王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

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第二章 中央地域 南の街ギリアス

一話 新たな旅立ち

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「なぁ、いい加減機嫌直せよ」

「……ふんっ!」

 先ほどの温泉での出来事から、ずっとルーシアは不貞腐れている。
 そんな彼女に責任を感じたローレライは、申し訳なさそうに正座をしていて。

「本当にごめんね。友達同士で、一緒に温泉に入りたくて。企画したの、私なんだ」

「友逹同士でも、男女で入ったら駄目なの!」

 ルーシアに説教をされると、より一層縮こまってしまうローレライ。
 怒られ過ぎて、どんどん小さくなっている。
 その後も、延々と説教を聞かされていた姿は、まるで粗相をした仔犬のようだった。
 まぁ、俺も一緒に正座させられているけど。

 しかし、今日のローレライはやはりおかしい。
 まだ温泉でのぼせているのか、顔もまだ赤いし。
 なんか、左右にふらふら揺れてるし。

 ━翌日・寝室━

 翌朝、ふと目を覚ました俺は、ベッドの中に違和感を感じた。
 何かいる。そう思って、布団をめくる。

「……。」

 寝起きで意識がはっきりしないのか、しきりに目を擦ってから、もう一度布団の中を見直すと……。

「……だから、なんで?」

 なんとそこには、ローレライがすやすやと気持ち良さそうに眠っていた。
 しかも俺の腰にがっしり抱き付いているのだから、身動きも取れない。

 対して俺は一瞬にして目が冴え、眠気も吹き飛ぶ。
 こいつ、いつの間に潜り込んできたのだろうか。

「なぁ! ローレライ、起きろ!」

「ん……んん」

 何度もローレライの肩を揺すると、次第にうっすらと目を開き始めた。
 まだ頭が働いていないのか、穏やかな笑顔を浮かべながら。

「……あっ、おはよう」

「おぉ、おはよう」

「……あれ? どうしてミストが、ここにいるの?」

 俺の家だからだ。

 いまだ寝惚けたローレライは、ゆっくりと起き上がった。
 次第に意識が戻ってきたのか、ひたすら辺りを見渡し始める。

「あっ、そういえば。ルーシアの部屋の窓から、飛び移った気がする」

「いや、飛び移ったってそんな。第一、この部屋の窓閉まって……」

 同時に窓を見る俺とローレライは、無言のまま硬直していた。
 なぜなら、部屋の窓ガラスが無惨にも粉々に割れていたのだから。
 もはや窓枠すら残っていない。

「……まさかとは思うが、夜中のうちに窓を突き破ってきたのか?」

「たぶん、魔法で壊した気がする……。ごめんなさい」

「まぁ、別に直せるからいいけど。っていうか、やっぱり昨日から様子が変だぞ。何かあったのか?」

「うん、もしかしたら……」

 ローレライが何かを話そうとした瞬間、隣の家からルーシアの叫び声が聞こえた。
 きっとローレライの姿が消えたからなのだろうが。

「ねえ、ミスト! ローレライがいなくなってるんだけど、どこに行ったか知らない?」

 まずい。 やっと昨日の誤解を解いたのに、このままではまた正座させられてしまう。
 なんとか誤魔化して、奴を外へ誘い出すか。その隙にローレライを戻せば、難を逃れられるはずだ。
 
「あぁー、どこだろうなぁー。散歩……してるんじゃないかなぁー」

「……なんで棒読みなの?」

 明らかに下手な演技だったせいで、思いっきり疑われている。

「ルーシア、おはよう」

 その時、俺の背後からローレライが顔を覗かせてしまった。
 こんな物的証拠が出てしまえば、当然ルーシアは黙っていない。
 果たして今日は、何が飛んでくるのだろうか。

「ええっ、どうしてそこにいるの!? やっぱり、昨日から様子が変よ」

 ……あれっ、助かったみたいだ。

 ━アルヘム村・リビング━

「って事は、全ての元凶はゲイちゃんだったか」

「半日効果あるって、どんだけ強力な薬なのよ」

 一階のリビングに集まった俺達は、事の顛末を聞いていた。
 自ら正座して反省するローレライから。

「ううっ……なんだか、まだ、頭がくらくらする」

 話によると、エリクシールとは別に変な錠剤を貰っていたみたいだ。
 帰り道に、その錠剤を飲んでしまったらしい。素直になれる勇気のお薬。とか言われて。

 あの時、ゲイちゃんが耳打ちしながら渡していたのはこれだったのか。

「ごめんね。助けてもらった二人に、喜んでもらいたくて……」

「全く、いきなり『添い寝してあげる』って言いながらベッドに入ってきたから、本当にびっくりしたわよ」

 なるほど。添い寝してルーシアを寝かし付けた後に、俺のとこにも来たのか。
 っていうか、ローレライが考えついたお礼が混浴と添い寝って……。

「ところで、今日も学校は休みだよな。どうするよ?」

「うーん、そうね。なら、オフィーリアさんに薬を届けに行く?」

 ルーシアがそんな提案をすると、再び俯いてしまうローレライ。
 さすがに今回は、付いてきてほしくないのか。

「オフィーリアがいる場所は、アルヘム村ここからだと、二日はかかる距離なの……」

「思ったより遠いな。場所はどこだ?」

「中央地域の王都から、少し南に行った辺りだよ。ギリアスっていう街に、いるの」

 あれ? 確かオフィーリアは飛竜とか言っていたような。街にいたら騒ぎになると思うのだが……。
 まぁ、行けばわかる事か。

「今日中にはアルヘム村に戻れないから、明日、一人で行ってくるね」

 必死に笑顔を作りながら、ローレライは寂しげに微笑む。
 果たして、その笑顔の真意は何なのだろうか。
 本当は、一緒に来てほしいのでは……。

「そうだ! 私に良い考えがあるわ!」

 何かを思い付いたルーシアは、勢いよく立ち上がった。
 腰に手を当てて誇らしげな顔をするその様を、ローレライが期待の眼差しで見つめる。
 やっぱり、来てほしかったんだな。

 ━ドリアス・ギルド━

 ルーシアに連れられるがまま、俺達はドリアスの冒険者ギルドを訪れていた。
 官舎に入るなり、以来掲示板リクエストボードでお目当てのものを探す。

「あっ、これなんてどうかしら」

 そう言って依頼書を剥がすルーシアは、足早に受付所へ向かった。

「ミーナさん、こんにちは。この依頼クエストをお願いします」

「あら、みなさんこんにちは。依頼書を確認しますね」

【ドリアス~王都間の荷馬車の護衛。適正ランクⅡ。報酬銀貨一五枚+護衛中の食事】

「パーティーは三人ですね。……はい、受理しました」

 受付嬢のミーナが手際よく受理印を押すと、依頼書をルーシアに返す。

「なぁ、学校はどうするんだ?」

 そう。仕事をするのは構わないが、明日から学園生活が始まる。
 だからギリアスには行けない訳なんだが。
 そもそもこの依頼すら遂行不可能だ。
 半日で王都まで往復するなんて、たとえ全速力で馬を走らせても無理だ。

「ミスト君、これがあれば学校を休んでも平気ですよ」

 そう言ってミーナが渡してきたのは、一枚の書類だった。
 興味を持ったローレライと一緒に、その紙を眺める。

「あぁ、そういう事か」

 その紙の最上部には、休学証明書と記されていた。
 王立学園の生徒は、引き受けた依頼クエストの遂行期間中なら休学できる制度がある。
 この仕組みを利用すれば、合法的にローレライについて行ける訳だ。

「前もって私とミストの家に置き手紙をしておいたから、早速出発するわよ!」

「良いね。楽しくなってきた」

「ありがとう。ミスト、ルーシア」

 まるで花が咲いたように笑顔になったローレライは、微かに瞳が潤んでいるようにも見えた。
 やっぱり、独り旅は寂しかったんだな。
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