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黒砂糖デニーロ

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第四章

戦う理由――クロウ

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 かつて、その巨大な風貌から「鬼人」「黒鬼」などと呼ばれ迫害を受け続けたタグル民族。住む場所や職業は制限され、長く虐げられてきたのは他の亜人と同様であった。
 今でこそ亜人への不当な差別は薄れつつあったが、長い歴史上から見ればそれはごく最近のことである。
 国連により亜人差別撤廃が宣言され、不当な差別から開放された亜人たち。
 自分たちの国も土地も持たないタグル族は各地で身を寄せ合うと、安住の地を求めて世界中を放浪する流浪の民となった。
 クロウが生を受けたのも、そんな放浪の旅路の途中であった。そして、幼い頃に彼の属する一団はとある街を訪れ、永住を求めた。
 都市側は当初、彼らの移住を拒んだ。それに対し一団も粘り強く交渉をするため、都市の外にキャンプを張って居座ったが、それが市民らの不安を煽ってしまうことになる。
 当時、多くの人々はタグル族に対し恐怖を抱いていた。差別し、迫害した自分たちを憎んでいる。いつか暴力で報復をしてくるのでは、という恐怖を。
 事実この頃、亜人を巡る混乱や衝突は各所で起きていた。難民受け入れ拒否や、そこから派生した不法占拠、土地の占有。定住受け入れ先での文化摩擦から発展した暴動――そのたびに流血の事態となり、彼らの凶暴性はニュースで目にすることが日常的であった。
 そんな背景もあり、差別意識以上にタグル族への潜在的な恐怖心が移住を難しくしていたのだ。
 要求を断られた彼らが武力で押し入ってくるのではと疑心暗鬼になった都市側は警戒を強めた。またタグル族もそんな彼らの警戒心を敏感に感じ取り、にわかに臨戦態勢を取りつつあった。迫害を受けてきた彼らは、他者からの悪意や敵意に対して殊更過剰に反応するのも無理からぬ話であった。
 そしてこの小都市は、故郷を失ったアオイとレンが移り住んだ都市でもあった。クロウと彼らの出会いもちょうどその時である。
 お互いが疑心暗鬼から睨み合いを続ける中、好奇心でキャンプを抜け出て都市に忍び込んだ幼いクロウは、そこで初めてレンと出会う。対照的な性格ではあったが、妙に馬の合った二人は大人たちの目を盗んでは会い、一日中遊び回った。その後、そこにアオイも加わり三人は街中を駆けまわり、冒険のような毎日を過ごした。
 一方、都市とタグル族の情勢は悪化の一途を辿る。
 三人ともまだ事情を理解できるような年齢ではなかったが、漠然とささくれだった大人たちの感情は肌で感じ取っていた。
 ついにクロウも都市に行っていたことが両親にばれ、レンたちと会うことができなくなってしまった。
 そして事態を重く見た都市側は国連に助けを求め、国連は治安維持部隊の派遣を決定。いよいよ一触即発の事態にまで発展してしまう。もはや流血は免れないと誰もが確信し、恐怖に怯えた。それを感じ取っていたクロウも、ただ震えていることしかできなかった。
 そんな両者の間に割って入ったのが、なんとレンだった。
 割って入ったというのは比喩表現でもなんでもなく、文字通り両陣営の睨み合いの真ん中に飛び出していったのだ。
 友達と会えなくなったことに、居ても立ってもいられなくなっての行動だった。それは普段から皆と仲良くするように言いながら、いつまでも睨み合いを続ける大人たちへの彼なりの抵抗だったのかもしれない。
 都市城壁とタグル族キャンプの間に陣取ったレンは、ただ叫んだ。
 クロウを。
 親友の名を。
 彼と遊びたいと、精一杯叫んだ。
 それでも大人たちが動かないと見ると、彼が来るまでその場に居座りつづけた。このたった一人の子供に両陣営は大いに当惑し、右往左往した。
 そうして大人たちが手をこまねいているうちに、レンは空腹と日射病で倒れてしまった。双方の大人たち慌てて駆け寄って助けた。
 お互いが歩み寄るきっかけは、それで十分であった。
 相手は、ただ一人の子供を心配し、助けようと動くことができる人間なのだと。
 こんな簡単にお互いは近づくことができるではないかと、ようやく気づいたのだ。
 これをきっかけにまるで憑き物が落ちたように両者の間に再度話し合いの場がもたれた。結果、あっさりと和解。都市は移住を認め、タグル族を迎え入れた。
 一連の流れを見ていたクロウは、子供でありながら一人で大人たちを動かしてしまったレンの行動に心打たれたことを今でも鮮明に覚えていた。
 無論、その後レンは大人たちにこっぴどく怒られたが、クロウはレンの勇敢さを理解していた。争いを収めるきっかけとなったのはまちがいなくレンの勇気ある行動であったと、クロウは強く確信していた。
 その時からクロウはレンを心から尊敬し、そんな彼と友であることを何よりも誇りに思っている。
 彼は体を鍛えはじめたのは、それからすぐのことだった。
 自分じゃどんなにがんばっても、たとえ逆立ちしたってレンのようにはなれない。
 でも、“力”にならなれる、と。
 もしレンが力を必要としたとき、レンが誰よりも頼れる“力”になるんだ。彼はそう決意した。
 誰よりも自己主張したがるクロウだが、その実、自分の分や役割は誰よりもわきまえていた。

 ――あン時と同じだ。
 またなんだか難しい事が起きたみたいだ。
 でも、どんなややこしい問題になっても、お前ならやってくれる。オレ様にはできない事でも、レンならきっと。
 お前は強ェ。
 体は弱っちくても、本当の意味では誰よりも強ェことをオレ様は一番よく知っている。
 だから、託したんだ。
 最も信頼する、親友に。
 それに、あン時とは違うぜ?
 今のオレ様はもう、ビビって震えてる子供じゃあない。お前が戻ってくるまでこの程度、オレ様が持ちこたえてやるさ――
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