王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

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第三章 王立学園━大魔剣闘技祭━

七話 それぞれの最終予選

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 俺は、昼休みのうちにある用事・・・・を済ませていた。
 それはみんなの予選を見ていて、気になる事があったからだ。

『これより。三回戦。予選最終試合を。開始します。選手の生徒は。所定の対戦ブロックに。集合してください』

 午後になり、ついに各ブロックの予選最終試合が始まった。

 リングに上がった俺は、対戦相手を冷徹な瞳で見下す。
 だが、その相手は目線を落とし、明らかに戦意を喪失して怯えているが……。
 まぁ、それも当然か。瞬殺で終わらせてきた俺の試合を目の当たりにしてきたのだから。
 ろくに専攻の講義も受けずに街で好き放題していれば、俺達の強さをまるで知らなかったのも頷ける。

『Dブロック三回戦最終試合、一年Cクラス、ミスト・アニエル対、一年Aクラス、コーエン・ベイリュード。始め!』

 そう。俺の対戦相手とは三人組の一人、コーエンだ。
 何かと俺達に突っかかり、常日頃から他生徒にも不快な思いをさせる嫌われ者。

「おい、そこのコーエン銀髪。腰が引けてるぞ。早く剣を取れよ」

 敢えて名前で呼ばず、見下すようにそう言う俺。剣も抜かずに、その場で腕を組みながら。

 コーエンはおずおずと片手剣を抜き、俺へ差し向けるように構えた。
 そうさせたのは、奴に残された僅かな自尊心プライドか。

「ククク。……この試合、お前達が仕組んだんだろ? 願いが叶ったんだから、もっと嬉しそうな顔しろよ」

「は、はあ? なんの話だ! 俺は知らねえよ!」

「この期に及んでとぼけるなよ。自ら処刑の場を設けるとは、実に滑稽だな」

「くっ、くっそぉーっ! やってやるあぁーっ!」

 大口を開けて叫ぶコーエン。
 なりふり構わず、がむしゃらに斬りかかる。
 今の奴の心境は、誰が見ても明白だ。
 自暴自棄。やけくそ。

「はぁ……興ざめだ」

 溜め息を吐きながらコーエンの斬撃をさらりと躱し、足払いをかけてやる。
 豪快に大の字を描いて転んだコーエンは、思わず剣を手放してしまった。
 そのまま勢いよく顔面を強打して、惨めにも鼻から血を垂らす。

「お前、そんなに弱いくせに、どうして三回戦ここまで勝ち上がれたんだ?」

「う、うるせぇ! 実力に決まってんだろ! い、今から証拠を見せてやる!」

 今更どれだけ威勢を張ろうが、もはや手遅れだ。あんな無様な姿を見せてしまっては、誰も信じはしない。

「なら質問を変えよう。親のコネを使って対戦表に細工した後、お前の対戦相手だった先輩方にいくら払ったんだ?」

「なんで……それを……」

 図星をつかれたコーエンは、動揺のあまり滝のように冷や汗を流す。
 不自然なほど核心をついた質問をされては、冷静になんてなれないのだろう。

「昼休みにお前のお友達に会ってきたんだよ。本の少し脅しただけで、すんなり吐いてくれたぜ。包み隠さず、全部な」

「くっ! あいつ等……」

 「お前は賄賂でここまで勝ち進み、俺には名の知れた先輩をぶつけて負けさせる。それで俺に勝った事にしようとしてたみたいだが、読みが外れたな」

「……わ、わかったよ。お前の勝ちだ」

 これ以上の醜態を晒したくないのか、すんなりと降参するコーエン。

「まぁ待てよ。お仕置きも無しに、このまま逃がす訳ないだろ?」

 殺気を放ちながら、コーエンを呼び止める俺。
 当然、この程度で俺が許すはずがない。

 その声に恐怖で背筋を凍らせたコーエンは、ブリキの玩具のようにぎこちなく振り返る。

「お楽しみは、これからなんだからな」

 そして俺は、腰に提げた片手剣ルーンソードをゆっくりと抜いた。
 怯えるコーエンに、見せつけるように。
 処刑の執行を、報せる為に。

「ひ、ひぃーっ!だ、誰か! 誰か助けてぇ! 先生! 助けてください! 俺の負けでいいから!」

 審判のカイン先生は小さく溜め息を吐き、冷めた目でコーエンを見る。

「ならば全力でリングの外へ逃げなさい。騎士にも冒険者にも、ろくに闘わずして降参・・などと言う文字はありません」

「……う、うわぁーっ!」

 またしても豪快に失禁したコーエンは、脇目もふらずに駆け出した。
 かろうじて繋ぎ止めていた誇りプライドという理性は、無惨にも断ち切れてしまって。

「たたたた、助けてぇーっ!!」

 足元の剣には目もくれず、一目散にリング外へと走り出すコーエン。
 走っては転び、起きては転ぶ。

「逃げ惑うだけの野うさぎを狩るのは、あまり趣味じゃないんだが。まぁ、お前にはルーシアとローラの借りがあるからな」

 全力疾走のコーエンが場外まであと一歩となった瞬間、奴は安堵の表情になった。
 大きく両手を広げながら、歓喜に満ちた笑顔でリングから飛び出す。

「おれぇ、棄権しまぁ……」

「くたばれくそ野郎、ライジングストライク!」

 コーエンが飛び出したと同時に、刺突したルーンソードから闘気の閃光を撃ち出した。

「……ぁあぎゃーっ!!」

 蒼白色の閃光が空中でコーエンの背中に食らい付き、コーエンごと本校舎の壁を貫いていった。
 立ち込めた粉塵が鎮まると、本校舎の壁には綺麗な大文字が刻まれていた。
 ほんのりと湯気が立つ、水溜まりをリングに残して。

「そこまで! 勝者、ミスト・アニエル! ……それと、ミスト君は明後日までに反省文二枚を提出するように」

「……えっ」

 衝撃的な罰則を課せられ、言葉を失う俺。
 ローレライとのあまりの男女差別ぶりに、開いた口が塞がらない。

「……二人は、まだ試合中か」

 沸き上がる歓声の中、肩を落としながらリングを降りていく俺。
 その視界の先には、二人の姿が映っていた。
 それは激しい戦闘を繰り広げているルーシアとローレライ。
 ルーシアの相手は剣術科アサルトの獣人だったはず。なら、ルーシアでは分が悪いか。

『はっはっは! 魔導師なんざ、前衛の仲間がいてからこその存在! 単体であれば脅威ではない!』

「くっ! 参ったわね。ろくに詠唱もさせてくれないなんて」

 やはり苦戦を強いられていたルーシアは、短剣ホークアイで迫り来る斬撃を弾く。

「もう! しつこい! 火炎魔法ファイア!」

『甘い!』

 相手の隙を突いては下級魔法を連発しているが、当然対策を備えている戦士の前では無意味。
 腕に嵌めた防具ガントレットの性能に掻き消されている。

 如何に強力な魔法を使えたとしても、詠唱の時間を稼げなければルーシアに勝機はない。

『しかし、一年生にしてはなかなかやるな。魔術科ウィザードの生徒で俺の攻撃を受けきるとは、見事だ』

「先輩もさすがですね。全然隙がありませんよ。今までは……ね!」

 その時、ルーシアの姿が忽然と消えた。
 音も無く、予備動作さえも無く。

『どこだ! どこに行った!』

 三年生はすぐさま身構え、周囲を警戒する。
 しきりに四方を見渡し、気配を感じる度に振り返り、鉄の爪で空を裂く。

「ここですよ、先輩」

 いつの間にか、ルーシアはリングの端に立っていた。
 身体の周囲に、膨大な魔力を漲らせて。

『馬鹿な! この俺に覚られず、そこまで移動していただと!?』

 「うーん……本当は先輩を場外に飛ばせたかったんですけど。今の私の実力では、自分を転移させるくらいしかできませんでした」

『な、何を言っているんだ。君は……』

 そうか。あれはオフィーリアが使っていた転移魔法テレポートだ。
 まさかルーシアまで会得していたとは。

「それじゃあ先輩、お疲れさまでした!」

 明るい笑顔のルーシアは、全身に纏っていた魔力を放出した。
 次第に周囲の気温が下がり始め、吹雪が舞う。

「氷の主神シヴァ、神罰を下せ! いっけえぇーっ! 氷塊吹雪魔ダイヤモンドダスト法!!!」

 氷の上級魔法を唱えた瞬間、吹雪の嵐を巻き起こす。
 やがて作り出されるのは、無数の氷の刃。
 そして相手の三年生を囲むように、全方位から襲いかかった。

『な、なんだこれは! 一年が……上級魔法だとおぉーっ!』

 リングを彩っていた白銀の景色が身を潜めていくと、凍結した三年生は意識を失い、その場に倒れていた。

 あの数の氷の刃が死角無しに襲いかかれば、どんなに俊敏な相手だろうと逃げ場など無いか。

『そこまで! 勝者! ルーシア・ミラ・ランドルフ!』

 ルーシアは大きく深呼吸をして息を整えると、再び明るい笑顔を見せた。
 意気揚々とした軽い足取りで、壇上を降りてくる。

「ルーシア。本戦出場、おめでとう」

「当然、ミストもなんでしょ? あのコーエンって人、どうなったの?」

「あいつなら、あそこで埋まってるぞ」

 そう言って、本校舎に空いた穴を指さす。
 そこには、壁に埋めこられたコーエンを引き抜く救護班の姿が。

「あれで生きてるとか、意外と頑丈なのね、あいつ」

 そして、予選を勝ち抜いた俺とルーシアは急いでHブロックの試合を見に行った。

 この半年間、ローレライも確かな場数を踏んでいるはずだ。
 魔法も剣術も嗜んでいるローレライが、同じ一年生相手に負けるはずない。

 だが、そう思っていた俺達の前には、予想していなかった事態が待ち構えていた。

「嘘でしょ。どうしてローラが……」

「あぁ、まさかの展開だな」

 Hブロックに到着した俺達が見たものは……。
 リングにひざを突き、血を流していたローレライの姿だった。
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