王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

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第三章 王立学園━大魔剣闘技祭━

三話 王立学園の祭典

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 オフィーリアの就職先が俺達の担任だと発覚した矢先、もう一人の転入生が身体の三割ほど姿を現していた。

『ど、どうしよう……。やり直したい……』

 透きとおった柔らかい声が、廊下から聞こえてくる。
 やっと身体の半分だけ入ってこられたのは、この学園の制服を着た女の子だった。
 出だしから台詞を噛んでしまったその子は、茹で蛸のように顔を真っ赤にしている。
 そのせいで、もう半身を教室に踏み込めないようだ。

「勇気を出して? 夢が叶ったんでしょ?」

『は、はい……。失礼……しましゅ……』

 やっぱりまだ噛んだままだった。
 だが、みんなの反応はそんな事を意にも介さぬ反応だった。
 現れたその子は、腰まで届く綺麗な薄茶色の髪をふわりと靡せ、恐る恐る教壇まで歩き出す。
 ブルーダイヤのように煌めく潤んだ蒼い瞳。制服越しからでもわかるその美貌。
 当然ながら、俺とルーシアは誰だかすでにわかっている。
 っていうか、声を聴いた瞬間に気づいていたが。

 その女の子は俺達の方に振り返るが、両手を胸の間に添えて、すぐに俯いてしまう。
 相当なあがり性なのだから、いつまでも顔を上げられないらしい。

「さあ、みんなに自己紹介をしてあげて」

「あ、あの……ローラ・アディールです。みなさん、よろしく……お願いします」

『『『 ……。』』』

 凍りついたように硬直する教室。その瞬間。

『『『 ぬぅおぉーっ!! 』』』

 とてつもない奇声が迸る教室。
 大気を激震させ、全魔力を解放する男達。
 そんな彼等はあまりの興奮で床に跪き、神に祈る。
 これは夢ではないかと、互いを殴り合う狂人まで顕現させていた。
 終いには、ローレライの前には握手待ちをする長蛇の列が。
 端から見れば、さぞ異様な光景に違いない。

「なぁ、ルーシア……」

「ん? なにかしら」

「あれ、ローレライだよな……」

「やっぱり、そう見えるわよね。立場上、偽名を使ってるけど」

 頭が現実に追いつかず、席に着いたまま固まる俺とルーシア。
 その頃のローレライはといえば、どうしたらいいのかわからず、流されるがまま握手に応じていた。
 まぁ、潤んだ瞳で俺達を見つめてきているけど。
 助けてくれ。そう言いたいのだろう。

「なぁ、俺達も行くか?」

「その方が良さそうね。何となくだけど、私のローレライを取られてるみたいで……気に入らないわ!」

 俺とルーシアは目を合わせて頷くと、机を飛び越して教壇へと走り出した。

「ローラ! もう! 学校に来るなら教えてよー!」

「ルーシア! ごめんね。オフィーリア先生に二人を驚かせよう、って言われてたの」

「またかよ。今度は俺達がやり返してやるからな。お前等覚悟しとけよ」

「ウフフフ。お馬鹿なミストさんにできるかしら」

「あぁ? なめんなよ、小竜」

「……えいっ!」

「痛ってぇ! 学校に来てまで、目潰しするのはやめろ!」

「小竜とか、余計な事を言うからですよ」

 こうして俺達は、どこにいても三人でいられるようになった。
 いや、オフィーリアも入れて四人か。
 平穏な学園生活は、やっぱり無理そうだ。
 まぁ、これはこれで面白そうだから、別にいいけど。

 ━昼休み・噴水広場━

 俺達は今、学園内の噴水広場に集まっていた。
 広場にあるベンチに座り、俺とルーシア、ローレライ、オフィーリアの四人で昼食をとる予定だ。

「おーい、買ってきたぞー」

 今日のお昼は購買部の惣菜パン。それとドリアスの名産フローラルハーブティー。
 当然買ってきたのは俺。昼休みになった瞬間に舎弟にされた訳だ。

「ありがとう、ミスト」

「ごめんねー。ありがと!」

「ご苦労さま。助かるわ」

 みんなにパンを渡し終え、俺もベンチに座る。

「……あら、どうやらこの学園にも良い子と悪い子がいるみたいですね」

 パンを片手に騒ぐ中、意味深な事を言うオフィーリア。
 ふと辺りを見渡すと、いつの間にか周囲には人だかりができていた。
 だが、注目されているのは俺ではない。他の三人だ。

 どうやらこの三人は学園で偉く人気が高いみたいだが、外見だけで言えば納得できる。
 でも、中身がなぁ……。

『イッチ、ターナー、見てみろ。あの時の野郎だ』

『相変わらず女をはべらしやがって。調子こいてんな』

『ぜってえ許さねえ。帰りにやっちまおうぜ』

 なるほど。オフィーリアが言っているのは、あの三人組の事か。
 入学式の日、俺とルーシアに絡んできた奴等だ。
 まぁ、何か仕掛けてきたら、存分にお仕置きしてやるけど。

「なぁ、ローレライは専攻とか決まってるのか?」

 話題を切り替え、周囲の存在をかき消す俺。

「うん。私は補助系の魔法と、弓が得意だから、技術科レンジャーにしたよ」

「言われてみればそうか。オフィーリアと闘った時も補助魔法を使ってたもんな」

「オフィーリアさんは何の講師をやるんですか?」

「私は魔術科ウィザードを教える事になっています。ルーシアさんと一緒よ」

「それじゃあ、ずっとオフィーリアさんと一緒なのね! やった!」

「ウフフフ。私の方こそ、学園の事を色々教えてね」

 入学した初めの頃、ルーシアは商業科ディーラーを選んでいた。
 しかしギリアスで自分の未熟さを痛感したらしく、両親との話し合いの末に魔術科ウィザードへと変更させてもらったそうだ。

「って事は、午後からは一旦解散か。ローレライは一人で平気か?」

「うん、平気だよ。ありがとう」

 口ではそう言うが、明らかに紅茶を持つ手が震えている。

 カラーン! カラーン! カラーン!

 その時、午後の受業の開始を告げる鐘が校内に鳴り響いた。

 王立学園の一日は、午前中に普通の学業を学ぶ。
 昼休みを挟んでから午後になると、それぞれの専攻に別れて各学年毎に学ぶ事になっている。
 軽い気持ちで入学してしまったが、王国一の学校なだけあるな。

 ━王立学園・第一格技棟━

 俺は剣術科アサルトの生徒が集まる訓練場、格技棟で模擬戦をしていた。
 対戦相手は他クラスの男子生徒。身の丈ほどの大剣バスタードソードを豪快に振り回してくる豪傑だ。

『くらえぇーっ!』

「うおぉー。やるな」

 開始早々、怒濤の剣撃が襲いかかる。
 大剣を駆る生徒の猛攻に、驚き沸き立つ生徒達。
 恐らくはクラス内でも一、二位を争う手練れなのだろう。

 だが、俺にとっては遅い。
 一応空気を読んで片手剣ルーンソードで捌くが、実際は簡単に躱せる。

 王立学園に入学して気づいたが、俺とルーシアは他者と比べて桁違いに強いのだと知った。
 今まで競う相手がお互いしかいなかったのだから、気づくはずもないか。

『おい、お前! 防戦一方とは情けないぞ!』

「……あぁ?」

 意図も簡単に挑発に乗った俺は、右腕に闘気を募らせ、集中する。
 ルーンソードを握り絞め、蒼白の闘気を纏わせた。

「その剣、高いのか?」

『はっ、こんな時に世間話とは……。余裕ぶるなぁ!』

 ガシィッ!!

『な、なにぃっっ!?』

 勢いよく振り下ろされた大剣を、左手で軽々と掴む。
 そんな芸当を見た事が無いのか、思わず仰天してしまう大剣の生徒。
 まぁ、真剣の刃を掴まれた経験がある奴なんて、まずいないか。

「悪いな。新しい剣、買ってこい!」

 そう言って、闘気を纏ったルーンソードをバスタードソードの腹へと振り上げた。
 バスタードソードは無惨にも叩き割られ、ダガー並みの短さへと変わり果ててしまう。

『そこまで! 試合終了!』

『参った。お前すごいな』

「何言ってんだ。あんな大剣を振り回せるあんたも、十分すごいよ」

 剣を鞘に納め、一礼する。
 自然と俺達は近づき、握手を交わした。

『がーふぁっふぁっふぁ! いいぞぉ、お前ら! 剣を交え心も交える! これぞ剣士だ!』

 豪快な笑い方をするこの人は、剣術科アサルトの講師スタイナー先生だ。
 筋骨隆々で人当たりも良すぎるから、不良生徒ですら先生の前では大人しくなってしまう。
 こういう人って、どうにも逆らいづらい。

『それではみなさん、こちらに集まりなさい』

 そしてもう一人の剣術科アサルト講師、カイン先生が生徒達を召集した。
 白い長髪をかき上げ、無駄のない細身な体躯のエルフ族。
 性格もスタイナー先生とは真逆の存在で、冷静沈着な無表情な人だ。
 指導風景も丁寧だから、これまた逆らいづらい。

 そして俺達は、カイン先生の元に集まり始めた。
 だらだら歩く生徒もいれば、小走りする生徒もいる。
 この時点で騎士志望と冒険者志望の違いが歴然としてわかるが、俺は当然、だらだらしている側。

「さて、すでに聞き及んでいる者もいるかもしれないが、来週から王立学園の祭典が催される。その名も〈大魔剣闘技祭〉。知る者はいるか?」

 ちらほらと手が上がり、囁くように噂する生徒達。

「よろしい、では説明しよう。君達一年生にとっては、初めての王立学園の祭典だからな」

 踵を返し、黒板の前に立つカイン先生。すらすらと滑るようにチョークを走らせ、文字を書いていく。

「来週から始まる予選大会では、剣術科アサルト魔術科ウィザード技術科レンジャーに所属する生徒達が武を競い合う。全生徒に出場権があるから、希望者は今週中に名乗り出なさい。わかったかな?」

 説明を聞いてざわめく生徒達。
 俺はその時、とてつもなく嫌な予感が脳裏をよぎっていた。

 これは、確実に一波乱起こる前触れだ。
 よし、見て見ぬ振りをしよう。もちろんその大会は……。
 不参加だ。
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