Link's

黒砂糖デニーロ

文字の大きさ
49 / 66
第四章

第三十七話 従属

しおりを挟む
 正面に見据えるは、峻険な山々。クラウン山脈の名付けられたその山脈は、もし魔属領から侵攻があった際には濁流の如き魔属群を阻む堤防の役割を果たすと期待されていた。だがこうして実際に魔属群が攻めてくると、それはただの気休めでしか無いとわかる。
 その麓はまさに死屍累々の地獄絵図。魔属も人間も一緒くたとなって死体が転がり、流れでた血は川となって大地を濡らした。
 その屍を踏み越え、草木も生えない赤茶色の荒涼とした大地に侵食していく魔属群。それはそれはさながら決壊し、溢れ出る濁流が如し。
 大地はもはや魔属に埋め尽くされるかに思われたが、その流れを堰き止め、抗う存在があった。
 群れを引き裂く異物は二つ。獅子奮迅の活躍を見せる彼の熱気は、体から白い湯気が立ち上らせていた。数えきれぬ数の魔属を屠り、何波もの進撃を食い止めた彼らの闘志を表しているようにも見えた。
 彼の名はギン。
 その手に握られた二振りの木刀は、おぞましい異形の前では甚だ心許ないように見えるが、一度、彼が群れの中を駆け抜ければ、すれ違った魔属はことごとくその身を大地に沈めた。
 しかし、今はその動きにも精彩を欠いているように見受けられる。
 彼の名はクロウ。
 並み居る魔属はしかし、彼には触れることも敵わない。近づくものはその剛腕から繰り出されるチェーンソーによって肉片と化した。
 そのチェーンソーからは少し前から断続的に異音が発し、耳障りな不協和音を奏でている。斬った魔属の血が機関部に詰まってしまい、刃はまともに回転していない。刃で斬るというよりは腕力でたたき切っているといった状態だ。
 そしてその担い手も、チェーンソーを持ったまま腕をだらりと下げ、苦しげに肩で息をしている。
「どうした、もうへばってるのか?昨日までの威勢はどこに行った?」
「うっせぇ!お前みたいなもやし野郎と一緒にすンな!ちょっと疲れて心肺が停止してるだけだよ!」
「それは緊急事態だな」
 言いながら、ギンは額から流れ落ちる血を拳で拭う。見れば袴のいたるところが裂け、その下から血が滲んでいる。それはクロウも概ね同様な有様だった。
 二人はこの戦いで途方も無い数の魔属を葬った。まさに勇者にも匹敵する活躍である。
 無論、勇者ではない彼らが中級種以上の魔属を倒すことはできない。それでも注意を引き、その足を鈍らせることはできた。彼らの活躍は、前線を支える兵士たちの大きな支えとなった。
 だが、いかに彼らが超人的な力を持っていようと、すでに限界に達している。
 重傷こそ免れてはいるが、いかに百戦錬磨の彼らといえど無傷でやり過ごせる規模ではない。
 負った傷は少なからず戦闘に支障をきたす。そして昼夜を問わない連日連戦は、彼らに満足な休息すら許さなかった。
「とはいえさすがにこたえるな。ったく、あいつらはいつまで待たせやがるんだ。これが終わったら、何か罰ゲームだな」
「それは俺も賛成だ。こいつらを倒しきるまでに考えておこう」
 軽口を叩き、ケラケラと笑い合う二人。
 満身創痍の身にむち打ち、なおも戦い続ける。
 怖じける様子など微塵も見せず、魔属へと立ち向かっていく。
 それぞれの“戦う理由”を胸に秘め――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...