王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

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第三章 王立学園━大魔剣闘技祭━

四話 初めてがいっぱい! ローレライの学園生活

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 私は、かねてより夢だった王立グランフィリア学園へ入学できていた。
 と言っても、ミストとルーシアに出逢ってからの夢なんだけど。

 国内でも有数の進学校だと聞いていたけれど、なぜかその日に合格してしまった。
 初めての学園生活はどれも新鮮で、楽しいと感じる。
 何より、家の外でもみんなと一緒にいられる時間が増えて、とても嬉しい。

 ━王立学園・第三格技棟━

『よし! 今日の講義はここまでだ!』

 腕を組む男性教師が終了の号令をすると、各々が武器を納める。
 みんなと別れて講義を受けていた私の専攻は技術科レンジャー
 今日の主な内容は、実戦と様々な毒の特性を学んだ。でも、私にはあまり関係ないかな。

『説明は以上だ。大魔剣闘技祭の参加締めきりは今週末までだ。何、死ぬ訳じゃない。経験を積む為にも、ぜひ参加してみてくれ。では、続きはまた明日だ。解散!』

 講義の後、近日に開催される大魔剣闘技祭の概要を案内してもらった私達。
 ちなみに今日の技術科レンジャー講師を務めてくれたのはブラッドマン先生。
 一見怖そうな人だったけど、一人ずつ親身になって教えてくれる面倒見の良い人。

「すまんが、この中にCクラスの生徒はいるか? 」

 そう言いながら、生徒を見回すブラッドマン先生。
 大きな荷箱を、片手で軽々と持ちながら。

「……確か君は、今日からCクラスに転入した生徒だったな」

「えっ、あっ……ひゃ、ひゃい!」

 突然先生に声をかけられた私は、思わず変な声で返事をしてしまった。
 同時に聞こえてくるのは、クスクスと笑う声。
 ……またやってしまった。

「ははは。大した用ではないのだが、この書類をオフィーリア先生に届けてもらえないだろうか。私はこの後も二年生の講師をしなければならないのでな。重くはないはずだ。頼めるか?」

「は、はい、私で、良ければ」

「うむ、いい返事だ。では頼んだぞ」

 そして私は、書類の詰まった大きな箱を持ちながら、小走りで教室へ向かった。
 どうして私は急いでいるのか。それはミストとルーシアと待ち合わせをしているから。

「えっと……教室は。確か、この奥の……」

 ドンッ!

 前方の視界が悪い中、突然何かにぶつかった私。
 落とした箱からは、書類の山が散乱してしまう。

『痛ってぇな! 誰だ、この俺にぶつかった野郎は!』

「ご、ごめんなさい」

 肩を押さえながら怒鳴る男子生徒に、思わず萎縮して謝る。
 私がまだ、校内の構造を覚えていなかったせいだ。
 教室を探す事ばかり気にして、つい余所見をしてしまったから。

「私の不注意で、ご迷惑をおかけしました。お怪我は、ありませんか?」

 深く頭を下げ、激昂した男子生徒に謝る。
 もし怪我をしてしまったのなら、急いで保健室まで連れていかないと。

『あるに決まってんだろ。お前のせいで肩を脱臼しちまったんだから、ちゃんと俺んちまで付き添えよ』

「えっ。……そ、それは……ちょっと」

 こういう時、どうしたらいいのかわからない。
 でも、悪いのは私だから付き添うべきなのかな。

『おい、コーエン。どうかしたのか?』

『あれぇ? この子って、Cクラスに転入したかわいい子じゃん!』

 そこへ、二人の生徒も加わってきてしまった。この反応を見る限り、きっとこの三人は仲間同士だ。

『こいつに思いっきりぶつかられてさぁ。肩痛めちゃったから、俺んちまで送ってもらうとこなんだよ。ついでに、色々癒してもらおうと思ってな!』

 卑しく嗤う三人の生徒達は、舐め回すように私を見てくる。
 自然と悪寒が走り、後ずさる私。

「えっと、あの、それは……できません」

 スカートの裾を握りしめ、精一杯の勇気を出した。
 でも、当然迫力なんてある訳がない。
 こんな時、ミストならどうするのかな。

『おい! できねえって言うんなら、お前はどう責任とんだよ!』

 大声で怒鳴り付け、私を威嚇する。
 にじり寄り、顔を近づけてくる三人組。
 いつの間にか退路を塞がれた私は、壁に追いやられてしまう。

 明らかに手慣れた手口だ。
 人の弱味に付け込んで、法外な対価を要求するだなんて。
 それでもこの人達は、れっきとした悪人ではない。
 だから、どうにか穏便に済まさないと。

「ローラ、こんなとこで何やってんだ」

 その時、階段の上から聞こえたのは、私の知る声だった。
 ゆっくりと階段を降りる音が近くなり、私の前に立つその生徒。
 それは……。

「……ミスト」

 助けに来てくれたのは、やっぱりミストだった。

「まだこんなとこにいたのか? 迷子になってないか探しに来たんだが、どうやら正解だったみたいだな。ほら、早く帰るぞ」

 そう言いながら、その場に屈むミスト。
 辺りに散乱していた書類を集め、箱に入れ直す。
 とっても雑にだけど。
 うん。ぐちゃぐちゃだね。

『おい、てめえ! かっこつけてんじゃねえぞコラァ!』

『なあ、コーエン。どうする? こいつやっちゃう?』

 背中越しからそんな事を言われながらも、全く聞く耳を持たないミスト。
 書類の詰まった箱を持ち上げ、三人に振り返った。

「あれ? よく見たらお前ら、お漏らしマンとめり込みコンビじゃないか。久しぶり」

『て、てめえ!』

 三人の男子生徒はあたふたと慌て始め、誰かに聞かれていないか見渡す。
 誰もいない事に安心して我に返ったのか、短剣を抜いた。

「やめとけ。生徒同士で剣を交えたら謹慎……最悪退学だぞ。俺はそんなの御免だからな」

『はあ? 何だこいつ。ビビってんのがバレたくねえから、言い訳してんじゃねーの!? だっせぇ!』

「あぁ? そんなわけねえだろ。いちいち突っかかるなよ」

 ミストのあの顔、完全に怒ってるね。
 でも、ちゃんと我慢して話をつけようとしてるんだ。
 私のせいなのに、嫌な思いをさせてしまってごめんね。
 私に、もっと勇気があれば……。

「わかった。そんなに俺とやり合いたいなら相手になってやるよ。大魔剣闘技祭でな」

『おもしれぇ。全校生徒の前でてめえをボコボコにしてやるよ。もしお前が負けたら、この女を一日俺達のもんにするからな』

 勝手に話を決めてしまった三人は剣を納め、その場から立ち去っていった。
 すれ違いざま、私の姿をじっくりと凝視しながら。

「ローラ、帰ろう。階段とか危ないから、荷物は俺が持ってやるよ」

「うん。ありがとう」

 そしてミストに箱を持ってもらい、再び教室へ向かった。
 ……あれ? そもそも階が違ったんだね。

 教室に入ると、やっぱりルーシアも待ってくれていた。
 よほど退屈だったみたいで窓枠に座りながら、足をパタパタしていて。
 スカートの中、丸見えだよ。

「待たせたな。迷子を見つけてきたぞ」

「ルーシア、遅くなってごめんね」

「よし! それじゃ、お菓子屋さんに行きましょうか」

「行かねえよ帰るんだよ」

 嫌がるミストを説得した私達は、寄り道をしてからアルヘム村へ帰った。

 王立学園に行く時は飛竜の姿になったオフィーリアの背に乗って来たから、帰りは徒歩なんだけど。
 そんな私に合わせてくれたミストとルーシアも、サクラを引きながら一緒に付き合ってくれた。

 ━アルヘム村・ミストの家━

「ただいま。あら、パパはまだお仕事なんですね」

 夕食が食卓を彩った頃、ようやくオフィーリアもドリアスから帰ってきていた。
 きっと飛竜になって飛んできたのだろうから、帰る時間はものの数分なんだろうけど。

「じゃーん! パパも帰ってきたぞぉ!」

 いつも通り元気なヴァンさんも仕事を終え、全員が食卓に揃うと、早速みんなで夕食を戴く事に。
 やっぱりマリーさんの料理は美味しい。

「ふぁー……もう限界だわ。先に寝かせてもらうわね」

 食後すぐにお風呂に入ったオフィーリアは、早々に眠りに行った。
 今日が初出勤だったから、とても疲れていたんだね。

「あー、食い過ぎたわ」

「フフフ。ミストのお腹、丸くなったね」

 ソファで仰向けになるミストのお腹は、本当にふっくらとしていて、なんだかかわいく思えてしまった。

「ねえ、二人は来週の大魔剣闘技祭には出るの?」

 いきなり話を切り替えるルーシアは、瞳を輝かせて返事を急かす。
 たぶん、この話をずっとしたかったんだと思う。
 きっと私とミストが先に話題に出さないか、様子を見ていたんだ。

「あぁ、暇潰しに出るぞー」

「えっ? そうなの? ミストが出るなんて意外。興味無さそうなのに」

 ソファに深く座っていたルーシアは、予想外の返事に勢いよく起き上がった。
 身を乗り出し、ミストを疑心の眼で見つめる。

「ミスト、他のクラスの子と、約束しちゃったんだよ。私を庇って……」

 そして私は少し俯きながら、今日の出来事をルーシアに話した。

「……そう。そんな事があったの。入学式の時の、あの三人か」

「なぁ、俺が大会に出るのは自分で決めた事なんだ。だから責任感じるなよ」

「うん、ありがとう」

「でも、あのミストがぶっ飛ばさなかったのは偉いわね。少しは成長したって事かしら」

「入学式の時にルーシアと約束しただろ? 喧嘩はしないって。っていうか、退学はごめんだからなー」

「えっと、そう。あの時の約束、覚えていてくれてたの」

 ほんのりと顔を赤らめ、照れたように微笑むルーシア。

 二人とも、いつの間にそんな約束を。
 ……そっか。ルーシアの為、だったんだ。
 どうしてかな。なんだか、胸の辺りが少し痛い。

「決めた! 私も大魔剣闘技祭に出るわ! 入学式の時、あの三人にアルヘム村を馬鹿にされたからね!」

「それは良いな。まぁ、初戦でルーシアと当たらない事を祈るよ。最上級魔法なんか撃たれたら、さすがにやばいからな」

「撃つ前に斬られるでしょ、私」

 楽しそうな二人のやり取りが、なぜだか今は、羨ましく感じる。
 いつもなら、笑って眺めているはずなのに。

「私も……出る……」

「「 えっ? 」」

 聞き間違いか? そう言いたげな顔をして、私を注視する二人。

「私も出る! 私だって、試合ならあの三人なんて怖くないんだから!」

 声を張り上げ、精一杯の決意を二人に見せる。

「いいねー。決まりだな」

「そうね! 誰が一番あいつらにお仕置きできるか、三人で勝負よ!」

 そして、気合いを込めた拳を掲げるルーシア。
 私とミストもまた、天井に向けて高く掲げた。

 勢いで参加するなんて言ってしまったけれど……。
 でも、こんなに楽しそうな二人と一緒なら、きっと私も、楽しいよね。
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