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第一章 始まりの地 アルへム村
十六話 南の森の……魔女?
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ドリアスの街を出た俺達は、アルヘム村に辿り着いていた。
空はすっかり暗くなり、夜の帳が降りていて。
当然村の中には、衛兵のマディガンが見回りをしているだけだ。それ以外の村人は、誰の姿も見当たらない。
「おう、お前ら。偉く帰りが遅かったなぁ。心配したマリーさんが街まで迎えに行こうとしてて、止めるの大変だったんだぞ」
「マジか……。手間をかけさせてごめん」
「まあ、いいって事よ。これが俺の仕事だからな。早く帰って、元気な顔を見せてやれ」
急いで家に帰ると、早々に泣き喚く母さん。
みんなで頭を撫でながらあやしつけたら、なんとか落ち着かせる事ができたが……。
とりあえず父さんと母さんには、今日の出来事を簡潔に説明した。
冒険者になった事。グロース山まで行っていた事。
そして、ローレライの本名も。
「ふむ、なるほどな。要はローラって名前はあだ名で、ローレライが本名って事か。なら、これからもローラちゃん、って呼ばせてもらうよ!」
「そうね! その方が、何だか仲良しな感じがするわ!」
……本当に父さんと母さんが理解しているのか怪しいとこだが、特に問題は無さそうだし、このまま話を流しそう。
━翌日・寝室━
「……んん、朝か。……痛てて。やばい、身体が怠すぎる」
翌朝、自然と目を覚ました俺は、全身の筋肉痛に襲われていた。
久々に運動をしたせいか、とにかく怠い。
「ミスト、おはよう!」
「おはよう」
一階のリビングを訪れると、すでにルーシアとローレライの姿があった。
腰を押さえる俺とは違い、二人は昨日の事が嘘のように元気な姿だ。
それに今日は休校日のはず。疲れているんだから、わざわざ早起きする必要なんて無いだろうに。
「おっ、やっと起きてきたな、この寝坊助!」
「あぁ、おはよう」
遅れてリビングに現れた父さんは、なぜかいつも以上に上機嫌だ。
そんな父さんの手のひらには、二枚の銀貨がちょこんと乗っていた。
あぁ、そういう事か。
ローレライが早起きして来た理由。それは先日の武器代を支払いに来たからなのだろう。
たった銀貨二枚しか受け取らないなんて、父さんも良いとこあるな。
「「「 いただきまーす! 」」」
そう言いながら手を合わせ、朝の食卓を囲むみんな。
「なぁ、ローレライ。今日はエリクシールを貰いに行く予定なんだろ?」
「うん、そうだよ」
「当然俺とルーシアも付いていくけど、拒否権は無いからな」
「フフフ。拒否なんてしないって。それに、私からもお願いするつもりだったから」
「ねえねえ、依頼人の南の森の魔女様って、どんな人だった? やっぱり真っ黒なローブとか着て……」
カシャン!
愉しげにルーシアが質問していた最中、突然母さんがフォークを落とした。
まるで時が止まったかのように、身体を硬直させて。
いや、微かに振動してるな。なんか汗もすごいし。
「ぶふぉーっ!」
「うわっ! 汚ねぇっ!」
更には、俺の顔面めがけてミルクを全部吹き出す父さん。
明らかに両親の様子がおかしいのだが、もしかして食事に毒茸でも入っていたのか。
「いかん、いかんぞ。南の森の魔女、あやつにだけは、関わってはならぬ……」
「……いや、誰?」
やっぱり毒でも盛られていたのか、別人格を生み出した父さん。
思い出すだけでも恐ろしい。そんな事を言いたげな、強ばった顔つきで。
終いには頭を抱えて恐怖におののいているが、一体この人の身に何が起きたのだろうか。
「なぁ、ローレライ。魔女ってどんな人だった?」
「えっ、特には……。普通の人、かな。ちょっと涙もろいけど、優しい人だったよ」
小首を傾げながら、ローレライが言う。
話を聞く限りでは、確かに普通だ。
「そこの若き乙女よ、奴の呪術に騙されてはならぬ。魔女ゲイボルグなる者は、末恐ろしき闇の住人なのだ」
「いや、だから誰?」
父さんが人格崩壊するほどの人物、魔女ゲイボルグとは一体……。
というか、名前が厳つすぎる。
魔女って言うからには、性別女だろ。
あの楽観的な父さんでさえ、怯え狂うその人物。
その光景を目の当たりにルーシアは、ゴクリと息を飲んでいた。
━西方地域・魔女の森━
一抹の不安を抱えたまま、俺達はアルヘム村を後にしていた。
目的の場所はアルヘム村とドリアスのちょうど中間。そこから更に南に一時間ほど進んだ森だ。
その森の奥深くに、南の森の魔女が住み着いているらしいんだが。
「二人とも、あのお家だよ。でも、お留守なのかな……」
ローレライが指をさした先には、木造で建築された小さな一軒家が姿を見せていた。
外観は至って普通だ。花の装飾を拵えた手斧や、蔦のブランコなんかもあるが……。
意外と若い魔女なのだろうか。
「魔女様、いらっしゃいますか? 白トリカブトを持ってきました」
「はぁーい、今行くわぁ!」
扉の奥から、野太くも艶やかな声がする。
今の声、女性にしては少し違和感を覚えるが。
いや、少しどころではない。完全におかしい。
ガチャ、ガチャガチャ……。
メキメキ! ガシャァン!
その時、目の前の扉が砕いたビスケットのように粉々に崩れ落ちた。
「あらやだぁ。またやっちゃったわぁ。この扉、立て付け悪いのよねぇ」
そこには長い足に黒の網タイツ、黒い牛革のタイトスカートを身に付けた人物が立っていた。
ピンクのタンクトップからは引き締められたウエストを覗かせ、服の上からでもわかる逞しく分厚い胸板。
割れた顎に、ダンディな口髭。
凛々しい眉毛を引き立てる、ワイルドなパンチパーマの……。
「ぎゃぁーっ!! 化け物だぁーっ!」
思わず絶叫した俺は、勢いよく尻餅をついた。
腰が抜けても尚、恐怖から這いずって逃げ出す。
そんな俺の前には、両手を胸に添えたまま、安らかな顔で眠りにつくルーシアが。
「あれ? 二人とも、どうかしたの?」
不思議そうな表情で、小首を傾げるローレライ。
ルーシアの頭を膝に乗せて、脈を調べる。
「うん。生きてるね」
……そうか。
ローレライは監禁生活が長すぎたせいで、普通の感覚を持ち合わせていないんだ。
わかっていたのに、こいつを信じてしまった俺が馬鹿だったって事か。
「あらやだぁ。初対面の子はぁ、大体こうなっちゃうのよねぇ。ローラちゃん、この子を運ぶの手伝ってぇ。あたしぃ……か・よ・わ・い・の」
そう言いながら軽々とルーシアをつまむ魔女は、家の中へと消えていった。
「これぇ、良かったら召し上がってねぇ」
恐怖の中案内された俺達の前には、魔女がもてなしてくれた紅茶とクッキーがずらりと並んでいた。
恐るおそるハーブティーを口に含むと、少し落ち着いてきた気がする。
きっとハーブの中に鎮静効果があるのだろう。
「安心してねぇ。卑猥な粉とかぁ、入れたりしてないからぁ」
「ごほぉっ!」
思わず紅茶を器官に詰まらせてしまう俺。
心配して駆け付けてきた魔女が、その逞しい手で背中を擦ってくれる。
さりげなく、股間もまさぐられた気がするが。
「うぅっ……ここは。私、どうして眠っていたのかしら」
ようやく意識を取り戻したルーシアだったが、びくびくと背中を丸めながら横目で魔女の動向を探っている。
「このクッキー、とても良い香りがするわね」
そんなルーシアの側には、テーブルに置かれた藁のバスケットが。その中には、山ほど入ったクッキー。
早速その存在に気が付いたルーシアは、ゆっくりと口の中へ運ぶ。
「あっ……これ、美味しい」
思わず本音を溢すルーシア。
実際のところ、本当に美味い。見た目も味も、店に出せる出来だ。
「あらぁ、嬉しいわぁ! それ、あたしの手作りなのぉ。隠し味はぁ、バーベナレッドっていうお花を練り込むのよぉ」
「へぇーっ、そうなんだー! 魔女さんって、お菓子作りが上手なんですね!」
一瞬にして魔女と打ち解けるルーシア。
もしや、あのクッキーに何かが含まれていたのだろうか。
「なぁ、ローレライ。あの魔女、男だぞ」
「うん、そうだよ。でも、魔女様が『あたしは魔女よ』って、言ってたから」
「 ……。」
さすがはローレライ。
監禁生活が長いと、ここまで世の中の常識に疎くなるのか。
「あっ、魔女様。これが、白トリカブトです」
そう言って、白トリカブトの入った革袋を差し出すローレライ。
「あらぁ、ローラちゃぁん! そぉそぉ! それよぉ! それそれぇっ! ありがとぉねぇ! ご褒美よぉ! ……ぶちゅっ!」
「うおっ!」
なぜか、頬に接吻される俺。
「これが無いとぉ、エリクシールが作れなかったのよぉ。お店で買おうにも、とぉっても高くてねぇ。じゃあ、今から作っちゃうからぁ、少ぉしだけ……待っててねぇ」
「はい、ありがとうございます。魔女様」
「あらやだぁ。あたしの事はぁ、『ゲイちゃん』って呼んでぇ」
「はい、ゲイちゃん」
そして大層上機嫌なゲイちゃんは、鼻唄まじりに部屋の奥へと去っていった。
━一時間後・魔女の家━
「はぁーい、お待たせぇ。ローラちゃん、どうぞ」
しばらくして戻ってきたゲイちゃんは、その逞しい両手を差し出してきた。
その手のひらには、小さな透明のガラス瓶が一本。その中には、透き通った薄い緑色の液体が入っていた。
良かった。見た目は普通だ。
「……これで、オフィーリアを治せるんだ」
瓶を受け取ると、ローレライは大切そうに両手で抱えた。
「ローラちゃぁん……コソコソ……コソコソ」
続けてゲイちゃんは、深々とお辞儀をするローレライに何やら耳打ちをしていた。
しかも、こそこそと何か手渡してるし。
「ゲイちゃん、本当にありがとうございました」
「最初は恐がっててごめん。あんた、なかなか優しい人だよ」
「ごちそうさまでした! 今度遊びに来た時は、私の村の茶葉を持ってきますね!」
気が付けば、俺達はゲイちゃんと仲良くなっていた。
「帰り道ぃ、変質者に気を付けてねぇ! ここら辺、出るらしいからぁ!」
帰り際、笑顔で俺達を見送ってくれるゲイちゃん。
馬に跨がり、俺達も手を振って別れを惜しむ。
世の中、見た目だけで判断してはいけない。
そう実感した一日だったな。
空はすっかり暗くなり、夜の帳が降りていて。
当然村の中には、衛兵のマディガンが見回りをしているだけだ。それ以外の村人は、誰の姿も見当たらない。
「おう、お前ら。偉く帰りが遅かったなぁ。心配したマリーさんが街まで迎えに行こうとしてて、止めるの大変だったんだぞ」
「マジか……。手間をかけさせてごめん」
「まあ、いいって事よ。これが俺の仕事だからな。早く帰って、元気な顔を見せてやれ」
急いで家に帰ると、早々に泣き喚く母さん。
みんなで頭を撫でながらあやしつけたら、なんとか落ち着かせる事ができたが……。
とりあえず父さんと母さんには、今日の出来事を簡潔に説明した。
冒険者になった事。グロース山まで行っていた事。
そして、ローレライの本名も。
「ふむ、なるほどな。要はローラって名前はあだ名で、ローレライが本名って事か。なら、これからもローラちゃん、って呼ばせてもらうよ!」
「そうね! その方が、何だか仲良しな感じがするわ!」
……本当に父さんと母さんが理解しているのか怪しいとこだが、特に問題は無さそうだし、このまま話を流しそう。
━翌日・寝室━
「……んん、朝か。……痛てて。やばい、身体が怠すぎる」
翌朝、自然と目を覚ました俺は、全身の筋肉痛に襲われていた。
久々に運動をしたせいか、とにかく怠い。
「ミスト、おはよう!」
「おはよう」
一階のリビングを訪れると、すでにルーシアとローレライの姿があった。
腰を押さえる俺とは違い、二人は昨日の事が嘘のように元気な姿だ。
それに今日は休校日のはず。疲れているんだから、わざわざ早起きする必要なんて無いだろうに。
「おっ、やっと起きてきたな、この寝坊助!」
「あぁ、おはよう」
遅れてリビングに現れた父さんは、なぜかいつも以上に上機嫌だ。
そんな父さんの手のひらには、二枚の銀貨がちょこんと乗っていた。
あぁ、そういう事か。
ローレライが早起きして来た理由。それは先日の武器代を支払いに来たからなのだろう。
たった銀貨二枚しか受け取らないなんて、父さんも良いとこあるな。
「「「 いただきまーす! 」」」
そう言いながら手を合わせ、朝の食卓を囲むみんな。
「なぁ、ローレライ。今日はエリクシールを貰いに行く予定なんだろ?」
「うん、そうだよ」
「当然俺とルーシアも付いていくけど、拒否権は無いからな」
「フフフ。拒否なんてしないって。それに、私からもお願いするつもりだったから」
「ねえねえ、依頼人の南の森の魔女様って、どんな人だった? やっぱり真っ黒なローブとか着て……」
カシャン!
愉しげにルーシアが質問していた最中、突然母さんがフォークを落とした。
まるで時が止まったかのように、身体を硬直させて。
いや、微かに振動してるな。なんか汗もすごいし。
「ぶふぉーっ!」
「うわっ! 汚ねぇっ!」
更には、俺の顔面めがけてミルクを全部吹き出す父さん。
明らかに両親の様子がおかしいのだが、もしかして食事に毒茸でも入っていたのか。
「いかん、いかんぞ。南の森の魔女、あやつにだけは、関わってはならぬ……」
「……いや、誰?」
やっぱり毒でも盛られていたのか、別人格を生み出した父さん。
思い出すだけでも恐ろしい。そんな事を言いたげな、強ばった顔つきで。
終いには頭を抱えて恐怖におののいているが、一体この人の身に何が起きたのだろうか。
「なぁ、ローレライ。魔女ってどんな人だった?」
「えっ、特には……。普通の人、かな。ちょっと涙もろいけど、優しい人だったよ」
小首を傾げながら、ローレライが言う。
話を聞く限りでは、確かに普通だ。
「そこの若き乙女よ、奴の呪術に騙されてはならぬ。魔女ゲイボルグなる者は、末恐ろしき闇の住人なのだ」
「いや、だから誰?」
父さんが人格崩壊するほどの人物、魔女ゲイボルグとは一体……。
というか、名前が厳つすぎる。
魔女って言うからには、性別女だろ。
あの楽観的な父さんでさえ、怯え狂うその人物。
その光景を目の当たりにルーシアは、ゴクリと息を飲んでいた。
━西方地域・魔女の森━
一抹の不安を抱えたまま、俺達はアルヘム村を後にしていた。
目的の場所はアルヘム村とドリアスのちょうど中間。そこから更に南に一時間ほど進んだ森だ。
その森の奥深くに、南の森の魔女が住み着いているらしいんだが。
「二人とも、あのお家だよ。でも、お留守なのかな……」
ローレライが指をさした先には、木造で建築された小さな一軒家が姿を見せていた。
外観は至って普通だ。花の装飾を拵えた手斧や、蔦のブランコなんかもあるが……。
意外と若い魔女なのだろうか。
「魔女様、いらっしゃいますか? 白トリカブトを持ってきました」
「はぁーい、今行くわぁ!」
扉の奥から、野太くも艶やかな声がする。
今の声、女性にしては少し違和感を覚えるが。
いや、少しどころではない。完全におかしい。
ガチャ、ガチャガチャ……。
メキメキ! ガシャァン!
その時、目の前の扉が砕いたビスケットのように粉々に崩れ落ちた。
「あらやだぁ。またやっちゃったわぁ。この扉、立て付け悪いのよねぇ」
そこには長い足に黒の網タイツ、黒い牛革のタイトスカートを身に付けた人物が立っていた。
ピンクのタンクトップからは引き締められたウエストを覗かせ、服の上からでもわかる逞しく分厚い胸板。
割れた顎に、ダンディな口髭。
凛々しい眉毛を引き立てる、ワイルドなパンチパーマの……。
「ぎゃぁーっ!! 化け物だぁーっ!」
思わず絶叫した俺は、勢いよく尻餅をついた。
腰が抜けても尚、恐怖から這いずって逃げ出す。
そんな俺の前には、両手を胸に添えたまま、安らかな顔で眠りにつくルーシアが。
「あれ? 二人とも、どうかしたの?」
不思議そうな表情で、小首を傾げるローレライ。
ルーシアの頭を膝に乗せて、脈を調べる。
「うん。生きてるね」
……そうか。
ローレライは監禁生活が長すぎたせいで、普通の感覚を持ち合わせていないんだ。
わかっていたのに、こいつを信じてしまった俺が馬鹿だったって事か。
「あらやだぁ。初対面の子はぁ、大体こうなっちゃうのよねぇ。ローラちゃん、この子を運ぶの手伝ってぇ。あたしぃ……か・よ・わ・い・の」
そう言いながら軽々とルーシアをつまむ魔女は、家の中へと消えていった。
「これぇ、良かったら召し上がってねぇ」
恐怖の中案内された俺達の前には、魔女がもてなしてくれた紅茶とクッキーがずらりと並んでいた。
恐るおそるハーブティーを口に含むと、少し落ち着いてきた気がする。
きっとハーブの中に鎮静効果があるのだろう。
「安心してねぇ。卑猥な粉とかぁ、入れたりしてないからぁ」
「ごほぉっ!」
思わず紅茶を器官に詰まらせてしまう俺。
心配して駆け付けてきた魔女が、その逞しい手で背中を擦ってくれる。
さりげなく、股間もまさぐられた気がするが。
「うぅっ……ここは。私、どうして眠っていたのかしら」
ようやく意識を取り戻したルーシアだったが、びくびくと背中を丸めながら横目で魔女の動向を探っている。
「このクッキー、とても良い香りがするわね」
そんなルーシアの側には、テーブルに置かれた藁のバスケットが。その中には、山ほど入ったクッキー。
早速その存在に気が付いたルーシアは、ゆっくりと口の中へ運ぶ。
「あっ……これ、美味しい」
思わず本音を溢すルーシア。
実際のところ、本当に美味い。見た目も味も、店に出せる出来だ。
「あらぁ、嬉しいわぁ! それ、あたしの手作りなのぉ。隠し味はぁ、バーベナレッドっていうお花を練り込むのよぉ」
「へぇーっ、そうなんだー! 魔女さんって、お菓子作りが上手なんですね!」
一瞬にして魔女と打ち解けるルーシア。
もしや、あのクッキーに何かが含まれていたのだろうか。
「なぁ、ローレライ。あの魔女、男だぞ」
「うん、そうだよ。でも、魔女様が『あたしは魔女よ』って、言ってたから」
「 ……。」
さすがはローレライ。
監禁生活が長いと、ここまで世の中の常識に疎くなるのか。
「あっ、魔女様。これが、白トリカブトです」
そう言って、白トリカブトの入った革袋を差し出すローレライ。
「あらぁ、ローラちゃぁん! そぉそぉ! それよぉ! それそれぇっ! ありがとぉねぇ! ご褒美よぉ! ……ぶちゅっ!」
「うおっ!」
なぜか、頬に接吻される俺。
「これが無いとぉ、エリクシールが作れなかったのよぉ。お店で買おうにも、とぉっても高くてねぇ。じゃあ、今から作っちゃうからぁ、少ぉしだけ……待っててねぇ」
「はい、ありがとうございます。魔女様」
「あらやだぁ。あたしの事はぁ、『ゲイちゃん』って呼んでぇ」
「はい、ゲイちゃん」
そして大層上機嫌なゲイちゃんは、鼻唄まじりに部屋の奥へと去っていった。
━一時間後・魔女の家━
「はぁーい、お待たせぇ。ローラちゃん、どうぞ」
しばらくして戻ってきたゲイちゃんは、その逞しい両手を差し出してきた。
その手のひらには、小さな透明のガラス瓶が一本。その中には、透き通った薄い緑色の液体が入っていた。
良かった。見た目は普通だ。
「……これで、オフィーリアを治せるんだ」
瓶を受け取ると、ローレライは大切そうに両手で抱えた。
「ローラちゃぁん……コソコソ……コソコソ」
続けてゲイちゃんは、深々とお辞儀をするローレライに何やら耳打ちをしていた。
しかも、こそこそと何か手渡してるし。
「ゲイちゃん、本当にありがとうございました」
「最初は恐がっててごめん。あんた、なかなか優しい人だよ」
「ごちそうさまでした! 今度遊びに来た時は、私の村の茶葉を持ってきますね!」
気が付けば、俺達はゲイちゃんと仲良くなっていた。
「帰り道ぃ、変質者に気を付けてねぇ! ここら辺、出るらしいからぁ!」
帰り際、笑顔で俺達を見送ってくれるゲイちゃん。
馬に跨がり、俺達も手を振って別れを惜しむ。
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