王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

文字の大きさ
26 / 58
第二章 中央地域 南の街ギリアス

九話 蒼白の闘気

しおりを挟む
 激しい戦闘を重ね、俺達は飛竜に深手を負わせるところまで戦い抜いていた。
 それでも尚、立ち続ける飛竜。

「なぁ、オフィーリア。まだ意識が残っているなら、聞いてくれ」

 ローレライが危険を冒してまで助けたかった飛竜は、戦いの最中に悲しげな瞳をしていた。
 だからわかる。呪いに抗っているのだと。
 オフィーリアもまた、闘っているのだと。

 なら、俺にできる事はただ一つ。

「必ず助けてやるから。だから、もう少しだけ待ってろ!」

 大地を踏みしめ、飛竜に向けて全力で駆け出した俺は、大きく宙を舞った。

 すぐさま迎撃態勢に入る飛竜。
 その時、オフィーリアの精神が僅かに勝ったのか、動きが鈍った。

「やっぱりな。まだ意識があるのか」

 ルーンソードとコルセスカを交差に構え、振り上げられた飛竜の尻尾を受け止める。
 力ずくで尻尾を弾き返し、両手に魔力を込めた。

 俺の魔力量は他者よりも遥かに少ない。
 だから使える魔法なんて、初歩の属性付与魔法くらいだ。
 だが今は、それで十分。

「なぁ、オフィーリア。今どんな気持ちなんだ。グローイン友人を傷つけて、慕ってくれる人ローレライまで傷つけて。きっと、辛いだろうな……」

 〈グルルルル〉

 飛竜の動きが、更に鈍くなる。
 オフィーリアの意識が反映されたのか。ただの偶然なのか。
 その答えは……。

 あとで訊いてやるとしよう。

「もうすぐ自由にしてやるから。だからもう少しだけ、痛いのを我慢してくれ!」

 魔力を一気に解き放ち、冷気を生み出す。

「 氷結剣魔法アイスブランド氷結槍魔法コールドジャベリン

 身体を操られているのなら、動けなくしてやればいい。
 これだけ重傷の今なら、弱った飛竜なら、抗う事なんてできないはずだ。

 ルーンソードを後ろに構え、コルセスカを前へと突き出す。

 ただ一つの懸念は、この武器が反動に耐えられるかだ。
 魔法剣を維持した状態で闘気の力を使えば、並みの強度では粉々に砕けてしまうのだから。

「だから一度だけでいい。悪いが、堪えてくれよ」

 その時、飛竜が翼を広げ、羽ばたかせた。
 ふわりと身体を浮かせ、突風と共に上空へ舞う。
 その瞬間、重力と翼の速度を加えながら隕石の如く急降下してきた。

「良いね、自分から来てくれるのか。なら、空でご対面と行こうか!」

 思いきり俺も飛びあがり、飛竜めがけて一直線に飛翔した。

「……鬼灯ほおづき流奥義! 霧氷雪月花むひょうせつげっか

 飛竜とぶつかり合う寸前、絶対零度の剣圧を繰り出し、飛竜の動きを鈍らせた。

 空に舞い散る雪のように、蒼白の闘気を帯びた氷の槍を突き刺す。
 すかさず闘気と氷の剣で弧月の斬撃を撃ち放つ。残された残月が、飛竜の身体を何度も斬りつけていく。

「これで、終わりだぁーっ!」

 更に膨大な闘気を右手に圧縮させ、渾身の正拳突きを繰り出した。
 飛竜の傷口からは、氷の結晶が次々と生み出されていく。
 甲高い音と共に、飛竜の身体は大きな雪の結晶に包み込まれていった。

「悪いな。よく耐えてくれた」

 成す術もなく落下した飛竜と共に、着地した俺はルーンソードとコルセスカにそう言う。
 二つの武器は、静かに鋼色の輝きを放つ。

「お疲れさま、ミスト」

「あぁ、待たせたな」

 ローレライの腰に手を回し、抱き起こして肩を貸した。
 そして、倒れた飛竜の元へと向かう俺とローレライ。
 その隣には、ルーシアとグローインも共に並んで歩く。

「ねえミスト、少しは魔力が上がったんじゃない? 今ならできるかもよ? 最弱魔法ファイア

「馬鹿にしすぎだろ! できないけど」

「がっはっはっは! 本当に大したわっぱじゃ! 今宵は存分に酒を奢っちゃるわい」

「まぁ、みんなのお陰だよ。っていうか、酒なんか飲めないって」

 まるで普段のように笑い合いながら、私達は歩き続けた。

 その時、飛竜の身体が柔らかな光に包まれ、氷が粉雪のように飛び去った。
 光の輝きが消えていくと同時に、オフィーリアは少女の姿へと変わっていく。

「やっぱり、こっちが本当の姿なのか?」

「そんなの本人に訊いてみればいいじゃない。でしょ? ローレライ」

「うん、そうだね」

 ローレライはオフィーリアの頭をひざに乗せ、口許に少しずつエリクシールを溢した。傷だらけだった彼女の身体が、瞬く間に癒されていく。

 風貌は胡散臭い魔女だったが、これを見たら疑う余地は無い。
 ゲイちゃんの知識と技術は本物だ。

「……ありがとう、ローレライ」

 そう言いながら、オフィーリアがうっすらと瞼を開いた。
 その顔を見た俺達は、本当に終わったのだと、安堵の笑みを溢す。

「遅くなって、ごめんね」

「貴方を守るつもりだったのに、かえって助けられてしまいましたね。私も、まだまだ未熟だわ」

「そんな事ないよ。オフィーリアは、ずっと私の心を、守ってくれてたんだから」

 ローレライは、包み込むようにオフィーリアを抱き締めた。
 その光景を眺めていたルーシアは涙を流して、微笑んでいて。
 こんな二人の姿を見させられたら、俺でさえも胸を打たされる。

「おぉおぉ、おぉおぉ! 時にオフィーリアよ、なぜお前さんは、人の姿になっとるんじゃ?」

 グローインの問いに、笑顔で返すオフィーリア。
 エリクシールの治癒力が効いてきたのか、身体の自由が戻ってきたのだろう。
 それでも心配したローレライに手を貸され、ゆっくりと身体を起こす。

「今まで黙っていてごめんなさい。ドラゴンの中には私のように人と竜、二つの姿を持つ者がいるのよ。私達の間では、竜人族ドラゴニュートと呼ばれているわ」

「ほう、そいつは初耳じゃな。まあ、細かい事は気にせんわい! お前さんは、お前さんのままじゃからなぁ! ガッハッハッハ!」

 グローインが大きな声で笑うと、釣られて微笑むローレライ。
 口元を手で押さえながら、小さく笑っていた。

「ミストさん、ルーシアさん、お二人にも迷惑をかけてしまいましたね。本当に、どうお詫びをしたらいいのか……」

 申し訳なさそうに俯くオフィーリア。

「いや、俺の方こそ。荒いやり方で悪かった」

「オフィーリアさん、気にしないでください。もう終わったんですから」

「ありがとうミストさん、ルーシアさん。ローレライこの子が、こんなにも良い友に巡り会えて、本当に良かった」

 オフィーリアは少しだけ明るい表情になり、優しく微笑んだ。

「闘っている時、意識だけはありました。傷つけたくないのに、身体が言う事を聞かなくて。悲しくて、本当に辛かったわ」

「私も、たくさん傷つけちゃったんだよ。だから、気にしないで」

「ええ、とても痛かったわよ。でも嬉しかったわ。だって、貴方の成長を感じられたんだもの」

 まるで心が通じ合う姉妹のように、手を握る二人。

「……うっ! ううっ」

 その時、苦しむオフィーリアの身体から、紫色の霧が勢いよく飛び出した。
 エリクシールの影響なのか、オフィーリアの身体から拒絶されたように。

『あーあ、負けてしまいましたか。まさか、わたくしの魔法を打ち消す薬があるだなんて』

 再び聞こえてくる謎の声。
 だが、その声はオフィーリアの身体ではなく、霧の中から響いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...