王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

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第三章 王立学園━大魔剣闘技祭━

十四話 友へのエール

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 シエラとアスカードの視線を背に、俺は控え席へと戻っていった。
 二人が秘めた真の思惑を、知る由もなく。

「クロス先輩、こっちはもう終わりましたよ」

「ああ、そうみたいだな」

 控え席に戻ると、余裕の笑みでクロスにそう言った。
 だが、クロスは腕を組んだまま、険しい顔付きで遠くを見つめている。
 てっきり大喜びしながら抱き付いてくるかと警戒していたんだが。

 その理由は、どうやらミキの方が相当な劣勢を強いられているからなのだろう。

「このままではまずいな。ミキの奴があそこまで押されているとは。やはり相手のオーランドとは相性が最悪だったか」

 そう。クロスの言うとおり、俺が試合を見た限りオーランドの扱う双剣には特殊能力があるみたいだ。
 恐らくあの双剣には、魔法を切り裂く力が備わっている。
 ローレライのエルフィンボウやルーシアの魔力の杖と同じく、武器その物に魔力を注いで発動させているのだろう。

「あの剣をどうにか封じないと、魔導師の利点であるはずの遠距離攻撃が効かないって事ですか」

 そう言いながら席に座り、ミキの試合を観る。
 しかし、さすがは魔術科ウィザードの最上学年。そのミキは多彩な中級魔法を連続で放ち、ルーシアにも劣らぬほどの高速詠唱まで会得していた。

 そんな猛攻を受けている相手のオーランドは、魔法を避けようともせずにミキへと突進する。
 襲いかかる魔法を消滅させ、もう一つの剣でミキを追い詰めていく。

『この双剣シャムシールは魔封じの力があります。先輩に勝ち目がない事など明白。いい加減諦めてください』

「私はまだ、倒れてないわ! 雷の精霊ボルト、力を貸せ! 稲妻魔法ディスチャージアクス!」

 血に染まった右手を掲げ、一気に振り下ろすミキ。
 巨大な稲妻の塊を生み出し、オーランドに叩きつける。

『無駄ですよ』

 すかさず飛び上がったオーランドは回転斬りを繰り出して稲妻を削り、粉砕した。

『ミキ先輩、今度はこちらの番です。光の精霊ウィスプ。力を貸せ。照明魔法シャイン!』

 オーランドから放たれた目映い光が、舞台周辺を明るく包み込む。
 誰もが視界を塞いでしまった一瞬の間に。

「きゃあーっ!」

 静寂と燦然の中、悲鳴だけが響く。
 光が収まると、舞台には全身を斬り裂かれたミキの姿があった。
 血塗れで両ひざを突き、疎らに呼吸をしながら。

「はぁ、はぁ……。まだよ、まだ、負けてない」

『やれやれ、しつこいですよ。先輩』

 ミキの執念に頭を抱えるオーランドは、呆れたようにため息を吐く。
 だが、次にミキを睨み付けたオーランドの瞳は、本気で獲物を狩るように鋭い眼差しだった。

『おやすみなさい、先輩』

 俊足の速さでミキの横を通り過ぎたオーランドは、二本のシャムシールを鞘へと納めた。
 その瞬間、ミキの腹部から鮮血が舞い散り、力なく倒れていく。

「うぅっ……ま……だ。風の精霊……シル……フ……」

 それでもまだ、手を伸ばして戦おうとするミキ。
 もはや魔力の流れなど感じられず、何も起きはしない。

「ミキ! もうやめろ! お前は十分がんばった!降参しろ!」

 観客席の手すりから身を乗り出し、今にも乱入しそうなクロスが叫ぶ。
 奥歯を噛みしめ、怒りを抑えながら。

『エレナ先生。俺もこれ以上はアイリープ先輩を傷つけたくありません。試合を終了してください』

『……そこまで! 勝者、オーランド・ジョーンズ! 救護班! 至急彼女を運んでちょうだい!』

 そして試合が終わると、オーランドは倒れたミキの前にひざを突き、自分に向けられたその手を取った。

『ミキ先輩、貴方の見せた闘志は、勇者科ブレイブにも勝る勇姿でした。お相手いただき、感謝致します』

「……次の試合も、がんばってね。オーランド……君」

 会場がどよめく中、意識を失ったミキは担架で運ばれていった。
 俺とクロスもすぐに踵を返し、救護室へと追いかけていって……。

 ━闘技場アリーナ・救護室━

『次に行われる準決勝戦は。一時間後に開始致します。観客のみなさま。各選手は。開始の時間まで。自由行動と致します』

 館内放送が響く中、救護室に来ていた俺達。
 そこには、オフィーリアから手当てを受けているローレライの姿もあった。その隣にはルーシアもいて、三人で楽しそうに話をしているが。
 元気なローレライの笑顔のお陰か、ほっと胸を撫で下ろす俺。

「ミスト、試合が終わったのね! お疲れさま!」

「観に行けなくて、ごめんね」

 俺が来た事に気づいたルーシアとローレライ。
 勝敗を聞いてこないとは、端から俺が負けるとは思っていないという事か。

「あぁ、ローラも大した怪我じゃなくて良かったよ」

 そう言いながら、俺は室内を見回す。

「オフィーリア先生、たった今運ばれてきた生徒を知らないか?」

「ええ、ミキあの子は奥の治療室に運ばれているわ。シスターセレス先生に診てもらっているから安心して。大丈夫、彼女は無事ですよ」

「……そうか」

 そして俺は、奥の部屋へと向かった。
 扉の先には、ベッドに横たわるミキの姿が。シスターセレス先生に治癒魔法を施され、医療班の生徒に点滴を準備されていて。

「おぉ、ミスト! こっちだ!」

 そんなミキの隣には、すでにクロスの姿があった。
 クロスの表情でわかるが、どうやらミキの容態に心配はなさそうだ。

「なんだ、お前。偉く遅かったじゃないか!」

レディファ・・・・・ースト・・・ですよ」

「お、おま、お前……。先輩を馬鹿にしてんだろ」

 俺とクロスのやり取りを見ていたミキは、小さく微笑んでいた。
 どうやら、本当に心配なさそうだ。
 むしろこれ以上重傷になる前に、試合は止められていただろうが。

「じゃあ、俺は友達のところに戻ります」

 先輩方に軽く頭を下げ、治療室を後にした俺。
 ローレライの隣にあるパイプ椅子に座り、一息吐く。

「ミスト、大丈夫だった?」

 状況を察していたのか、俺の顔を覗き込んでくるローレライ。

「あぁ、平気そうだったよ。お前も無事で良かった」

「うん、心配させて、ごめんね」

 俺が本当に心配していたのはローレライだったのだから、彼女の無事な顔を近くで見られて、心から安心した。
 なぜだろうか。ローレライの顔を、こうしてずっと眺めていたいと思うのは。

「ミスト、どうかしたの?」

「……あぁ、悪い。二人とも次の試合は平気か?」

 不思議そうに首を傾げるローレライに呼ばれ、俺は我に返った。

「私は大丈夫だけど、ローラは平気?」

「うん、オフィーリア先生に、治してもらったから」

「二人とも、いいですか? 無理はしないでくださいね」

「「 はーい! 」」

 ローレライとルーシアは、いつも通りの笑顔で返事をしていた。
 この二人なら、どんな結末が訪れても変わりはしないだろう。
 この笑顔を見ていると、そんな風に思えてしまう。

 ━王立学園・購買部━

 救護室を後にした俺達は、暫しの休憩時間を過ごしていた。
 暴食のルーシアがお腹が空いたと暴れ回ったので、今は本校舎の購買部に訪れているのだが。

「すみませーん! これとこれと。あっ、これとこれくださーい!」

「ルーシア、おやつになってないよ」

「気にすんな。いつもこんな感じだから」

 ルーシアが手に取っていたのは、様々な色をした四個のコロンバ。
 コロンバとは柑橘類の香りがする甘い菓子パンの一種で、見た目もなかなか美味そうだ。
 だが、それを四個も買うとは。
 
 ローレライも心底驚いているが、俺からしてみれば日常風景。
 ルーシアからすれば平常運転。

「ローラは決めたのか?」

「えっ? えっと、これにしようかな」

「じゃあ、俺もそれにしよう」

 俺とローレライもチーズクリームが入った焼菓子スフォリアテッラを一つずつ買い、正門前の噴水広場で休む事にした。

「はい、ローラにもお裾分け」

「フフフ、ありがとう。私のも、どうぞ」

 仲の良い二人は、早速買ったものを交換し合っていた。
 楽しそうにお喋りをして、ルーシアの頬に付いたクリームを拭いてあげたりもして。

 だが、もうすぐこの二人は戦う。
 俺はどちらを応援するべきなのだろうか。
 二人の負ける姿も、悲しむ顔も見たくはない。
 そんな事を思いながら、二人を眺めていた。

「……二人とも、がんばれ」

「えっ? 何か言った?」

「いや、俺もルーシアのケーキ食べてみたいな、って」

「ミストが欲しがるなんて珍しいわね! はい、どうぞ!」

「あぁ、ありがとう」

「私も、あげるね」

「俺も同じ焼菓子を買ってるのにか? でも、ありがとう」

 きっと試合後も俺達は変わらない。
 ずっとこうして、三人で過ごしていのだろう。
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