王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

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第三章 王立学園━大魔剣闘技祭━

十七話 死力の決闘

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『ただいまより。Aステージ。決勝戦を開始します。一年生ルーシア・ミラ・ランドルフ。三年生クロス・ライナー。舞台に入場してください』

「はっはっは! まさか残る勇者科ブレイブがアスカードだけとは、とんだ大判狂わせだよ! ミスト君、ルーシアちゃん、ありがとう!」

「いえ、そんな。運が良かっただけですよ」

 照れたように手を横に振るルーシア。
 だが、実際はそうだ。
 今まで難なく勝利を納めてこられたのは、中堅程度の勇者科ブレイブしか出場していないからだ。

 その証拠に、学園を統べる生徒評議会カウンシルから出場しているのはアスカードだけなのだから。
 アスカードが参加している理由も、恐らくは盛り上げる為の演出パフォーマンス

「さあ、お喋りは終わりだ! ルーシアちゃん、よろしく頼むよ!」

「そうですね。先輩相手でも、容赦はしませんから!」

 そして二人は舞台へと歩いていった。
 この時の俺は、なぜだか胸騒ぎがしてならなかった。
 きっとルーシアが戦うからなのだと、そう言い聞かせては自分を静めていた。

 これから行われる決勝戦はAステージから始まり、続いてBステージの決勝戦が行われる。
 そして両ステージの勝者同士が雌雄を決し、大魔剣闘技祭の真の優勝者となるそうだ。

「クロス先輩、勝利はいただきますよ!」

「はっはっは! 俺にも背負っているものがある! 悪いが、勝ちだけは譲れんな!」

 ルーシアとクロスが舞台に上がり、同時に武器を構える。
 主審のオフィーリアが中心に立つと、小さな右手を掲げた。

「それではAステージ決勝戦、一年生ルーシア・ミラ・ランドルフ対、三年生クロス・ライナー。始め!」

「うおぉぉーっ!」
「はあぁぁーっ!」


 開始早々に二人は激突し、衝撃が走った。
 クロスは重厚な槍斧ハルバートを軽々と振り回し、旋風を巻き起こす。
 ルーシアは杖に魔力の膜を張り、ハルバートを弾く。

 だが二人の対格差は歴然。
 あまりの荷重に、早くもルーシアの膝が曲がる。

「くっ! こんのぉ!」

 すかさず大腿に提げた短剣ホークアイを抜き、反撃カウンターに持ち込む。
 クロスは左手に嵌めたガントレットで防ぎ、刀身を握る。

「むうぅっ! 君は本当に魔導師なのか!? なんて怪力なんだ!」

「あーっ! 女子にそんな事言うのは駄目ですよ!」

 両者共に退く事はなく、更に攻防が続く。

「君は本当に接近戦も強いんだな! これは参ったよ!」

「それはどうも! じゃあ、今度は魔法本職をお見せしますよ!」

「せっかくのお誘いですまんが、お断りだ!」

 目にも留まらぬ速さで一閃、ハルバートで横薙ぎを繰り出すクロス。
 その豪快な一撃は見事に空を斬り、甲高い音だけが轟く。

「なに? どこへ行ったんだ……」

 いつの間にか、ルーシアの姿は忽然と消えていた。

「……後ろかぁっ!」

 瞬時に踵を返すクロスだが、背後にもルーシアの姿はない。
 何度周囲を見渡しても、ルーシアの気配すら感じられなかった。

「……まさか、上か!」

 咄嗟に勘づいたクロスが上空を見上げると、そこには光輝くルーシアの姿があった。

「光の主神アラマズド、神罰を下せぇ!」

 上空から急降下するルーシアが、クロスに向けて両手を伸ばす。

「くっらえぇーっ! 極光砲魔法アストラルインパルス!!」

 会場を真っ白に変えるほどの極光を明滅させ、光束レーザーの如く掃射された。

「ぐおぉーっ!!」

 その巨大な極光を前に、クロスは避ける隙もなく直撃を赦してしまった。
 辛うじてハルバートを盾にしていたが、相当な損傷を負い、片膝を突く。

「上級魔法をまともに食らったのに、その程度の怪我だなんて。先輩って、相当強靭タフなんですね」

 ふわりと着地したルーシアは、手のひらを額に当てて覗くようにクロスを見る。

「うっ! 痛っ!」

 その時、ルーシアの脇を疾風の速さでクロスが横切っていった。
 僅かにホークアイで受け流していたが、右肩を斬り裂かれる。

「はっはっは! 油断大敵だぞ!」

 だが流石はルーシアだ。
 咄嗟の判断で致命傷は避けたようだが。

「ほう、やるなぁ! あの状況で急所を躱わすとは、大したもんだよ!」

「はぁ、はぁ……。先輩こそ、上級魔法を食らったのに元気すぎですよ」

 息を整えて立ち上がるルーシアだったが、やはり激痛の走る右肩を手で押さえてしまう。

「はっはっは! 剣術科アサルトで散々鍛えてきたからな! 上級魔法の一発や二発、どうって事ないさ」

 ハルバートを片手で振り回し、地面に突き刺すクロス。豪胆に笑い、頭を撫でる。
 余裕とばかりに見せるその仕草が、ルーシアの闘志に火を灯すとも知らずに。

「……じゃあ、もう一発撃つので、そこから動かないでもらえますか?」

「わっはっはっは! すまないが、お断りだ!」

 再び鋭い眼光で睨みつけ、ハルバートを下段に構えるクロス。
 深緑の魔力をハルバートへと注ぎ込む。

「食らうがいい! 疾風弧月閃しっぷうこげつせん!」

 クロスが力強くハルバートを振り上げると、弧月の斬撃がルーシアに襲いかかる。
 更に水平に薙ぎ払い、新たに二発の斬撃を飛ばす。

「まだまだぁ!」

 すぐさまハルバートを逆手に持ち替えたクロスは、ハルバートの尖端スパイクで疾風突きを繰り出した。

「もう! 少しは待ってくださいよ!」

 即座に魔力の杖とホークアイで斬撃を受け止めるルーシア。
 しかし、次の斬撃でホークアイを弾き飛ばされ、三発目の斬撃で両腿を斬り裂かれた。
 震える足に鞭を打ち、魔力の杖を向けるルーシア。
 だが……。

 クロスが繰り出した最後の一閃突きは、反撃を許す事なくルーシアの腹部に直撃した。

「うっ……かはっ!」

 両膝を地面に落としてしまったルーシアは、ついに魔力の杖をも手放してしまう。

「すまないな、ルーシアちゃん。もう降参してくれ」

 誰もが決着を予感していた中、主審のオフィーリアだけは足早に舞台の端へと移動していった。
 腕を組みながら、白々しく結界まで張り巡らせて。

「はぁ、はぁ……。ねえ先輩、二発までなら、どうって事ないんですよね」

 顔を下げたまま、右手を持ち上げるルーシア。
 ふらふらと立ち上がり、更に空へと伸ばす。

「君は、一体何を……」

 更に左手を広げ、真横に伸ばすルーシア。

「……なら、三発目はどうですか!」

 ルーシアの瞳に闘志が甦った瞬間、暴発したように魔力が溢れだしていった。
 青藍の魔力が身体を覆い尽くし、逆風がクロスの進撃を阻む。

「くそっ! まだそんな力が残っていたのか!」

 クロスは瞬時にハルバートを構え直し、ルーシアに斬りかかろうとしたその時。

「水の主神ネプチューン、神罰を下せぇ!! 間欠泉魔法ハイドロゲイザー!」

 振り上げた右手を拳に変えたルーシアは、血が滲むほど力強く、全力で地面を殴りつけた。

 極大な間欠泉が噴き出し、その高水圧に覆われたクロスの身体が悲鳴をあげる。
 間欠泉が弾け飛ぶと同時に、勢いよく吹き飛ばされてしまったクロス。

「氷の主神シヴァ、神罰を下せぇ! ……これで終わりよ! 氷塊吹雪魔ダイアモンドダスト法!!」

 立て続けに左手をクロスへと向けるルーシア。
 冷気に包まれた会場には、吹雪が吹き荒ぶ。
 氷の嵐から無数の氷の刃が生まれた瞬間、クロスめがけて一斉に襲いかかった。

「ぐがぁぁぁーっ!!」

 全身に氷の刃が突き刺さり、甲高い音と共に氷が弾ける。
 鮮血が飛び散り、直立不動のまま、その場に倒れたクロス。

「……。」

 沈黙を続けるクロスの前に、オフィーリアが意識を確認しに向かう。

「……クロスさん、まだやりますか?」

「ま、まだ……終わってないですよ!」

 オフィーリアに対して吠えるように返事をするクロス。
 肩で息をしながら、ゆらりと立ち上がった。

「ぜぇ、ぜぇ……。まだまだぁ……」

 明らかに今のクロスは満身創痍。
 立つ事だけで精一杯なのは、誰が見ても明白だ。
 それこそ小石一つ投げ付けられたら倒れるほどに。

「はぁ、はぁ……。嘘でしょ。先輩、根性あり過ぎですって」

 へたりと床に座っていたルーシアは、その両手までもが地面に触れていた。
 顔を上げるのがやっとで、息も乱していて。
 どうやら、ルーシアでさえも限界が来たようだ。

 戦士は体力さえ戻れば再び戦える。
 だが、魔導師の魔力はそう簡単には回復しないのだから。
 連戦を重ねて魔法を何発も撃ち続けているルーシアは、試合が始まった時点で幾分不利だった訳だ。

「そこまでです! 勝者、クロス・ライナー! 救護班は二人を救護室へ連れて行ってください」

 とてつもない大歓声が響き渡り、二人の健闘を讃える観客達。
 なぜか父さんと母さんは、抱き合いながら大泣きして、グローインに慰められているが。
 試合に負けたの、二人の実子ではないんだけど。

「ルーシアさん、とっても素晴らしい戦いでしたよ。お疲れさま」

「えへへ、負けちゃいましたけどね。でも、楽しかったです」

「ウフフフ。また今度、個別授業をしてあげますから。それまではゆっくり休んで」

「はーい、了解です」

 そしてルーシアとクロスは、救護班により担架で運ばれていった。
 そんな二人の表情からは、清々しくも満足げな笑みが窺えていた。

「あのルーシアが負けるとはな。さあ、次は俺の番か」

 ゆっくりと立ち上がる俺は、舞台へと歩き出す。
 その正面からは、やはりアスカードが。
 薄い笑みを浮かべながら歩くその威圧感は、今までの相手とは次元が違う。

「やあ、君とこうして顔を合わせるのは、入学式以来だね」

「さぁ、どこかで会いました?」

「ははは、覚えているくせに」

 互いを見合う俺達。
 自然と沸き上がる高揚感は、不思議と悪くない。
 この男を倒して、大会を終わらせてやる。
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