うらぶれビストロ料理店、美大生四人組が手伝います

佐倉涼

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Bistro Gens joyeux、開店します①

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 店の再オープンの準備は着々と整いつつある。
 メニュー表は一花の作ったDMに寄せたものにするため、一花がデザインした。
 季節ごとに変わるそれを予備として少し多めに印刷する。
 きちんとバインダーに挟んでメニューブックにし、積み重ねる。
 店の壁に設えられている黒板には季節のおすすめメニューを圭人が絵付きで描いている。圭人はこうした看板を書くのが非常に上手だ。圭人のバイト先の焼き鳥屋に以前流歌と桃子と三人で突撃した事があったのだが、そこのお品書きも圭人が描いたものだった。見ているだけで食欲をそそるネギマやつくね、ビールやチューハイの絵とともに種類と価格が書かれていた。
 常連客に送付するDMも準備が進んでいる。
 
 古びたノートに百人ほどの常連客の名前と住所がびっしりと書かれていて、それをPCに全部入力した後に印刷をした。意外であるが、進藤はきちんと 電話兼FAX兼プリンターの複合機とPCを持っていた。
「取引先の農家さんと、あとは経理関係で使うから」と言っていて一花は驚きのあまり進藤を二度見した。
 家に誘われた時以上の驚きである。
 そんなわけで常連客向けのDMには、店の営業を再開する旨と具体的な日時、そしてDMを持ってきてくれた方にはドリンクを一杯サービスすると書いてある。
 
 百枚のDMにせっせと切手を貼りながら、一花は一枚のハガキで手を止めた。
 そこに書かれていた名前は、「南野 明彦(みなみの あきひこ)様」。
 住所は以前に一花も住んでいたマンション。ハガキを手に取り、持ち上げる。
 父はまだ、このマンションに住んでいるのだろうか。もうとっくに引っ越してしまっているのだろうか。
 肉親だというのに一花にはそれすらもわからない。
 親子三人で住むのにちょうどいい2LDKの間取りは父一人だと少し広すぎる。
 
 最後に別れの挨拶をしてからもう八年経っている。
 父に会いたいとせがんでも、母はなんだかんだと理由をつけてはそれを拒んだ。そのうち一花も父の話題を出す事はなくなり、まるで最初から存在しなかったかのようになっている。
 優しかった父と、親子三人のあたたかい思い出が、まるであのマンションに置き去りにされてしまったかのようで一花には今でもそれが少し寂しい。だからきっと、今でも「北条」の名字を名乗ったり呼ばれたりする事に抵抗感があるのだろう。

 当時十二歳の一花は当然自分専用の携帯電話など持っておらず、父に連絡を取る手段はなかった。
 
 でも今は違う。
 
 父の居場所がこのマンションなのかはわからないけれども。
 転居先不明で戻ってくる可能性だって十分にあるけれども。
 それでも一花は、一縷の望みをかけてハガキをひっくり返した。ペンを手に取り一言メモを書き記す。
 それから表に返すと切手を貼って、DMの山の一番上にポンと置いた。
 
 どうか届きますように、と願いを込めながら。
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