絵本作家は砂糖菓子の夢を見る

宮野愛理

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第三十三話

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 専門的な本は館内で読むだけにして、カモフラージュに縫い物や編み物の雑誌を借りるしか出来なかったらしい。それだって隣近所から噂としてあれこれ言われてしまったと聞かされ、佐藤は目を瞬いた。

「まぁ言われるだけならね、なんにも問題はなかったわよ。家のことはちゃんとやっていたし、もちろん仕事だって……でも、なんだか息苦しくて……」

 決定打になったのは父親から呈示された縁談だった、と高松は言う。
 相手として悪い人ではないだろうと思っても、唯々諾々と受け入れるのは難しい。かと言って逃げることも出来ず、母親を含めた周りの人間に相談することも出来ず……結果として体調を崩してしまった。

「今で言うなら鬱症状……なのかしらね。起き上がることが出来なくなって、毎日夢うつつに過ごしていたの」

 そんな時、夢の世界で出会ったのがユクスという狐だったそうだ。
 夕方には燃えるように赤く見えるほどの赤褐色の体毛を身に纏い、顔は狐そのものだけれど人間のように二足歩行で暮らしていたという言葉に、佐藤の喉がこくりと鳴る。

「町並みは……そうね、ヨーロッパの下町みたいな感じだったかしら。狐以外にも、兎や栗鼠、虎にライオン、まるで動物園のようだったわ」

 右も左もわからないまま、しかしユクスに丁重に保護されて暮らす数年間で高松の気持ちに変化が訪れたらしい。

「あちらで暮らす道もあったの。でも、それなら私は、この世界で未来の女の子たちを助けたいと……傲慢かもしれないけど、思っちゃったのよね」

 幸か不幸か瑕疵かし持ち――言い方は悪いが、その時代に精神病を患ったのならば仕方ない――となったお陰で、見合いの話は流れて結婚も縁遠くなった。仕事に邁進し、後身の女性たちを守るためにも出世をして、男社会に揉まれながら行き遅れ……と思ったらあれよあれよと、今は亡くなってしまった男性と出会い恋愛結婚。寿退社の風潮を跳ね飛ばして職場にしがみついたのだ、と高松は笑う。

「フレイウェル……あの世界の空気をね、佐藤さんのお話に感じてしまったの」

 どくん、と佐藤の胸が鳴った。意図せず呼吸が浅くなる。
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