王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

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第二章 中央地域 南の街ギリアス

十二話 君の抱えるもの

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 オフィーリアを助ける事に成功した俺達は、酒を片手に楽しい一時を満喫していた。
 だが、明日には俺とルーシアはギリアスを発たなければならない。
 だから今日は、ギリアスで最後の晩餐となるんだが……。

「なぁ、みんな。ちょっといいか」

 寄りかかるルーシアをひざに乗せて、俺はみんなに話をした。
 明日の昼頃には、俺とルーシアがアルヘム村に帰る事を。
 みんなの今後も、知りたくて。

「……そうだよね。ヴァンさんとマリーさんから、たくさん手紙が届いてるもんね」

「あぁ、涙の跡がしっかり残った手紙がな」

 そう。帰りが遅くなる事情を手紙で送った翌々日から、速達で大量に届いている。

「みんなは、これからどうするんだ?」

 しばらくの間、沈黙が続く。
 ふとローレライを見ると、その表情に笑顔はなく、少し俯いていた。
 そんな寂しげなローレライの姿を、心配そうに見つめるオフィーリアもいて。

「そうさなぁ。わしは、ちと長い事出かけにゃならん用事が出来てなぁ。実のところ、後の事はメルルに任せておるんじゃ」

 最初に話を切り出したグローインもまた、ギリアスここを離れると言う。
 なら、やっぱりローレライとオフィーリアは、俺達とアルヘム村に……。

「私は、フリージアを捜そうと思います」

 酒樽を置いたオフィーリアが、突然俺の期待に反する。
 確かにフリージアの危険性は承知している。あの時見せた殺意は、必ずまた牙を剥くだろう。

「おそらく彼女は、犬の獣人族セリアンスロープです。ただ、それ以外に情報が無いのも確かよ。だから、あらゆる歴史に精通した人物に会いに行きます」

 という事は、オフィーリアも別の道を行くのか。
 なら、ローレライは俺達とオフィーリア、どちらに付いて行くのだろうか。
 もしかしたら、ローレライまで違う決断を下すかもしれない。

「ローレライ、一緒に手伝ってくれますか?」

「あっ、えっと……」

 ローレライは、オフィーリアの誘いにすぐには答えられなかった。
 ひざの上に乗せた手を、じっと見つめたまま、顔を伏せていて。

「悪いが、それは駄目だ。ローレライは俺達とアルヘム村に帰る」

 初めから俺とルーシアはそのつもりだった。
 本当はオフィーリアにも来てほしかったが、ローレライだけは譲れない。

「ミストさん、貴方もわかっているでしょう? フリージアは……」

「だからこそだ。俺が、ずっとローレライの側にいる。フリージアなんかに俺は負けない。オフィーリアあんたみたいにな」

 こんな冷たい言い方をすれば、きっとオフィーリアを傷付けてしまっただろう。
 それでも俺は……。

 しかし、ほんの一瞬だったがオフィーリアは微かに微笑んだ。
 安心したように、俺を見つめて。

「ローレライ、後は貴方が決めなさい。自分の意思で、好きな道を選ぶのよ。そして、その足で自由に歩いてみて」

 ……そうだな。
 俺達ができるのは、あくまでもローレライの前に道を作る事だけだ。
 どうやら俺は、オフィーリアの策に乗せられたらしい。

「私は、わからない。どうしたらいいのか、わからないの」

「いいのよ。すぐに答えを出す必要はないわ。ゆっくり考えなさい」

「うん、少し、考えてみる」

 そう言って、ぎこちなく笑顔を作るローレライは、店の外へと駆け出してしまった。
 最後に見た彼女の顔は、何か思い詰めている様子だった。
 ローレライが悩む理由は、きっと歩むべき道が二本だけではないからだ。

「……良い機会かもしれませんね」

 ローレライの心境に心当たりがあるのか、オフィーリアが呟く。

「……んん、いけない、寝ちゃったわ。ごめんね、みんな」

 暫しの夢から覚めたルーシアが、額を押さえながら起き上がった。
 まだ酒が抜けていないのだろうが、意識ははっきりしてるみたいだ。

「……って、あれ? ローレライは?」

 どうやら、この場にローレライがいない事にも気がついたのか。

 そして俺は、ルーシアが寝ている間の出来事を説明してあげた。
 話を聞くルーシアは、次第に表情を暗くさせていく。
 もしかしたら、ローレライとは明日でお別れなのかもしれないと、そう思ったのだろう。

「私は待つわ。ローレライが納得の行く決断をするまで。選んでもらえなかったら、悲しいけど……」

「そうじゃな。それでこそ真の友じゃ。何、今生の別れでもあるまい」

 ルーシアの肩に触れ、グローインが優しく慰める。
 だが、もしもローレライが王都に帰る選択をしたら。その時が来たら、もう二度と会えない気がする。
 根拠なんて無いけど、そんな胸騒ぎのようなものが押し寄せてきていた。

「なぁ、オフィーリア。フリージアが言っていたグランフィリアの血族って、何の話だ? あんたとローレライが襲われた事と、何か関係があるんじゃないのか」

 フリージアと対峙したあの時、確かにそう言っていた。
 グランフィリアの血族を一人残らず葬ると。

「そういえば、そんな事言ってたわね。あっ、ちなみに私は違うわよ! 王族の血なんて、一滴も流れてないから!」

「あぁ、そうだな。あるとすれば……」

 みんなの視線が、オフィーリアに集まる。
 ついに覚悟を決めたオフィーリアは、静かに目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。

 ━ギリアス・グローインの店━

 宴を切り上げた俺達は、重い空気の中、グローインの店に戻っていた。
 それは真実を話す為に、オフィーリアの出した条件だからだ。
 誰にも聞かれたくない。そう言って。

「みんなは、どこまでローレライあの子の事を知っていますか?」

 オフィーリアは真新しく並んだ武具を指先でなぞり、背を向けてそう言う。

「そうさなぁ。わしはほとんど知らんわ。無論、本名・・もな」

 何かを察しているのか、含みのある言い回しをするグローイン。

「えっ? 本名はローレライですよね。それも偽名って事?」

「ルーシア、あいつの家名ファミリーネームを聞いた事あるか?」

「……それってつまり、家名のアディールも嘘。そう言いたいのね」

「あぁ、そうだ。今までのローレライの振る舞いを見れば、あいつが上級貴族の人間でもおかしくはない。フリージアの狙いもローレライだとすれば、全て合点がいく。だろ? オフィーリア」

 核心をついた俺は、無言のまま成り行きを見ていたオフィーリアに視線を送った。
 もう解答は済ませた。後は答え合わせを待つだけだ。
 そんな意味を込めて。

「あの子の本当の名は、グランフィリア王国正当王位継承者、第一王女ローレライ・アリア・グランフィリアです。現国王ファルシオンと、今は亡き王妃ローズの一人娘よ」

「第一、王女……」
「嘘でしょ……」

 オフィーリアから返された答えは、俺達の想像を大きく上回っていた。
 この場にいた誰もが言葉を詰まらせ、沈黙を強いられるほどに……。

 ローレライが抱えていたもの。
 それは、この国の全てだったんだ。
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