うらぶれビストロ料理店、美大生四人組が手伝います

佐倉涼

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レシピは同じでも込められた気持ちは異なって①

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「行きますよ。殴り込み」
 
 ビーフシチューを食べた一花は進藤に断言した。直前まで床をのたのたと這いずっていた進藤は、この一言にピタリと動きを止める。

「な、殴り込み?」
「そうです」

 一花は頷いた。このビーフシチューを一口食べた時から一花の心は決まっていた。 
 かつて一花が両親とともに食べた、その時の味わいを寸分違わず再現したビーフシチュー。この味を作り出せるのは世界中探してもただ一人、進藤だけだろう。
 一花は進藤の料理を食べ、直感した。
 彼には才能がある。美味しく、懐かしく、人をほっとさせる料理を作る天賦の才が。
 しかも彼にはその才能を存分に発揮できる場所まであるのだ。両親から受け継いだ、吉祥寺の小ぢんまりとしたビストロ店という絶好のロケーション。
 才能とそれを活かせる場所。その二つを持ち合わせているにも関わらず、ただただ嘆いているだけの進藤を一花は到底許すことが出来ない。
 私には無いものを持っている癖に、それを使わずにいるなんて!
 だから一花は進藤に言う。

「新進気鋭の若手シェフ? 中目黒の人気ビストロ店? それがなんぼのもんだって言うのよ———一人で行く勇気がないなら、私が一緒に行ってあげます! だから進藤さん、明美の店に行きますよ!」

 一花はたじろぐ進藤の腕をがっしりと掴み、力任せに引っ張った。「あうううう!」と情けない声を出す進藤にかまわずに一花は店の扉をバーンと開けて外へと飛び出した。
 初夏の眩しい日差しを浴びながら、一花は吉祥寺の街を進藤とともに歩いて行く。目指すは吉祥寺駅。京王井の頭線に乗って渋谷まで行き、東急東横線に乗り換えて中目黒へと行くのだ。
 腕を引かれる進藤は一花の半歩後ろを歩きながら戸惑いの声をあげた。

「ほ、本当に行くのか?」
「くどいです」
「っ僕は心の準備が全く出来ていないのだけど……」
「進藤さんの心の準備は百年経っても出来ないと思いますよ」
「僕の今日の格好、完全に仕事用なんだけど、これで中目黒に行くのは変だと思わないかい」
「エプロンだけ外せばそんなに違和感ありませんよ」
「会って、何て言えばいいんだろう」
「別に喋らなくてもいいんじゃないですか? 私たちは客として店に料理を食べに行くだけなんですから」

 一花は適当に受け答えをしながら構内へと続くエスカレーターを登り、Suicaを取り出した。右手でピッと改札に押し付け、ホームへと進む。運よく始発の急行電車がすでに待機をしていて、一花は進藤を引きずりながらそれに飛び乗った。リリリリ、と高い音がしてホームドアが閉まる。続いて電車が動き出した。
 電車の中で一際目立つ長身の進藤が、身長差三十センチの高みから一花に向かって不安げな視線を落としてくる。

「やっぱり次の停車駅で降りて、引き返さないかい」
「今更何を言ってるんですか」
 
一花は進藤の提案を一蹴し、スマホを取り出した。

「店の詳細な場所を調べますから、進藤さんはとりあえずエプロン外したらどうですか?」
 
 一花の凄みに負けたのか、八歳年上の大男は渋々と腰に巻いていた黒エプロンを外すとクルクルと丸めて小脇に抱えた。その様子を見た一花はひとまず満足し、中目黒駅から店までの道順を検索するべくスマホをタップした。
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