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第二章 モモとダンジョン
第48話 モモ(7)
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それは神父さんと話をした、次の日だった。
その日は朝から快晴で、海面が鏡のように静かだったと記憶している。
「行ってくる」
お父さんはいつも通りにそう言うと、兄と一緒に玄関へと歩き出す。
私は魔法学園への入学の時期が間近に迫っているため、家で魔法の復習と荷物の準備に取り掛かることにした。
「行ってらっしゃい」
私とお母さんはそう言って、出て行く二人を見送った。
☆
それから数時間たった時だった。突然、風が強まってきたかと思うと、大粒の雨が降り始めた。
「お父さん大丈夫かな」
「そうね」
急に変わった天候にお母さんと二人、開けられない窓から海のほうを見てお父さんと兄を心配する。
私は「きっと大丈夫」と自分に言い聞かせながら、ふたたび荷物の整理に没頭していた。
「本当にもらっていいのかな」
昨日、神父さんに会った際に「本当はモモさんがもらった本ですよ」と言われ、勇者様の本を持っていくように手渡された。たぶん私が凄く気にいって何回も読んでいたのを、覚えてくれていたからだろう。
バギーが乱暴に扱ったことで、少し角が折れてしまっているのも、今ではいい思い出である。
「マッシュもよく一緒に読んでいたな」
そんな過去のいろいろな出来事を思い出しながら、その本を旅行かばんに入れた時だった。
急に家の扉が開き、ドワーフで鍛冶師のバッバさんが飛び込んできた。
「大変だ! モラダとダダが!」
「えっ、二人がどうしたの!?」
「この嵐のせいで船が沈み、行方不明らしい」
その言葉と同時に、力が抜け倒れ込んでしまうお母さんを私は支える。
そして私はバッバさんに向かって言った。
「お母さんをお願いします」
「ああ、どうするんだ」
「港に行ってきます」
「えっ……行ってもできることはないぞ。それに危険だ」
「で、でも……行かせてください」
話ながら外套を着た私は、彼を強い決意で見つめた。
父と古くからの友人のバッバおじさん。彼の言葉は父の言葉と同じである。ここでおじさんに駄目だと言われたら、断れない。
「わかった……気をつけろよ」
「はい!」
そう返事をすると、私は強い雨風ものともせずに港へと駆け出した。
☆
「お、お父さんと兄さんは!?」
港に集まっている数人の漁師たち、彼らもこの嵐の中でさすがに出来ることは無いのだろう。
海の近く倉庫に集まってはいたものの、父と兄を探しているようすは見られなかった。
「ああ、モラダさんの……」
私とたまに挨拶をする程度の関係にある、この村の漁師の代表をしている白髪のおじさんが、私の言葉に反応してくれる。
そして私のところまで来て、状況を説明してくれた。
「急に嵐がきてな。俺の船も近くにいたんだが、モラダの船が大きな波をもろに喰らっちまって……」
「そ、それで!」
「あっという間に沈んじまったんだ。俺たちも二人をギリギリまで探したんだが、嵐がさらに酷くなってな」
「そ、それで…………いいえ、ありがとうございます」
私は「なぜもっと探してくれないんですか!」と言いたい気持ちをぐっと抑え、おじさんに頭を下げてお礼を言った。
この人も本当にギリギリまで探してくれたのだろう。周りの人達を見ても、二人を心配して集まってくれたようすが見てとれる。
「みなさん、ありがとうございます」
さらに集まってくれた漁師の人達にお礼を言って、夕方までそこにいたが風がおさまる様子はなかった。捜索は明日の朝となることが決まる。
「お父さん、兄さん」
雨の中、私は涙を流しながら、家へと戻ったのだった。
その日は朝から快晴で、海面が鏡のように静かだったと記憶している。
「行ってくる」
お父さんはいつも通りにそう言うと、兄と一緒に玄関へと歩き出す。
私は魔法学園への入学の時期が間近に迫っているため、家で魔法の復習と荷物の準備に取り掛かることにした。
「行ってらっしゃい」
私とお母さんはそう言って、出て行く二人を見送った。
☆
それから数時間たった時だった。突然、風が強まってきたかと思うと、大粒の雨が降り始めた。
「お父さん大丈夫かな」
「そうね」
急に変わった天候にお母さんと二人、開けられない窓から海のほうを見てお父さんと兄を心配する。
私は「きっと大丈夫」と自分に言い聞かせながら、ふたたび荷物の整理に没頭していた。
「本当にもらっていいのかな」
昨日、神父さんに会った際に「本当はモモさんがもらった本ですよ」と言われ、勇者様の本を持っていくように手渡された。たぶん私が凄く気にいって何回も読んでいたのを、覚えてくれていたからだろう。
バギーが乱暴に扱ったことで、少し角が折れてしまっているのも、今ではいい思い出である。
「マッシュもよく一緒に読んでいたな」
そんな過去のいろいろな出来事を思い出しながら、その本を旅行かばんに入れた時だった。
急に家の扉が開き、ドワーフで鍛冶師のバッバさんが飛び込んできた。
「大変だ! モラダとダダが!」
「えっ、二人がどうしたの!?」
「この嵐のせいで船が沈み、行方不明らしい」
その言葉と同時に、力が抜け倒れ込んでしまうお母さんを私は支える。
そして私はバッバさんに向かって言った。
「お母さんをお願いします」
「ああ、どうするんだ」
「港に行ってきます」
「えっ……行ってもできることはないぞ。それに危険だ」
「で、でも……行かせてください」
話ながら外套を着た私は、彼を強い決意で見つめた。
父と古くからの友人のバッバおじさん。彼の言葉は父の言葉と同じである。ここでおじさんに駄目だと言われたら、断れない。
「わかった……気をつけろよ」
「はい!」
そう返事をすると、私は強い雨風ものともせずに港へと駆け出した。
☆
「お、お父さんと兄さんは!?」
港に集まっている数人の漁師たち、彼らもこの嵐の中でさすがに出来ることは無いのだろう。
海の近く倉庫に集まってはいたものの、父と兄を探しているようすは見られなかった。
「ああ、モラダさんの……」
私とたまに挨拶をする程度の関係にある、この村の漁師の代表をしている白髪のおじさんが、私の言葉に反応してくれる。
そして私のところまで来て、状況を説明してくれた。
「急に嵐がきてな。俺の船も近くにいたんだが、モラダの船が大きな波をもろに喰らっちまって……」
「そ、それで!」
「あっという間に沈んじまったんだ。俺たちも二人をギリギリまで探したんだが、嵐がさらに酷くなってな」
「そ、それで…………いいえ、ありがとうございます」
私は「なぜもっと探してくれないんですか!」と言いたい気持ちをぐっと抑え、おじさんに頭を下げてお礼を言った。
この人も本当にギリギリまで探してくれたのだろう。周りの人達を見ても、二人を心配して集まってくれたようすが見てとれる。
「みなさん、ありがとうございます」
さらに集まってくれた漁師の人達にお礼を言って、夕方までそこにいたが風がおさまる様子はなかった。捜索は明日の朝となることが決まる。
「お父さん、兄さん」
雨の中、私は涙を流しながら、家へと戻ったのだった。
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