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変人シェフと美大生④
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「肉か⁉︎」
「この匂い……肉だろ‼︎」
流歌と圭人が目を輝かせながら厨房を見ようと座ったままに首を伸ばした。そわそわしながら待っていると、器用に皿を四枚手にした進藤がぬっと姿を表す。
「お待たせしたかな。本日のメインはチキンのディアブル風だ」
皿の上にはパン粉をまぶしてこんがりと焼かれた鳥モモ肉が一人一枚ずつ、豪快に乗せられている。焼きたてでま
だ湯気が立ち上るそれは、見ているだけで涎が出るほどに美味しそうだった。
「いただきまーす」
ナイフを入れて肉を一口大に切り分けると、肉汁がジュワッと溢れてくる。頬張ると口の中には鶏肉のダイナミックな味わい、それから表面のパン粉のサクサクした食感、ハーブソルトの爽やかさ。最後にピリリとしたマスタードが効いている。
「おいしー!」
叫んだのは四人同時だった。
「やっぱ、肉体労働の後は肉だよな」
「肉さえあればそれでいい」
一花としても同意である。疲れた体に肉のがっつりした味わいが心地よい。
普段ならばこれが唐揚げだったりハンバーガーだったりするのだが、本日はビストロ料理ときたものだ。
店の中はまだまだ掃除途中だが、料理の完成度で言えばそんじょそこらの店に負けてない。食べ進めていると、バターソースの濃厚な味わいが感じられ、それがまたこのマスタードソースに合っていて非常に美味しかった。
肉に食らいつく四人を進藤は非常に満足そうな顔をして見守っている。
「ちなみにディアブルというのは日本語で『悪魔』を意味していて、これは広げた鶏肉の形が羽を広げた悪魔に似ているからこの名前がついたと言われている」
「あ、そうなんすか? 『悪魔的に美味しいから』ってヤツかと思ってました」
すでに食べ終わりそうな流歌がそう言うと進藤は苦笑をこぼす。
「最近はコンビニなんかでそう言う名前の商品が売っているから誤解されがちだけど。元の意味合いは全く違うんだよ」
「へえー」
「最後はデザートだ」
進藤が出したのは見たことのない形状のデザートだった。真っ白い、ロールパンのような形をしたものの間にキウイフルーツといちご、バニラアイスが挟まれており、上から赤いソースがかかっている。
「リヨンの伝統菓子、ヴァシュランだよ」
「ヴァシュラン?」
「まずは一口食べて見てほしい。ところで食後はコーヒーと紅茶どっちがいいかな」
「コーヒーで」
「私は紅茶でお願いしますっ」
桃子が紅茶、それ以外の三人がコーヒーでリクエストをし進藤が承諾する。進藤が引っ込んだタイミングで一花は未知のデザートヴァシュランにナイフとフォークを突き立てた。
「おっ、硬い?」
ロールパンのような白い塊は見た目に反して硬かった。カリカリとしたそれにナイフを突き立て、そーっと口に運んでみた。
「ん!」
「メレンゲだねぇ」
「メレンゲって何だ?」
「卵白にお砂糖を入れて泡立ててふわふわにしてから焼いたお菓子だよ」
「そうなのか、さすが桃子は何でも知ってるなぁ!」
桃子と圭人はさておき、これはメレンゲだった。今度はメレンゲとバニラアイス、キウイフルーツを食べてみる。すると未知の感覚を一花が襲った。カリカリサクサクのメレンゲにひんやりとしたバニラアイス、そしてフルーツの酸味。三位一体となったそれらが押し寄せ、口の中にさっぱりとした甘味が押し寄せた。
「どうかな?」
一花の前にコーヒーをサーブしながら進藤が問いかけてきたので一花は素直な感想を述べた。
「不思議な食感です。初めて食べました。メレンゲとバニラアイスって……合うんですね」
「だろう? 日本ではあまり知られていないけれど、リヨンではポピュラーなデザートだよ。ちなみにヴァシュランという名前のチーズもあって、形が似ていることからこのデザートに同じ名前がつけられたとされている」
進藤は生き生きとデザートについて語る。その顔は料理を始める前の陰気でメソメソした雰囲気はどこにもなく、楽しくて仕方がないといった雰囲気が全身からにじみ出ていた。
「今日出した料理は、全て僕がフランスで得た経験を元に作り上げた料理なんだ。僕はこの店で親父が作ってきた伝統的な味を守りつつ、新しいレシピも積極的にメニューに取り入れたいと思っている」
それだけ立派な理想を持っていながら、恋人に振られたことが原因で半年も店を閉めたままでいた事が一花にとっては驚きであるが、三人もいる手前野暮を言うのはやめておこう。
やる気を出してくれたので一花としては進藤のモチベーションを維持し続けるよう努力するだけである。
「いい事だと思いますよ」
「立派な心意気だぜ、進藤さん!」
「頑張ってくださいねっ」
「俺もちょうど昼のバイト探してたところだから、授業ない時には入ります」
四人は進藤の言葉に同意し、温かい言葉をかけた。進藤は口元をほころばせる。
「ありがとう、心強いよ」
数時間前に比べて大分打ち解けた進藤と四人は、食事を終えたところでもういい時間になっていたのでそのまま解散する事となった。
流歌が荷物を担ぎながら言う。
「明日には壁の掃除終わらせて、塗りに入りてーな」
「あ、桃子。俺、明日十七時からバイトだから昼ごろまでしかいられねえ」
「おっけー、圭人くん。私は明日一日フリーだから、ワックスがけまで終わらせようかなっ」
お天気キャスターは日替わり曜日固定なので、桃子のスケジュールは割と空いている。一花はスマホで自分の予定を調べる。
「私、明日十九時から居酒屋バイトだから夕方には出ないと」
ついでに辞める話もしてこよう、と心の中で思う。
「皆、明日はスペアリブを仕込んで待っているよ!」
「いいねえ、肉!」
「ついでに揚げ物もあると最高なんすけど!」
男子大学生の活きのいい返事に、進藤は苦笑しつつ「わかった。フリットも用意しよう」と言ってくれる。進藤に見送られつつ、四人は店を後にした。
「この匂い……肉だろ‼︎」
流歌と圭人が目を輝かせながら厨房を見ようと座ったままに首を伸ばした。そわそわしながら待っていると、器用に皿を四枚手にした進藤がぬっと姿を表す。
「お待たせしたかな。本日のメインはチキンのディアブル風だ」
皿の上にはパン粉をまぶしてこんがりと焼かれた鳥モモ肉が一人一枚ずつ、豪快に乗せられている。焼きたてでま
だ湯気が立ち上るそれは、見ているだけで涎が出るほどに美味しそうだった。
「いただきまーす」
ナイフを入れて肉を一口大に切り分けると、肉汁がジュワッと溢れてくる。頬張ると口の中には鶏肉のダイナミックな味わい、それから表面のパン粉のサクサクした食感、ハーブソルトの爽やかさ。最後にピリリとしたマスタードが効いている。
「おいしー!」
叫んだのは四人同時だった。
「やっぱ、肉体労働の後は肉だよな」
「肉さえあればそれでいい」
一花としても同意である。疲れた体に肉のがっつりした味わいが心地よい。
普段ならばこれが唐揚げだったりハンバーガーだったりするのだが、本日はビストロ料理ときたものだ。
店の中はまだまだ掃除途中だが、料理の完成度で言えばそんじょそこらの店に負けてない。食べ進めていると、バターソースの濃厚な味わいが感じられ、それがまたこのマスタードソースに合っていて非常に美味しかった。
肉に食らいつく四人を進藤は非常に満足そうな顔をして見守っている。
「ちなみにディアブルというのは日本語で『悪魔』を意味していて、これは広げた鶏肉の形が羽を広げた悪魔に似ているからこの名前がついたと言われている」
「あ、そうなんすか? 『悪魔的に美味しいから』ってヤツかと思ってました」
すでに食べ終わりそうな流歌がそう言うと進藤は苦笑をこぼす。
「最近はコンビニなんかでそう言う名前の商品が売っているから誤解されがちだけど。元の意味合いは全く違うんだよ」
「へえー」
「最後はデザートだ」
進藤が出したのは見たことのない形状のデザートだった。真っ白い、ロールパンのような形をしたものの間にキウイフルーツといちご、バニラアイスが挟まれており、上から赤いソースがかかっている。
「リヨンの伝統菓子、ヴァシュランだよ」
「ヴァシュラン?」
「まずは一口食べて見てほしい。ところで食後はコーヒーと紅茶どっちがいいかな」
「コーヒーで」
「私は紅茶でお願いしますっ」
桃子が紅茶、それ以外の三人がコーヒーでリクエストをし進藤が承諾する。進藤が引っ込んだタイミングで一花は未知のデザートヴァシュランにナイフとフォークを突き立てた。
「おっ、硬い?」
ロールパンのような白い塊は見た目に反して硬かった。カリカリとしたそれにナイフを突き立て、そーっと口に運んでみた。
「ん!」
「メレンゲだねぇ」
「メレンゲって何だ?」
「卵白にお砂糖を入れて泡立ててふわふわにしてから焼いたお菓子だよ」
「そうなのか、さすが桃子は何でも知ってるなぁ!」
桃子と圭人はさておき、これはメレンゲだった。今度はメレンゲとバニラアイス、キウイフルーツを食べてみる。すると未知の感覚を一花が襲った。カリカリサクサクのメレンゲにひんやりとしたバニラアイス、そしてフルーツの酸味。三位一体となったそれらが押し寄せ、口の中にさっぱりとした甘味が押し寄せた。
「どうかな?」
一花の前にコーヒーをサーブしながら進藤が問いかけてきたので一花は素直な感想を述べた。
「不思議な食感です。初めて食べました。メレンゲとバニラアイスって……合うんですね」
「だろう? 日本ではあまり知られていないけれど、リヨンではポピュラーなデザートだよ。ちなみにヴァシュランという名前のチーズもあって、形が似ていることからこのデザートに同じ名前がつけられたとされている」
進藤は生き生きとデザートについて語る。その顔は料理を始める前の陰気でメソメソした雰囲気はどこにもなく、楽しくて仕方がないといった雰囲気が全身からにじみ出ていた。
「今日出した料理は、全て僕がフランスで得た経験を元に作り上げた料理なんだ。僕はこの店で親父が作ってきた伝統的な味を守りつつ、新しいレシピも積極的にメニューに取り入れたいと思っている」
それだけ立派な理想を持っていながら、恋人に振られたことが原因で半年も店を閉めたままでいた事が一花にとっては驚きであるが、三人もいる手前野暮を言うのはやめておこう。
やる気を出してくれたので一花としては進藤のモチベーションを維持し続けるよう努力するだけである。
「いい事だと思いますよ」
「立派な心意気だぜ、進藤さん!」
「頑張ってくださいねっ」
「俺もちょうど昼のバイト探してたところだから、授業ない時には入ります」
四人は進藤の言葉に同意し、温かい言葉をかけた。進藤は口元をほころばせる。
「ありがとう、心強いよ」
数時間前に比べて大分打ち解けた進藤と四人は、食事を終えたところでもういい時間になっていたのでそのまま解散する事となった。
流歌が荷物を担ぎながら言う。
「明日には壁の掃除終わらせて、塗りに入りてーな」
「あ、桃子。俺、明日十七時からバイトだから昼ごろまでしかいられねえ」
「おっけー、圭人くん。私は明日一日フリーだから、ワックスがけまで終わらせようかなっ」
お天気キャスターは日替わり曜日固定なので、桃子のスケジュールは割と空いている。一花はスマホで自分の予定を調べる。
「私、明日十九時から居酒屋バイトだから夕方には出ないと」
ついでに辞める話もしてこよう、と心の中で思う。
「皆、明日はスペアリブを仕込んで待っているよ!」
「いいねえ、肉!」
「ついでに揚げ物もあると最高なんすけど!」
男子大学生の活きのいい返事に、進藤は苦笑しつつ「わかった。フリットも用意しよう」と言ってくれる。進藤に見送られつつ、四人は店を後にした。
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