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第三章 王立学園━大魔剣闘技祭━
十一話 肉体派の魔導師
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私は、産まれて初めて大観衆の前に立っていた。
注目を浴びた事による緊張で、控え席に戻った今でも、手足の震えが止まる事はない。
「なんだ、まだ緊張してんのか?」
「うん。ミストは、平気なの?」
「まあな。正直、負けてもあんまり気にしないからな。……かと言って、負けるつもりもないけど」
「フフフ、ミストらしいね」
そして、ついに大魔剣闘技祭本戦、第一試合が始まった。
両舞台からは激しく飛び交う魔法や、金属の衝突音が鳴り響く。
もちろん私が注目する試合は、ルーシアとカーミラさんの闘い。
『ルーシアちゃん、ごめんなさいね。一年生相手でも、容赦しないから!』
「もちろん遠慮なく来てください! カーミラ先輩!」
『クスッ……。なら、遠慮なく飛ばしていくわ! 火炎剣魔法!』
開始から五分が経った頃、ついにカーミラさんが実力を発揮した。
掲げられた両手剣ツヴァイハンダーの刀身からは、燃えたぎる炎が噴き出される。
『さあ、行くわよ!』
とてつもない速度で舞台を駆け抜けたカーミラさん。
縦横無尽にルーシアの魔法を躱わし、一切の手心なくルーシアに斬りかかる。
瞬時に魔力の杖を構えたルーシアは、光の結界を前面に展開した。
その結界の強度はすさまじく、容易く斬撃を反らす。
「甘いですよ、先輩。魔導師が接近戦の対策を……」
ルーシアのスカートがふわりと揺れると、太ももに縛られていた一本の短剣が煌めいた。
「してない訳ないでしょ!」
すぐに危険を察知したカーミラさんだったけれど、僅かに態勢が崩れていたその隙をルーシアが見逃すはずはない。
「はぁっ!」
すかさず短剣ホークアイを抜き、カーミラさんめがけて振りかざすルーシア。
カーミラさんは瞬時にホークアイの斬撃を回避するが、彼女の左肩からはじわりと血が滲む。
「まだまだーっ! 」
更に空高く飛び上がるルーシアは、立て続けにカーミラさんを強襲する。
咄嗟にカーミラさんがツヴァイハンダーを振り上げるが、魔力の杖に弾かれてルーシアの怒濤の連撃を許してしまった。
『いい加減……しつこい!』
「わっ! ……っと」
反撃に転じたカーミラさんの渾身の一蹴り。
それでもルーシアは間合いを詰め続け、カーミラさんの左腕に的を絞る。
『ちまちまと同じとこばかりつついて! 一体何のつもり!』
業を煮やしたカーミラさんが声を荒げた瞬間、地を這うように滑走したルーシア。
ついに決定打をお見舞いすると、カーミラさんの片手から血が滴り落ちた。
『貴方、ただの一年生って訳じゃなさそうね……』
「うーん、まぁ、戦い慣れしてるだけですよ」
ホークアイをくるくると手のひらで回し、無邪気に微笑むルーシア。
仮にも相手は、学園の優秀。
それでもルーシアは、全く本気を出していないなんて。
ミストもルーシアも、私なんかとは桁が違う。
「どうしますか? そんな腕では、その大きな剣を振り回せませんよ?」
『フッ……。ずいぶんと舐められたものね』
降参を促されたカーミラさんは、一蹴するように鼻で笑う。
彼女を突き動かすものは、先輩という立場。そして勇者科としての誇り。
その二つの信念が、今も力を与えている。
『覚えておきなさい。勇者科は、剣だけじゃないのよ!』
カーミラさんが一気に魔力を解き放ち、右手を伸ばした。
『光の精霊ウィスプ、力を貸せぇーっ! 聖柱魔法!!』
「やばっ! 詠唱が早すぎる!」
カーミラさんの魔法が放たれると、頭上から出現した光の柱が広範囲に降り注ぐ。
咄嗟にルーシアは飛び退き、魔力の杖で光の軌道を反らす。
「ちょ、ちょっと! 多すぎでしょ!」
その時、二発の光柱がルーシアを捕らえた。
焼き焦がされるような痛みと、全身を駆けめぐる電撃がルーシアを襲う。
「痛たた。中々やりますね、先輩」
『まだまだこれからよ! さあ、避けてみなさい!』
二人の間にすさまじい魔法の攻防が繰り広げられ、観客席の歓声が爆発音に飲み込まれていく。
『くらいなさい! 衝撃水魔法!』
「いっけぇーっ! 氷槍魔法!」
カーミラさんは片腕のみで魔法を連発する熟練の業を見せつけ、ルーシアを追い詰める。
ルーシアもまた、魔力の杖で結界を張り、カーミラさんの魔法を叩き潰す。
『はぁ、はぁ……。貴方、本当に何者なの? ここまで強い子なんて、勇者科にだってそういないわよ』
「いえいえ、そう言う先輩こそですよ。でも、勝たせてもらいます!」
全力で打ち合った二人には、この時点で勝敗が見えていたのだと思う。
一人は肩で息をするほどの切迫した状態。
なのにもう一人は、いまだに笑顔を見せていたのだから。
『これで最後よ! 光の精霊ウィスプ、力を貸せ!』
「雷の主神ユピテル!神罰を下せぇーっ!」
カーミラさんが掲げた右手からは、眩いほどの魔力が輝き出す。
そしてルーシアの身体からも、激しい電撃が走り出した。
『くらえーっ! 聖柱魔法!』
「いっけぇーっ! 雷神怒槌魔法!!」
再び頭上には数多の光が輝き、降り注ごうとしたその時。
更に上空には、暗黒に染まる雷雲の姿が。
立ち込めるその雷雲が会場を闇に染めた瞬間、轟音と共に視界が真っ白に変わっていった。
迸る黒雷は全ての光の柱を消滅させ、カーミラさんに襲いかかる。
『……嘘でしょ。こんなの、勝てっこないじゃない。……うあぁーっ!!』
極大の黒雷が彼女の身体を貫き、一瞬にして焦がし尽くす。
『……上級魔法まで使えるなんて……とんでもない子ね……』
それでも、執念とも言える精神力を見せつけたカーミラさんは、決して膝を折らずに立ち続けていた。
「はぁ、はぁ……。時間を貰えれば、最上級魔法だって撃てますよ」
『クスクス、参ったわね。……完敗……よ……』
ついに力尽きたカーミラさんは、崩れ落ちるように舞台へと沈んだ。
『そこまで! 勝者! ルーシア・ミラ・ランドルフ!』
観客席からは、大きな歓声が沸き上がっていた。
声が裏返るほど吠えるルーシアファンクラブの人々もまた、虹色に光る棒を一心不乱に振り回す。
「ミスト、やっぱりルーシアって、すごいね」
「あぁ、あいつは接近戦も得意だからな。ゴリラが魔法使えたら、きっとあんな感じなんだろうな」
「うん。ルーシアには、言わないでおこうね」
その頃、数分遅れて隣のBステージでも決着がついていた。
『そこまで! 勝者! ウィリアム・スミス!』
再び歓声が鳴り響く中、勝利を手にした男子生徒は無表情のままにその場を立ち去っていった。
「あっちは、勇者科の人が勝ったみたいだね」
「あぁ、さすがは勇者科の特待生君だ。……って事は、次の対戦表が出るんじゃないか?」
私とミストがそんな会話をしていると、試合を終えたルーシアが戻ってきていた。
少しだけ、疲労の色が見えるけれど。
「ルーシア、お疲れさま」
「お疲れ、やったな」
「ありがとう、二人とも。……あっ! 見て見て! 次の対戦表が出るわよ!」
座った瞬間、飛び跳ねるように立ち上がるルーシア。
少しずつ電光板に光が灯り、文字を浮かび上がらせていく。
【第二試合Aステージ、ローラ・アディール対エヴァ・ローリー・グランドリエ】
【第二試合Bステージ、二年生ジュウベエ・ライゼンジ対三年生アスカード・ゼル・デスティリア】
私達が見た対戦表には、そう表示されていた。
それはつまり……。
「ローラも私と同じAステージだなんて。じゃあ、もしローラが勝ったら……」
「二回戦目は、ルーシアと当たるって事だな」
「……。」
大魔剣闘技祭の本戦は、AステージとBステージに別れてトーナメント戦を執り行う事になっていた。
だからAステージの第二試合で私が勝った場合、Aステージ第一試合の勝者と準決勝で闘う事になる。
それはすなわち、ルーシアと闘うという事。
いずれはミストやルーシアと当たるかもしれないと覚悟していた。
でも、それが現実味を帯びてくると、なぜだか急に怖くなる。
「ルーシア、がんばって勝ってくるね。だから、待ってて」
それでも私は、二人の前では笑顔を見せた。
今の私では二人の隣を歩けない。
だからこそ、近付く努力をする為に。
「……ローラ。うん、待ってるわ!」
「まぁ、お前なら楽勝だろ。やり過ぎて、反省文とか書く羽目にならないようにな」
「フフフ。そうなったら、一緒に書こうね」
そして私は、舞台へと踏み出していった。
フード深く被り、待ち受ける相手を見つめて。
二人の背中に付いて歩くのは、もうやめるよ。
私は、二人の隣を歩きたいから。
いつまでも、ずっと。
注目を浴びた事による緊張で、控え席に戻った今でも、手足の震えが止まる事はない。
「なんだ、まだ緊張してんのか?」
「うん。ミストは、平気なの?」
「まあな。正直、負けてもあんまり気にしないからな。……かと言って、負けるつもりもないけど」
「フフフ、ミストらしいね」
そして、ついに大魔剣闘技祭本戦、第一試合が始まった。
両舞台からは激しく飛び交う魔法や、金属の衝突音が鳴り響く。
もちろん私が注目する試合は、ルーシアとカーミラさんの闘い。
『ルーシアちゃん、ごめんなさいね。一年生相手でも、容赦しないから!』
「もちろん遠慮なく来てください! カーミラ先輩!」
『クスッ……。なら、遠慮なく飛ばしていくわ! 火炎剣魔法!』
開始から五分が経った頃、ついにカーミラさんが実力を発揮した。
掲げられた両手剣ツヴァイハンダーの刀身からは、燃えたぎる炎が噴き出される。
『さあ、行くわよ!』
とてつもない速度で舞台を駆け抜けたカーミラさん。
縦横無尽にルーシアの魔法を躱わし、一切の手心なくルーシアに斬りかかる。
瞬時に魔力の杖を構えたルーシアは、光の結界を前面に展開した。
その結界の強度はすさまじく、容易く斬撃を反らす。
「甘いですよ、先輩。魔導師が接近戦の対策を……」
ルーシアのスカートがふわりと揺れると、太ももに縛られていた一本の短剣が煌めいた。
「してない訳ないでしょ!」
すぐに危険を察知したカーミラさんだったけれど、僅かに態勢が崩れていたその隙をルーシアが見逃すはずはない。
「はぁっ!」
すかさず短剣ホークアイを抜き、カーミラさんめがけて振りかざすルーシア。
カーミラさんは瞬時にホークアイの斬撃を回避するが、彼女の左肩からはじわりと血が滲む。
「まだまだーっ! 」
更に空高く飛び上がるルーシアは、立て続けにカーミラさんを強襲する。
咄嗟にカーミラさんがツヴァイハンダーを振り上げるが、魔力の杖に弾かれてルーシアの怒濤の連撃を許してしまった。
『いい加減……しつこい!』
「わっ! ……っと」
反撃に転じたカーミラさんの渾身の一蹴り。
それでもルーシアは間合いを詰め続け、カーミラさんの左腕に的を絞る。
『ちまちまと同じとこばかりつついて! 一体何のつもり!』
業を煮やしたカーミラさんが声を荒げた瞬間、地を這うように滑走したルーシア。
ついに決定打をお見舞いすると、カーミラさんの片手から血が滴り落ちた。
『貴方、ただの一年生って訳じゃなさそうね……』
「うーん、まぁ、戦い慣れしてるだけですよ」
ホークアイをくるくると手のひらで回し、無邪気に微笑むルーシア。
仮にも相手は、学園の優秀。
それでもルーシアは、全く本気を出していないなんて。
ミストもルーシアも、私なんかとは桁が違う。
「どうしますか? そんな腕では、その大きな剣を振り回せませんよ?」
『フッ……。ずいぶんと舐められたものね』
降参を促されたカーミラさんは、一蹴するように鼻で笑う。
彼女を突き動かすものは、先輩という立場。そして勇者科としての誇り。
その二つの信念が、今も力を与えている。
『覚えておきなさい。勇者科は、剣だけじゃないのよ!』
カーミラさんが一気に魔力を解き放ち、右手を伸ばした。
『光の精霊ウィスプ、力を貸せぇーっ! 聖柱魔法!!』
「やばっ! 詠唱が早すぎる!」
カーミラさんの魔法が放たれると、頭上から出現した光の柱が広範囲に降り注ぐ。
咄嗟にルーシアは飛び退き、魔力の杖で光の軌道を反らす。
「ちょ、ちょっと! 多すぎでしょ!」
その時、二発の光柱がルーシアを捕らえた。
焼き焦がされるような痛みと、全身を駆けめぐる電撃がルーシアを襲う。
「痛たた。中々やりますね、先輩」
『まだまだこれからよ! さあ、避けてみなさい!』
二人の間にすさまじい魔法の攻防が繰り広げられ、観客席の歓声が爆発音に飲み込まれていく。
『くらいなさい! 衝撃水魔法!』
「いっけぇーっ! 氷槍魔法!」
カーミラさんは片腕のみで魔法を連発する熟練の業を見せつけ、ルーシアを追い詰める。
ルーシアもまた、魔力の杖で結界を張り、カーミラさんの魔法を叩き潰す。
『はぁ、はぁ……。貴方、本当に何者なの? ここまで強い子なんて、勇者科にだってそういないわよ』
「いえいえ、そう言う先輩こそですよ。でも、勝たせてもらいます!」
全力で打ち合った二人には、この時点で勝敗が見えていたのだと思う。
一人は肩で息をするほどの切迫した状態。
なのにもう一人は、いまだに笑顔を見せていたのだから。
『これで最後よ! 光の精霊ウィスプ、力を貸せ!』
「雷の主神ユピテル!神罰を下せぇーっ!」
カーミラさんが掲げた右手からは、眩いほどの魔力が輝き出す。
そしてルーシアの身体からも、激しい電撃が走り出した。
『くらえーっ! 聖柱魔法!』
「いっけぇーっ! 雷神怒槌魔法!!」
再び頭上には数多の光が輝き、降り注ごうとしたその時。
更に上空には、暗黒に染まる雷雲の姿が。
立ち込めるその雷雲が会場を闇に染めた瞬間、轟音と共に視界が真っ白に変わっていった。
迸る黒雷は全ての光の柱を消滅させ、カーミラさんに襲いかかる。
『……嘘でしょ。こんなの、勝てっこないじゃない。……うあぁーっ!!』
極大の黒雷が彼女の身体を貫き、一瞬にして焦がし尽くす。
『……上級魔法まで使えるなんて……とんでもない子ね……』
それでも、執念とも言える精神力を見せつけたカーミラさんは、決して膝を折らずに立ち続けていた。
「はぁ、はぁ……。時間を貰えれば、最上級魔法だって撃てますよ」
『クスクス、参ったわね。……完敗……よ……』
ついに力尽きたカーミラさんは、崩れ落ちるように舞台へと沈んだ。
『そこまで! 勝者! ルーシア・ミラ・ランドルフ!』
観客席からは、大きな歓声が沸き上がっていた。
声が裏返るほど吠えるルーシアファンクラブの人々もまた、虹色に光る棒を一心不乱に振り回す。
「ミスト、やっぱりルーシアって、すごいね」
「あぁ、あいつは接近戦も得意だからな。ゴリラが魔法使えたら、きっとあんな感じなんだろうな」
「うん。ルーシアには、言わないでおこうね」
その頃、数分遅れて隣のBステージでも決着がついていた。
『そこまで! 勝者! ウィリアム・スミス!』
再び歓声が鳴り響く中、勝利を手にした男子生徒は無表情のままにその場を立ち去っていった。
「あっちは、勇者科の人が勝ったみたいだね」
「あぁ、さすがは勇者科の特待生君だ。……って事は、次の対戦表が出るんじゃないか?」
私とミストがそんな会話をしていると、試合を終えたルーシアが戻ってきていた。
少しだけ、疲労の色が見えるけれど。
「ルーシア、お疲れさま」
「お疲れ、やったな」
「ありがとう、二人とも。……あっ! 見て見て! 次の対戦表が出るわよ!」
座った瞬間、飛び跳ねるように立ち上がるルーシア。
少しずつ電光板に光が灯り、文字を浮かび上がらせていく。
【第二試合Aステージ、ローラ・アディール対エヴァ・ローリー・グランドリエ】
【第二試合Bステージ、二年生ジュウベエ・ライゼンジ対三年生アスカード・ゼル・デスティリア】
私達が見た対戦表には、そう表示されていた。
それはつまり……。
「ローラも私と同じAステージだなんて。じゃあ、もしローラが勝ったら……」
「二回戦目は、ルーシアと当たるって事だな」
「……。」
大魔剣闘技祭の本戦は、AステージとBステージに別れてトーナメント戦を執り行う事になっていた。
だからAステージの第二試合で私が勝った場合、Aステージ第一試合の勝者と準決勝で闘う事になる。
それはすなわち、ルーシアと闘うという事。
いずれはミストやルーシアと当たるかもしれないと覚悟していた。
でも、それが現実味を帯びてくると、なぜだか急に怖くなる。
「ルーシア、がんばって勝ってくるね。だから、待ってて」
それでも私は、二人の前では笑顔を見せた。
今の私では二人の隣を歩けない。
だからこそ、近付く努力をする為に。
「……ローラ。うん、待ってるわ!」
「まぁ、お前なら楽勝だろ。やり過ぎて、反省文とか書く羽目にならないようにな」
「フフフ。そうなったら、一緒に書こうね」
そして私は、舞台へと踏み出していった。
フード深く被り、待ち受ける相手を見つめて。
二人の背中に付いて歩くのは、もうやめるよ。
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