涼宮くんの日常的生活

yuki

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第五話

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    文化祭の一件が終わり、月日は着々と進んでいた。この先、なにも不思議なことは起きないと悠人は信じていた。が、11月の上旬頃に新たな出会いが始まった。

  「涼宮君!!良いニュースと良いニュース、どっちから聞きたい?」
  そう話しかけてきたのは第二話に出てきた冬月 千夏ふゆつき ちなつだった。彼女はかなえに続き、小動物を思わせるほどの小柄な体を持ちながらも常にプラス思考と言う超ポジティブ人間だ。余談だが、千夏が話し始めるとなかなか止まらない。
  「………二つとも同じじゃないか?」
  悠人は考えたあげく、こう答えた。良い方と良い方の違いはなんなのだろうか。
  「良いニュースと良いニュースの違いは、特にないよ!」
  「………それじゃ、良いニュースから教えてくれ」
  気づくと周りで話をしていた生徒達は静かになっていた。良いニュースとやらが気になるのだろう。
  「良いニュースはね……」
  周囲に緊張感が湧く。我先にと聞きたがっているのだ。
  「なんと……」
  皆がほぼ同時に唾を飲んだ。よく見ると冷や汗を垂らしている生徒もいる。
  「なんと……!」
  「「「長げぇよ!」」」
  ついに我慢の限界がきた。短気なのは良くないねw
  「涼宮くんに続き、転校生が来ます!」
  「「「「うおぉぉぉぉぉ!!!」」」」
  「盛り上がり方がおかしいだろ…」
  悠人はそう呟いた。悠人は何度も転校を繰り返してきた。しかし、ここまで盛り上がるクラスを見たのははじめてだった。
  転校生が来るクラスはこうして成り上がるのだ。
  「転校生を祝うパーティを開きたいです!」
  誰かがそういった。すると、
  「転校生が教室に入ってきたと同時にクラッカーをならすのはどうだ!」
  という声もあがった。学校内でのクラッカーを使うのは危険なので極力しないようにしましょう。
  気付くと皆が歓迎会に向けて準備をし始めていた。
  (そうか…俺が来るときもこんな感じだったんだな…)
  悠人はそう思った。
  歓迎会の準備が一通り終わると、遊佳が教室に入ってきた。なぜ飾りつけをされているのかわからない遊佳に、千夏が答える。
  「先生、転校生が来るっていってたでしょ!その子のための歓迎会を開くことになったんです!」
  精一杯の声で千夏は答えた。
  どうやら皆の努力と苦労を理解した遊佳は皆に向けてこう言い放った。

  「転校生が来ると冬月さんに言いましたが、今日来るとは言ってませんよ?」

  周りは騒然とした空気になった。最近のこのクラスは空回りすることが多いのだ。
  皆が絶望するなか、遊佳からの救いの一言が出てきた。
  「実を言うと、転校生は明後日来ます」
  この一言でお葬式ムードは一瞬にしてなくなった。そうとわかると皆一斉に用意を片付けた。
  転校生がどんな人なのか皆が気になっていた。千夏だけを除いて。
  千夏は今回転校してくる人と面識があった。皆がどんな人なのかを予想立てている姿を見て、
  「違うよ。そんな子じゃない」
  とどれだけ言いたかったことだろうか。自分だけ面識があるなどといったらあの子が困ってしまう。そう考えるとなかなか言えなかった。初対面を偽ると心に決め、皆が話している輪の中にはいっていった。

  やがて二日がたち、転校生がやって来た。
  「今回、涼宮くんに引き続き、転校してきた氷霜ひじもさんです」
  悠人が転校してきたときと同じく、遊佳が少しだけ紹介をし、転校生の自己紹介が始まった。
  「氷霜 雪ひじも ゆきです。転校してきてなんですが、姉の都合上、二ヶ月ほどでこの地を去る予定です。短い間ですが、仲良くしてください」
  まさかの去ることを前提に自己紹介をした雪に対し、誰もが唖然とした。さらに、「姉の都合上ってなんだ……」とささやく声がちらほらでてきた。
  悠人のときと同じほどインパクトのある自己紹介をした雪は、やりとげた感満載で指定された席に座った。ちなみに指定された席は悠人の真後ろだった。
  転校してきてどうしたらいいかわからないと悩んでいた雪を助けたのは、旧友の千夏だった。そのお陰で雪は転校してきて二日ぐらいで皆に打ち解けていった。

  雪が皆に打ち解けていき、そろそろ雪が転校してきて一ヶ月がたとうとしたある日、非リア充どもにとっては忌々しいクリスマスの時期がやってきた。
  正孝の提案でクリスマスパーティーをすることになったのだが、クリスマスの日は普段一人でいるという男子が多かったため、女子は全員参加、男子は悠人と右城宮、蒼空に提案者である正孝を含む計七人が参加することとなった。  クリスマスパーティーといっても、自教室内でできることかつ、学生でもできることといった、かなり限られている範囲内でのことだった。
  悠人自身もクリスマスは基本家で一人と言う実につまらない生活をしていた。しかし、今年は違う。仲間と共に過ごすのだ。あの忌々しいクリスマスを。

 自教室の飾りつけを女子が、机の並べかえや、買い出し等を男子がすることとなった。いや、男子の数も考えて割り振れよ。
  「ここの飾り付け、どうする?」
 女子の一人が正孝に聞いた。その問いに対し、正孝は、
 「二重螺旋構造にしといて!」
 と答えた。すると、
 「「生物の範囲を入れてくるなぁ!!」」
  と皆に叩かれていた。
  何だかんだで完成しつつあるクリスマスパーティの準備は、遊佳の「そろそろ帰ろっか」という合図によって終わりを告げた。

  学校からの帰り道、悠人は久々に寄り道をした。いつもは寄り道をせずにまっすぐ家に帰るのだが、今日は違った。今日に限ってなぜかすぐに家に帰りたいという気持ちが湧かず、なぜか胸騒ぎがしていたのだった。

  翌日、無事クリスマスパーティーは行われた。騒ぎすぎて教師に注意されたものや、普段おとなしい子がみんなと打ち明けたり。場の雰囲気は静寂を知らず、ゆっくりと時は流れた。
  そんな中、悠人は不意に雪に呼び出された。どうやら少し話したいことがあるらしい。

  廊下を出たところにあるベランダに雪は一人でいた。
  「氷霜さん、話って何?」
  なんのためらいもなく雪に話しかける。悠人に気づき、雪は悠人の方を向いた。
  「涼宮くん、来てくれてありがとう。いまから言う話は誰にも言わないって誓ってほしいの」
  「わかった。あと、悠人って言ってもらえる方がありがたいかな。嘘臭いかもしれないけど、君とはじめてあった気がしないんだ」
  「何それ、古典的な口説き文句みたい。でも、私もあなたとはじめてあった気がしないの」
  雪は淡々と台詞を読み上げるようにいった。どこか寂しげで、悲しそうな顔が印象的だった。
  「ここだと話しづらいから、場所を変えましょうか」
  雪はそういい、悠人の背後に向かった。
  「ちょっといたいかも。我慢してね」
  首を弾かれ、意識がもうろうとするなか、最後に雪はそういっていた。




  悠人が目を冷ますと、何もない白い空間にいた。壁もなく、ただ白い風景が永遠と続いていた。
  「おはよう。そっちの世界の悠人くん」
  白い箱(?)の上に少女がちょこんと座っていた。白いワンピースを着た、ロングヘアーで青い目をした女の子。
  「君は誰なの?ここはどこなんだ?」
  気がつけば少女にそう質問していた。少女が振り返り話し始めた。
  「私は音無 優歌おとなし ゆうか。こっちの世界の悠人くんのパートナーよ。あなたからしたらわからない話かもしれないけど、あなたの世界と私たちの世界はパラレルワールドで成り立ってるの。えっと、なにいってるか、わからないわよね」
  正直、全くわからなかった。
  いきなり現れて、小難しい話をされて。
  「続けるわ。単純な話、私たちの世界から見たあなたの世界は、if。つまり、もしもの世界なの。言い換えれば、あなたからしたら私たちは架空の存在。アンダスタン?」
  「あ、あんだすたん…」
  「よろしい。でね、私はあなたを助けるためにいるの。この役目は、いつなんどきだって変わらない。たとえ時空が違っても、時代が違っても」
  どうやらかなり深刻な話だと悠人は感じた。
  「さて、なにか質問はあるかしら?」
  質問をされ、悠人は即座に答えた。
  「そっちの世界の僕に会うことはできるの?」
  悠人が気になったこと、それはドッペルゲンガーの理論。もう一人の自分にあった際、自分は死んでしまうというもの。最近、かなえとの会話のなかで出てきたものだ。
  もし正しいのなら、悠人は死ぬ。もちろん、相手側も死ぬだろう。ドッペルゲンガー側もまた、人なのだから。
  「あなたの考え、当てましょうか?」
  口角をあげた優歌はそういった瞬間、


  「あなた、ドッペルゲンガーの理論について考えてるでしょ?」


  どこからともなく人が現れ、そういった。
  優歌とは正反対の、黒いつなぎを着た、ショートヘアーで赤い目をした女の子。
  どことなく気だるそうな雰囲気を醸し出している。
  「あら、狂歌きょうか。ここに来るのは久しいじゃない」
  どうやら彼女は狂歌というらしい。
  「優歌と狂歌………。なんだったか。どこかで聞いたことのある名前だ………」
  悠人はそう呟いた。
  「私たちはね、双子なの。目の色とかは違うけれど、ちゃんと同じ血が流れているんだよ」
  優歌はそういった。それに続いて狂歌も口を開く。
  「こっちの世界のゆーとには妹がいる。でも、血の繋がった兄弟じゃない。事情は察してくれると助かる」
  たどたどしい口調で狂歌はいった。ぎこちない喋りだったが、何一つ偽りのない話をしてくれたのだろう。
  「ん?ちょっと待ってくれ。そっちの世界の僕に妹がいるのはわかった。でもさ、どんな子が僕の妹なんだ?」
  こちらの世界にはいない存在が向こうの世界にいる。それはわかっていたことだったが、悠人は確認せざるを得なかった。
  「驚くかもしれないけど、あなたのもとに最近やって来た子。あの子がこちら側の世界のあなたの妹よ。もちろん、名前は変わっているわ」
  そう優歌はいった。それを聞いた悠人は余計向こうの世界に行きたくなった。どういう生活をしているのか、また、どういった家族構成になっているのかが気になったからだ。
  「こっちの世界に来たいの?あなたは本当にそう考えているの?もし、もしもだけど、本当にそう考えているのなら、この夢から目覚めたときにはこちらの世界にいるはずよ。でも、気を付けてね。こっちの世界にはあなたの知らないことが在りすぎる」
  そう狂歌はいった。続いて優歌も話し出す。
  「私たちは魔女。あなたの夢を叶えることはできる。でも、その代償は大きいわ。本当にこちらの世界にいく勇気があなたにはあるの?」
  まるでなにかを試されているかのように問われた。
  「ただ単に行こうとしているんじゃない。確かに探求心もある。でも、ちゃんとこの目で確かめたいんだ!!」
  悠人はそういいきった。嘘偽りのない言葉。その言葉を聞き、二人はうなずいた。どうやらあの二人に悠人の意思は届いたようだ。
  「いいでしょう。こちらの世界に来ることを許可します」
  「ただし、こちらの世界のものには絶対に干渉しないこと。絶対にですよ?」
  優歌と狂歌はそういって白い空間の奥へと行った。
  「目覚めたら違うとこにいるのか…楽しみだな」
  悠人はそういい、深い眠りについていった。


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