王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

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第二章 中央地域 南の街ギリアス

十話 呪いの正体

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 これで終わった。
 そう安堵したのも束の間、倒れたオフィーリアが意識を失ってしまった。

「この霧、今までとは何かが違う」

 オフィーリアの身体から溢れ出した紫色の霧が、人の姿へと変化していく。
 全員が武器に手を添え、再び身構える。

『はじめまして、皆さん。残念ながら、今回のお戯れはわたくしの負けですわね』

 立ち込めていた霧が消え去ると、そこには一人の少女が立っていた。
 細い腕を左右に広げ、ふわりと着地すると、服の裾を掴みながら浅くお辞儀をしてくる。
 顔を上げた少女の瞳は、怪しく深紅に煌めいていて。

「……この子が、オフィーリアさんを操っていた張本人なの? どう見ても、私達と同じくらいの子じゃない」

「こりゃ意外だな。てっきり厳ついおばさんが出てくんのかと思ったが」

 朱鷺色の長い髪から覗かせるのは、端正な顔立ち。
 そして獣人族特有の耳と尻尾があり、その耳には百合の花飾りを付けていて。
 端から見れば、その容姿は淑やかで可憐な少女だ。

 だが、そんな外見からは想像もつかないほどの強大な力と怨嗟を感じる。
 その場にいる全員が、不気味な嫌悪感を覚えたほどに。

「わたくしはフリージアと申しますわ。お約束どおり、こうしてご挨拶に参りましたの」

 にこりと微笑むその瞳の奥から、禍々しい気配を醸し出すフリージア。

「……貴方は、やっぱりあの時・・・の人だったんだね! よくもオフィーリアを!」

 ローレライは咄嗟に細剣エストックを抜き、今にも斬りかかりそうなほど激昂する。

「待てっ! こいつは、何かおかしい!」

 俺の制止を振り払い、勢いよく斬りかかるローレライ。
 しかし、放たれた斬撃はフリージアをすり抜け、空を斬った。

「えっ!? どういう事!?」

 異様な現象に驚くルーシア。
 ローレライもまた、何が起きたのかわからず、辺りを見回しながら動揺してしまう。
 すぐに振り返り、再びエストックを構えた。

 その切っ先の前には、平然と回るように踊りだすフリージアの姿が。

「ヒヒヒ……ざぁーんねん。本物のわたくしは、ここにはおりませんわぁ。アーッハッハッハ!」

 ゆっくりと立ち止まり、見下すように嘲嗤うフリージア。

 恐らくこの幻覚は、フリージアが放った魔力の一部。
 わざわざ幻影を出してきたという事は、これ以上は俺達と戦うつもりがないのだろう。
 そう感じた俺は、片手剣ルーンソードの柄から手を離した。

「一体、何が目的なんだ」

「ヒヒッ、わたくしの目的はただ一つ。グランフィリアの血族を、一匹残らず葬る事ですわぁ」

「それが、この人の目的……。なら、オフィーリアは、ただ、巻き込まれただけ……」

 突然エストックを手放し、身を震わせるローレライ。
 ひざを突き、その場に座り込んでしまう。

「お嬢さんに怨みはございませんが、わたくしの目的の為にも、死んでいただかなければなりませんわねぇ」

 ローレライの前にしゃがむフリージアは、そっと耳元で囁く。

 フリージアが言うグランフィリアの血族とは。
 この国でグランフィリアの血族と一括りに呼ぶとするなら、恐らくは公爵以上の爵位を与えられた家系のみ。
 それに該当する一族の総称が王族・・とされている。
 もしも俺達の中に王族がいるとすれば……。

「悪いが、どんな理由があろうと仲間を傷つけるなら容赦はしない。俺が相手になってやる」

 威圧するように、そう言い放つ。

「いえいえ。今日のところはこの辺でお暇させていただきますわ」

 だが、フリージアは挑発には乗らず、怪しげな笑みを溢すだけだった。

「それでは皆さま、ごきげんよう」

 そう言うフリージアは、ワンピースの端を手で掴み、フワリとお辞儀をする。
 ゆっくりと顔を上げたその表情は、先ほどとは打って代わり、柔らかな微笑みを浮かべていた。
 そして、煙のように消えていく。

「……本当に、いなくなったみたいね」

「なんとも薄気味の悪い娘じゃったのう」

「あぁ、そうだな」

 だが、ローレライは不安そうに胸を押さえ、俯いていた。

 昨日までの俺は、この旅はオフィーリアに薬を飲ませて終わりだと、短絡的に考えていた。
 帰り道は四人になっていて、オフィーリアの住み処なんかも悩んだりして。
 そう思っていたのに。

 ローレライが心の奥に何を抱えているのか。どんな道を歩んできたのか。
 俺にはまだ、知らない事だらけだ。

 ━ギリアス・廃教会━

「お前さん達、もうすぐじゃぞ! 」

 戦いを終えた俺達が廃教会に到着すると、そこには弟子のメルルが待っていた。

「おーい! ここっすよー!」

 事情を知らないメルルは、無事に帰って来た俺達に大喜びで手を振る。

 その後、飛竜との戦闘で崩壊した街の一部は、そのほとんどが廃屋だったと領主から知らされた。
 被害を被った人も、怪我人もいなかったそうだ。
 あれだけ暴れたにも関わらず、不幸中の幸いにもほどがある。
 まぁ、グローインの店は吹っ飛んでしまったが。

 だが、倒壊した家屋の解体や街中に飛散した瓦礫を撤去しなければならないのは事実。
 近隣に居を構えているグローインのドワーフ仲間達と共に、街の住民と協力して復興作業をする事になったんだが。
 当然、加害者の俺達も手伝う事に。

「ねえ、ミスト。たまには、こういうお手伝いも楽しいわね」

 俺とルーシアは瓦礫を荷台に積み上げ、馬車で山まで運搬する作業をしていた。
 二人で御者席に座り、のんびりと馬車に揺られる日々。
 そうそう。俺はこんな感じの生活が好きなんだ。こんな平凡な毎日が。

「まぁ、楽しいは楽しいけど。壊したの俺達だけどな」

「それに関しては気にするなって、フェルナンド男爵に言われたでしょ? だから、責任を感じなくていいの」

「あー……あいつね」

 オフィーリアを廃協会に連れていって間もなく、駆けつけた街の憲兵隊に事情聴取をうけた俺達。
 幸いにもギリアスの領主フェルナンドとルーシアは親交があった為、すんなりと釈放された。
 それどころか撤去に困っていた廃墟を粉々に解体してやったのだから、感謝までされたくらいだ。

 多分だけど、フェルナンドはルーシアに気がある。社交会でも頻繁絡んでくるって話だし。
 まぁ、悪徳領主ではなさそうだから、放っておいてやるか。

 ━数日後・ギリアス━

 数日後、やっと修復できたグローインの店に、オフィーリアを移す事になった。
 あれからずっと、ローレライは泊まりがけでオフィーリアの看病している。

「みんな、ごめんね。私も、復興作業を手伝うべきなんだけど……」

「気にすんな。お前はオフィーリアに付いててやれよ」

「うん。ありがとう」

 自分だって怪我が治っていないのに、ローレライはいつもこんな感じだ。
 自分の身よりも、オフィーリアが心配で堪らないらしい。
 
 そしてグローインの店も、明日には営業を再開できる事になったそうだ。
 全てが元に戻り、日常を取り戻していく。

 その日の夜、街の宿に宿泊していた俺とルーシアは、今後の予定を話し合っていた。
 王立学園の休学期間も迫っている事もあるが、何より母さんが心配して捜しに来そうだし……。
 だから俺達は、明日にでもアルヘム村に帰る予定だ。

「なんかさ、あっという間の二週間だったわね」

「だな。ルーシアと二人きりの夜も、今日で終わりか」

「んなっ! なによ、その卑猥な言い方」

「ククク、冗談だよ。明日にはこの街ともお別れだ。しっかり見納めておこう」

「そうね。ローレライは、どうするのかな」

「……あぁ」

 偶然にも今夜、ギリアスの街の復興完了とオフィーリアの快気を祝って、みんなで食事をする予定だ。
 そこでみんなにも話そうと考えているが、この先ローレライは誰と一緒に行くのか。
 それだけが、俺の気掛かりだった。

 俺は、これからもあいつの傍にいてやりたい。
 抱えているもの全てを、一緒に背負ってやりたい。
 そう、思っていたから。
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