王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

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第三章 王立学園━大魔剣闘技祭━

二話 邪竜の謀略

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 燦々と日の光を降り撒く朝の太陽。
 そんな一日の始まりを告げる朝日に、俺は起こされた。

 今朝は身体の調子がすこぶる良い。
 それはなぜか。あの小竜が寝床に潜り込んでいないからだ。
 あの下着姿で誘惑してくる、小柄なくせに発育の良い淫竜が。

「っていうか、今日もずいぶんと眩しいな。カーテンの色でも変えるべきか」

 寝起きの身体を少しずつ動かして、ゆっくりベッドから起き上がった。

 今日は実に静かな朝だ。
 ここ数日、ルーシアは自分の家で家族と朝食を済ませているから、父さんとルーシアの会話も聞こえてこない。
 学校へ行く時もアルヘム村の入口で待ち合わせているのだから、朝はうちに寄らなくなったし。

「よし、行くか」

 だらだらと制服に着替えた俺は、一階へと降りた。
 料理に火を通す音。食器を並べる音。いつもと同じ心地のよい音を聞きながら。

 しかしリビングに着いた俺の視界には、いつもとは違う光景が広がっていた。
 それは誰もいない殺風景なリビング。
 それとキッチンにいる父さんと母さんの二人だけ。

「ミストちゃん、おはよう!」

「おはよう、ミスト!」

「あぁ、おはよう。ローレライとオフィーリアは?」

「うふふっ。オフィーリアちゃんはね、なんと仕事が決まったそうよ! だから朝早くからローラちゃんと出かけて行ったの!」

「へえ、そうなのか」

 あたかも興味なさそうに、そう言葉を返す。
 仕事が決まったのなら、俺にも教えてくれたって良いだろうに。……あの駄竜め。

 だがローレライまで同行しているとは、一体どんな仕事なのだろうか。
 少しばかり気にはなったが、まぁ、俺には関係ないか。

「「「 いただきまーす! 」」」

 三人で食事なんて、いつぶりだろうか。
 そんな事を思いながら食事を終えた俺は、ルーシアとの待ち合わせ場所へ急いだ。

「やべっ、今日も待たせちゃったか」

 村の入口には、すでにルーシアとサクラが待っていた。
 サクラとは、いつもハーシェルじいさんに借りている馬の名前だ。
 特徴は薄茶色の毛並み。ギリアスの街から帰って来た後、ハーシェルじいさんに名前を訊いたんだが、もう一頭が黒い毛並みのアンズ。
 しかし、なぜか今日はアンズがいない。

「ミスト、おはよう」

 陽光に負けないくらいの眩しい笑顔で手を振るルーシア。
 眠気が覚めきっていない俺には、眩しくてつい手で覆ってしまうほどだ。

「あれ、アンズはどうした?」

「今日はサクラだけよ。たまにはミストの後ろに乗ろうかなって。ローレライはオフィーリアさんと出かけてるんでしょ?」

「そうみたいだな。俺もついさっき知った」

「えっ? そうなの? 私は二、三日前に聴いたわよ」

 それほど意外だったのか、ルーシアは俺が二人の予定を知らなかった事に大層驚く。
 どうやら奴等は、俺だけを除け者にしていたらしい。

「じゃあ、行くか」

「うん!」

 サクラに跨がると、続けて後ろに乗ろうとするルーシア。
 そっと手を貸し、ぐっと引き上げてやった。

 ━ドリアス・王立学園━

 一時間ほど走り続けると、ドリアスの街に到着した。
 ここから王立学園までは、更に街の中を突き進むから少し面倒だ。

「みんな、おはよう!」

 元気に挨拶するルーシアと共に教室に入ると、クラスの仲間達は口々に噂話をしていた。

『おい、聴いたか? 頭領、しばらく学校休むらしいぞ』

『とうとうクビか。俺、結構好きだったんだけどな』

 様々な内容の噂が飛び交う中、二人の女子生徒が駆け寄ってくる。

『ねぇねぇ、二人はもう知ってる? 頭領、辞めるかもって』

 早速俺達にも噂話を持ちかけてきたのは、女子生徒のトモリ。
 最近ルーシアと仲良くなった剣術科アサルトの生徒だ。

『私が聴いたのはね。転入生が来るって噂だよ』

 もう一人の真面目そうな子はユリネ。
 魔術科ウィザードの生徒で、こいつは特にルーシアと仲が良い。
 淡泊な性格で、若干俺と似た性格の持ち主だ。
 まぁ、俺とは反対にクラスの男に人気があるらしいが。

「えっ! そうなの!? キジ先生、辞めちゃうのね……」

 残念そうに、少し俯くルーシア。

 その直後、教室には話題沸騰中の人物がのそのそと現れた。
 俺達に向けて一礼した後、身体を廊下の方へ向き直すその人物。
 口をもごもごと動かし、何かを囁く。

『失礼します』

 唐突に聞こえたのは、一人の女性の声だった。
 透き通った幼い声だが、妙に色気を感じさせる。

『えっ、あの女の子誰?』
『か、かわいいな。誰だ、あの子』
『あの子だよ! あの子が大図書室に通う謎の少女だ!』

 遅れて教室に入ってきたのは、一二歳くらいの容姿をした女の子だった。
 長い銀髪を後ろに結わえて、銀灰色の瞳をした……。

「ウフフフ。素敵な教室に、かわいい生徒さん達ですね」

 ……小竜だった。
 っていうかあの野郎。この事を俺にだけ内緒にしてたのか。
 今日の夕飯に下剤入れてやる。

 「うおっ!」

 その時、怪しげに微笑みながら小竜がこちらを見つめてきていた。
 その笑顔からは、まるで数多の獲物を狩り尽くした百獣の王の如く、おぞましい殺気を放っていて。
 余計な事は言うんじゃない。瞳でそう脅すようだった。

「みなさん、初めまして。今日からキジ先生に代わり、このクラスの担任を務めるオフィーリア・ドラグルです。これから宜しくお願いしますね」

『『『 うおっしゃぁーっ! 』』』

 男子生徒からは吠えるような歓声が上がる。
 女子生徒からもまた、鳴り止まない拍手で迎えられていた。
 そこまで喜んだら、逆に頭領がかわいそうな気もするけど。

 だが、その光景を隣で見ていた頭領は……。
 微動だにせず真顔。心境が全く読めなかった。

『オフィーリア先生! 歳はいくつですか?』

「あら、レディに年齢を訊くのはいけませんよ。将来、立派な紳士になってくれたら教えてあげますから、その時にまた会いに来て」

『先生はどこに住んでるんですかー?』

「最近こちらへ引っ越して来たんですが、今はアルヘム村に住んでいます。良かったら、みなさんも遊びに来てくださいね」

 あまりの豹変ぶりを見せたオフィーリアの表の仮面に、思わず絶句する俺。
 一体誰なんだ、この学園の淑女マドンナは。

「なぁ、ルーシア。知ってたか?」

 小声でルーシアに尋ねたが、無言で首を横に振られる。
 どうやら、ルーシアも心底驚いているようだ。

「……。」

 歓声の中、頭領がオフィーリアに何かを囁く。

「あら、そうでしたか。貴方がグローインの知人でしたのね」

「……。 」

「まぁ、キジ先生ったら。お上手ですね」

「……。 」

「わかりました。キジ先生が大切に育てたクラスの子達。責任を持ってお預かりします」

 呆けた顔で二人のやり取りを見ている全員。
 いやいやいや、全然会話が聞こえないわ。

 そしてオフィーリアとの対話を終えた頭領は、少しずつ足の向きを変え、一〇数秒の時を要して俺達へと振り返る。
 小さく微笑むと、頭領は再び何かを囁き出した。

「……。 」
「みなさん。少しの間でしたが、ありがとうございました」

「……。 」
「これから僕は、友人と共にドリアスで様々な鉄製品の鍛造をしたいと思っています」

「……。 」
「午後からはこれまで通り、造形科スミスで教鞭を執ります。みなさん、これからも将来の為に、自身や家族の為にがんばってください」

 見事な通訳をしてみせたオフィーリア。
 聴力が人間とは桁違いだ。

「はーい! それではみなさん。今日はもう一人、新しい仲間が増えますよ」

 頭領に代わり、オフィーリアが学級活動ホームルームの指揮を執る。
 パンパンと手を叩くと、廊下の方へ視線を向けた。

 まだ何かあるのか。
 そう思った俺は、思考が追い付かないまま、遠くを見た。

「さあ、入ってらっしゃい」

『は、はい。し、しし、失礼しまふ。あっ……噛んじゃった……』
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