上 下
48 / 53
第二章 モモとダンジョン

第48話 モモ(7)

しおりを挟む
 それは神父さんと話をした、次の日だった。
 その日は朝から快晴で、海面が鏡のように静かだったと記憶している。

「行ってくる」

 お父さんはいつも通りにそう言うと、兄と一緒に玄関へと歩き出す。
 私は魔法学園への入学の時期が間近に迫っているため、家で魔法の復習と荷物の準備に取り掛かることにした。

「行ってらっしゃい」

 私とお母さんはそう言って、出て行く二人を見送った。

 ☆

 それから数時間たった時だった。突然、風が強まってきたかと思うと、大粒の雨が降り始めた。

「お父さん大丈夫かな」

「そうね」

 急に変わった天候にお母さんと二人、開けられない窓から海のほうを見てお父さんと兄を心配する。
 私は「きっと大丈夫」と自分に言い聞かせながら、ふたたび荷物の整理に没頭していた。

「本当にもらっていいのかな」

 昨日、神父さんに会った際に「本当はモモさんがもらった本ですよ」と言われ、勇者様の本を持っていくように手渡された。たぶん私が凄く気にいって何回も読んでいたのを、覚えてくれていたからだろう。
 バギーが乱暴に扱ったことで、少し角が折れてしまっているのも、今ではいい思い出である。

「マッシュもよく一緒に読んでいたな」

 そんな過去のいろいろな出来事を思い出しながら、その本を旅行かばんに入れた時だった。
 急に家の扉が開き、ドワーフで鍛冶師のバッバさんが飛び込んできた。

「大変だ! モラダとダダが!」

「えっ、二人がどうしたの!?」

「この嵐のせいで船が沈み、行方不明らしい」

 その言葉と同時に、力が抜け倒れ込んでしまうお母さんを私は支える。
 そして私はバッバさんに向かって言った。

「お母さんをお願いします」

「ああ、どうするんだ」

「港に行ってきます」

「えっ……行ってもできることはないぞ。それに危険だ」

「で、でも……行かせてください」

 話ながら外套がいとうを着た私は、彼を強い決意で見つめた。
 父と古くからの友人のバッバおじさん。彼の言葉は父の言葉と同じである。ここでおじさんに駄目だと言われたら、断れない。

「わかった……気をつけろよ」

「はい!」

 そう返事をすると、私は強い雨風ものともせずに港へと駆け出した。

 ☆

「お、お父さんと兄さんは!?」

 港に集まっている数人の漁師たち、彼らもこの嵐の中でさすがに出来ることは無いのだろう。
 海の近く倉庫に集まってはいたものの、父と兄を探しているようすは見られなかった。

「ああ、モラダさんの……」

 私とたまに挨拶をする程度の関係にある、この村の漁師の代表をしている白髪のおじさんが、私の言葉に反応してくれる。
 そして私のところまで来て、状況を説明してくれた。

「急に嵐がきてな。俺の船も近くにいたんだが、モラダの船が大きな波をもろに喰らっちまって……」

「そ、それで!」

「あっという間に沈んじまったんだ。俺たちも二人をギリギリまで探したんだが、嵐がさらに酷くなってな」

「そ、それで…………いいえ、ありがとうございます」

 私は「なぜもっと探してくれないんですか!」と言いたい気持ちをぐっと抑え、おじさんに頭を下げてお礼を言った。
 この人も本当にギリギリまで探してくれたのだろう。周りの人達を見ても、二人を心配して集まってくれたようすが見てとれる。

「みなさん、ありがとうございます」

 さらに集まってくれた漁師の人達にお礼を言って、夕方までそこにいたが風がおさまる様子はなかった。捜索は明日の朝となることが決まる。

「お父さん、兄さん」

 雨の中、私は涙を流しながら、家へと戻ったのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

執事が執事でなくなる日

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:35

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:70

流れ者のソウタ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:20

【完結】夫の不倫相手が元カレの奥さん

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:238

🔥煙崎(デカチン)センパイは禁煙できない!🔥

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:67

処理中です...