王立学園の二人〜平穏に暮らしたい少年と、平凡を知りたい少女が出会ったら〜

緋色

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第三章 王立学園━大魔剣闘技祭━

十九話 精霊の創造したもの

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 ようやく訪れたBステージの決勝戦。
 それは学園の頂点に立つ双璧の一角、アスカードと戦う時だ。
 正真正銘の勇者科ブレイブの生徒と。

「本当にこれまでの試合は素晴らしかったよ。君の師範は誰なんだい?」

「さぁ、忘れました」

「そうか、それは残念だ。興味があったのに」

 挑発的な態度をとられているにも関わらず、まるで気にも留めていないアスカード。小首を傾げ、やんわりと微笑む。

「二人とも、そろそろ良いかしら」

 主審のオフィーリアは小さく咳払いをして、試合を急かす。
 さっさと終わらせてローレライの元に会いに行かせろ。そう言わんばかりに。
 
「それでは、Bステージ決勝戦。三年生アスカード・ゼル・デスティリア対、一年生ミスト・アニエル……始め!」

 ゆっくりと片手剣ルーンソードを抜き、更に短槍コルセスカを構えた。
 アスカードもまた、呼応するように腰に提げた鞘から風変わりな剣を抜く。
 それは刃渡り一五〇センチほどの片刃をした刀剣だった。

「この剣の名は、大太刀布都御魂ふつのみたま。はるか東の国より伝えられたデスティリア侯爵家現当主の証さ」

「へぇ、それはすごい。じゃあ、ちょっと急いでるんで始めましょうか」

「ははは、冷たいな」

 苦笑するアスカードは、再び大太刀布都御魂ふつのみたまを鞘に戻した。
 そっと柄の部分に手を添え、重心を下げる。

「本気でいきますよ」

「ああ、僕もだ」

 その瞬間、アスカードが舞台を駆け抜けた。
 まさに砲弾の如し。ただ一直線に迫り来る。

「抜刀術、朧月夜おぼろづきよ!」

 即座に布都御魂ふつのみたまを抜刀させ、俺のルーンソードとぶつかり合った。

 その時、アスカードが放つ蒼白色の闘気が胴長の龍を具現化させた。
 布都御魂ふつのみたまに纏わり付き、一気に俺に向けて牙を突き立てる。
 咄嗟に短槍コルセスカを掲げた俺は、龍の牙を防ぐ。

「隙あり、かな」

 左手を伸ばしたアスカードが衝撃波を生み出すと、直撃を食らった俺は勢いよく吹き飛ばされた。

「……痛ってえ。今までの勇者科ブレイブとは格が違いすぎるだろ」

 だが、追撃さえ仕掛けなかったアスカードは、布都御魂ふつのみたまを鞘に戻して微笑んでいた。
 別格とは聞いていたが、まさかここまで強かったとは。

「さあ、次は君の番だ。闘気の力を見せてごらん」

「言ったでしょ、時間が惜しいって。言われなくても、見せてやりますよ」

 ルーンソードを構えた俺は、コルセスカを背中の留め具に戻す。
 そして全身に闘気の力を滾らせていく。

「行くぞ! バーティカルアサルト!!」

 瞬時にアスカードに接近し、横薙ぎに一閃。
 同時に左手から闘気の波動を解き放ち、アスカードの腹に叩き込む。

「ぶっ飛べぇーっ!」

 破裂したように衝撃波を撃ち出し、アスカードもろとも吹き飛ばした。
 更に真上へと飛び上がり、無数の剣閃を撃ち込む。
 舞い上がる粉塵がアスカードの姿を消し去っていく。

「いやいや、今のは本当に驚いたよ。大した技だね」

 ゆらゆらと砂塵が揺らぐ中、平然と歩くアスカード。
 掠り傷ひとつなく、変わらずの笑顔で。

「参ったな、今のを全部捌かれるなんて」

 予測を上回る強敵を前に、自然と笑みが引きつる。
 アスカードの基礎魔力は段違いに高い。
 それは即ち、誰もが常に纏っている魔力障壁がより強固だという事。
 加えて常人放れした身体能力も合わされば、攻守共に優れたものになるだろう。

「さすがに君の闘気拳までは回避できなかったよ。うん、上手く力を使いこなしているね」

「それはどうも」

「ははは。それじゃあ、今度は僕の番だ!」

 再び駆け出した俺とアスカード。余す事なく舞台を駆け、剣を交えた。
 ルーンソードを振り上げ、コルセスカを突き出す。
 魔法を駆使させるアスカードは布都御魂ふつのみたまで強襲する。

「ところで君は、いつから闘気を操れるようになったの?」

「戦闘中にお喋りとは、ずいぶん余裕みたいですね」

 熾烈な攻防を繰り広げる中、平然と語りかけてくるアスカード。
 どうやら、本当の目的はこれだったらしい。穏やかな面を保ってはいるが、明らかに雰囲気が変わったのが良い証拠だ。

「小さい頃の僕は身体が弱かったんだ。それに、右眼も見えなくてね」

「へぇ、先輩の瞳の色が左右で違うのは、それと関係が?」

「あぁ、そうさ。先天性白内障と言われる病でね。治癒魔法では病などが治せない事は周知。だから僕は、本来・・なら生涯その病と付き合っていかなければならなかったんだ」

 アスカードの話には、嘘や偽りなどないのだろう。
 実際彼の左眼は藍色だが、右眼は赤銅色。
 明らかに不自然な瞳だが、最も不自然なのは……。

「何かが起きて視力が戻った。そういう事ですか」

 そう。今のアスカードには、しっかりと両眼が見えている。
 その瞳は逐一俺の動向を追いかけ、捉えて離さないのだから。

「……幼少の頃、ある村に訪れていた時だった。近くの森を探索していた僕は、一人の女性に出会った。その女性はとても不思議な雰囲気で、子供の感性ですら神秘的だと感じたよ」

 試合の最中に思い出話をしているアスカードは、まるで太刀筋が鈍っていない。
 比べて俺は真剣に戦っているのに、全く隙が見つからないとは。
 その理由は、アスカードの話を聞き流せないからだ。
 頭の中に直接語りかけられているような、まるで脳内で響き渡るようにさえ感じる。

「彼女は精霊だったんだ」

「……精霊」

 唐突に発せられたその言葉で、俺は我に返った。
 アスカードの発した単語ワードは、常識の範疇を超えていたのだから。

 精霊とは実態を持たない幽体アストラルのようなもの。
 存在自体が曖昧とされ、学者や宗教の信奉者の間で何度も議論されているが、未だに決着がついてはいない。
 実在するのか、ただの幻想なのか、そのどちらも証明できるだけの材料を持ち合わせていないからだ。

「……精霊は実在するよ。現に僕は、精霊に右眼を治してもらったから。いや、正しくは創り変えられた、かな」

「……そして闘気を操れるようになった。そういう事ですか」

 アスカードは静かに頷く。

「さっきの質問に戻そうか。君は、なぜ闘気を使えるんだい?」

「……。」

「君も出会っているんじゃないのか? 精霊に」

 少しの間、記憶を呼び起こす。

「……いいや、俺の記憶の中では、少なくとも精霊なんてものとは会ってませんね」

 首を横に振り、そう言う。

「……そうか。なら、本当に僕と同じ精霊の力なのか、試させてもらおうか!」

 ついに本気を見せたアスカードは、布都御魂ふつのみたまを鞘に納めて重心を下げた。

「あぁ、いいですよ。どっちにしろあんたを倒すつもりだったんだ。探り合いは終わりだ」

 ルーンソードを構え直した俺は、コルセスカへ魔力を注ぎ込んだ。

氷結剣魔法アイスブランド! 氷結槍魔法コールドジャベリン!」

 両手の武器に氷結魔法を施し、アスカードに狙いを定める。

「抜刀術、閻魔えんま

 魔力を開放したアスカードもまた、鞘に納めた布都御魂ふつのみたまに業火を帯びさせた。

「「 行くぞっ!! 」」

 二人が同時に駆け出し、互いに蒼白色の闘気を放つ。
 俺もアスカードも地面を激しく蹴り、一気に速度を上げた。

鬼灯ほおづき流奥義! 霧氷雪月花むひょうせつげっか!」

 ルーンソードから絶対零度の剣圧を放ち、空に舞い散る雪の如くコルセスカで無限の突きを繰り出す。

「抜刀術! 煉獄咬龍覇れんごくこうりゅうは!」

 アスカードは神速で布都御魂ふつのみたまを抜刀させ、刀身から煉獄の焔を繰り出す。
 煉獄の龍を顕現させると、俺が放つ闘気の弧月に食らいつかせた。

「くっ! なんて威力だ!」

 俺が放った氷の一撃は、アスカードを大きな雪の結晶の中へと閉じ込めた。

「まずいな。この炎、消えないのか」

 同じくして燃えさかる煉獄の焔に閉じ込められた俺は、氷の刃で辛うじて延焼を防ぐ。
 そして力の限りルーンソードを振り上げ、ついに炎を振り払った。

「なかなかやるね、ミスト君」

 そう言って、闘気を纏った拳で氷の結晶を砕くアスカード。
 互いに負傷を免れなかったが、平然と舞台に立ち続けていた。

 その時、ルーンソードに小さな亀裂が走っていった。
 粉々に砕け、無惨に散るルーンソード。
 静かに柄を見つめる俺は、そっと額に重ねた。

「やっぱり限界だったか。乱暴に扱って、ごめん」

 そんな俺を見つめていたアスカードは、殺気と共に布都御魂ふつのみたまを鞘に納めた。

「……まだ、やるのかい?」

「……そうですね。ここで退いたら、ルーンソードこいつに顔向けできないんで」

「わかった。僕も弔いに付き合おう」

 再び構える俺達は、闘気と魔力を練り上げていった。

『オフィーリア先生!』

 その時、数名の教員達が慌ただしく舞台へと駆け上がってきた。
 一体何があったのか、当然のように会場がどよめく。
 そんな中、主審のオフィーリアに小声で何かを伝えるカイン先生。
 次第にオフィーリアの表情が曇り、顔を上げた。

「試合は中断します! 至急、二人は救護室まで来なさい!」

 救護室で何かあったのだろうか。
 そう思い、アスカードと目が合う。 
 ……まさか、ローレライとルーシアに何かあったのだろうか。

 試合の前から嫌な予感はしていたのに。
  なぜ俺は、ローレライを一人にしてしまったのだろう。
 なぜ俺は、こんな時にローレライの笑顔を思い出してしまうのだろう。
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