3 / 17
藤森あやめは出向する(2)
しおりを挟む
練馬インターから関越道に入って一時間半。温泉街からもほど近い群馬県のとある場所に向かって、あやめは愛車であるどピンクのローズマリー号を走らせていた。
「さあ、ここが私の新しいお城ね!」
単線の駅からも遠い場所にある2LDKの家があやめの住まうアパートだ。引越し業者のトラックが表に止まる音がした。
「ちわーっ、ゾウさん印の引越し業者です」
「はーい!」
デカデカと象のマークが荷台部分についたトラックからゾロゾロと人が降りてくる。
あやめはテキパキと物の配置を指示し、アパートをあっという間にダンボールで埋め尽くした。一人暮らしの引っ越しは気楽でいい。
さてあっという間に引越しも終わってこの実岡農園に出向して勤務初日。
ちなみに社長と専務に「具体的にどんな仕事をすればいいんですか?」と尋ねたところ、「作業内容の日報、作物の育成状況、育てる作物の種類なんかを報告してくれればいいよ。実務は現場の人間が担当するから」と言われている。
ので、ひとまずあやめは現場の実岡に挨拶しに行くことにしている。
「えーっと、この辺りかしら」
カーナビに従って進んでいくも、見渡す限りの畑、畑、畑。目印も何もありはしないその場所であやめは若干迷子になっていた。
来る途中に大型スーパーやショピングセンターを見かけたが、土地の大部分は農地で覆われていた。
東京二十三区生まれ東京育ちのあやめにとっては、こうした場所は物珍しい。
「道が広くて走りやすいのね」
あいも変わらずのミルクティーブラウンのヘアーをゆるく巻き、サーモンピンクに彩られた指先でしっかりハンドルを握る。ハイヒールは運転がしづらいので足元はスニーカー、スーツの上着は助手席に置いてある。本日のスーツは、白だ。
初めての人に会う時は清楚感をアピールするために白いスーツを着込んでいく事に決めていた。二十七歳にもなると着込むスーツの形は選ぶけど、日々をヨガと、失恋以来始めたキックボクシングで鍛えているあやめの体型はモデルもかくやというほどにメリハリがついたものだった。全ては努力の賜物だ。
「あ、ここかしら」
更地になっている広大な土地の一角に車を停めて車外へと出る。ぴゅうっと吹く風に煽られて畑の土が飛び散った。
土地の真ん中で、トラクターが一台、稼働している。
「すみませーん!!」
あやめは大声を出したが、唸りを上げるトラクターの前では蚊の鳴くような細い声にしかならない。
「すみませーん!!!」
先ほどよりも大声を出すも、やはり聞こえていないようだ。
仕方がないのでトラクターが切り返して戻って来るのを待つ。
数分もした頃、こちらに気がついたらしくトラクターが近づいてきてから止まった。人が降りて来る。
「ああ、気がつかなくてすまない。えーっと君が、アジーレから来た藤森さん?」
「はい、藤森あやめと申します。実岡さん、でしょうか?」
「うん、俺は実岡 陽一郎。よろしく」
「よろしくお願いします」
実岡さんは日に焼けた肌に農業用の作業着を着て長靴を履き、首にはタオルをぶら下げていた。短く切った髪に割と整った顔立ち。笑うと笑顔が爽やかな男性だ。確か事前情報だと、東京の仕事に嫌気がさして脱サラして有機栽培の農園を始めてうちの専属契約を結んだという人物だ。ちなみに三十五歳独身。
「本日は大まかな農園の概要と作付面積、これからの作物栽培計画についてお尋ねしたいなと思っているんですけれども」
あやめはPC片手に勢い込んでそう尋ねた。実岡はやや面食らった様子を見せた後、申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「ああ、後でもいいかな。今日中に終わらせたい作業があるんだ」
「あ、そうなんですか。それは失礼しました」
「いいや、何せ一人しかいないものだからね」
「他にパートさんとかいらっしゃらないんでしょうか」
「いないよ、俺一人だ」
あやめは綺麗に土ばかりになっている土地を見回した。半分はビニールハウスが建っている。
「ちなみに土地の総面積は?」
「ざっと千坪」
「千坪……」
千坪を一人で。あやめは農業などやったことはないが、それは大変そうだなと思った。実岡は若干苛立ちを見せ、あやめに被せるように言う。
「だから後にしてもらってもいいかな。これからトラクターで土を耕すから、土埃が舞う。スーツに汚れがつくから藤森さんは家に帰っていてくれて構わないよ。事務的な話なら夕方にでもしよう」
「家に………」
「うん。赴任、今日からだろう。色々と揃えるものもあるだろうしさ」
ああ、これはやんわりと帰れと言われているなとあやめはぼんやり思った。
自分の服装を見下ろす。
真っ白いスーツに、ハイヒール。緩めに巻いた髪は肩下に降りていて、爪にはマニキュア。
あやめは全く農業というものを理解していなかったのだ。
社長に言われるまま、作業は現場の人がすればいいものだとなんとなく思い込んでいた。
しかし、確かにこんな浮ついた格好の人間がいきなり東京からやってきて偉そうにあれこれ聞き出したら作業の邪魔だろう。
あやめは出向という形であれど、実岡と共に働く仲間である。
ならばあやめも、農業に従事するべきだ。
あやめは実岡の目を見て、頷いた。
「わかった、お言葉に甘えてそうさせてもらいます。明日は何時に来ればいいですか?」
「何時でもいいよ」
「いいえ、一緒に働きたいんです。邪魔になるかもしれないけど精一杯頑張ります」
真剣に訴えると、実岡は頷いた。
「じゃ、八時にここに」
「わかりました」
言うが早いがあやめは車に乗り込んでエンジンをかける。
向かう先は新居ではない。
最近都心にも進出しつつある、ありとあらゆる作業着を揃えているweekmanだ。
+++
weekmanの店員である佐原はあくびをしながら誰もいない店内を見回し、カウンターでぼーっと肘をついていた。
暇だ。
一日に数人の来客のため、店員は常時一人である。
することもないのでひたすらに座って時が過ぎるのを待っていた。
全くもって時間の無駄であるが、これでバイト代がもらえるならば安いもんだ。
と、そこへ自動ドアが開く音がした。
「いらっしゃいませ」
反射的にドアの方を見てそう言うと、佐原は度肝を抜かれた。
そこに立っていたのは、上下を白のスーツで身を包み、10センチはあろうかと言うハイヒールの靴音を颯爽と響かせ、ゆるく巻いた髪をなびかせ、バッチリと今時の化粧を施したハイセンスな都会系女子であった。
なんだ?入る店間違えてんじゃないか?
しかしこのオシャレ女子はカウンターにまっすぐやって来ると、力強い声で言う。
「農作業着を一式、売って欲しいの」
「農作業着………ですか」
「ええ」
佐原は戸惑う。ガーデニングか何かを家で始めるのかな?
来るのは冴えないおっさんばかりのこの店舗、最近都心ではweekman女子!とか言ってオシャレっぽい作業着を売り出しているけれど、この店での需要は皆無である。レディース用品もあるにはあるが、買って行くのはおばちゃんばかりであるために売っているのは実用性重視、昔ながらの芋くさい作業着ばかりだ。
「あちらにかかっているものがレディース用品ですが、当店にあるのは機能性を重視した服ばかりでして」
「それでいいのよ!農作業者に一番の売れ筋はどれ?」
「こちらですかねぇ」
佐原は冴えないドブっぽい色の作業着を一つ、手に取った。
「撥水性に優れているため雨の日の作業でも楽チン、体の動きを邪魔しないよう各関節部にプリーツが入っています。泥が入らないように袖口、裾にゴムも入っていますよ。色も汚れが目立たない色合いです」
「いいわね!」
恐ろしくダサいその作業着を手に取って目を輝かせる都会系女子。
一周回ってよく見えるとか、そんな感じなのだろうか。それとも本当に実用性重視の服を探しているのだろうか。佐原にはよくわからない。
「あとはこれからの暑くなる季節に向けて、体内の熱を外に放出しやすい通気性に優れたこちらの作業着なんかも人気がありますね」
「それもいいわ」
「それから靴は、この泥・ホコリの侵入を防止するカバーがついた長靴なんかがよく売れています。中敷は取り外して洗えますし、軽量で歩きやすいです」
「なるほど!」
「あとは帽子」
佐原は一つの帽子を手に取った。前面のつばだけが出っ張っていて、首のところにゴムひもがついており、首の後ろの日焼け防止でひだがついている、これまた昔ながらの農家のおばちゃんが被っている類の帽子だ。
この帽子を手に取った都会系女子は目をキラキラと輝かせ、ありとあらゆる角度から眺めだした。
「すごい………!私こんなにも機能的な帽子、初めて見たわ!」
被って見て、備え付けの鏡を覗き込む。
「どうかしら?」
ゆるふわパーマの上に乗っかる、作業用帽子。
絶望的に似合わなかった。
「お似合いですよ、お客様」
心にもないことを述べる佐原に、都会系女子はにこやかな笑みを向けた。
手袋、エプロン、中に着るシャツや靴下に至るまでこの客は全てをカゴに入れて行く。
「全部三つずつ、一式もらうわ」
このたった一人のお客様で、本日の売上はあっという間に目標額へと到達した。
「いい買い物ができてよかった、次は本屋よ!」
weekmanで作業着を買い込んだあやめが元気いっぱいに次に向かった先は本屋だ。
外車で小型のローズマリー号のハンドルを駆使して本屋へと向かい、農業関連書本を吟味する。
プロが教える初めての農作業。美味しい有機野菜の作り方。図解版!土と肥料の基本。などなど。色々あったが一番わかりやすそうなものを手に取るとレジへと持っていき、新居へと向かった。
食事と入浴を済ませたあやめはピンク色のカーペットを敷いた部屋の中で天蓋付きのベッドへとダイブして買ってきた本を早速読み始める。
一ページ一ページ、しっかりと暗記するように読み込む。
あやめは見た目はアレだが真面目で努力家だった。
農家に出向するなら、農業の知識を身につけておくのは最低限必要なことだろう。そんなことにも気がつかなかったなんて、なんて馬鹿だったんだ。
「今夜は、徹夜よ」
そうつぶやいて農業書を読み込むあやめ。
こうして勤務初日の夜は更けていった。
「さあ、ここが私の新しいお城ね!」
単線の駅からも遠い場所にある2LDKの家があやめの住まうアパートだ。引越し業者のトラックが表に止まる音がした。
「ちわーっ、ゾウさん印の引越し業者です」
「はーい!」
デカデカと象のマークが荷台部分についたトラックからゾロゾロと人が降りてくる。
あやめはテキパキと物の配置を指示し、アパートをあっという間にダンボールで埋め尽くした。一人暮らしの引っ越しは気楽でいい。
さてあっという間に引越しも終わってこの実岡農園に出向して勤務初日。
ちなみに社長と専務に「具体的にどんな仕事をすればいいんですか?」と尋ねたところ、「作業内容の日報、作物の育成状況、育てる作物の種類なんかを報告してくれればいいよ。実務は現場の人間が担当するから」と言われている。
ので、ひとまずあやめは現場の実岡に挨拶しに行くことにしている。
「えーっと、この辺りかしら」
カーナビに従って進んでいくも、見渡す限りの畑、畑、畑。目印も何もありはしないその場所であやめは若干迷子になっていた。
来る途中に大型スーパーやショピングセンターを見かけたが、土地の大部分は農地で覆われていた。
東京二十三区生まれ東京育ちのあやめにとっては、こうした場所は物珍しい。
「道が広くて走りやすいのね」
あいも変わらずのミルクティーブラウンのヘアーをゆるく巻き、サーモンピンクに彩られた指先でしっかりハンドルを握る。ハイヒールは運転がしづらいので足元はスニーカー、スーツの上着は助手席に置いてある。本日のスーツは、白だ。
初めての人に会う時は清楚感をアピールするために白いスーツを着込んでいく事に決めていた。二十七歳にもなると着込むスーツの形は選ぶけど、日々をヨガと、失恋以来始めたキックボクシングで鍛えているあやめの体型はモデルもかくやというほどにメリハリがついたものだった。全ては努力の賜物だ。
「あ、ここかしら」
更地になっている広大な土地の一角に車を停めて車外へと出る。ぴゅうっと吹く風に煽られて畑の土が飛び散った。
土地の真ん中で、トラクターが一台、稼働している。
「すみませーん!!」
あやめは大声を出したが、唸りを上げるトラクターの前では蚊の鳴くような細い声にしかならない。
「すみませーん!!!」
先ほどよりも大声を出すも、やはり聞こえていないようだ。
仕方がないのでトラクターが切り返して戻って来るのを待つ。
数分もした頃、こちらに気がついたらしくトラクターが近づいてきてから止まった。人が降りて来る。
「ああ、気がつかなくてすまない。えーっと君が、アジーレから来た藤森さん?」
「はい、藤森あやめと申します。実岡さん、でしょうか?」
「うん、俺は実岡 陽一郎。よろしく」
「よろしくお願いします」
実岡さんは日に焼けた肌に農業用の作業着を着て長靴を履き、首にはタオルをぶら下げていた。短く切った髪に割と整った顔立ち。笑うと笑顔が爽やかな男性だ。確か事前情報だと、東京の仕事に嫌気がさして脱サラして有機栽培の農園を始めてうちの専属契約を結んだという人物だ。ちなみに三十五歳独身。
「本日は大まかな農園の概要と作付面積、これからの作物栽培計画についてお尋ねしたいなと思っているんですけれども」
あやめはPC片手に勢い込んでそう尋ねた。実岡はやや面食らった様子を見せた後、申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「ああ、後でもいいかな。今日中に終わらせたい作業があるんだ」
「あ、そうなんですか。それは失礼しました」
「いいや、何せ一人しかいないものだからね」
「他にパートさんとかいらっしゃらないんでしょうか」
「いないよ、俺一人だ」
あやめは綺麗に土ばかりになっている土地を見回した。半分はビニールハウスが建っている。
「ちなみに土地の総面積は?」
「ざっと千坪」
「千坪……」
千坪を一人で。あやめは農業などやったことはないが、それは大変そうだなと思った。実岡は若干苛立ちを見せ、あやめに被せるように言う。
「だから後にしてもらってもいいかな。これからトラクターで土を耕すから、土埃が舞う。スーツに汚れがつくから藤森さんは家に帰っていてくれて構わないよ。事務的な話なら夕方にでもしよう」
「家に………」
「うん。赴任、今日からだろう。色々と揃えるものもあるだろうしさ」
ああ、これはやんわりと帰れと言われているなとあやめはぼんやり思った。
自分の服装を見下ろす。
真っ白いスーツに、ハイヒール。緩めに巻いた髪は肩下に降りていて、爪にはマニキュア。
あやめは全く農業というものを理解していなかったのだ。
社長に言われるまま、作業は現場の人がすればいいものだとなんとなく思い込んでいた。
しかし、確かにこんな浮ついた格好の人間がいきなり東京からやってきて偉そうにあれこれ聞き出したら作業の邪魔だろう。
あやめは出向という形であれど、実岡と共に働く仲間である。
ならばあやめも、農業に従事するべきだ。
あやめは実岡の目を見て、頷いた。
「わかった、お言葉に甘えてそうさせてもらいます。明日は何時に来ればいいですか?」
「何時でもいいよ」
「いいえ、一緒に働きたいんです。邪魔になるかもしれないけど精一杯頑張ります」
真剣に訴えると、実岡は頷いた。
「じゃ、八時にここに」
「わかりました」
言うが早いがあやめは車に乗り込んでエンジンをかける。
向かう先は新居ではない。
最近都心にも進出しつつある、ありとあらゆる作業着を揃えているweekmanだ。
+++
weekmanの店員である佐原はあくびをしながら誰もいない店内を見回し、カウンターでぼーっと肘をついていた。
暇だ。
一日に数人の来客のため、店員は常時一人である。
することもないのでひたすらに座って時が過ぎるのを待っていた。
全くもって時間の無駄であるが、これでバイト代がもらえるならば安いもんだ。
と、そこへ自動ドアが開く音がした。
「いらっしゃいませ」
反射的にドアの方を見てそう言うと、佐原は度肝を抜かれた。
そこに立っていたのは、上下を白のスーツで身を包み、10センチはあろうかと言うハイヒールの靴音を颯爽と響かせ、ゆるく巻いた髪をなびかせ、バッチリと今時の化粧を施したハイセンスな都会系女子であった。
なんだ?入る店間違えてんじゃないか?
しかしこのオシャレ女子はカウンターにまっすぐやって来ると、力強い声で言う。
「農作業着を一式、売って欲しいの」
「農作業着………ですか」
「ええ」
佐原は戸惑う。ガーデニングか何かを家で始めるのかな?
来るのは冴えないおっさんばかりのこの店舗、最近都心ではweekman女子!とか言ってオシャレっぽい作業着を売り出しているけれど、この店での需要は皆無である。レディース用品もあるにはあるが、買って行くのはおばちゃんばかりであるために売っているのは実用性重視、昔ながらの芋くさい作業着ばかりだ。
「あちらにかかっているものがレディース用品ですが、当店にあるのは機能性を重視した服ばかりでして」
「それでいいのよ!農作業者に一番の売れ筋はどれ?」
「こちらですかねぇ」
佐原は冴えないドブっぽい色の作業着を一つ、手に取った。
「撥水性に優れているため雨の日の作業でも楽チン、体の動きを邪魔しないよう各関節部にプリーツが入っています。泥が入らないように袖口、裾にゴムも入っていますよ。色も汚れが目立たない色合いです」
「いいわね!」
恐ろしくダサいその作業着を手に取って目を輝かせる都会系女子。
一周回ってよく見えるとか、そんな感じなのだろうか。それとも本当に実用性重視の服を探しているのだろうか。佐原にはよくわからない。
「あとはこれからの暑くなる季節に向けて、体内の熱を外に放出しやすい通気性に優れたこちらの作業着なんかも人気がありますね」
「それもいいわ」
「それから靴は、この泥・ホコリの侵入を防止するカバーがついた長靴なんかがよく売れています。中敷は取り外して洗えますし、軽量で歩きやすいです」
「なるほど!」
「あとは帽子」
佐原は一つの帽子を手に取った。前面のつばだけが出っ張っていて、首のところにゴムひもがついており、首の後ろの日焼け防止でひだがついている、これまた昔ながらの農家のおばちゃんが被っている類の帽子だ。
この帽子を手に取った都会系女子は目をキラキラと輝かせ、ありとあらゆる角度から眺めだした。
「すごい………!私こんなにも機能的な帽子、初めて見たわ!」
被って見て、備え付けの鏡を覗き込む。
「どうかしら?」
ゆるふわパーマの上に乗っかる、作業用帽子。
絶望的に似合わなかった。
「お似合いですよ、お客様」
心にもないことを述べる佐原に、都会系女子はにこやかな笑みを向けた。
手袋、エプロン、中に着るシャツや靴下に至るまでこの客は全てをカゴに入れて行く。
「全部三つずつ、一式もらうわ」
このたった一人のお客様で、本日の売上はあっという間に目標額へと到達した。
「いい買い物ができてよかった、次は本屋よ!」
weekmanで作業着を買い込んだあやめが元気いっぱいに次に向かった先は本屋だ。
外車で小型のローズマリー号のハンドルを駆使して本屋へと向かい、農業関連書本を吟味する。
プロが教える初めての農作業。美味しい有機野菜の作り方。図解版!土と肥料の基本。などなど。色々あったが一番わかりやすそうなものを手に取るとレジへと持っていき、新居へと向かった。
食事と入浴を済ませたあやめはピンク色のカーペットを敷いた部屋の中で天蓋付きのベッドへとダイブして買ってきた本を早速読み始める。
一ページ一ページ、しっかりと暗記するように読み込む。
あやめは見た目はアレだが真面目で努力家だった。
農家に出向するなら、農業の知識を身につけておくのは最低限必要なことだろう。そんなことにも気がつかなかったなんて、なんて馬鹿だったんだ。
「今夜は、徹夜よ」
そうつぶやいて農業書を読み込むあやめ。
こうして勤務初日の夜は更けていった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました
雨宮羽那
恋愛
結婚して5年。リディアは悩んでいた。
夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。
ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。
どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。
そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。
すると、あら不思議。
いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。
「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」
(誰ですかあなた)
◇◇◇◇
※全3話。
※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜
『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』
星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】
経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。
なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。
「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」
階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。
全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに!
「頬が赤い。必要だ」
「君を、大事にしたい」
真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。
さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!?
これは健康管理?それとも恋愛?
――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる