うらぶれビストロ料理店、美大生四人組が手伝います

佐倉涼

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変人シェフと美大生⑩

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 その日の夜、帰宅してから速攻で自室に行くとPCを開き、店の営業再開に向けての文言を参考にする。

「うーん、こんな感じかな」

 やると決めたので、デザインの参考にするためにスマホで店内と外観をスマホで撮りまくった。ハガキサイズに切った紙を用意して、写真を見ながら、文章とともにイラストを描きつけていく。

「やっぱり店の外観のイラストがいいかな……それとも料理? 店内の椅子とテーブル……だとありきたりかなぁ」

 机に向かい、何枚も何十枚もイラストを描いていく。デジタルでもできるが一花は手書き派だった。手書きにはデジタルでは出せない温かみや味わいが出せると常々考えている。
 写真をスクロールしながら鉛筆をカリカリと走らせる。
 アーチ型の窓とロゴが特徴的な外観、ワイングラスを乗せたテーブル、乾杯しながらテーブルを囲う家族連れ。乾杯はグラスをかち合わせないんだったな、と思い出しながら描いていく。
 久々に時間を忘れて絵を描いている気がした。実際にあるものを参考にしながら自分の絵柄に落とし込んでいく作業は単純に楽しい。一つ出来上がるごとに、もっとこうしようかな、ここはもう少し変えてみようか、と次から次へとアイデアが浮かんで来る。
 何を書けばいいかわからず、真っ白なカンバスを何日も見つめてはため息をついていた時とは雲泥の差だった。静かな部屋の中でペンを走らせる音だけが響く。楽しいと思った。

「やっぱり、料理の絵も欲しいな」

 明日は進藤が作る料理の写真を撮ろうと心に誓う。と、夢中になって机に向かっていたら玄関の扉が開く音がした。部屋を出て階段を降りると、母がちょうど靴を脱いでいる場面に出くわす。照明に照らされた母は疲労の色濃い顔で一花を見上げ、少し驚いた顔をした。

「……一花、まだ起きてたの? もう深夜二時よ」
「あ、うん。ちょっと作業してて」
「作業? 学校の?」
「ううん。新しいバイト先の。頼まれてて」
「ふぅん……バイト変えたの。今度はどんな?」
「あー、吉祥寺のレストラン」
「また吉祥寺? あなた吉祥寺好きね」

 母は廊下を横断してリビングに入り、荷物を降ろしてそんな事を言う。ふぅ、と疲れたようにため息をつくと、洗面所へ向かった。

「夏休み中とはいえ、さすがにもう寝なさいよ」
「はーい。お母さん、明日も仕事?」
「ええ。しばらくはずっと夜勤」
「働きすぎじゃない?」
「人手が足りないのよ、仕方がないじゃない。じゃあ、おやすみなさい」

 母は若干イライラしたように言うと洗面所の扉を閉めた。一花はその場に少し佇んでから自室へと引っ込む。「人手が足りない」「仕方ない」————十年ほど前から耳にタコができるほど聞いている言葉だ。そんなに大変なら転職すればいいのにと思うのだが、責任感の強い母がそうする事はなさそうだ。病院の患者さんを残して去る事が出来ないと常々言っている。結構な事だが、それで自分が倒れたら元も子もないじゃないかと一花は思ってしまう。
 机の上には書きかけのデザインの山。
 あの店で働いているんだよ、と母に言えば一体どんな顔をするんだろう。
 まだそれを切り出す勇気が一花にはなく、ひとまず今日はもう寝ようと部屋の電気を落とした。
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