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第三章 王立学園━大魔剣闘技祭━
一話 新しい生活
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ある朝、俺は目を覚ました。
日の出も早まり始めたこの頃、俺の嫌いな季節が近づくのを感じる。
日の光は、闇夜の静寂を奪うから嫌いだ。
日照が長引くという事は、灼熱の炎が身を焦がすのだから。
「んん……眩しい。しかも、なんか身体が……」
ふと違和感を覚えた俺は、ゆっくりと起き上がった。
誰もが寝静まった深夜の時間、ベッドの中に何かを感じた記憶がある。その時に身体をくの字に曲げて眠ったせいか、全身が強張っていて。
あの時は眠かったから気にしなかったけど、その原因は何なのだろうか……。
「あんっ、変なとこ触らないでください」
「あぁ、悪い。……は?」
即座に毛布を捲ると、そこには小さな女の子の姿があった。
銀色の長い髪が無造作に乱れ、なぜか下着姿で。
床には乱雑に放り投げた洋服が散乱しているが、確実にこの小竜が脱衣した跡なのだろう。
「ちょっと待てオフィーリア! お前の部屋はここじゃないだろ!」
「……あら、もう朝なんです……か……すぅ、すぅ……」
「寝るなぁーっ!」
俺達がギリアスから帰ってきて三週間。やっとみんなの生活環境が整ってきていた。
まずはグローイン。
ドリアスの商店街で、小さな戸建ての店を開業したらしい。
武器や防具だけでなく、農具や調理器具までも造っているのだから、瞬く間に主婦達の間で人気沸騰していた。
父さんの店にも卸売りに来ていて、父さんも歓喜に震えて遠吠えしていたくらいだ。
それと俺の担任の頭領とは旧知の仲だったらしく、快く援助してくれたそうだ。
グローインの言っていた知り合いは、頭領の事だったのか。
次にオフィーリア。
王立グランフィリア学園の理事長と友人で、学園の大図書室を使わせてもらえるように頼んだそうだ。
それからは時折調べ物をしに学園に訪れている。生徒の間では、何やら噂になっているみたいだが。
そして滞在中の寝床は、俺の家の二階奥にある空き部屋。オフィーリアの仕事と住み家が見つかるまでだが、そこにローレライと一緒に住まわせている。……はずなんだが。
なぜか俺の部屋に潜り込んでくる毎日。
そしてローレライ。
あいつは自分の部屋でちゃんと生活してくれている。
そして王立学園に通学する俺達と一緒に、毎朝ドリアスに出向いている。
どうやら冒険者ギルドで仕事をこなしてみたいだ。
「なぁ、遠慮すんなって。家族が増えたみたいで、父さんと母さんも喜んでるんだから」
「ううん。それでも、居候は駄目だよ」
とか言って、依頼で稼いだ報酬を母さんに手渡しているくらいだ。
その度に母さんに抱きしめられて、顔を赤らめながら照れていたな。
なんか親子みたいに見えるが。
……もしかして、抱きしめて欲しいから報酬を渡してるのかもしれない。
最後に俺とルーシア。
至って平凡に学校へ通う毎日。
日暮れ前に講義が終わると、冒険者ギルドまでローレライを迎えに行くまでが日課だ。
「ローラ、お待たせ!」
「あっ、おかえりなさい」
毎日欠かさず俺達の帰りを待つローレライ。
ギルドに併設された食堂で、一人きりでぽつんと待っている健気な子。
「今日は何の仕事してたんだ?」
「うん。今日はね……」
帰り道、何の仕事をしていたのか尋ねると、決まって似たような答えが返ってくる。
老人の介護や薬草の採取、馬小屋の掃除だと言う。
半日で遂行できるから、というのが理由らしいんだが。
しかし、自国の第一王女に掃除やら介護をさせるとは。
正体を知ったら、依頼主は心臓発作で死ぬかもな。
━アルヘム村・リビング━
「はい、この問題解ける人ー?」
「はいはーい! できましたー!」
「くっ……全然わからねえ」
学校から帰ると、決まって俺達はリビングに集まっていた。
なぜなら……。
小さなオフィーリア先生の拷問教室を受けなければいけないからだ。
ギリアスの一件で二週間も学校を休んでいた俺達だったのだが、その遅れを取り戻す為の企画らしい。
しかし、如何せん厳しい。
「あら? ミストさんは、こんな問題もわからないんですか」
「す、すみません……」
「転移魔法」
「ぐっ! またかっ!!」
忽然と俺の椅子が消えた瞬間、咄嗟にテーブルの端を掴み、空気椅子状態になる俺。
我ながら見事な反射神経だ。
ちなみにこれは、オフィーリアのお仕置きメニューその一。〈馬鹿には見えない椅子〉だ。
「あら、そんなに震えてどうしたのかしら。自分の頭の悪さに、打ちひしがれているのですか?」
「ぐっ、椅子……返せ」
「椅子? 何を言っているのかしら。ちゃんとミストさんの下にあるじゃないですか。馬鹿には見えない椅子が。ウフフフ」
「くっ、てめえ……」
俺の椅子を転移魔法で消した後、更に罵ってくるという二段構えのお仕置き。
転移魔法とは、対象の生物や物体を瞬時に転送する高難度魔法なんだが……。
そんなものを下らないお仕置きに使うな。
……この邪竜め!
「……何か言いました?」
「えっ、俺声に出してなくない?」
なぜか、心の声がバレている。
「ミスト、その体勢で羽ペン持てるの?」
「むっ、無理……だぁーっ!」
ガシャーン! ゴツーン!!!
ついに力尽きた俺は、後ろに転がり倒れてしまった。
ご丁寧な事に、消したはずの椅子を元に戻していたオフィーリア。
それも手際よく転移させて、俺の後頭部が椅子の角に着地するように調節までして。
っていうか、やっぱり椅子が消えてたんじゃねえか。
「みんなー! 夕飯の支度できたから、お片付けしておいてねー!」
「「 はーい! 」」
床で悶える俺を他所に、母さんとローレライがリビングにやって来た。
そんなローレライは、母さん特製の薔薇模様のエプロンを身につけていて、やる気に満ちている。
「みんな! ただいまーっ! 」
店仕舞いを終えた父さんも合流し、上機嫌で片付けを手伝い始める。
まぁ、我が家の夕飯は店の閉店時間に合わせているだけなんだけど。
「ねえ、ミスト。このクロワッサンね、私が作ったんだよ」
そんなローレライの両手には、一切捻れていない真っ直ぐなクロワッサンが乗っていた。
焼いている間に、このパンには何が起きたのだろうか。
「へぇ、すごいな。じゃあ、それ貰うわ」
「フフフ。ありがとう」
今日の夕飯が揃うと、みんなが席につき、手を合わせた。
「「「 いただきまーす! 」」」
「おほっ! やるねえ、マリー! このスープ美味しいよ! 最っ高!」
「そうでしょ! 隠し味に入れたトリュフ、ローラちゃんが報酬で貰ってきてくれたのよ!」
少し前までは四人で囲んでいた食卓。
そして五人となり、今では六人に増えていた。
ちょっと狭いけど、やっぱりみんなで食べるのは良いものだ。
「パパ、白ワインのおかわりをいただけますか?」
「ああ! 任せろ! かわいい娘の為なら、何杯でも注いじゃうぞ!」
そしてこの二人の間にも、一体何があったのか。
真相は知らないが、オフィーリアは父さんをパパと呼んでいる。
ちなみに父さんは三〇歳。オフィーリアは一六〇歳。
「ふぁー……。もう遅いから、今日は帰るわね。おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
「ルーシア、また明日ね」
食事を終えて夜も更けた頃、欠伸をするルーシアが帰宅する時間となっていた。
当然ルーシアにも両親がいる。
しかし子爵の爵位を持つ家系の都合上、家族が揃う事はごく稀だ。
そんなルーシアと似た境遇のローレライ。どこか似ているところが、二人の通じ合う要因の一つかもしれない。
「それじゃあ、そろそろ私達も休むとしましょうか」
「うん。もう少しだけ、ルーシアとお話ししてくるね」
ローレライとオフィーリアも立ち上がり、父さんと母さんに寝る前の挨拶をする。
相変わらず、ローレライは深々とお辞儀をして。
「俺も眠いし、そろそろ寝るよ。おやすみ」
「おお、おやすみ!」
「ミストちゃん、おやすみなさい!」
俺は眠い瞼を擦り、短いようで長く感じる階段を上がる。
部屋にたどり着き、その扉を開くと……。
「……すぅ……すぅ……」
洋服を脱ぎ散らかしたオフィーリアは、下着姿のままベッドで眠っていた。
「それでね! クラスの子がさ……」
「フフフ。そうなんだ。面白い子が、いるんだね」
ローレライもまた、窓から隣の家のルーシアと談笑していて。
「ここ、俺の部屋……」
まぁ、いいか。
日の出も早まり始めたこの頃、俺の嫌いな季節が近づくのを感じる。
日の光は、闇夜の静寂を奪うから嫌いだ。
日照が長引くという事は、灼熱の炎が身を焦がすのだから。
「んん……眩しい。しかも、なんか身体が……」
ふと違和感を覚えた俺は、ゆっくりと起き上がった。
誰もが寝静まった深夜の時間、ベッドの中に何かを感じた記憶がある。その時に身体をくの字に曲げて眠ったせいか、全身が強張っていて。
あの時は眠かったから気にしなかったけど、その原因は何なのだろうか……。
「あんっ、変なとこ触らないでください」
「あぁ、悪い。……は?」
即座に毛布を捲ると、そこには小さな女の子の姿があった。
銀色の長い髪が無造作に乱れ、なぜか下着姿で。
床には乱雑に放り投げた洋服が散乱しているが、確実にこの小竜が脱衣した跡なのだろう。
「ちょっと待てオフィーリア! お前の部屋はここじゃないだろ!」
「……あら、もう朝なんです……か……すぅ、すぅ……」
「寝るなぁーっ!」
俺達がギリアスから帰ってきて三週間。やっとみんなの生活環境が整ってきていた。
まずはグローイン。
ドリアスの商店街で、小さな戸建ての店を開業したらしい。
武器や防具だけでなく、農具や調理器具までも造っているのだから、瞬く間に主婦達の間で人気沸騰していた。
父さんの店にも卸売りに来ていて、父さんも歓喜に震えて遠吠えしていたくらいだ。
それと俺の担任の頭領とは旧知の仲だったらしく、快く援助してくれたそうだ。
グローインの言っていた知り合いは、頭領の事だったのか。
次にオフィーリア。
王立グランフィリア学園の理事長と友人で、学園の大図書室を使わせてもらえるように頼んだそうだ。
それからは時折調べ物をしに学園に訪れている。生徒の間では、何やら噂になっているみたいだが。
そして滞在中の寝床は、俺の家の二階奥にある空き部屋。オフィーリアの仕事と住み家が見つかるまでだが、そこにローレライと一緒に住まわせている。……はずなんだが。
なぜか俺の部屋に潜り込んでくる毎日。
そしてローレライ。
あいつは自分の部屋でちゃんと生活してくれている。
そして王立学園に通学する俺達と一緒に、毎朝ドリアスに出向いている。
どうやら冒険者ギルドで仕事をこなしてみたいだ。
「なぁ、遠慮すんなって。家族が増えたみたいで、父さんと母さんも喜んでるんだから」
「ううん。それでも、居候は駄目だよ」
とか言って、依頼で稼いだ報酬を母さんに手渡しているくらいだ。
その度に母さんに抱きしめられて、顔を赤らめながら照れていたな。
なんか親子みたいに見えるが。
……もしかして、抱きしめて欲しいから報酬を渡してるのかもしれない。
最後に俺とルーシア。
至って平凡に学校へ通う毎日。
日暮れ前に講義が終わると、冒険者ギルドまでローレライを迎えに行くまでが日課だ。
「ローラ、お待たせ!」
「あっ、おかえりなさい」
毎日欠かさず俺達の帰りを待つローレライ。
ギルドに併設された食堂で、一人きりでぽつんと待っている健気な子。
「今日は何の仕事してたんだ?」
「うん。今日はね……」
帰り道、何の仕事をしていたのか尋ねると、決まって似たような答えが返ってくる。
老人の介護や薬草の採取、馬小屋の掃除だと言う。
半日で遂行できるから、というのが理由らしいんだが。
しかし、自国の第一王女に掃除やら介護をさせるとは。
正体を知ったら、依頼主は心臓発作で死ぬかもな。
━アルヘム村・リビング━
「はい、この問題解ける人ー?」
「はいはーい! できましたー!」
「くっ……全然わからねえ」
学校から帰ると、決まって俺達はリビングに集まっていた。
なぜなら……。
小さなオフィーリア先生の拷問教室を受けなければいけないからだ。
ギリアスの一件で二週間も学校を休んでいた俺達だったのだが、その遅れを取り戻す為の企画らしい。
しかし、如何せん厳しい。
「あら? ミストさんは、こんな問題もわからないんですか」
「す、すみません……」
「転移魔法」
「ぐっ! またかっ!!」
忽然と俺の椅子が消えた瞬間、咄嗟にテーブルの端を掴み、空気椅子状態になる俺。
我ながら見事な反射神経だ。
ちなみにこれは、オフィーリアのお仕置きメニューその一。〈馬鹿には見えない椅子〉だ。
「あら、そんなに震えてどうしたのかしら。自分の頭の悪さに、打ちひしがれているのですか?」
「ぐっ、椅子……返せ」
「椅子? 何を言っているのかしら。ちゃんとミストさんの下にあるじゃないですか。馬鹿には見えない椅子が。ウフフフ」
「くっ、てめえ……」
俺の椅子を転移魔法で消した後、更に罵ってくるという二段構えのお仕置き。
転移魔法とは、対象の生物や物体を瞬時に転送する高難度魔法なんだが……。
そんなものを下らないお仕置きに使うな。
……この邪竜め!
「……何か言いました?」
「えっ、俺声に出してなくない?」
なぜか、心の声がバレている。
「ミスト、その体勢で羽ペン持てるの?」
「むっ、無理……だぁーっ!」
ガシャーン! ゴツーン!!!
ついに力尽きた俺は、後ろに転がり倒れてしまった。
ご丁寧な事に、消したはずの椅子を元に戻していたオフィーリア。
それも手際よく転移させて、俺の後頭部が椅子の角に着地するように調節までして。
っていうか、やっぱり椅子が消えてたんじゃねえか。
「みんなー! 夕飯の支度できたから、お片付けしておいてねー!」
「「 はーい! 」」
床で悶える俺を他所に、母さんとローレライがリビングにやって来た。
そんなローレライは、母さん特製の薔薇模様のエプロンを身につけていて、やる気に満ちている。
「みんな! ただいまーっ! 」
店仕舞いを終えた父さんも合流し、上機嫌で片付けを手伝い始める。
まぁ、我が家の夕飯は店の閉店時間に合わせているだけなんだけど。
「ねえ、ミスト。このクロワッサンね、私が作ったんだよ」
そんなローレライの両手には、一切捻れていない真っ直ぐなクロワッサンが乗っていた。
焼いている間に、このパンには何が起きたのだろうか。
「へぇ、すごいな。じゃあ、それ貰うわ」
「フフフ。ありがとう」
今日の夕飯が揃うと、みんなが席につき、手を合わせた。
「「「 いただきまーす! 」」」
「おほっ! やるねえ、マリー! このスープ美味しいよ! 最っ高!」
「そうでしょ! 隠し味に入れたトリュフ、ローラちゃんが報酬で貰ってきてくれたのよ!」
少し前までは四人で囲んでいた食卓。
そして五人となり、今では六人に増えていた。
ちょっと狭いけど、やっぱりみんなで食べるのは良いものだ。
「パパ、白ワインのおかわりをいただけますか?」
「ああ! 任せろ! かわいい娘の為なら、何杯でも注いじゃうぞ!」
そしてこの二人の間にも、一体何があったのか。
真相は知らないが、オフィーリアは父さんをパパと呼んでいる。
ちなみに父さんは三〇歳。オフィーリアは一六〇歳。
「ふぁー……。もう遅いから、今日は帰るわね。おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
「ルーシア、また明日ね」
食事を終えて夜も更けた頃、欠伸をするルーシアが帰宅する時間となっていた。
当然ルーシアにも両親がいる。
しかし子爵の爵位を持つ家系の都合上、家族が揃う事はごく稀だ。
そんなルーシアと似た境遇のローレライ。どこか似ているところが、二人の通じ合う要因の一つかもしれない。
「それじゃあ、そろそろ私達も休むとしましょうか」
「うん。もう少しだけ、ルーシアとお話ししてくるね」
ローレライとオフィーリアも立ち上がり、父さんと母さんに寝る前の挨拶をする。
相変わらず、ローレライは深々とお辞儀をして。
「俺も眠いし、そろそろ寝るよ。おやすみ」
「おお、おやすみ!」
「ミストちゃん、おやすみなさい!」
俺は眠い瞼を擦り、短いようで長く感じる階段を上がる。
部屋にたどり着き、その扉を開くと……。
「……すぅ……すぅ……」
洋服を脱ぎ散らかしたオフィーリアは、下着姿のままベッドで眠っていた。
「それでね! クラスの子がさ……」
「フフフ。そうなんだ。面白い子が、いるんだね」
ローレライもまた、窓から隣の家のルーシアと談笑していて。
「ここ、俺の部屋……」
まぁ、いいか。
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