王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

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第二章 中央地域 南の街ギリアス

十三話 友の誓い

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 グローインの店に戻っていた俺達は、ローレライの真実を聞かされていた。
 でもそれは、俺の予想を遥かに上回るもので。
 
「ローレライが第一王女だなんて、何かの冗談ですよね」

 ローレライが王族の血筋なのは、薄々予想できていた。
 千年も続く歴史の深いグランフィリア王国では、公爵以上の爵位は全て王族と呼ばれ、それ以下の爵位は貴族と呼ばれている。
 その理由は、王族の人間だけが初代聖王の血を引く重要な血統だからだ。

 まさかローレライが現国王の実の娘だったとは、夢にも思わなかった。
 だが、それも当然だ。
 第一王女の存在は知られていたが、公の場には姿を見せた事がないのだから。

「ウフフフ。あの子の正体に気付かないのも無理ないわ。五歳の誕生日を境に、宮殿の最上階に隔離されていましたからね」

 初めて会ったあの日。ローレライは自分の本名を明かさず、更には北方地域の出身だと偽っていた。
 それは全部、自身の素性を隠す為だったのか。
 なぜ徹底して偽っていたのか疑問に思っていたが、もし王女だと知られたら危険が伴うからだったのか。

「でも、どうして隔離なんてしていたんですか? そこまでしなくても、護衛を付ければ良かったんじゃないかしら」

「ええ、私もそう言いました。でも、何年もこの国を離れてしまった私の言葉は、誰の耳にも届かなくて……」

 だが、一つ疑問に感じる事がある。
 それは王女が失踪したにも関わらず、大規模な捜索が行われていない事だ。
 ギルドの緊急依頼エマージェンシーにさえ、王女の捜索などというお触書は出ていない。

 恐らくこの件は、一部の人間にしか知らされていないのだろう。
 無闇に公表すれば、悪意のある人間が動き出すかもしれないのだから。
 もしくは、意図的に王女の捜索を封じている者がいるか。

「私はローレライの母親代わりにはなれません。あの子を笑顔にできない私には、母親になる資格なんて無いんです。それでも、側にいてあげたい。ローズと交わした約束を、守りたいの」

 オフィーリアは悲しそうな表情を浮かべ、遠くの夜空を見上げた。

「……そういえば、ローレライがこんな事を言っていたよ。オフィーリアは、孤独だった自分を連れ出してくれる母親のような存在なんだ、って」

「……そう。そうだったんですか。あの子が、そんな事を」

 振り返る事もなく、オフィーリアはそう言っていた。
 その声は少しだけ震えていて、月明かりで輝く一粒の雫が、彼女の横顔から溢れ落ちていた。

 ━ギリアス・街中━

 その後、俺達はローレライを捜していた。
 しばらくの間ギリアスの街中を歩くと、街の正門にある馬小屋にたどり着いた。
 そこは、二頭の馬を預けている馬小屋だ。

「思い当たる場所は、後はここだけだな」

「ええ、あの子はここにいます」

「オフィーリアさん、どうしてわかるんですか?」

「ウフフフ。ドラゴンはね、人間よりもずっと嗅覚が利くんですよ」

「えっ……。こんなに捜し回った意味……」

 牧舎へ入ると、そこにはローレライの姿があった。
 薄暗い中、ハーシェルじいさんから借りた二頭の馬に話しかけていて。

「ローレライ、捜したよ。一緒に帰ろう」

「……ルーシア、それにみんなも。勝手に出て行って、ごめんね。もう大丈夫だから」

 帰りの道は、誰も話をする事は無かった。
 夜も更け、人気の無い街並みを月明かりだけが照らし、静寂と化していて。

 ━ギリアス・グローインの店━

 グローインの店に到着すると、ルーシアがローレライの側へと歩み寄っていった。

「ねぇ、ローレライ、貴方の事聞いたわ。本当は王女だって事を。今まで、大変だったんだね。気づいてあげられなくて、ごめんね」

 そっと手を握り、そう話すルーシア。

「私の方こそ、黙っていて、ごめんなさい。話せなくて、本当にごめんね」

 ローレライの瞳から、大粒の涙が溢れ落ちていく。
 ルーシアの手に触れた雫は、音もなく弾けて消える。
 きっとその涙は隠していた事への罪悪感と、隠さなくても良くなったという安心感から生まれてきているのだろう。

「そんな事は良いの。これからどんな事が起きても、私はローレライの友達なんだから。もしも私達とは違う道を選んでも、その気持ちは、ずっと変わらないわ」

「うん、私も。私の気持ちも、ずっと同じだよ」

 額を重ねて、微笑み合う二人。
 両手を交わせ、包み込むように抱き合った。
 伝えたくても、伝えられなかったローレライ。
 真実を知った時、気持ちを伝えたかったルーシア。
 二人の願いが叶った今、やっと前へと進む事ができるだろう。
 それぞれの道を。

 そんな二人の姿を、グローインとオフィーリアは静かに眺めていた。
 とても嬉しそうな笑顔で。
 まるで、この結末を知っていたように。

「ガッハッハッハ! 若いってなぁ、いいもんだなぁ! なぁ、オフィーリアよ!」

「あら、ドラゴンの中では私も十分若いんですよ? なんと言っても、まだまだ一六〇歳ですからね」

「わしの倍以上生きとるのに、まだもくそも無いわい!」

 そしてローレライとオフィーリアを残し、俺とルーシアは街の宿へと戻っていった。
 そんな帰り道の途中、ルーシアはある事に気がつく。

「ねえ、そういえば……」

「なんだよ」

「メルルさん、忘れてない?」

「……あっ」

 こうして、ギリアスの最後の夜が終わった。
 たった一人を、酒場に残して。
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