王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

文字の大きさ
47 / 58
第三章 王立学園━大魔剣闘技祭━

十五話 ただ、認めてほしくて

しおりを挟む
 休憩時間を終えた私達は、闘技場アリーナへと戻ってきていた。
 会場の電光板には、すでに対戦表が表示されていて……。

【Aステージ準決勝。一年生ルーシア・ミラ・ランドルフ対、一年生ローラ・アディール】
【Bステージ準決勝。二年生ウィリアム・スミス対、三年生アスカード・ゼル・デスティリア】

 もしかしたらと期待していたけれど、やはり対戦相手はルーシアだった。

 そう。私は今からルーシアと戦う。
 この大会を見ていてわかったけれど、ミストとルーシアの強さは別格だ。
 相手は上級生な上に勇者科ブレイブという特待生だったのに、二人は圧勝してきているのだから。

 きっと私では歯が立たないだろう。
 それでも、情けない姿だけは見せたくない。
 失望されたくない。

「ねえ、ミスト。アスカード先輩って、ミストと同じ闘気を使える人よね。やっぱり強いのかしら」

「闘気……?」

 ルーシアの聞き慣れない単語に、ふと疑問を抱く私。

「ローラも見たはずよ。ミストが剣技を使う時に放つ、蒼白色の霊気オーラを」

「あっ、確かに見た事あるね。そういえば、魔力とは少し、違うように感じた」

「まぁ、使ってる俺でも、よく知らないんだけどな。要領コツを教えてくれた婆さん・・・も、もういないし……」

 使用しているミストですら未知の力、闘気とは。
 でも、彼の強さはそれだけではないと思う。
 卓越した運動神経と、洗練された判断能力だってあるのだから。

『只今より。両ステージの。準決勝戦を開始します。各選手は。舞台上に入場してください』

 その時、準決勝の始まりを告げるアナウンスが会場に流れた。

「さあ、ローラ! 行くわよ!」

「うん、行こう」

 笑顔で立ち上がるルーシアは、そっと手を差し出してくれた。
 私がその手を握ると、そのままルーシアに引かれて舞台へと駆け出していった。
 そんな私達を、苦笑いを浮かべて見送ってくれるミスト。

『それでは、Aステージ準決勝戦、一年生ルーシア・ミラ・ランドルフ対、一年生ローラ・アディール。始め!』

 試合開始と同時に、私は長弓エルフィンボウを構えた。
 ルーシアもまた、魔力の杖と短剣ホークアイを両手に持つ。

「ルーシア、お願いがあるんだけど」

「何かしら。降参以外なら聞いてあげるわよ」

「手を、抜かないで」

「……ローラ」

 真剣な私の一言に、ルーシアが無意識に武器を降ろしてしまう。

「……わかったわ。本気を見せてあげる」

「ありがとう、ルーシア」

 そしてルーシアは、再び武器を構えた。
 そんな彼女の意思が伝わった私は、笑顔を向けて一気に魔力を解き放つ。

「当たって!」

 魔力の矢を創り出し、立て続けに九連射の先制攻撃を繰り出す。
 すぐさま反応したルーシアもまた、魔力を纏わせた杖を旋風させ、次々と矢を叩き落とす。

「ローラ、遠距離なら私の独壇場よ! 水の精霊ウンディーネ、力を貸せ! 衝撃水魔法《アクアインパクト》!」

「私だって、魔法は使えるんだよ! 氷の精霊フェンリル、力を貸せ! 氷結槍魔法フリーズランサー!」

 ルーシアが放つ圧縮された水の球体を、私は氷の槍で貫く。
 しかし、その行動さえもルーシアには想定内。
 更に火炎魔法を撃ち出していたルーシアは、三つの魔法を重ねて爆散させた。
 水飛沫と霧が舞台に舞い、視界が霞む。

「行っけぇ! 風刃魔法ゲイルスラッシャー!」

 濃霧の中、立て続けにルーシアが風の魔法を連発してくる。
 まるで踊らされるように躱わす事しかできない私は、必死に目を凝らして魔法の射出地点を探す。

 その時、霧の中からわずかな光が明滅していた。

「……そこだ!」

 細剣エストックを抜き、全速力で駆け出す私。
 でも、このまま行けば先に魔法をぶつけられてしまう。
 そう予測した私は、重心を下げて更に加速する。

「見えた!」

 間合いを詰め、斬りかかろうとした瞬間。

「……これは、光魔法シャイン

 そこには、微弱に輝く光の球体が浮いてるだけだった。

「残念だったわね! それは囮よ」

「えっ?」

 光の球体のすぐ後ろで、微かにルーシアの声が聞こえた。
 そこには、ホークアイを構えて微笑むルーシアが。
 そう。これは罠だ。

「光の精霊ウィスプ、力を貸せ! 照明魔法シャイン!」

 気づいた時にはすでに間に合わず、至近距離で閃光を撃ち出された私は、咄嗟に手のひらで視界を覆ってしまった。

「それ!」

 ルーシアは巧みにホークアイを操り、連続で斬りつけてくる。

「……はぁっ!」

 すぐにエストックでホークアイを受け流し、ルーシアに斬り返す私。

「おっと! 退却退却!」

 攻勢に転じたのも束の間、忽然とルーシアの姿が霧の中へと消えた。
 次第に霧が晴れてくると、舞台の端まで後退したルーシアが立っていた。

「ふぅ、危なかったわ。速さならローラの方が上だものね」

「ううん、ルーシアの方が、やっぱりすごいよ」

 私は微笑み、エストックを構えた。
 ルーシアもまた、魔力の杖を構える。

「行くわよ! 火の精霊サラマンダー、力を貸せ! 火炎壁魔法《フレイムウォール》!」

 ルーシアは両手に魔力を溜め、三連続で炎の魔法を放つ。
 巨大な炎が地面から噴き出すと、私を囲むように三方向から炎の壁が押し寄せてきていた。

「……逃げ場が、無い」

 魔法の発現場所をここまで精密に操作できる人はそう多くはない。
 もしかしたら、本当にルーシアは学園最強の魔導師なのかもしれない。

「それでも私は、諦めない!」

 ルーシアと私では魔力の差が違いすぎるのだから、魔法を撃ち合ったところで負けは見えている。
 ならここは、上に逃げるしか……。
 ううん、それも罠だ。

氷結細剣魔アイスマンゴーシュ法!」

 咄嗟に判断した私は、エストックを氷の細剣へと変化させた。
 そして、一気に正面の炎壁へ走り出す。

 頭上からルーシアが放つ光の柱が降り注ぐ中を、軽快に左右に飛び退いて紙一重で躱していく。

 もしあのまま上に跳んでいたなら、今頃は光魔法にやられていた。
 本当に、ルーシアは恐ろしい。

「行くよ。スウェプトヒルト!」

 勢いよく背面で飛び上がり、弧を描くように炎の壁へと飛び込む私。
 身体に回転をかけ、氷の竜巻と化して炎の壁を斬り裂いた。

「嘘でしょ!? 炎を突き破ってきたの!?」

「はぁーっ!!」

 炎の壁を突き破ると共にルーシアを飛び越し、数発の斬撃を浴びせた。

「痛たた……。やるわね、ローラ」

「ルーシアも、すごいよ。戦いの中で、何重もの罠を仕掛けられるなんて」

 私の全力が、少しでもルーシアに届いたんだ。
 そう思うと、不思議と心が高揚してくる。
 確かに今の私では勝ち目なんてない。
 でも、奇跡が起きれば……。

「よくわかったわね。その通り、これも罠よ」

 でも、そんな夢は一瞬にして砕け散る事となった。
 余裕の笑みで空を見上げるルーシアの顔は、勝利を確信していたのだから。

「……あれは、雷の上級魔法」

 ルーシアが掲げていた右腕の上空には、雷鳴が轟く黒雲が顕現されていた。

「ごめんね。炎の壁は、上級魔法を撃つ為の時間稼ぎだったの」

 その直後、ルーシアの掲げられた右手が勢いよく振り下ろされた。

「行っけぇーっ! 雷神怒槌魔トールハンマー法!!」

 無数の落雷が一点に収束し、雷鳴が喧騒する。

 瞬時にエルフィンボウを真上に向けた私は、遥か上空を狙う。
 大量の魔力を解き放ち、光の矢を創り出した。

「見ててね、ミスト、ルーシア。これが私の、全身全霊の一撃だよ!」

 エルフィンボウの弦を最大まで引き絞り、光の矢が閃光を放つ。

「届いて! 時雨燕しぐれつばめ!」

 全魔力を注いだ光の矢を放し、巨大な光の鳥の姿へと変えさせた。
 激しい轟音と共に、渦雷と激突した。

 光の鳥が渦雷を食い千切り、渦雷が光の鳥を突き破る。
 相殺された二人の攻撃が、舞台に激しい衝撃を巻き起こした。
 隣の舞台で戦う生徒すらも、戦闘を中断せざるを得なくなるほどに。

「はぁ、はぁ……。もう、魔力が……」

 瞬発的に魔力を解放した影響で、視界が眩む。
 でも、試合はまだ続いている。
 そう思った私は、意識を保とうと額を押さえ、ふらつく手でエルフィンボウを構えた。
 その時。

「ごめんね、ローラ。上級魔法は、もう一つ用意していたの」

 至近距離から声が聞こえ、すぐさま後ろへと振り返った。

「風の主神スサノオ、神罰を下せ! 風神狂飆魔ストームブリンガー法!!!」

 目の前にまで接近を赦してしまったルーシアの左手が、私へと迫り来る。
 荒ぶる嵐を、その腕に纏って。

「駄目、避けられ……ない」

 私は避ける間も、エストックに持ち換える猶予も無かった。
 両腕を交差に構えて身構えるしか、できなかった。

「うぅっ! かはっ!」

 ルーシアの左手が、地面から振り上げるように打ち込まれた。
 身構えた両腕をすり抜けられ、腹部に突き立てられる。
 呼吸器官が乱れ、言う事を聞かない。
 凝縮された嵐が暴れ出し、抉られるような激痛が走る。

「うぅっ! あぁぁーっ!!」

「終わりよ、ローラ! ふっ飛べぇーっ!!」

 ルーシアは莫大な魔力を放出させ、左手の嵐を巨大化させた。
 激しい竜巻が私もろとも観客席の壁まで吹き荒ぶ。

「きゃあ!」

 ものすごい勢いで叩き付けられ、その場に両ひざを突いてしまった私。
 場外負けで戦闘不能。文句なしの完敗だ。

 霞んだ瞳で舞台を見つめると、そこにはルーシアが立っていた。
 息ひとつ乱さず、私を見つめながら。

『そこまで! 勝者、ルーシア・ミラ・ランドルフ!』

 会場からは、大きな歓声が響く。

 やっぱり、負けちゃったね。
 ルーシア、わざと私を飛ばして場外負けを狙ってたんだ。
 これ以上、怪我をさせないように。
 フフフ。本当に、敵わない、な……。

「……ーラ! ねぇ! 大丈夫なの!? 起きて! ロー……」

 あれ……なんだか。
 ルーシアの顔が、ぼやけて……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...