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出会いはビーフシチューの味わいと共に⑧
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「っあああああ!! 明美いいぃいいいいい!!」
語り尽くした進藤は当時の事を思い出したらしく、より一層激しく慟哭した。
「僕の何がいけなかったというんだ⁉︎ あんなに愛し合ったというのに、僕を裏切るなんて……! あぁ、これは夢だと言ってくれっ、あれから半年以上経ったのに僕は未だに毎晩うなされてるんだ!!」
「成る程、つまり進藤さんはプロポーズした女性に逃げられたばかりか大切にしていたレシピまでも盗まれたというわけですね」
「そうだ!!」
「すっごい間抜けですね」
「うわあああ!」
進藤は椅子から滑り落ち、再び床を転がり出した。
なんというか、ものすごい間抜けだなと思うと同時に進藤が少し可哀想に思えてくる。
愛した女性に裏切られたのか。しかもその西黒 明美という名前に一花は聞き覚えがあった。つい数時間前にニュースで見た……中目黒のビストロ店。
しかも看板メニューはビーフシチュー。まさかね、と思うと同時に嫌な予感が胸をよぎる。振り払うように頭を振ると、床をのたうちまわる進藤に一花は話しかけた。
「話はわかりました。失恋と盗難のショックで進藤さんが今の状態になっているのも、まあ納得です。それで、お店いつから開けてないんですか?」
「言っただろう、僕がフランスから帰国したのが半年以上前……それからずっとさ」
進藤は体を起こし、くたびれ果てた顔を左右に振って言う。
「そんなに……?」
お父さんは? と聞こうとして一花は思い留まった。もし先代シェフが現状を知っていれば黙っているはずがない。きっとデリケートな問題があるのだろう。病気で引退したか、あるいは……。
そこまで考えた一花が聞こうとした質問を飲み込むと、しょげかえった進藤が床に人差し指で「の」の字を書きながら何やら言い訳を始める。
「一応これでも、店を開けようと努力はしたんだよ……食材を仕入れたり、仕込みをしたり、メニューを考えたり。だが、駄目なんだ。いざ店を開けようとすると足がすくむ。……帰国してしばらくして耳にしたニュースによると、明美は中目黒で店を始めたらしい。その店のメニューが逐一この店のものと被っていて。中には僕が考えたオリジナルのレシピまでもあった……どんどん有名になっていく明美の店は、今や行列の絶えない人気店らしい。そんな中、僕の店が開いて、メニューが酷似している事に気がつく人がいたらどうなる? 最悪僕の方が訴えられるかもしれない」
「でもレシピを盗んだのは明美さんの方でしょう」
「そうだとしても、その証拠はどこにもない!」
進藤は床に座り込んだまま、絶望に満ちた眼差しで一花を見上げた。
「明美の事だ、僕の手書きのレシピノートなんてとっくに捨てたに決まっている。そうしたら僕の店は、人気店の模倣をしているだけの二流店に成り下がってしまうんだ。そんなのは我慢がならない……せっかくここまで親父とお袋が守り抜いてきた店に、僕のせいで汚名が着せられる事だけは断じて許せない! そんな事になるくらいなら、僕はこの店を閉じる!!」
進藤の強い決心を目の当たりにし、一花はたじろいだ。進藤が言ってる事は彼のネガティブな妄想が生み出したただの仮定話である。だからと言って、馬鹿にできたものでは無い。進藤は、大切な店に変な評判がつくくらいなら閉店した方がマシだと断言している。店を愛する気持ちが痛いほど伝わってきて……一花は心を動かされた。
と、一花が進藤を見直した次の瞬間、進藤が再び情けない声を出した。
「あうううう……とはいえ、やっぱり、この店を閉じるのは嫌だあああ」
グスグスと鼻をすする進藤。呆れた一花は声をかけた。
「進藤さん」
「……何だろう……」
「店を閉じる前に、私にビーフシチューを作ってくれませんか」
「……え……だが……」
「だが、じゃなくて。ビーフシチュー作ってくださいよ。私、このお店のビーフシチューが好きなんです。久々に食べたくなって来たんですから。いいじゃないですか、店を開けなくても私に一皿、出してくれればそれでいいんです。勿論お代はきちんと払います」
「だが……僕はもう随分と、人に出せるような料理を作っていなくて……」
「じゃあ、丁度いいリハビリじゃないですか。実験台だと思って作って出して下さい」
「材料、無いし……仕込みに時間かかるし……今すぐ、って言われても、無理だし……っていうか店もこんなに汚いし、お客さんを入れる状態じゃ無いというか……」
「あーっ、もう!!」
できない理由を探してウジウジしている進藤にしびれを切らした一花はテーブルを思いっきり叩いて立ち上がった。それから怒りのままに言葉を発する。
「いつまで燻ってるつもりなんですか⁉︎ 料理人なんですから、料理作って出して下さいよ!」
「は、はひっ」
「仕込み⁉ 材料⁉︎ どんくらい待てば、ビーフシチューを提供出来る様になるんですか⁉︎」
「あ、よ、四日ですっ!」
「よろしい! それじゃあ四日後の十三時、もう一度このお店に来ますからね! 絶対にビーフシチュー、用意しておいて下さいよね‼︎」
「はいっ、かしこまりましたっ!」
「約束ですよ、絶対ですからね‼︎」
「はいいぃー!」
一花の勢いに押された進藤は情けない声で返事をする。かくして一花は進藤にビーフシチューを作らせるという約束を半ば無理やりに取り付け、そして冒頭へと至る。
語り尽くした進藤は当時の事を思い出したらしく、より一層激しく慟哭した。
「僕の何がいけなかったというんだ⁉︎ あんなに愛し合ったというのに、僕を裏切るなんて……! あぁ、これは夢だと言ってくれっ、あれから半年以上経ったのに僕は未だに毎晩うなされてるんだ!!」
「成る程、つまり進藤さんはプロポーズした女性に逃げられたばかりか大切にしていたレシピまでも盗まれたというわけですね」
「そうだ!!」
「すっごい間抜けですね」
「うわあああ!」
進藤は椅子から滑り落ち、再び床を転がり出した。
なんというか、ものすごい間抜けだなと思うと同時に進藤が少し可哀想に思えてくる。
愛した女性に裏切られたのか。しかもその西黒 明美という名前に一花は聞き覚えがあった。つい数時間前にニュースで見た……中目黒のビストロ店。
しかも看板メニューはビーフシチュー。まさかね、と思うと同時に嫌な予感が胸をよぎる。振り払うように頭を振ると、床をのたうちまわる進藤に一花は話しかけた。
「話はわかりました。失恋と盗難のショックで進藤さんが今の状態になっているのも、まあ納得です。それで、お店いつから開けてないんですか?」
「言っただろう、僕がフランスから帰国したのが半年以上前……それからずっとさ」
進藤は体を起こし、くたびれ果てた顔を左右に振って言う。
「そんなに……?」
お父さんは? と聞こうとして一花は思い留まった。もし先代シェフが現状を知っていれば黙っているはずがない。きっとデリケートな問題があるのだろう。病気で引退したか、あるいは……。
そこまで考えた一花が聞こうとした質問を飲み込むと、しょげかえった進藤が床に人差し指で「の」の字を書きながら何やら言い訳を始める。
「一応これでも、店を開けようと努力はしたんだよ……食材を仕入れたり、仕込みをしたり、メニューを考えたり。だが、駄目なんだ。いざ店を開けようとすると足がすくむ。……帰国してしばらくして耳にしたニュースによると、明美は中目黒で店を始めたらしい。その店のメニューが逐一この店のものと被っていて。中には僕が考えたオリジナルのレシピまでもあった……どんどん有名になっていく明美の店は、今や行列の絶えない人気店らしい。そんな中、僕の店が開いて、メニューが酷似している事に気がつく人がいたらどうなる? 最悪僕の方が訴えられるかもしれない」
「でもレシピを盗んだのは明美さんの方でしょう」
「そうだとしても、その証拠はどこにもない!」
進藤は床に座り込んだまま、絶望に満ちた眼差しで一花を見上げた。
「明美の事だ、僕の手書きのレシピノートなんてとっくに捨てたに決まっている。そうしたら僕の店は、人気店の模倣をしているだけの二流店に成り下がってしまうんだ。そんなのは我慢がならない……せっかくここまで親父とお袋が守り抜いてきた店に、僕のせいで汚名が着せられる事だけは断じて許せない! そんな事になるくらいなら、僕はこの店を閉じる!!」
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と、一花が進藤を見直した次の瞬間、進藤が再び情けない声を出した。
「あうううう……とはいえ、やっぱり、この店を閉じるのは嫌だあああ」
グスグスと鼻をすする進藤。呆れた一花は声をかけた。
「進藤さん」
「……何だろう……」
「店を閉じる前に、私にビーフシチューを作ってくれませんか」
「……え……だが……」
「だが、じゃなくて。ビーフシチュー作ってくださいよ。私、このお店のビーフシチューが好きなんです。久々に食べたくなって来たんですから。いいじゃないですか、店を開けなくても私に一皿、出してくれればそれでいいんです。勿論お代はきちんと払います」
「だが……僕はもう随分と、人に出せるような料理を作っていなくて……」
「じゃあ、丁度いいリハビリじゃないですか。実験台だと思って作って出して下さい」
「材料、無いし……仕込みに時間かかるし……今すぐ、って言われても、無理だし……っていうか店もこんなに汚いし、お客さんを入れる状態じゃ無いというか……」
「あーっ、もう!!」
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「いつまで燻ってるつもりなんですか⁉︎ 料理人なんですから、料理作って出して下さいよ!」
「は、はひっ」
「仕込み⁉ 材料⁉︎ どんくらい待てば、ビーフシチューを提供出来る様になるんですか⁉︎」
「あ、よ、四日ですっ!」
「よろしい! それじゃあ四日後の十三時、もう一度このお店に来ますからね! 絶対にビーフシチュー、用意しておいて下さいよね‼︎」
「はいっ、かしこまりましたっ!」
「約束ですよ、絶対ですからね‼︎」
「はいいぃー!」
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