王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

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第二章 中央地域 南の街ギリアス

十四話 おかえりなさい。その言葉を言いたくて

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 翌日、旅支度を終えた俺とルーシアは、アルヘム村へと帰る時間を迎えていた。
 見慣れたギリアスの街並みも、今日でお別れだ。

「なんだかんだで楽しかったよ。ありがとう」

「二週間もいたんだもの。名残惜しくなるわ」

「ウフフフ。私も、なんだか寂しいわ」

「そうさなぁ。最近は賑やかじゃったのに。お前さん達がおらんと、しんみりしてしまうわい」

 ギリアスの街の正門まで、見送りに来てくれたみんな。
 そんなみんなと、一人ずつ最後の握手を交わす。

「じゃあ、また会おう。なにも無い村だけど、たまには遊びに来いよ」

「お世話になりました! みんなも、お元気で!」

 この街の思い出を惜しみながら、馬に跨がった俺とルーシア。
 ついに別れの時。そして、決断の時。

「おうよ! わしもこれから旅支度じゃ! 近いうちに、また会おうぞ!」

「ミストさん、ルーシアさん、本当にありがとうございました。次に会える日を、楽しみにしていますね」

 爽やかに最後の挨拶を交わすグローインとオフィーリア。
 その隣には、ローレライがいて。

「帰り道、気をつけて帰って。またね」

 俺達を見送るローレライは、穏やかに微笑んでいた。
 嘘偽りのない、本当の笑顔で。
 どうやら、決めたみたいだ。自分の進むべき道を。

 何度も迷ったかもしれない。
 だが、ローレライが最後にそう決断した理由は……。
 俺には、わからなかった。

「ローレライ、本当に……」

「ミスト、離れていても、友逹だよね」

 ローレライがそう言う。

「……あぁ、もちろんだ。お前も、もう無茶な事はするなよ」

「うん、大丈夫だよ」

「俺達はずっとアルヘム村で待ってるから。必ず、また会おう」

「うん、約束」

 そして、俺とルーシアは手綱を引き、馬を走らせた。
 見送るローレライ達も。見送られる俺達も。互いの姿が見えなくなるまで、手を振り続けていて。

 ローレライのこの決断は、本当に後悔など無かったのだろうか。
 次に再会できる日は、いつの日になるのだろうか。
 今はまだ、ローレライがいないこの時間を。
 現実を、受け入れられない。

 ━西方地域・渓谷━

 帰りの旅路は、不思議ととても速かった。
 瞬く間に王都中央を越え、ウェスティア大草原を走り抜ける。
 西方地域の荒れた渓谷に入ると、辺りはすっかり暗くなっていた。

「ミスト、少しは何か食べたら?」

「 ……。」

「……ミスト?」

「あぁ、悪い。じゃあ少し進んだ先で今日は休むか」

「そうね。そうしましょう」

 今夜の移動はここまでで切り上げ、夜営をする事になった。
 ギリアスを出てからというもの、二頭の馬にはずっと走らせてしまっているのだから、そろそろ疲労も溜まっているだろうし。

 〈ヒヒーン!!〉
 〈ブルルルルルルルル!〉

「よしよし、休ませてやらないで悪かったな」

「お疲れさま。いっぱい食べて、ゆっくり休んでね」

 がんばってくれた馬達を労い、固いブラシで鬣を撫でてやる。
 そして薪に火を起こし、明かりを確保した。

「そういえば、この辺りでスケルトンが出てきたわね」

「あぁ、そうだったな」

「 ……。」

「 ……。」

 ゆらゆらと揺らめく焚き火の煙が、星空を隠す。
 パチパチと薪が弾ける音だけが、鳴り続けていた。

「確かドリアスで買った紅茶の茶葉が残ってたよな。ルーシアもいるか?」

「うん、お願い。夜は冷えるものね」

 鞄から鍋を取り出し、焚き火に当てる。
 紅茶の葉を布で包み、鉄製のマグカップを並べた。

「ねえ、ミスト」

 囁くように俺を呼ぶルーシアは、寂しげな表情で並べられたマグカップを指さしていた。

「コップ、三つ用意しているわよ」

「……悪い、間違えた」

 ルーシアと二人きりなんて珍しくないのに、なぜだか間が持たない。
 何年も一緒にいたはずなのに、互いに話題を探している。
 どうしてなのか、いつもと違う。
 これが本当の、いつも・・・なのに。

「ねえ、隣に座っていい?」

「あぁ、今夜は冷えるしな」

 毛布にくるまりながら、ゆっくりと隣に座るルーシア。
 無言のまま、二人で焚き火を眺めていた。
 俺の肩に、そっとルーシアが寄り添いながら。

「ルーシア、今日はもう寝た方がいい。俺が見張っておくから」

「ううん、もう少しだけ」

 ギリアスに向かう時は、子供の遠足のように賑やかだった俺達。
 それはもう、夜中でも魔物に気づかれるほどに。

 今は、あの夜とは何もかもが違う。
 動物の声も、川の流れる音も、ローレライの小さな笑い声さえ無く、静寂に包まれていた。

 ━翌日・西方地域━

「おはよう、よく眠れたわ!」

「嘘つけ。鼻をすすってる音、聞こえてたぞ」

「う、うるさい! 寒かったのよ!」

 翌朝、アルヘム村を目指す為に再び馬を走らせた俺達。
 正直俺は、ほとんど一睡もしていない。 
 あの時、もっとローレライを引き留めるべきだったのか。本当にこれで良かったのか。
 ずっとそれを考えていたのだから。
 きっとルーシアも、同じ気持ちなのだろう。

 〈ゲギャギャギャギャ!!〉

 道中、何度かスケルトンとの再会を果たす。
 相変わらず飛び降りて骨折している個体がいるが……。
 まぁ、脳みそが無いから仕方ないか。

 とりあえず剣閃を放ち、適当に斬撃を飛ばす。
 いつの間にか魔物を一掃していたが、終始上の空だったルーシアが俺にも魔法を撃ってくる始末。

「そういえばね! 今回の旅で、魔石がたくさん集まったのよ!」

「そうなのか? どのくらい集まったんだ?」

 「うーん、そうね……」

 ルーシアは肩にかけた鞄を開き、蓄えた魔石の数を数える。

「大小合わせると、金貨二枚と銀貨六枚分くらいかしら」

「そりゃすごいな。俺に内緒で、全額お菓子に注ぎ込むなよ」

「しないわよ!」

 良かった。
 ルーシア、少しは元気が出たみたいだ。

 その後、谷を過ぎた俺達の目の前には、見慣れた街道が視界に入り込んできていた。
 森に囲まれ、辺り一面から花の香りが漂う懐かしいこの道に。

 ━西方地域・アルヘム村━

 いつの間にか空には雲が列を組み、橙色の夕陽が沈んでいた。
 あの陽の光が消えると共に、寂しさが増していく。

「見て、ミスト! アルヘム村よ!」

「あぁ、やっと帰って来れたな。久々に自分の布団で寝れるのか」

 村の入口に辿り着き、馬から降りる俺。
 そしていつものように、マディガンが出迎えてくれた。

「おぅ、お前等! えらい遅かったな。でもまあ、無事に帰って来て安心したぞ」

「ただいま。おっさん」

「マディガンさん、ただいま」

 ハーシェルじいさんに馬を返した後、ようやく俺達は我が家の前へと辿り着いた。
 この扉を開ければ、本当に普段の日常へと戻ってしまう。
 ローレライがいない、あの日常に。

 そう思うと、扉へ手を伸ばせない。

「……ルーシアも疲れただろ? 先に夕飯だけでも食べていかないか?」

「うーん、そうね。久しぶりにヴァンおじさんとマリーおばさんにも会いたいし」

「それじゃ、しっかり身構えておけよ。扉を開けた途端、母さんが飛びついて……」

 そう言いながら、俺は振り返った。
 覚悟を決めて、扉を開けようと。
 そして、取手に触れようとした。
 その時……。

 ガチャ。ギィィ。

「全く遅いじゃろが! どこほっつき歩いとったんじゃ! 待ちくたびれて、せっかくの祝い酒を飲み干すところじゃったわい!」

「あら、ずいぶんと遅かったんですね。待ちくたびれて、ミストさんのベッドで眠ってしまったわ。それと、を隠すならベッドの下はやめた方がいいですよ。定番過ぎです」

「えっ!? ミストちゃん!? エッチな本をクローゼット以外にも隠していたの!? ママでさえ知らない秘密があったなんて、ショックよ……」

「よせよマリー。ミストも、立派な男児になったって事さ。 ……父さんにも、後でその本を見せてくれるか?」

「ミスト、ルーシア、必ず帰ってくるって、信じて待ってたんだ。会いたかったよ」

「「「 おかえりなさい! 」」」
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