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第四章 雪原の森 リバースノウ
一話 波乱の朝
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波乱に満ちた大舞踏学園祭。
平凡などという言葉を消し去るほど、本当に色々な事が起きた二日間だった。
それが原因なのか、今朝の俺は悪夢に魘されていた。
目に見えない何かに身体を押さえ付けられ、身動きが取れない悪夢を。
そう。これが金縛りだ。
「……なんで?」
全闘気を瞼に集結させ、渾身の力で悪夢から覚めた俺。
その悪夢の原因は、明らかに目の前にいる悪魔と邪竜のせいなのだろう。
一体なんの思惑があるのか、この二人は布団に巻かれた俺を縄で縛りあげているが。
「オフィーリアさん、締め付け具合はこのくらいでいいかしら」
「ええ、平気ですよ。これ以上やると、むしろ圧迫死してしまうかもしれないわ」
すでに目を覚ましている俺に構わず、ルーシアの怪力が更に縄を締める。
全く事態を掴めていない俺は、ただただルーシアのひた向きな姿に感心していた。
「ミスト、おはよう」
「……いや、なんでローレライはそこにいんの?」
ぎこちなく微笑み、朝の挨拶をしてくるローレライ。
なぜか部屋の隅で正座をさせられていて、縮こまるように爪先をむずむずと動かしている。
……足が痺れてきているって、何時間前から正座しているのだろうか。
「あの、ルーシアさん。なんで俺の事縛ってんの?」
「焼く為よ」
「だからなんでだよ」
唸るように低い声のルーシア。
全く説明になっていないが。
「ミストさん、昨日の夜はローレライと二人で何をしていたのですか?」
「焼却されたくなかったら正直に言いなさい」
そういう事か。ルーシアとオフィーリアの奇行の理由は、昨日の夜に俺達が抜け出したから怒っているのか。
確かに軽率な行動だったかもしれない。
どこに新たな刺客がいても、そうおかしくない状況なのだから。
「ローレライが寝つけないみたいだったから、近くの森まで散歩にしてたんだよ。本当に浅はかだった。ごめん」
「ミストの言うとおり、ほ、ほんとだよ? あっ、本当です……」
異様に怯えるローレライは、二人の放つ威圧感に負けてすくんでしまう。
敬語で言い直すほどとは、さっきまで相当叱られていたのだろう。
「まあ、いいです。ルーシアさん、とりあえず仮釈放してあげましょう。今は時間が惜しいわ」
「そうですね。執行猶予を与えてあげますか」
一応は納得してもらえたのか、ついに解放された俺。
長時間もの間柱に括り付けられて直立不動だった為か、全身が強張って床に倒れてしまう。
そしてローレライも足を崩し、足を揉みほぐす。相当辛かったのか、寝間着の中が見えている事さえ顧みずに。
「で? 何か言う事はないの?」
「えっ?」
俺の前に屈むルーシアは、作り笑顔でそう言う。
「ミストさん、解放してもらえたら何て言うの?」
「え? 外の世界の空気は、うめぇぜ?」
「違う!」
「脳天幹竹割り!」
初めからそうするつもりだったのか、準備万端だったルーシアの烈火掌とオフィーリアの踵落としが俺の頭蓋を粉砕した。
その後、俺とローレライは正座で弁明と謝罪をさせられ、ようやくこの件は解決したのだが……。
━ドリアス・王立学園━
飛竜のお陰で、あっという間に王立学園に到着した俺達。
学園の理事長に謁見する為に訪れたのだが、休校日にも関わらず何やら学園内が騒がしい。
「……あの紋章は、中央騎士団の者ですね。みんな、あまり目立たないようにしてちょうだい」
オフィーリアの視線の先には、数名の騎士が巡回をしていた。
道行く寮生に声をかけ、学園内をくまなく見て回っているようだが。
オフィーリアの話によると、昨日の大魔剣闘技祭は完全に中止となったそうだ。
サイフォンの暗躍により多数の負傷者を出した事と、渦中のサイフォンが殺害されたのだから。
その一連の出来事が非常事態と見なされ、中央騎士団が調査に動いている。
敵が判明していない今、ローレライの存在を騎士団に知られる訳にはいかない。
なら、ここは大人しくしておくのが得策か。
「オフィーリア、理事長に会うのにどうして俺達まで連れてきたんだ?」
「本当は私一人でこの件を片付けるつもりだったんですが、少し事情が変わったの。理事長にセリアンスロープについて調べてもらっていたんですが、当初よりも事態が緊迫していますから」
犬の獣人族という事は、フリージアに繋がる手掛かりか。
王家の転覆を狙う公爵とは別の敵勢力であり、昨日の襲撃でローレライの所在も知られている相手。
確かに悠長にはしていられないか。
「それと、ミストさんが大魔剣闘技祭の反省文を提出する為に連れてきました」
「あっ、忘れてた……」
「はぁ、やっぱりですか。ミストさんの筆跡を真似て書いておいたんで、これをカイン先生に渡してきなさい」
ため息混じりのオフィーリアは、二枚の原稿用紙を俺に手渡してきた。
さすがは俺の担任。
その筆跡は俺でも区別がつかないほどの汚さで、適度な誤字や馬鹿っぽさのある俺らしい文章だ。
そんなオフィーリアの優しさに、思わず感極まる俺。
……ありがとう、優竜。
「ウフフフ。どういたしまして」
喜ぶ俺の顔を見て、嬉しそうに微笑むオフィーリア。
……いや、この小竜は本当に心が読めるではないだろうか。
「言っておきますけど、私に人の心の声を聴く能力はありませんから。ミストさんの思考が表情に出まくっているだけですよ」
あっ、そういう事?
「それって読心術って言うんですよね? 私はできないですけど」
「私も、ミストになら読心術を使えるよ。ルーシアのスカートの中を、凝視してる時とか」
無邪気に微笑むローレライは、唐突にとんでもない事を言う。
「あっはっはっは! いやいやいや、ローレライさんはまだ寝惚けているみたいだ。寝言は寝てから言おう……ねっ!」
渾身の眼力でローレライを見つめ、余計な事を言うなと訴える。
「フフフ、大丈夫だよ。ちゃんと起きてるから」
相変わらずその意図を理解できないローレライは、首を傾げながら微笑み返す。
そんな彼女の仕草さに心を惹き付けられては、何も言えない。
しかし、このローレライにはしっかり教育しないといけない。
いつどこで爆弾を投下してくるのかわからないのだから、胃腸に悪すぎる。
コンコンコン。
「ドギーマン、入りますよ」
職員室でカイン先生に反省文を渡し終え、学園に来た理由を偽装した俺達。
早速本題である理事長室へ訪れていた。
『オフィーリアかね? どうぞ。入りたまえ』
壮年のような野太い男性の声に促され、その扉を開いた。
「フフッ、皆様、お待ちしていましたわ」
室内にはシエラとアスカードが待ち構えており、更にはグローインの姿まで。
オフィーリアが驚いていないという事は、恐らく昨夜のうちに話をしていたのだろう。
『わざわざ足を運んでもらってすまないね、ローレライ姫。ようこそ、グランフィリア学園へ』
再び男性の声が聞こえると、俺達に背を向けていた椅子がくるりとこちらへと回った。
なんと、そこに座っていた男性とは……。
「お久しぶりです。魔女さ……ゲイちゃん」
柔らかに微笑み、そう挨拶を交わすローレライ。
そう。そこにいたのは予想外にもゲイボルグだった。
珍しく正装を着ているようだが、なぜか雰囲気も落ち着いている。
もしかしたらこれが本来のゲイちゃんで、王女との謁見の為に畏まっているだけなのか。
『おや? もしや姫様は、ゲイボルグを知っているのかな?』
この反応から察するに、どうやらゲイちゃんとは別人のようだ。
まぁ、知人であるのは間違いなさそうだが。
という事は、やはりこの男が理事長か。
「ふむ、そうだったのか。ゲイボルグは私のおと……妹なんだが、とにかく寂しがりな奴だ。これからも仲良くやってくれたまえ」
俺達とゲイボルグの馴れ初めを聞くと、嬉しそうにそう答えるドギーマン。
しかし、確実に弟だと言いかけていたような……。
っていうか、ゲイボルグの性別を誤魔化す必要性など無いだろう。
「さあ、自己紹介も済んだところで本題に移ろうか」
テーブルに肘を突くドギーマンは、視線でシエラに合図を送る。
「セリアンスロープの話をする前に、まず先に言っておきたい事がある」
シエラが置いた資料を捲り、事務的に切り出すドギーマン。
淡々と話す彼の口調が、かえって緊張感を芽生えさせる。
「敵の勢力に対して我等の陣営はごく僅かだ。だが、決して仲間を増やそうなどと安易な事は考えぬようにな。他は信用してはならない。たとえ身内だろうと」
どうしてドギーマンがそんな忠告をしたのか。
それは敵の勢力が未知数だからだ。
どこに刺客が潜んでいるのかも、報酬目当てに情報を売られるかもわからないのだから。
「……。」
隣に座るローレライは、表情を変えずに話を聞いていた。
強い眼差しで、顔を上げたまま。
俺の手を、テーブルに隠して握りながら……。
平凡などという言葉を消し去るほど、本当に色々な事が起きた二日間だった。
それが原因なのか、今朝の俺は悪夢に魘されていた。
目に見えない何かに身体を押さえ付けられ、身動きが取れない悪夢を。
そう。これが金縛りだ。
「……なんで?」
全闘気を瞼に集結させ、渾身の力で悪夢から覚めた俺。
その悪夢の原因は、明らかに目の前にいる悪魔と邪竜のせいなのだろう。
一体なんの思惑があるのか、この二人は布団に巻かれた俺を縄で縛りあげているが。
「オフィーリアさん、締め付け具合はこのくらいでいいかしら」
「ええ、平気ですよ。これ以上やると、むしろ圧迫死してしまうかもしれないわ」
すでに目を覚ましている俺に構わず、ルーシアの怪力が更に縄を締める。
全く事態を掴めていない俺は、ただただルーシアのひた向きな姿に感心していた。
「ミスト、おはよう」
「……いや、なんでローレライはそこにいんの?」
ぎこちなく微笑み、朝の挨拶をしてくるローレライ。
なぜか部屋の隅で正座をさせられていて、縮こまるように爪先をむずむずと動かしている。
……足が痺れてきているって、何時間前から正座しているのだろうか。
「あの、ルーシアさん。なんで俺の事縛ってんの?」
「焼く為よ」
「だからなんでだよ」
唸るように低い声のルーシア。
全く説明になっていないが。
「ミストさん、昨日の夜はローレライと二人で何をしていたのですか?」
「焼却されたくなかったら正直に言いなさい」
そういう事か。ルーシアとオフィーリアの奇行の理由は、昨日の夜に俺達が抜け出したから怒っているのか。
確かに軽率な行動だったかもしれない。
どこに新たな刺客がいても、そうおかしくない状況なのだから。
「ローレライが寝つけないみたいだったから、近くの森まで散歩にしてたんだよ。本当に浅はかだった。ごめん」
「ミストの言うとおり、ほ、ほんとだよ? あっ、本当です……」
異様に怯えるローレライは、二人の放つ威圧感に負けてすくんでしまう。
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「まあ、いいです。ルーシアさん、とりあえず仮釈放してあげましょう。今は時間が惜しいわ」
「そうですね。執行猶予を与えてあげますか」
一応は納得してもらえたのか、ついに解放された俺。
長時間もの間柱に括り付けられて直立不動だった為か、全身が強張って床に倒れてしまう。
そしてローレライも足を崩し、足を揉みほぐす。相当辛かったのか、寝間着の中が見えている事さえ顧みずに。
「で? 何か言う事はないの?」
「えっ?」
俺の前に屈むルーシアは、作り笑顔でそう言う。
「ミストさん、解放してもらえたら何て言うの?」
「え? 外の世界の空気は、うめぇぜ?」
「違う!」
「脳天幹竹割り!」
初めからそうするつもりだったのか、準備万端だったルーシアの烈火掌とオフィーリアの踵落としが俺の頭蓋を粉砕した。
その後、俺とローレライは正座で弁明と謝罪をさせられ、ようやくこの件は解決したのだが……。
━ドリアス・王立学園━
飛竜のお陰で、あっという間に王立学園に到着した俺達。
学園の理事長に謁見する為に訪れたのだが、休校日にも関わらず何やら学園内が騒がしい。
「……あの紋章は、中央騎士団の者ですね。みんな、あまり目立たないようにしてちょうだい」
オフィーリアの視線の先には、数名の騎士が巡回をしていた。
道行く寮生に声をかけ、学園内をくまなく見て回っているようだが。
オフィーリアの話によると、昨日の大魔剣闘技祭は完全に中止となったそうだ。
サイフォンの暗躍により多数の負傷者を出した事と、渦中のサイフォンが殺害されたのだから。
その一連の出来事が非常事態と見なされ、中央騎士団が調査に動いている。
敵が判明していない今、ローレライの存在を騎士団に知られる訳にはいかない。
なら、ここは大人しくしておくのが得策か。
「オフィーリア、理事長に会うのにどうして俺達まで連れてきたんだ?」
「本当は私一人でこの件を片付けるつもりだったんですが、少し事情が変わったの。理事長にセリアンスロープについて調べてもらっていたんですが、当初よりも事態が緊迫していますから」
犬の獣人族という事は、フリージアに繋がる手掛かりか。
王家の転覆を狙う公爵とは別の敵勢力であり、昨日の襲撃でローレライの所在も知られている相手。
確かに悠長にはしていられないか。
「それと、ミストさんが大魔剣闘技祭の反省文を提出する為に連れてきました」
「あっ、忘れてた……」
「はぁ、やっぱりですか。ミストさんの筆跡を真似て書いておいたんで、これをカイン先生に渡してきなさい」
ため息混じりのオフィーリアは、二枚の原稿用紙を俺に手渡してきた。
さすがは俺の担任。
その筆跡は俺でも区別がつかないほどの汚さで、適度な誤字や馬鹿っぽさのある俺らしい文章だ。
そんなオフィーリアの優しさに、思わず感極まる俺。
……ありがとう、優竜。
「ウフフフ。どういたしまして」
喜ぶ俺の顔を見て、嬉しそうに微笑むオフィーリア。
……いや、この小竜は本当に心が読めるではないだろうか。
「言っておきますけど、私に人の心の声を聴く能力はありませんから。ミストさんの思考が表情に出まくっているだけですよ」
あっ、そういう事?
「それって読心術って言うんですよね? 私はできないですけど」
「私も、ミストになら読心術を使えるよ。ルーシアのスカートの中を、凝視してる時とか」
無邪気に微笑むローレライは、唐突にとんでもない事を言う。
「あっはっはっは! いやいやいや、ローレライさんはまだ寝惚けているみたいだ。寝言は寝てから言おう……ねっ!」
渾身の眼力でローレライを見つめ、余計な事を言うなと訴える。
「フフフ、大丈夫だよ。ちゃんと起きてるから」
相変わらずその意図を理解できないローレライは、首を傾げながら微笑み返す。
そんな彼女の仕草さに心を惹き付けられては、何も言えない。
しかし、このローレライにはしっかり教育しないといけない。
いつどこで爆弾を投下してくるのかわからないのだから、胃腸に悪すぎる。
コンコンコン。
「ドギーマン、入りますよ」
職員室でカイン先生に反省文を渡し終え、学園に来た理由を偽装した俺達。
早速本題である理事長室へ訪れていた。
『オフィーリアかね? どうぞ。入りたまえ』
壮年のような野太い男性の声に促され、その扉を開いた。
「フフッ、皆様、お待ちしていましたわ」
室内にはシエラとアスカードが待ち構えており、更にはグローインの姿まで。
オフィーリアが驚いていないという事は、恐らく昨夜のうちに話をしていたのだろう。
『わざわざ足を運んでもらってすまないね、ローレライ姫。ようこそ、グランフィリア学園へ』
再び男性の声が聞こえると、俺達に背を向けていた椅子がくるりとこちらへと回った。
なんと、そこに座っていた男性とは……。
「お久しぶりです。魔女さ……ゲイちゃん」
柔らかに微笑み、そう挨拶を交わすローレライ。
そう。そこにいたのは予想外にもゲイボルグだった。
珍しく正装を着ているようだが、なぜか雰囲気も落ち着いている。
もしかしたらこれが本来のゲイちゃんで、王女との謁見の為に畏まっているだけなのか。
『おや? もしや姫様は、ゲイボルグを知っているのかな?』
この反応から察するに、どうやらゲイちゃんとは別人のようだ。
まぁ、知人であるのは間違いなさそうだが。
という事は、やはりこの男が理事長か。
「ふむ、そうだったのか。ゲイボルグは私のおと……妹なんだが、とにかく寂しがりな奴だ。これからも仲良くやってくれたまえ」
俺達とゲイボルグの馴れ初めを聞くと、嬉しそうにそう答えるドギーマン。
しかし、確実に弟だと言いかけていたような……。
っていうか、ゲイボルグの性別を誤魔化す必要性など無いだろう。
「さあ、自己紹介も済んだところで本題に移ろうか」
テーブルに肘を突くドギーマンは、視線でシエラに合図を送る。
「セリアンスロープの話をする前に、まず先に言っておきたい事がある」
シエラが置いた資料を捲り、事務的に切り出すドギーマン。
淡々と話す彼の口調が、かえって緊張感を芽生えさせる。
「敵の勢力に対して我等の陣営はごく僅かだ。だが、決して仲間を増やそうなどと安易な事は考えぬようにな。他は信用してはならない。たとえ身内だろうと」
どうしてドギーマンがそんな忠告をしたのか。
それは敵の勢力が未知数だからだ。
どこに刺客が潜んでいるのかも、報酬目当てに情報を売られるかもわからないのだから。
「……。」
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