王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

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第二章 中央地域 南の街ギリアス

八話 かいらいの飛竜

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 再び飛竜の姿へと変わってしまったオフィーリア。
 謎の声に呼応して、私達に牙を剥く。
 ルーシアの上級魔法を持ってしても、平然と立ちはだかっていた。

「みんな、まだ終わってないわ!」

 ルーシアの一声で、すぐさま身構えた私達。

「力の精霊セクトル。力を貸せ! みんなを護って!防御結界魔シールドガード法!」

 祈るように手を合わせた私は、防御結界魔法をみんなに施した。
 虹色の魔力のカーテンを作り、みんなの周囲に帯びさせる。

 この魔法なら、多少の攻撃を軽減させられる。
 相手が飛竜とはいえ、そう簡単には致命傷を与えられないはずだ。

「へぇ、補助魔法も使えたのか。やるな」

「うん、援護は任せて」

 勢いよく飛び立った飛竜は、大きく息を吸い込む。
 空を覆い尽くす巨大な翼を広げ、激しい咆哮と共に勇猛な顎を開く。
 その刹那、燃え盛る炎を撃ち出した。

「こりゃまずい! 持ち堪えられん!」

「くっ! マジで、やばい!」

 前衛で私達を庇うミストとグローインさん。
 構えた武器で防ぎ、迫り来る炎を弾く。

 その時、飛竜の放った炎が爆発を引き起こした。
 これは、ただ敵を燃やすだけの普通の炎ではない。魔力を帯びた炎だ。

「痛たた。……なんて威力なの」

 たったの一撃。それだけで私が施した防御魔法は消滅してしまった。
 みんなが地面にひざを突き、肩で息をするほどに。

 でも、一人だけは違っていた。
 呼吸ひとつ乱れず、私達を庇うように、立っていて。

「炎を吐けるとか、本当に竜ってすごいんだな。お陰さまで、俺まで少し熱く・・なってきたよ」

 ルーンソードを肩に乗せて、感心したようにミストが言う。
 極端に魔力が少ないミストは、本来なら一番防御力が低いはずなのに。
 どうして……。

 再び飛竜が翼を広げ、大きく口を開けた。息を吸い込み、肺を膨らませていく。

「悪いが、そう何度も撃たせる訳にはいかない」

 地面を蹴るように駆け抜けたミストが、徐々に速度を上げて飛竜へと向かう。

「くらえぇーっ! バーティカルアサルト!」

 一瞬で間合いを詰めたミストが飛び上がり、垂直に飛竜を一閃、急襲する。
 突き出した左手が拳を作ると、蒼白色に染まっていく。
 そして、闘気の衝撃波を飛竜の胴へと打ち込んだ。

 その勢いは止まる事を知らず、吹き飛ばした飛竜に追撃を仕掛けるミスト。
 無数の剣閃を浴びせ、何度も土煙が舞い上がる。

「……すごい。これが、本気を出したミストなんだ」

 怒濤の連撃を前に、私は圧倒されていた。
 グロース山で戦っていた時のミストは、まだ全力ではなかったんだ。
 もしかしたら、今もまだ……。

「ふぅ……悪い。倒しきれなかった。なんかあの飛竜、人形みたいに怯まないんだ。少しは痛がれよ」

 地面に着地したミストは、額の汗を拭いながらそう言う。

「ううん、私の方こそ、ごめんね。今度は、私も戦うから」

「おうよ! わっぱどもに、おいしいところを取られてたまるかい!」

「みんな援護して! 今度は、私の最高の魔法を撃つわ!」

 再び瞳を閉じ、意識を集中するルーシア。
 深紅の魔力を身体に纏い、詠唱を始めた。
 無防備となったルーシアを守る為に、私も震える足に鞭を打つ。 

「ローレライよ! わしに続けぇ!」

「うん!」

 細剣エストックを構え、飛竜の懐へ全力で飛び込む。
 呼吸を合わせるように、グローインさんも空高く飛び上がる。

 私達の動きを悟ったのか、飛竜が銀灰色の瞳で睨みつけてきた。

「食らうがよい! だいせつだん!」

 大きく振り下ろされた、グローインさんの重い一撃。
 飛竜の強固な豪腕に受け止められてしまったが、重厚なバトルアクスの威力に耐えきれず、飛竜が体勢を崩した。

「行くよ。アクセルスナイプ!」

 その一瞬の隙を見逃さず、私は高速で横薙ぎに斬り払い、一〇連撃を繰り出した。
 細くしなるエストックが、鋼鉄鞭の如く飛竜を打ち付けていく。

 〈グアァーッ!!〉

 その時、飛竜の眼が怒りに見開き、鋭い鉤爪が振り下ろされた。
 そう。狙いは、初めから私だったんだ。
 敢えて隙を作り、懐に誘い込む為に。

「ローレライ、避けんか!」

「……間に合わない!」

 咄嗟に後ろに飛び退いたが、腹部を斬られてしまった。
 真っ赤な血が洋服を染め、地面へと滴り落ちる。

「うっ……息……が……」

 震える手で傷口を押さえても、流血が止まらない。
 私の意思とは反対に、身体の自由も利かず。
 全身の血の気引き、悪寒も走り出す。

 それでも尚、翼を大きく広げた飛竜が地面を滑るように低空で飛び、追い討ちをかけてくる。
 確実に、私を仕留める為に。

「いかん!」

 グローインさんが咄嗟に割り込み、バトルアクスを盾にして私を庇ってくれた。
 でも、すぐに反応した飛竜が胴体を捻り、巨大な尻尾を振り回す。

「ぬあぁぁーっ!」

 振り下ろされた尻尾が、グローインさんを地面に叩きつけた。

「 羅刹剣らせつけん!」

 その絶望的な状況を覆してくれたのは、ルーンソードとコルセスカを構えたミストだった。
 斬撃と刺突を繰り出し、飛竜の硬い皮膚をも斬り裂く。

「やれ! ルーシア!」

 ミストがそう言うと、不適に嗤うルーシアが、飛竜を睨みつけた。

「オフィーリアさん、貴方の炎と私の炎、どちらが上か勝負よ!」

 両手を伸ばし、魔力を解放させていく。

「火の主神バハムート。神罰を下せ! ……これが私の全力よ! 最上級魔法を食らいなさい!」

 紅に染まる魔力の渦がルーシアを包む。次第に両手へと流れ、凝縮されていく。

「いっけえぇーっ!終焉獄炎魔カタストロフィーインフェルノ法!!」

 燃えたぎる黒炎が撃ち出され、巨大な黒竜へと変貌していった。
 まるで生命を宿したように、黒炎竜がその口角を上げる。
 放たれた獄炎が大地を抉り、優雅に飛竜へ突き進む。

 〈グアァァァーッ!!〉

 振り返った飛竜が翼を広げ、肺が膨れるほど大きく息を吸い込んだ。
 激しい咆哮と共に、視界を覆うほどの紅蓮の炎を撃ち出す。

「嘘でしょ!? 私の魔法より大きいじゃない!」

 二つの炎がぶつかり合い、熱風が吹き荒ぶ。
 熱波に曝された建物が、灰燼と化していく。

「くっ! やばいわ。これ以上は、魔力が、持たない!」

 次第に押されていくのは、ルーシアの放つ獄炎。
 人間の持てる魔力の潜在値では、最強種の竜族の前では足下にも及ばない。
 持久戦に持ち込まれてしまえば、まず勝ち目がない。
 なら、瞬間的にこっち・・・の威力を底上げできれば……。

「愛の精霊プルメリア。愛を、咲かせ……」

 片腕を伸ばした私は、手のひらをルーシアへ向けた。

「 ……魔力譲渡魔アフェクション法!」

 そして、私に残された全魔力をルーシアに捧げた。

「ローレライ、何をやっているのよ! 早く魔法を切って! これ以上魔力を失えば、貴方の身が持たないわ!」

 ほぼ全ての魔力をルーシアに移し終えた瞬間、意識が薄れ、朦朧としていく。

「本当、お前は無理をするな」

「ごめんね。ありがとう」

 地面に崩れ落ちる寸前、私の身体は暖かい腕に抱かれた。
 そこには、呆れたように微笑むミストがいて。

「全くお前さん達は! ますます気に入ったわい!」

 ミストだけじゃない。
 グローインさんも私達の盾になって、熱風と衝撃波から守ってくれている。

「ありがとう、ローレライ。絶対に、無駄にはさせないから!」

 魔力が増加したルーシアは、一気に全魔力を解放する。
 途端に膨れ上がった獄炎が飛竜の炎を飲み込み、押し返した。

 ついに飛竜に達した、その時。
 とてつもない爆発が巻き起こった。

「はぁ、はぁ……。さすがにもう、立てないわ」

 その場でへたりと座り込み、両手を地面に突くルーシア。息を切らして、遠くを見つめる。

 そこには、朽ち果てた翼の飛竜が立っていた。
 そして地面へと倒れていった。再び、土煙を巻き上げながら。

「いかん、わしも歳じゃな。若いもんにはついていけんわい」

 体力を使い果たしたグローインさんもまた、その場で仰向けに倒れた。

「ローレライ、オフィーリアのところに行こう」

「うん」

 覚束ない足どりの私に、そっと手を貸してくれるミスト。
 一歩ずつ、歩みを進める。

『あらあらぁ? 皆さん、何を終わった気でいるのかしらぁ』

 謎の声がそう言った瞬間、飛竜が翼を広げた。
 まるで傀儡かいらいのように立ち上がる飛竜には、最早意識なんてものは感じられない。

「……そんな。まだ起き上がるの?」

「冗談じゃろ。斧を振り回す力なんざ、もう残っとらんぞ」

 ……違う。
 オフィーリアは、精神を操られているんじゃない。
 自我を残したまま、身体を乗っ取られているんだ。 
 だから飛竜は、単純な力業でしか攻撃してこない。
 悲痛の声は上げるのに、何度も起き上がらされて。

 このままでは、オフィーリアの身が朽ち果てるまで、死ぬまで戦わされてしまう。

「なら、どうしたら、良いの」

 唯一この状況を打開できるのは、きっとエリクシールだ。
 でも、一瓶だけしかない。
 失敗は赦されない。
 ならもう、打つ手は……。

「ミスト、助けて……」

 涙と共に、自然と溢れる。
 それでも微笑むミストは、その場に私を座らせた。

「あぁ、お前もオフィーリアも俺が助けるから。だから泣くな。泣いて良いのは、オフィーリアを治してからだ」

「うん」

 そしてミストは、片手剣ルーンソードと短槍コルセスカを抜いた。

 飛竜との決着をつける為に。
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