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第三章 王立学園━大魔剣闘技祭━
二十一話 殺意の理由
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フリージアの襲撃により、瀕死の傷を負ってしまった私。
朦朧とした意識の中でルーシアの幻覚を見ていた。
「……違う。ルーシア、じゃない」
窮地を救ってくれた人物は確かに王立グランフィリア学園の制服を着ていた。
でも、ルーシアではない。
次第に見えてきたその容姿は、薄水色の髪を左右に下ろした女性で金色のティアラを頭に乗せていたのだから。
そして最もルーシアと異なるのは、彼女にはエルフ族特有の長い耳。
私は、この人を知っている。
大魔剣闘技祭よりももっと前から、彼女とは出会っていたのだから。
『そちらのフリージア、貴方のお相手をする前に少しばかりお時間をいただいても?』
フリージアに向け、丁寧に同意を求めるその女性。
優しい声色のはずなのに、自然と殺気さえ感じさせる。
「はぁ? このわたくしに指図するなんて、それこそ無礼ですわね」
悪態を吐くフリージアは、広げた両手に深紅の瘴気を漂わせた。
囁くように詠唱を始め、狙いを定める。
『行きますわよ、ミスティルテイン』
薄水色の髪の女性が右手を伸ばすと、光輝く白銀の長剣が突然その手に収まった。
その刹那、一瞬でフリージアの目の前に現れ、白銀の剣を振りかざす。
「ちっ、血の気の多い女ですわね!」
瞬時に反応したフリージアは、紫色の結界を張りめぐらせた。
しかし結界ごと激しく叩き斬られたフリージアは、近くの森へと弾き飛ばされていった。
『フフッ、遅いですわ』
そう小さく微笑み、薄水色の髪の女性は私の前で両ひざを突いた。
白く細い腕で乱れた私の制服を整えてくれる。
「姫様、遅れてしまい申し訳ございません。もう大丈夫ですわ」
「あの、どうしてここが、わかったんですか?」
『そのお話は後ほど。さあ、傷を癒して差し上げましょう」
そう言って私の腹部に手を添えると、魔力を手のひらへと集中させる。
『愛の主神アフロディーテ、全てを愛せ。全快治癒魔法』
瞬く間に傷痕が消え、私の全身を癒す彼女の魔法。
彼女が唱えたのは、治癒魔法の中でも上位の魔法だ。たとえ王立学園の生徒と言えど、使用できる人なんてまずいないと思っていたのに。
「ご挨拶が遅れましたわ。私の名は、シエラ・ミント・グラディウスと申します」
「お久しぶりです、シエラさん。本当に助かりました」
シエラさんは笑顔で返事を返し、再び立ち上がった。
「私は後始末をつけて参りますので、姫様は今しばらくお待ちください」
遠くを見つめるシエラさんは、そう告げて歩き出していった。
「あぁ……よくもやってくれましたわね。少しだけ、苛つきましたわ」
森の奥から反響するのは、フリージアの怒りの声。両腕をだらりと下げながら、ゆらゆらとこちらへ近づいてくる。
その赤い瞳には、深紅の殺意を灯らせていた。
「いらっしゃい、ティルヴィング、ダーインスレイヴ」
フリージアの両手に紫色の霧が立ち込めていくと、次第に剣の形へと変化していく。
両手に現れた二本の剣は、凝血塊のような深紅の細剣と赤い障気を纏った長剣だった。
禍々しくも繊細な装飾が柄に施され、研ぎ澄まされた刃が怪しく煌めいていて。
「フフッ、まさか魔剣を従えていたとは。多少は楽しめそうですわね」
「はぁ? 余裕ぶっていられるのも、今のうちですわよ」
「受けて立ちましょう。私の聖剣ミスティルテインと貴方の魔剣も、さぞかし喧嘩をしたいでしょうから」
シエラさんもまた、右手に集めた白銀の粒子で長剣を作り出した。
魔剣とは対称的に、白く輝く聖剣を。
「行きますわよ。ミスティルテイン」
「さあ、ぶち殺して差し上げますわ!」
二人はとてつもない速さで駆け、同時にぶつかり合い、剣を重ねた。
波紋のように土煙が舞い、肉眼では捉えきれない速度で衝撃音を鳴り響かせる。
「あらあら、お姉さんったら意外とやりますわね」
「フフッ、お嬢さんこそ。ここまで動けるとは思いませんでしたわ」
仕切り直すように姿を見せたシエラさんとフリージアは、互いに剣を振り払い、付着した血を払い飛ばす。
冷静さを保つ二人の肩からは、血が滲んでいた。
「貫きなさい。コンスタンティアス!」
ミスティルテインを地面に突き刺したシエラさんは、膨大な魔力を注ぎ込んだ。
次々と岩の棘が突き上がり、何度もフリージアを襲う。
四方から突き上がる岩を躱わしても、また次の岩が隆起してくる。
「くっ! 図に乗るなぁーっ!」
大声で叫び怒りを露にするフリージア。
迫り来る巨岩の棘を前に、魔剣を交差に掲げた。
「凍えろぉーっ! アルデバラン!」
二本の魔剣を振り下ろすフリージアは、十文字の斬撃を飛ばした。
極寒の冷気を纏う斬撃が、瞬く間に巨岩の棘を粉砕させていく。
「雑魚エルフさん、この程度の技でわたくしを倒せる訳がないでしょう?」
余裕の笑みを浮かべたフリージアが、ゆっくりとシエラさんへ振り返る。
しかし、いつの間にかシエラさんの姿は消えていた。
「残念、ここですわ」
突然背後に現れたシエラさん。
すかさずミスティルテインを振りかざし、フリージアを捉えた。
背中を斬られながらも飛び退き、再び身構えるフリージア。
「このくそエルフ、殺さないように手加減してあげていましたが、もう許しませんわ」
「フフッ。ずいぶんと威勢の良い仔犬ですわね。もう少し調教が必要でしょうか」
涼しげに微笑むシエラさんと、怒りで八重歯を見せるフリージア。
同時に歩きだし、間近で睨み合う。
「……あぁ? 今度は何ですの?」
いち早く何かに気付いたフリージアが、遠くの空を眺めた。
暫くして聞こえてくるのは、甲高い風切り音。
そして遠くの木々がざわざわと揺らめき、大気が振動する。
その正体は、オフィーリアだ。
「みんな、しっかり掴まって!」
私達に気が付いた飛竜は、空高く舞い上がり高度を上げた。
「ま、待て待て! 落ちる! 落ちるって!」
「ちょっ、先生! ゆっくり降りてくれないか!」
その直後、翼を畳んだ飛竜は音速で急降下した。
心なしか、悲鳴も聞こえてきているけれど。
飛竜は右腕を前に突き出し、フリージアめがけて高速の体当たりを繰り出した。
「鬱陶しい蜥蜴女がっ!」
フリージアは二本の魔剣を構え、飛竜の鉤爪を防ぐ。
しかし、少女一人の体重で飛竜の一撃を受け止められる訳もなく、吹き飛ばされたフリージアはそのまま地面に叩きつけられた。
「ローレライ! 良かった、無事だったのね!」
すぐさま駆け付けてきてくれたのは、今度こそ本物のルーシアだった。
気が付けば、ミストとアスカードさんも私を庇うように立ってくれていて。
「あらあら、この人数差では少々分が悪いですわね」
両膝を突いたフリージアは、そう言って私達の顔を確かめる。
シエラさんと互角の戦闘を繰り広げていたフリージア。
それが今では、明らかに多勢に無勢だ。
「フリージア、こんな事はもうやめなさい。王族を根絶やしにするなんて、何の意味もないわ」
人の姿へと戻ったオフィーリアは、座り込むフリージアの元へと歩み出す。
そんなフリージアも、特に身構える事なくオフィーリアを見つめる。
「……別に意味も大義も求めてなんかいませんわ。わたくしは、自分の気持ちに素直になっているだけですから」
「そんな事ない。本当の貴方は、もっと明るくて優しい子だったはずよ」
「はぁ? 何を知ったような口ぶりを。わたくしの事なんて、何も知らない癖に」
不貞腐れたように目を反らすフリージア。
なぜだか、彼女の雰囲気が変わったようにも思える。
まるで親に叱られている子供みたいに。
「私なら、きっと貴方の力になれるわ。だからこの手を取りなさい」
それでも真剣な眼差しを向けるオフィーリアは、フリージアの前に手を差しのべた。
しばらく黙り込むフリージアは、じっとその手を見つめていて。
フリージアが今、何を思っているのかはわからない。これまでにどんな人生を歩んできたのかも。
もしかしたら、本当はオフィーリアの言うとおりなのかもしれない。
本来のフリージアを失った理由があるのかもしれない。
「……今日のところは退かせてもらいますわ。ですが、必ず聖王の血を引く者共を根絶やしにします。そこのお姫様も、時が来れば」
「フリージア!」
オフィーリアの手を掴む事はなく、フリージアは自らの足で立ち上がった。
何かの合図を送ったのか、どこからともなく大鷲が舞い降りてくる。
「良い子ですわね」
そう言って大鷲の頭を撫で、私達へと振り返るフリージア。
「それでは皆様、ごきげんよう」
ワンピースの裾を両手で掴み、頭を下げる。
そんなフリージアの姿を、私達はただ見つめていた。
去り行く後ろ姿を、誰一人追う事もなく。
だって、最後に見た彼女はとても寂しそうに笑っていたのだから……。
朦朧とした意識の中でルーシアの幻覚を見ていた。
「……違う。ルーシア、じゃない」
窮地を救ってくれた人物は確かに王立グランフィリア学園の制服を着ていた。
でも、ルーシアではない。
次第に見えてきたその容姿は、薄水色の髪を左右に下ろした女性で金色のティアラを頭に乗せていたのだから。
そして最もルーシアと異なるのは、彼女にはエルフ族特有の長い耳。
私は、この人を知っている。
大魔剣闘技祭よりももっと前から、彼女とは出会っていたのだから。
『そちらのフリージア、貴方のお相手をする前に少しばかりお時間をいただいても?』
フリージアに向け、丁寧に同意を求めるその女性。
優しい声色のはずなのに、自然と殺気さえ感じさせる。
「はぁ? このわたくしに指図するなんて、それこそ無礼ですわね」
悪態を吐くフリージアは、広げた両手に深紅の瘴気を漂わせた。
囁くように詠唱を始め、狙いを定める。
『行きますわよ、ミスティルテイン』
薄水色の髪の女性が右手を伸ばすと、光輝く白銀の長剣が突然その手に収まった。
その刹那、一瞬でフリージアの目の前に現れ、白銀の剣を振りかざす。
「ちっ、血の気の多い女ですわね!」
瞬時に反応したフリージアは、紫色の結界を張りめぐらせた。
しかし結界ごと激しく叩き斬られたフリージアは、近くの森へと弾き飛ばされていった。
『フフッ、遅いですわ』
そう小さく微笑み、薄水色の髪の女性は私の前で両ひざを突いた。
白く細い腕で乱れた私の制服を整えてくれる。
「姫様、遅れてしまい申し訳ございません。もう大丈夫ですわ」
「あの、どうしてここが、わかったんですか?」
『そのお話は後ほど。さあ、傷を癒して差し上げましょう」
そう言って私の腹部に手を添えると、魔力を手のひらへと集中させる。
『愛の主神アフロディーテ、全てを愛せ。全快治癒魔法』
瞬く間に傷痕が消え、私の全身を癒す彼女の魔法。
彼女が唱えたのは、治癒魔法の中でも上位の魔法だ。たとえ王立学園の生徒と言えど、使用できる人なんてまずいないと思っていたのに。
「ご挨拶が遅れましたわ。私の名は、シエラ・ミント・グラディウスと申します」
「お久しぶりです、シエラさん。本当に助かりました」
シエラさんは笑顔で返事を返し、再び立ち上がった。
「私は後始末をつけて参りますので、姫様は今しばらくお待ちください」
遠くを見つめるシエラさんは、そう告げて歩き出していった。
「あぁ……よくもやってくれましたわね。少しだけ、苛つきましたわ」
森の奥から反響するのは、フリージアの怒りの声。両腕をだらりと下げながら、ゆらゆらとこちらへ近づいてくる。
その赤い瞳には、深紅の殺意を灯らせていた。
「いらっしゃい、ティルヴィング、ダーインスレイヴ」
フリージアの両手に紫色の霧が立ち込めていくと、次第に剣の形へと変化していく。
両手に現れた二本の剣は、凝血塊のような深紅の細剣と赤い障気を纏った長剣だった。
禍々しくも繊細な装飾が柄に施され、研ぎ澄まされた刃が怪しく煌めいていて。
「フフッ、まさか魔剣を従えていたとは。多少は楽しめそうですわね」
「はぁ? 余裕ぶっていられるのも、今のうちですわよ」
「受けて立ちましょう。私の聖剣ミスティルテインと貴方の魔剣も、さぞかし喧嘩をしたいでしょうから」
シエラさんもまた、右手に集めた白銀の粒子で長剣を作り出した。
魔剣とは対称的に、白く輝く聖剣を。
「行きますわよ。ミスティルテイン」
「さあ、ぶち殺して差し上げますわ!」
二人はとてつもない速さで駆け、同時にぶつかり合い、剣を重ねた。
波紋のように土煙が舞い、肉眼では捉えきれない速度で衝撃音を鳴り響かせる。
「あらあら、お姉さんったら意外とやりますわね」
「フフッ、お嬢さんこそ。ここまで動けるとは思いませんでしたわ」
仕切り直すように姿を見せたシエラさんとフリージアは、互いに剣を振り払い、付着した血を払い飛ばす。
冷静さを保つ二人の肩からは、血が滲んでいた。
「貫きなさい。コンスタンティアス!」
ミスティルテインを地面に突き刺したシエラさんは、膨大な魔力を注ぎ込んだ。
次々と岩の棘が突き上がり、何度もフリージアを襲う。
四方から突き上がる岩を躱わしても、また次の岩が隆起してくる。
「くっ! 図に乗るなぁーっ!」
大声で叫び怒りを露にするフリージア。
迫り来る巨岩の棘を前に、魔剣を交差に掲げた。
「凍えろぉーっ! アルデバラン!」
二本の魔剣を振り下ろすフリージアは、十文字の斬撃を飛ばした。
極寒の冷気を纏う斬撃が、瞬く間に巨岩の棘を粉砕させていく。
「雑魚エルフさん、この程度の技でわたくしを倒せる訳がないでしょう?」
余裕の笑みを浮かべたフリージアが、ゆっくりとシエラさんへ振り返る。
しかし、いつの間にかシエラさんの姿は消えていた。
「残念、ここですわ」
突然背後に現れたシエラさん。
すかさずミスティルテインを振りかざし、フリージアを捉えた。
背中を斬られながらも飛び退き、再び身構えるフリージア。
「このくそエルフ、殺さないように手加減してあげていましたが、もう許しませんわ」
「フフッ。ずいぶんと威勢の良い仔犬ですわね。もう少し調教が必要でしょうか」
涼しげに微笑むシエラさんと、怒りで八重歯を見せるフリージア。
同時に歩きだし、間近で睨み合う。
「……あぁ? 今度は何ですの?」
いち早く何かに気付いたフリージアが、遠くの空を眺めた。
暫くして聞こえてくるのは、甲高い風切り音。
そして遠くの木々がざわざわと揺らめき、大気が振動する。
その正体は、オフィーリアだ。
「みんな、しっかり掴まって!」
私達に気が付いた飛竜は、空高く舞い上がり高度を上げた。
「ま、待て待て! 落ちる! 落ちるって!」
「ちょっ、先生! ゆっくり降りてくれないか!」
その直後、翼を畳んだ飛竜は音速で急降下した。
心なしか、悲鳴も聞こえてきているけれど。
飛竜は右腕を前に突き出し、フリージアめがけて高速の体当たりを繰り出した。
「鬱陶しい蜥蜴女がっ!」
フリージアは二本の魔剣を構え、飛竜の鉤爪を防ぐ。
しかし、少女一人の体重で飛竜の一撃を受け止められる訳もなく、吹き飛ばされたフリージアはそのまま地面に叩きつけられた。
「ローレライ! 良かった、無事だったのね!」
すぐさま駆け付けてきてくれたのは、今度こそ本物のルーシアだった。
気が付けば、ミストとアスカードさんも私を庇うように立ってくれていて。
「あらあら、この人数差では少々分が悪いですわね」
両膝を突いたフリージアは、そう言って私達の顔を確かめる。
シエラさんと互角の戦闘を繰り広げていたフリージア。
それが今では、明らかに多勢に無勢だ。
「フリージア、こんな事はもうやめなさい。王族を根絶やしにするなんて、何の意味もないわ」
人の姿へと戻ったオフィーリアは、座り込むフリージアの元へと歩み出す。
そんなフリージアも、特に身構える事なくオフィーリアを見つめる。
「……別に意味も大義も求めてなんかいませんわ。わたくしは、自分の気持ちに素直になっているだけですから」
「そんな事ない。本当の貴方は、もっと明るくて優しい子だったはずよ」
「はぁ? 何を知ったような口ぶりを。わたくしの事なんて、何も知らない癖に」
不貞腐れたように目を反らすフリージア。
なぜだか、彼女の雰囲気が変わったようにも思える。
まるで親に叱られている子供みたいに。
「私なら、きっと貴方の力になれるわ。だからこの手を取りなさい」
それでも真剣な眼差しを向けるオフィーリアは、フリージアの前に手を差しのべた。
しばらく黙り込むフリージアは、じっとその手を見つめていて。
フリージアが今、何を思っているのかはわからない。これまでにどんな人生を歩んできたのかも。
もしかしたら、本当はオフィーリアの言うとおりなのかもしれない。
本来のフリージアを失った理由があるのかもしれない。
「……今日のところは退かせてもらいますわ。ですが、必ず聖王の血を引く者共を根絶やしにします。そこのお姫様も、時が来れば」
「フリージア!」
オフィーリアの手を掴む事はなく、フリージアは自らの足で立ち上がった。
何かの合図を送ったのか、どこからともなく大鷲が舞い降りてくる。
「良い子ですわね」
そう言って大鷲の頭を撫で、私達へと振り返るフリージア。
「それでは皆様、ごきげんよう」
ワンピースの裾を両手で掴み、頭を下げる。
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