王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

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第三章 王立学園━大魔剣闘技祭━

八話 はやての闘い

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 Hブロックに着いた俺とルーシアが見たものは、予想もしていなかった光景だった。

「ユリネも出場するって言っていたけど、まさかローラにひざを突かせほど強かったなんて」

ユリネあいつって魔術科ウィザードだろ? スピード型のローラが押されてるなんておかしいだろ」

「そうね。それに魔術科ウィザードの講義で一緒にいた限りでは、ユリネって下級魔法しか使えなかったはずよ。実戦経験だって浅いはずなのに……」

 俺達がそんな話をしている最中でも、試合はユリネの独壇場となっていた。

 放たれる小規模の爆発がローレライを苦しめ、止まる事なく防戦を強いらされる。
 かろうじて後ろに飛び退き、既のところで回避するのが精一杯のようだ。

「どうしたの? 貴方も撃ち返してきなさい!」

「私だって! 雷の精霊ボルト、力を貸せ! 雷撃魔法ライトニング!」

 魔法で雷の矢を放つローレライ。
 瞬時にエルフィンボウを構え、更に魔力の矢を三本撃ち込む。

「無駄な事を……」

 魔法の杖を天高く掲げたユリネは、避雷針のように雷の矢を吸収していく。
 そのまま杖を振り下ろし、ローレライへ向けた。

「風の精霊シルフ。力を貸せ! 疾風魔法ウインド!」

 魔力を解放し、三本の風の刃を吹き荒らすユリネ。
 容易に三発の矢を相殺させた風の刃は、一直線にローレライへと襲いかかる。

「きゃあっ!」

 ローレライの悲鳴がリングに鳴り響く。
 斬り裂かれた両足と右肩からは、鮮血が舞い散る。

「はぁ、はぁ……。うっ!」

 必死に踏ん張るローレライだったが、足の激痛に堪えきれず膝を突いてしまった。

「下級魔法だからって甘く見ては駄目よ。使い慣れた魔導師なら、下級魔法くらい連続で撃てるんだから」

 杖を下ろし、淡々と話すユリネ。
 呼吸を乱し、手負いのローレライ。
 この対象的な二人を見れば、誰もがローレライの敗北を予感してしまうだろう。

「はぁ、はぁ……。たとえ下級魔法でも、ユリネさんのように無詠唱で撃てる人なんて、いませんよ」

「そうかもね。でも、これでもうわかったでしょ? ローラさん、貴方は絶対に私には勝てない。だからもう降参しなさい」

「……しません。私はもう、逃げたくないから」

 顔を上げたローレライの瞳には、まだ闘志の火が灯っていた。
 普段は物怖じするような控えめな性格だが、芯の強さだけは大した奴だ。

「講義の時のユリネって、いつも下級魔法の練習ばかりしていたの。それも、他の生徒達が強力な魔法の訓練をしている中で」

 二人の戦いを見ていたルーシアは、気づいたようにそう話す。

「つまり、ユリネは魔法の威力よりも連射速度を優先したって事か」

 魔導師にとっての最大の弱点。それは詠唱時間だ。
 魔法の詠唱は、魔力を体内外に蓄積させる意味を持つ。
 そして魔法の熟練度を上げれば、魔力の循環も促進させられる。
 だから限界まで極めれば、ユリネのように連続で撃てるようになる訳だ。

「ローラさん、悪いけどこれで終わらせてもらうわ!」

 その時、冷徹な表情へと変わったユリネが杖を構え、詠唱を始めた。
 魔力を増幅させ、周囲に強風を巻き起こす。

「風の精霊シルフ、力を貸せ! 風刃魔法ゲイルスラッシャー!」

 ユリネが撃ち出した風の刃は、今までとは比較にならないほどの威力を放っていた。
 交差した疾風の刃が放たれ、ローレライに飛びかかる。

「力の精霊セクトル、力を貸せ! 俊足魔法ハイスピード!」

 血が滴りながら立ち上がるローレライは、補助魔法を施してエストックを抜いた。
 すぐに地面を蹴り、疾風の刃を凌ぐ速さでユリネの懐へと飛び込んだ。

「甘いわ! 風の精霊シルフ、力を貸せ! 疾風魔法ウインド!」

 無詠唱で魔法を唱えたユリネは、ローレライを撃ち落とそうと風の刃を放つ。

「行くよ! アクセルスナイプ!」

 更に加速したローレライは横薙ぎの一〇連撃を繰り出し、雷鳴の如くリングを駆け抜けた。
 襲いかかる全ての風の刃を、一瞬で霧散させながら。

「そ、そんな! 風の精れ……」

「させない!」

 動揺するユリネが魔法を発動する前に、追い討ちをかけたローレライ。
 高速で駆けたローレライの一撃を受けたユリネは、腹部を押さえながら膝から崩れ落ちた。

「ユリネさん、相手の手数が多い時はね。……全部、撃ち落とせばいいんですよ」

 呼吸を整え、落ち着きを取り戻したローレライ。
 真の実力を見せつけ、ほんの僅かな手数で戦局を一変させた。

「くっ! まだ終わってないわ! ……風の精霊シルフ、力を貸せ! 疾風魔法ウインド!」

「ううん、これで終わりです!」

 ユリネが連続で風の魔法を唱え、一二発の風の刃を一斉に放つ。
 ローレライもまた、瞬時にエルフィンボウへと換装し、一本の魔力の矢を限界まで弦を引く。

「届いて! 宵月よいつき!」

 ローレライの指が矢を離した瞬間。
 エルフィンボウの周囲には無数の魔力の矢が顕現された。

「何よ、それ……。そんなの、反則じゃない」

 そして、空を舞う無数の矢がユリネに狙いを定めて発射された。
 ことごとく風の刃を霧に変え、ユリネに迫り来る。

「わ、私の魔法が! きゃあーっ!!」

 無数の矢がユリネに着弾する寸前、次々と連鎖爆発を引き起こしていった。
 爆風で巻き上がった土煙が静まると、場外に倒れたユリネの姿が。

『そこまで! 勝者! ローラ・アディール!』

 歓声と盛大な拍手の中、ローレライは血を拭い、呼吸を整える。
 そしてユリネの傍へと駆け寄った。

「ユリネさん、大丈夫ですか?」

「うっ……痛たた。ローラさんって普段は臆病そうにしてる癖に、やる時はやるじゃない。私の完敗よ」

 ローレライに肩を借りながら、ユリネは起き上がった。
 心配そうに見つめてくるローレライの顔を見たからこそ、ユリネはそう思ったのだろう。完敗だ、と。
 自分も怪我をしているにも関わらず、救護班よりも早くユリネに駆け付けたローレライ。
 どれほど劣勢でも、決して折れなかった意思の強さ。
 この戦いを経て、ローレライを見る目がかわったのだろう。

「あの最後の技、わざと途中で爆発させたでしょ。もし直撃していたら、今頃の私は担架で運ばれていたものね。ねえ、なんで始めから使わなかったの?」

「フフフ。実は、今思いついたんです。ユリネさんの魔法みたいに、私も一度にたくさん撃てるかな、って」

 そう言うローレライは、柔らかに微笑む。

「普通、あんな大技を思いつきなんかで撃てないって」

 溜め息まじりにユリネはそう言う。
 確かにそうだ。普通の人間なら、そう簡単にはできない芸当だったな。

「ローラさん、本戦もがんばってね」

「はい、ありがとうございます」

 そして二人は、同時に手を差し出し、握手を交わす。
 才能を開花させたローレライもそうだが、努力を重ねたユリネも健闘していた。
 この王立学園には、彼女達のような猛者が大いに潜んでいるのだろう。

「ローラ、おめでとう! ユリネも、お疲れさま!」

「二人とも、本当に良い戦いだったよ。お疲れ」

 そう言いながら、俺とルーシアは戻ってきた二人を労う。
 相変わらずルーシアは二人に抱きつくが、実に羨ましい光景だ。

「三人とも、明日はCクラス総出で応援するからね。もし私達に情けない試合なんて見せてみなさい。その時は、みんなで慰めてあげるから」

「いや、優しいな」

 身体が痛む中、笑顔で俺達を激励してくれたユリネ。
 その笑顔には、一切の悔しさも悲嘆も見えはしない。
 全力でローレライとぶつかり、全力で負けたのだから。

 こうして、予選の日は終わりを告げた。
 俺達の完勝という結果で。
 だが、明日の本戦からはそうはいかないだろう。
 その理由は……。
 まぁ、明日になればわかるか。
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