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黒砂糖デニーロ

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第三章

断章

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 灼熱の陽光と砂埃舞うロマリアナ首都はその時、殺意と暴力が渦巻く戦場と化していた。
 大々的に発表された勇者による独裁者の身柄確保の作戦は、蓋を開けてみれば勇者の能力を過信したずさん極まりないものであった。支援もろくになく、しかも事前の公式発表により敵の警戒を強めてしまっていた。都市は勇者たちの侵入を警戒し、万全の厳戒態勢下にあった。
 それでも彼らは自分たちの正義を信じて、ミッションに挑む。
今回のミッションにあたり、青年は殺傷は最小限に抑えると心に誓った。そうすることで青年は自身の中にある迷いと折り合いをつけたのだ。
 ヘリボーンで素早く都市に降り立った青年らは、独裁者の居座る宮殿に忍び込み、身柄を確保。その後、速やかにヘリの回収ポイントまで迅速に到着。
 作戦通りで、順調そのものであった――そこまでは。
 当初の命令通り戦闘も最低限に抑え、そこまで双方に一人の死者も出さず、青年は安堵しかけた、その時だった。
 彼らを回収するはずだった国連軍のヘリが、ロケット弾の直撃によって墜落してしまったのだ。撤退する術を失い、青年たちは一万人の民兵がひしめく敵陣まっただ中で孤立無援となってしまったのだ。
 そこからが、地獄の始まりだった。
 バックアップの国連軍もこの事態は想定しておらず右往左往。新たな回収の目処がつくまでの間、青年たちは都市中をひたすら逃げ回るしか無かった。
 圧倒的な物量と地の利がある一万の民兵を相手に、人一人を抱えながらの逃走は、超人的な勇者であっても困難を極めた。憔悴し体力を削られる逃走劇は一昼夜を超えても尚、終わりは見えなかった。
 そしてその道中で、次々と仲間たちは凶弾に倒れていった。
 混乱の最中、その明晰な頭脳で進む道を示し続けてくれた分析官の少年は、榴弾の直撃を受けその身を四散させ命を落とした。優秀な戦士であり正義感の強い姉御肌だった彼女は青年を庇い、狙撃弾の餌食となって頭部を失った。寡黙だが古兵でユニットの精神的支柱であった銃士の彼は銃弾の雨に晒され瀕死の重傷を負った。もはや自分の命が長くないことを悟ると、執拗に追いかけてくる装甲車を巻き込んで自爆し、青年たちを救ってくれた。
 幾度と無く魔属群を相手にして生き残ってきた彼らが、人間の攻撃によって次々と容易く命を落としていく現実に、青年はともすれば発狂しそうになる自分を必死に押さえつけていた。
 極限状態の中で青年の不殺の誓いなど吹き飛び、立ちはだかる民兵を容赦なく斬り伏せ、気付けば対魔属用兵器である聖剣は数多の人間の血に塗れていた。
 そうしてようやく指示された第二回収ポイントの目と鼻の先まで迫ったところで、青年たちは完全に包囲されてしまった。
 このまま強行突破しても、民兵を引き連れて回収ポイントまで向かえば、またヘリを撃墜されてしまうだろう。同じ轍を踏まないためにも、安全を確保する必要があった。
 地面を振動させるほどの足音、獣のような怒声は、すぐそこにまで迫りつつあった。
「私達が囮になる」
 生き残った、たった二人の仲間たち――最も古い付き合いの同郷の友と、最愛の彼女は顔を見合わせると覚悟を決めた表情でそう言い出した。
「馬鹿を言うな!死ぬつもりか!?」
「そんなつもりねぇよ。いいか?俺は美人の嫁さんをもらうまで死なん。っつか、童貞のまま死ねるか!」
「ならボクが残る!君たちが基地まで送り届けろ」
 頑として譲らない青年の頬を、パシン!と、彼女が強かに打った。
「聞きなさい。あなたは勇者、人類の希望なの。いくらでも代替の利く私達とは違うのよ」
「そんな言い方をするな!ボクはそんなこと一度だって……!」
 言いかける青年の言葉を、彼女は「わかってるわ」と遮る。
「あなたはこれから多くの人を救うの。それはどうやっても私達にはできないことだわ。そのあなたの力になることが、私たち従属の役割よ。死んでいった他のみんなも同じ思いだったはずよ」
 一言一言を言い含めるような彼女の言葉に、青年は反論の余地を見出だせず、ただ押し黙って思考する。
「あなたが救うのは、私達じゃない。多くの人々と、この世界よ。どんな時でも、それを忘れないで」
 真摯な眼差しに説き伏せられ、いよいよ青年は頷いた。頷くより他なかった。
 自分よりも勇者らしい彼女の言葉を、青年は胸に深く刻み込んだ。
「いいか?引き離した後は安全な場所に身を隠せ。絶対に迎えに行く。それまで絶対に無茶はするな」
 僅かな沈黙の後、青年は二人にそう約束した。
「待ってるわ」
 彼女は青年とキスを交わし、二人で路地の向こうへと消える。
 程なく、通りの向こうからはけたたましい銃声が響く。銃声と怒号は、二人の姿を追って遠ざかっていった。
 二人の奮闘が功を奏し、ヘリは無事回収ポイントに着陸。二人を収容すると即座に首都を離れていった。
 その間、彼はひたすら祈った。この世で最も尊い仲間たちの無事を、神に祈り続けた。
 国境線の国連軍基地に到着するやいなや、最高指導者を投げつけるように降ろすと息をつく暇すら惜しいとばかりに、すぐさま救出の準備に取り掛かった。
 自分の傷の治療も断って装備と人員の指示を飛ばしたところで、基地司令に促されテレビのモニターを見た青年は、愕然とする。
 地元ニュースの空撮映像で映しだされていたのは、首都に残してきた二人の姿だった。
 狭い街路をひた走る二人の後方からは、民兵と暴徒の集団が濁流のごとく迫っていた。明確な殺意を持って迫る集団に、彼は魔属群を重ねた。
 二人は二手に別れ、路地裏に入る。狭い路地なら、追ってこれる人数も少なくなるという判断だ。
 同郷の友は、圧倒的なパワーで民兵を蹴散らしながら逃げまわっていた。戦闘では最も心強く、青年は何度も彼に助けられた。
 魔属相手に一騎当千の活躍を見せる彼は、好調時であればこの群集から逃げ延びることもできただろう。しかし、そんな彼も、半日以上のぶっ通しの戦闘で疲弊し、目に見えて精彩を欠いていた。
 そしてついに回りこまれ、挟み撃ちにされてしまう。そうなると狭い路地はむしろ逃げ場のない死路となる。
 逃げ道を塞がれた彼は凶暴性を全面に押し出し、近づくものを容赦なく叩き潰し、何人たりとも近づかせないよう牽制。
 だがそれも長くは続かなかった。狙撃で足を撃ち抜かれたのをきっかけに、民兵たちが押し寄せる。倒れ伏す彼に銃弾、刃物、石礫、拳、あらゆるものが叩きつけられ、果てのない暴力を一身に受け続け、ついに絶命した。
 一方、素早い身のこなしでひたすら追撃を躱し、振り切ろうとする最愛の彼女。しかし、物量で勝る民兵たちに追い込まれ、やはり袋小路に追い込まれてしまう。
 気丈な彼女の目は、まだ希望を失っていなかった。獲物を構え、押し寄せる民兵たちを撃ち抜き、斬り捨てていく。これまで数多くの魔属群を相手にしてきた彼女は、この物量を押し返す兆しすら見せていた。
 だが、その彼女の攻撃の手が一瞬止まった。敵の中に、まだ幼い少年兵を見てしまったからだ。
 そしてその一瞬が、命取りとなった。
 動きの止まった彼女の胸を、一発の銃弾が貫いた。
 血を吐き、体勢を崩した彼女に、殺到する民兵と暴徒たち。
 その手から獲物を奪われ、さらに足を撃ち抜かれて地面に転がされる。
 無力に地面を這う彼女に、昂ぶる男たちの手が伸びる。武器を奪われても彼女は最後まで抵抗を止めなかった。爪で引っかくと、男らは彼女の腕をへし折った。歯を突き立てると、男らは銃把を叩きつけ顎を砕いた。逃げようともがくと、男は散弾銃で足を吹き飛ばした。
 もはや指一つ自分の意志で動かせなくなった瀕死の彼女は無数の男たちによって服を引き千切られ、陵辱された。その様は筆舌に尽くし難く、欲望という名の暴力に晒され、気付けば彼女は犯されている最中に意識を喪失し、そのまま死んでいた。
 見るも無残な姿にされた二人の遺体は裸のまま引きずり回され、広場へと運ばれると磔にされた。
 そこまでの映像は、ライブ中継
 彼らの無事を祈っていたその時、彼らはすでに命を落としていたのだ。
 この映像が流れていた時、彼らの遺体は無惨にも切り刻まれ、すでに打ち捨てられた後だと知るのは程なくしてからであった。
 目も当てられない惨たらしい光景に、彼はその場で崩れ落ち、激しく嘔吐した。吐瀉物まみれの地面に額を擦り付けて、打ち震え、身悶えする。脳が現実を受け入れる事ができず、拒絶反応を起こしているかのようであった。
 かくして、この地でのミッションは幕を下ろす。この数時間後、国連は独裁者の逮捕を発表。作戦が大成功に終わったことを世界に向け、大々的に報じた。
 正義は成された、と――
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