王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

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第三章 王立学園━大魔剣闘技祭━

五話 予選開始! 暴虐のルーシア

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 今日から始まる王立学園の式典、その名は大魔剣闘技祭。
 俺が入学してから最初の全校行事なんだが、そう考えてしまうと不思議と気分が高揚してくる。

「うわぁ、ごっつい先輩ばかりね。勝てるかしら」

 そんな俺とは裏腹に、気合いの入った上級生達にしり込みするルーシア。
 何せ、王国有数の進学校の上級生が相手だ。並の兵士や冒険者よりも腕が立つ者ばかりなのだから。

「私、舐めてたかも」

「あぁ、俺もだ。あんなにむさ苦しい男共とやり合っても、サービスカットは期待できないだろうし」

「は?」

「あっ、今の無し」

 俺からしてみれば、余裕でルーシアの方が威圧感があるのだが。

 今年の予選参加者は一年生から三年生の合計六四人。
 予選はAからHブロックに別れてのトーナメント戦だ。そこで三回戦を勝ち抜いた八名が本戦にいけるという話だが。

 予選会場は本校舎裏にある広大な校庭。
 そこに幾つもの仮設リングが建てられているんだが、造形科スミスの生徒が僅か二日で建設してくれたそうだ。

『これより。大魔剣闘技祭。予選試合を始めます。参加者は。電光板の前まで。集合してください』

 音響魔法で響かせた運営の案内が聞こえると、誰もが耳を澄ませて聞き入る。

「対戦者が発表されるみたいよ! 早く行きましょう!」

「まぁ、ルーシアとローラ以外なら楽勝だろ。だよな、ローラ」

「……。」

 祈るように手を合わせたまま、電光板を見つめるローラ。
 集中しすぎて、まるで俺の声が届いていない。
 完全に固まっているけど、試合までに動けるといいが。

『それでは。予選トーナメント。対戦者を発表します。電光板を確認し。指定のリングにて。待機してください』

「俺はDブロックだな」

「私はAブロックだけど、一回戦の相手はあの三人組の一人みたいね。まっ、楽勝だわ」

「私はHブロック。みんなバラバラで、良かった」

 そんな俺達を背後から見ていた例の三人組は、変わらずに下卑た笑いをしていた。
 奴等もまた、俺との約束を果たす為に参加したようだ。

『ターナー、やったじゃねえか! 俺も女の子と戦いてえよ!』

『あのルーシアって奴、ちょっとかわいいからっていい気になってんぜ。気に食わねえから、みんなの前で制服でも破ってやれよ!』

「それいいねえ! ついでに、身体もお触りしちゃうか!」

『『『 ギャーッハハハ! 』』』

 あまりにも酷い笑い声と発想を宣言する三人組。
 それはもう、周りの生徒達さえ引くほどに。

 幸いにも、今回は正当な試合だ。
 奴等と当たれば、気兼ねなく八つ裂きにできる。
 なんなら、制服も引きちぎってやろう。パンツさえ残さずな。

 そして互いに健闘を祈った俺達は、手の甲をこつんと重ね、それぞれのリングへと向かった。

『それでは、Dブロック一回戦第一試合。一年Cクラス、ミスト・アニエル対二年Bクラス、ジダン・セノール……始め!』

『悪いな、一年生。俺は手加げ……』

「ブレードスラッシュ!」

 試合開始と同時に、俺は片手剣ルーンソードを引き抜いた。
 抜剣の速度を乗せながら突進し、横一文字に薙ぎ払う。
 更に空中で身体を捻り、相手の脳天へと垂直に斬りつけた。

『まだ、言い終わってないのに。……ぐはっ!』

 白目を剥いて、その場に倒れ込む相手。

『試合終了! 勝者ミスト・アニエル!』

「悪いな先輩。ちょっと急いでんだ」

 即座に試合を終わらせた俺は、足早にAブロックの試合を見に行った。
 人混みを掻き分け、時には飛び越しながら。

「良かった。まだ試合のまっ最中か」

 たどり着いたリングの中では、ルーシアと三人組の一人、ターナーが戦っていた。
 なぜかルーシアは魔法を使わず、短剣ホークアイでターナーの剣を捌くのみ。
 おまけに試合中にも関わらず、辺りを見回しているが。

「……あっ! 来た来た! ミスト!」

 見に来ていた俺と目が合うと、ルーシアは小さく手を振ってくる余裕ぶりだ。
 という事は、わざと長引かせて俺とローレライが来るのを待っていたんだな。

「おい、お前! 他所見なんかしてんじゃねえ!」

「ふわぁーっ……。えっ? だって余裕なんだもん」

 退屈そうに両手を広げ、大きな欠伸をするルーシア。
 あの二人では地力が違いすぎる。
 いや、それ以前に相手のターナーが弱すぎるのか。

「てんめぇ。……いいぜ、とっておきの物を見せてやるよ!」

「本当にー? ありがとー」

 完全に見くびっているルーシアに苛立ち、ターナーは詠唱を始めた。

剣術科アサルトだってなぁ! 魔法を使える奴はいるんだよ! 俺みてえにな!」

「うんうん! それで? 何を見せてくれるのかしら」

「ビビって泣き喚くなよ。火の精霊サラマンダー、力を貸せ!  火炎魔法ファイア!」

「……。」

 魔力を解放したターナーの両手からは、五〇センチほどの大きな火球が放たれた。

「ギャハハハ! その制服を燃やしてやるぜ! うっかりお前ごと焼き尽くすかもな!」

「……。」

 ルーシアは避ける素振りもなく、その場でホークアイの切っ先を弾いて遊ぶ。
 その時、爆発音と共に火球が直撃した。
 着弾すると同時に、火の手がルーシアを包み込む。

「ギャーッハハハ! 燃えろぉ!」

「……こんな灯し火で私の服を燃やそうとしてたの? てっきりケーキの蝋燭に火を灯す魔法かと思ったわ」

 炎の中からは、ルーシアの声が聞こえてくる。
 それも至って冷静で、冷めきった声が。

「そんな灯火なんかじゃ、私の身体は……」

 突如、ルーシアの回りにすさまじい竜巻が吹き荒んだ。
 火の手が竜巻に飲まれ、たちまち塵のように消え去っていく。

「全っ然、燃えないわ!」

「な、なんだそりゃー!!」

 焦げ跡ひとつないルーシアの姿に、驚きのあまり尻餅を突くターナー。
 ガタガタと身を震わせ、まるで化物を見るように怯えた目をして。

「はぁ、はぁ……。お待たせ、ルーシアはまだ戦ってる?」

 その時、試合を終えたローレライが俺の元へと走り寄ってきていた。
 だが、俺は見逃さなかった。
 制服ごしからでも揺れる、二つのローレライ山脈を。

「……ミスト?」

「……あっ、あぁ、安心しろ。俺達が来るまで、ルーシアはわざと試合を長引かせてたんだよ」

「そうなの? 良かった」

 そんなやり取りをしていると、到着したローレライに気がついたルーシアが笑顔で手を振る。
 ローレライもまた、何度も小さく飛び跳ね、揺らし、手を振り返す。

「さあ、遊びは終わりよ。そろそろお仕置きしてあげるわ」

 魔力を右手に収束させ、肌が焼けるほどの熱気を放つルーシア。

「お……おい、なんだよ、その魔力は。冗談だろ?」

 腰が抜けたターナーは、立ち上がれずに後ずさる。
 今更力の差に気付いても、リング外に逃げようとしても、もう手遅れだ。

「火の精霊サラマンダー、力を貸せ」

「ちょ、ちょっと待て! わかった! もうこうさ……」

火炎魔法ファイア!」

「うぎゃぁぁぁーっ!!!」

 ターナーが放った火球とは比べものにならないほどの高熱を放ち、倍の大きさを誇る炎の塊がルーシアから撃ち出された。
 容赦なくターナーを捕らえ、派手に燃やす。
 降参という言葉さえ、焼き尽くすように。

「うーん。このまま焼け死んだらかわいそうだし、消火してあげるわ」

 額に指を当てて悩んだ末、ルーシアは無邪気に微笑む。

「水の精霊ウンディーネ、力を貸せ。降雨魔法スコール

「痛いっ! 痛いっ! すみません! 本当にごめんなさい!」

 大粒の雨の礫が勢いよくターナーに降り注ぎ、全身を打撲させていく。
 降雨により鎮火された跡には、パンツ一枚のターナーが倒れていた。
 その回りには、焼け焦げた制服の切れ端が。
 
『プッ……』
『クスクス……』
『おい、笑ったらかわいそうだろ。クスクス』

 いつの間にか、観客ギャラリーからは無数の笑いが溢れていた。

「どうかしら。君の言っていた制服を焼くって言うのはね、こうやるのよ」

「わかった! 本当にごめん! もうこうさ……」

「氷の精霊フェンリル、力を貸せ! 氷槍魔法フリーズランサー!」

「やめてぇーっ!!」

 再び魔力の杖を握るルーシアからは、巨大な氷の槍が撃ち出されていった。
 甲高い音と共に、ターナーの身体を氷塊に閉じ込める。

「はい、さようなら!」

 悪戯に嗤うルーシアは、目配せをしながら指を鳴らした。
 途端に氷塊が弾け飛び、ターナーが空へと吹き飛ばされていく。
 崩れた氷塊の中に、真っ白なパンツを残して。

『そこまで! 勝者! ルーシア・ミラ・ランドルフ!』

 盛大な拍手と歓声を贈られ、照れ臭そうに手を振るルーシア。
 余裕の勝利を手に入れ、俺達の元へと駆け寄ってくる。
 本来なら一撃で片付けられたものを。
 あんな喜劇を見せられてしまえば、俺まで対抗意識に火を点けられてしまう。

「ルーシア、お疲れ。見事な鬼畜ぶりだったぞ」

「お疲れさま、ルーシア。とても、残酷だったよ」

「ちょっと! 二人とも言いすぎじゃない!?」

 こうして俺達三人は、難なく一回戦突破を果たした。
 だが、大魔剣闘技祭はまだまだ始まったばかりだ。
 このまま平和に、なんて事は無いだろうな。
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