王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

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第三章 王立学園━大魔剣闘技祭━

六話 蕾の王女

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 ついに始まった大魔剣闘技祭の予選。
 その一回戦を勝ち抜いた私達は、少しの休憩を挟む事になっていた。
 各々が自由に休息をとり、身体を慣らして時間を潰す。
 もちろん私は、ミストとルーシアと一緒に。

「ねぇ、ルーシア。そんなに食べたら、お腹壊しちゃうよ?」

「だよな。試合中に漏らしたらどうすんだよ」

「うーん……漏らす前に棄権するわね」

 この僅かな空き時間でさえも、ホットサンドを口に運び続けるルーシア。
 まぁ、漏らしてしまうくらいなら、敗けを認めるのが普通だよね。

『これより。予選二回戦を始めます』

 そして、とうとう予選二回戦が始まった。
 お互いの健闘を祈り、それぞれの対戦ブロックへと戻る私達。
 他のリングからは、すでに鉄と鉄が弾ける音や爆発音、沸き立つ歓声が上がっていた。

「他のブロックは、もう始まっているんだ。どうしよう、緊張してきた」

 私がいるHブロックもまた、二回戦第一試合が開始されている。

『そこまで! 勝者! ユリネ・ミーオ!』

 大きな拍手の中、勝利を得た女子生徒がリングから降りる。
 肩まで伸びた髪をさらりと手で払い、勝つ事がわかっていたかのように無表情のまま。

 そんな彼女からの視線を感じた私は、咄嗟に顔を上げた。
 明らかにその子は、私を見ている。
 それだけではない。真っ直ぐこちらへと向かって来て、何かを言いたそうだ。

「次はローラさんの出番だよね。同じCクラス同士、私も応援してるよ。がんばって」

「は、はい。がんばります」

 そうだったんだ。この子は、私と同じクラスだったんだね。
 思い起こしてみれば、確かにルーシアと話しているところを見た事がある。
 でも、もしここで私が勝ったら、次の相手は第一試合で勝ったこの子だ。

 そんな不安を抱えたまま、私は階段を上がった。
 リングの上で待つ、対戦者と戦う為に。

『よぉ! ローラちゃぁん!』

「あっ、あの時の……」

 私を待ち構えていたのは、偶然にも三人組の一人だった。
 両手をポケットに入れながら腰を低くして、威嚇するように歩く男子生徒。

『続いて、二回戦第二試合。一年Cクラス、ローラ・アディール対、一年Aクラス、イッチ・イレイサー。始め!』

 開始と同時に、私は腰に提げた細剣エストックを抜いた。
 即座に中段に構え、相手の出方を窺う。
 すかさずイッチも二本の短剣を取り出し、交差するように構えた。

「へへへ。お前等さあ、偶然俺達と当たったと思ってるだろ」

「違うんですか?」

「当たり前だろ? 親に頼んで、わざとぶつかるように仕組んでやったのさ! どうだ、すげえだろ!」

「……はい」

 返す言葉が思い浮かばず、それだけしか言えない私。
 きっと彼の親は、学園の保護者役員か何かなのだろうけど、本当にそんな事ができるのかな。
 もしかしたら、敢えてその話を受けた人がいるとか。

「お喋りは終わりだ! 行くぜ!」

 突然、イッチが駆け出してきた。
 一気に間合いを詰められ、すぐに身構える私。

「そらそらぁ! どうだ、俺のナイフ捌きが早すぎて動けねぇだろ!」

 イッチの短剣が、怒涛の勢いで縦横無尽に私へ襲いかかる。
 でも、その技術はあまりにも軽い。
 難なくエストックで叩き落とせるほどに。
 当然考え無しに振り回していた彼からは、徐々に疲労の色が見え隠れする。
 動きさえも、格段に鈍くなって。

「もう終わりですか?」

「はぁ、はぁ……。てめえ、良い気になんなよ!」

 ふと違和感を覚えた私は、すぐに間合いを取ろうと飛び退いた、その瞬間。
 私の視界には、不適に笑うイッチの顔が。
 懐から小さな革袋を取り出し、私の足元へ投げつけるイッチ。

「そんなもの、当たりません」

 ひらりと革袋を躱わし、再びエストックを構える。
 でも、避けられたにも関わらずイッチは笑っていた。

 その時、転がった革袋が弾け飛び、緑色の粉末を爆散させた。

「うぅっ……目が、見えない」

「ギャハハハ! ざまあねえな!」

 そう。これが彼の本当の狙いだ。
 粉末を浴びた私は眼球を針で刺されるような痛みに襲われ、涙が溢れ出す。
 視界がどんよりと歪み、相手の距離が掴めない。

 それでもイッチを近づかせない為にエストックを左右に薙ぎ払い、必死に牽制する。
 何度も空を斬る音が響くが、下卑た笑い声が不協和音へと変えていく。

「ギャハハハ! 残念だったな! 俺の得意技は投擲技なんだよ!」

 勝ち誇ったようにそう言うイッチは、腰に提げていた短剣を舐め回す。
 
「さあ、お前を的にしてやるぜ! まずはその、むちむちのエロい太ももからだ!」

 下劣な言葉と共に、両手の短剣を投げつけたイッチ。
 立て続けに腰から二本の短剣を抜き、更に投擲してくる。
 でも……。

 「……なっ! お前、何で見えてるんだよ。確実に毒粉食らってたじゃねえか!」

 しかし、投げられた全ての短剣は無惨にも床に転がり落ちていった。
 その前には、平然と歩く私の姿が。

 即座に長弓エルフィンボウに切り換えた私は、四本の短剣を全て撃ち落としていた。
 そう。今の私には、しっかりと見えている。彼の短剣も、その下劣な顔も。

「今から、貴方をお仕置きします」

「なんだと? 舐めんなーっ!」

 激昂したイッチはありったけの毒粉の革袋を投げつけ、更に何本もの短剣を放つ。
 私はすかさず飛び退き、毒粉の効果範囲から離れる。
 しかし、今度は粉塵で視界が遮られ、短剣の軌道が読めなくされていた。

「うぅっ! この短剣、さっきの毒と違う。身体が……動かない」

 寸前のところで短剣を撃ち落としていけれど、一本の短剣が右足を掠めてしまった。
 次第に全身の感覚が失われ、自由を奪われていく。

「ギャハハハハ! この短剣にはなぁ。トリカブトの麻痺毒が塗ってあるんだよ!」

 再び戦況を覆したイッチは、見せつけるように短剣を掲げる。

 初めてドリアスを訪れた日にも、似たような事があった。
 小細工ばかり仕掛けて勝った気になっていた、あのガストンさんの時と。
 そしてイッチもまた、戦闘経験の浅い温室育ち。
 本当の戦いなんて知らない。

「愛の精霊プルメリア、愛を咲かせよ」

 身体の周囲に魔力を纏い、意識を集中させる。

解麻痺魔法アンチパラライズ

 再び立ち上がった私は、スカートの汚れを払う。
 そして彼を睨みつけ、エルフィンボウを構えた。

「げ、解毒魔法だとぉ!? なんで技術科レンジャーのお前が、回復魔法を使えんだよ!」

「習ったからだよ。じゃあ、今度こそ私の番だね」

 淡々と返事を返し、エルフィンボウの弦を引く。
 右手に魔力を込め、想像のままに矢の形を描き出す。

「行くよ! 影縫かげぬい!」

 漆黒に染まる二本の矢を生み出し、同時に撃ち出した。

「な、なんだこの影は! う、動けねぇ」

 イッチの足元に突き刺さった矢の影は、這いずる蛇のように動き、足に纏わり付く。

「これで、もう逃げられないね」

 更にエルフィンボウを構え、力いっぱい弦を引く。
 特大の魔力を注ぎ、矢を光輝く鳥の姿へと変貌させた。

「やめ……やめて! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! ごめ……」

「私の方こそ、ごめんね。もう、止められないんだ」

「マ、マジ?」

「うん、まじ」

「や、やめてぇーっ!!」

「行くよ! 時雨燕しぐれつばめ!」

 光の矢を手放した瞬間、三メートルにも及ぶ光の鳥が優雅に羽ばたく。
 飛び立ったと同時に音速の速さで轟音を響かせ、イッチの腹部へと一直線に衝突した。影縫に縛られたイッチは吹き飛ぶ事さえ叶わず、光の鳥に抉られ続ける。

「ぎゃぁーっ! 助けてママー!! ぐほぉっ! げぼぉっ! じ、じじぬう! 」

 悲痛の叫びと共に、ついに外壁まで吹き飛んでいくイッチ。
 まるで狙ったかのように壁の中にめり込み、醜悪な絵画と化して。

「ど、どうしよう。校舎、壊しちゃった……」

 両手で口許を押さえ、愕然としてしまう私。
 変な汗が溢れ出し、主審の先生をチラリと見る。
 でも、その先生の顔はなぜか笑顔だった。
 
 そして、リングの上には……。
 影縫かげぬいで押さえつけられた、イッチのズボンだけが残っていた。
 心なしか、うっすらと湯気を立ち上らせて。

『そこまで! 勝者! ローラ・アディール!』

 とてつもない歓声と拍手を全身に浴びせられ、私は二度目の勝利を手にした。
 不思議と胸が高鳴り、心がざわめく。
 それは産まれて初めてだったからだ。
 こんなにも大勢の人に、賞賛されたのは。

「あ、ありがとうございます。す、すみません、通りまふ。あっ……通ります」
 
 でも、今の私は小さな蕾。
 王族としての責務も果たせず、役割もこなせていないのだから。
 いつかきっと、綺麗に咲く花のように、この国に住まう人々を笑顔に変えてみせる。
 私はもう、昔の私じゃないんだ。

「お疲れ。これで全員、二回戦突破だな」

「すごかったわよ、ローラ! 見てるこっちも、気分が良かったわ!」

 すでに試合を終わらせていたルーシアが、大喜びで私に抱き付いてくる。
 私も嬉しくなって、ぎゅっと抱きしめ返す。

「……なぁ、俺も抱きつくべき?」

「死ぬ?」

「ですよね……」

 ルーシアに全力で拒否されたミストは、少しだけ落ち込んでいた。

 そして全ブロックの二回戦が終わり、昼休みの鐘が鳴り響く。
 午後から再開する三回戦を突破すれば、いよいよ明日は本戦だ。

 私達の次の相手は、もう誰なのかわかっている。
 私は同じCクラスのユリネさん。
 ルーシアは剣術科アサルトの三年生、闘牛の獣人ミノタウロス族のエドワーズさん。

 そしてミストの対戦相手は……。
 やはりコーエンだった。
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