。
 その斬撃は止まる事を知らず、顔を斬られたガルーダの姿を映し出す。
 悶え苦しみ、悲痛に叫ぶ無様な姿を。

 これでもう、俺とガルーダの間に遮るものなど何も無い。

「出会って間もなくで悪いが、これで閉幕フィナーレだ」

 ゆっくりと迫り来る俺に、恐怖におののくガルーダ。
 魔物とはいえ、やはり奴にも心があるようだ。
 恐怖という、感情が。
 だが、ガルーダこいつを放っておけば、必ず他の誰かを襲う。
 だから、逃がす訳にはいかない。

 そして、全力で飛び上がった俺と、滞空するガルーダがすれ違った瞬間。

〈ギャァァーッ……〉

 ガルーダの四肢を斬り捨て、胴体までも粉々に斬り刻んだ。
 パキパキと音を立てて凍りついていく肉塊は、地面に弾けて消えていった。
 消滅した後には、一際大きな魔石が転がる。

「へぇ、ずいぶんでかい魔石だな。質屋に売れば、高値が付きそうだ」

 拾った魔石を眺めながら、ルーンソードとコルセスカを納める。
 父さんから受け取ってすぐの実戦投入だったが、なかなか俺に合った武器だ。

「ミスト、お疲れさまー!」

 その声の先には、岩影から笑顔で手を振るルーシアの姿が。
 どうやら、あそこに身を隠してローラを守ってくれていたらしい。

「フフフ。ミストって、とっても強いんだね」

「まあな。アルヘム村じゃ、剣の鍛練以外にやる事無かったし」

 岩影に寄りかかるローラが、柔らかに微笑む。
 怪我の具合も深刻ではなさそうだし、本当に良かった。
 今回ばかりは、衣服も無事のようだ。

「でも、みじん切りは無いんじゃないかしら。血飛沫とか肉片とか、すごい飛んできたわよ」

 よほどご不満だったのか、不機嫌そうにルーシアが言う。
 倒し方に拘りなんて無いのだから、そう言われても困るのだが。

「まぁ、挽き肉にしなかっただけ少しはマシだろ」

「むしろそっちの方がマシね。落ちてくる内臓とか、本当にエグかったもの」

「はぁ? どうせ消えんだから構わないだろ?」

「いや、残ってるから。あそこ」

 そんな論戦を繰り広げながら、ローラの隣に腰かける俺とルーシア。
 ふと上を見上げれば、灰色にくすんでいた空は青く澄み渡っていた。

「あー、疲れた。久々の山登りは、結構堪えるな」

「ミストってば、基本引きこもりだもんね」

「フフフ。私も、もう立てない、かな」

「ローラの場合は、疲労じゃなくて怪我のせいだろ」

 ドリアスの街を出た時は、内心不安だった。
 もしもローラの身に危険が及んでいたら。もしも今回は間に合わなかったら。
 そう思っていたのに、目の前には笑顔のローラがいる。
 この先も、こうして見続けられるのだろうか。

「そういえば二人とも、そろそろお腹空いたでしょ?」

 感慨深く浸っていた俺の気持ちを他所に、鞄の中をごそごそと掘り漁るルーシア。
 勢いよく鞄から取り出したのは、水筒と木製のコップ。それと、数種類のサンドイッチだった。

 この状況で昼飯? むしろ今って、昼?
 そう思いながらも、ありがたく受けとる。

「っつーかお前、街で準備する物があるとか言ってたのって、これの事だったのか?」

「そうよ。どうせローラの事だから、お昼ご飯も食べないで行ったんじゃないかって、そう思ったの。でしょ?」

「うん、忘れてた」

 食事を忘れるとは、さぞかし大事な用だったのだろうけど。
 いや、どこか抜けているローラの事だ。本当に忘れていた可能性もあるな。

「しかし、あまりルーシアの食生活に合わせない方がいいぞ。あんなに朝飯食べてんのに、休み時間もずっと菓子食ってんだから。そのうち激太りするな」

「太らないようにお手伝いしてるから平気なんですー。今日だって、山登りしたし」

「成り行きでな?」

 下らない口喧嘩をする俺達を見て、噴き出すように笑っているローラ。

「私も二人と同じ学校に、通ってみたかったな」

「ん? なら通えば良いんじゃないか? 」

「 ……。」

 俺が余計な事を言ってしまったのか、静かに俯き、口を閉ざすローラ。

「……どうかしたのか?」

 コップを置き、ローラの顔を見つめながら穏やかに尋ねる。
 だが、ローラは口を閉ざしたままだった。

「悪い、少し配慮が足りなかったな。話したくない事までは言わなくていいから」

「そうだよ、ローラ。でも、何も言わずにいなくなっちゃうのは、やっぱり悲しいよ。せめて、私達を頼って欲しいかな」

 そっとローラの手を握るルーシア。
 俺も握ってやりたいが、全力で嫌がられたら傷付くからやめておこう。

「ミスト、ルーシア、ありがとう」

 その年、ローラの声と共に、一滴の雫がこぼれ落ちた。
 その青く綺麗な瞳から。
 今まで抑えていた感情が。涙に変わっていくように……。
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