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第二章 モモとダンジョン

第49話 モモ(8)

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 お父さんと兄のことがよほどショックだったのだろう、お母さんはベッドで横になっていた。
 そんなお母さんのようすを見てくれていたバッバおじさんにお礼を言う。そして彼は私の顔を見ると、そっと抱きしめて慰めてくれる。
 泣き疲れた私は、そのまま机で寝てしまっていたようだった。

 ☆

 次の日、目が覚めるとバッバおじさんはいなかった。
 自分の家にでも戻ったのだろう……私はそう思いながら、いつの間にか外が静かになっていることに気がつく。

「まだ風が強いよね」

 私は窓の外を見ると、海の方に向かってつぶやいた。
 これだと船を出すのは無理だろう。そんなことを考えていると、バッバおじさんが慌てたようすで扉を開けて入ってきた。

「モラダとダダが見つかったぞ」

 その言葉に私は濡れたままの外套をふたたび着ると、急いで港へと向かったのだった。

 ☆

 お父さんと兄は船から放り出されたが、浮いていた木片に必死にしがみついて近くの海岸に着いたらしい。
 たまたま潮の向きがよかったのだろう、運が良かったとしか思えなかった。

 こんな奇跡に感謝し、私は後日、教会に足を運んだ。

「モモさん、お父さんとお兄さんが無事でよかったですね」

「はい」

 私は神父さんにそう返事をすると、続けて言った。

「神父さん。すみませんが、魔法学園へ行くのは取りやめます」

「えっ……なんでですか?」

「船が沈んでしまって……借りていた船なんで、お金を工面しないといけないんです」

 そう、船が沈んでしまったので、私の家には大きな借金ができてしまったのだ。
 おまけに怪我をして、お父さんと兄はしばらく仕事ができない。魔法学園へ行くための費用は、借金の返済に当てざるを得なかった。

「そうですか……わかりました。連絡しておきますね」
「はい。すみません」

 私は神父さんに深々と頭を下げた。そして、私が聞かれたくないことは、察してくれたのだろう。神父さんには魔法学園のことはついては、何も聞かなかった。

「生活とかは大丈夫ですか?」

「はい。兄の仕事を少し手伝っていたので、私が少しは稼げるとお母さんの魔法教室のお金でなんとか食べていけそうです」

「そうですか……何か困ったことがあったら言ってください」

「はい」

 神父さんはそう言うと、にっこりと笑ってくれる
 バッバおじさんも気にかけて、食材とかを差し入れしてくれている。この時はまだなんとかなるだろう……そう思っていた。

 ☆

 寒くなりもうすぐ年が明ける、そんな時だった。
 お父さんの怪我の状態はそれほど良くなく……先に回復した兄さんと私が一緒に猟にでることで家計が支えられていた。

「こんだけ寒くなると、獲物がいないな」

「うん」

 そんな気分で兄さんと楽しそうに話をしながら歩く。私たちはここ数日、何の獲物も獲れていなかった。
 今年はまだ雪が降っていない、少し暖かい冬が少し嬉しい。
 他に収入源の無い私たちは、バッバおじさんにもらう食料で、この冬はなんとか食いつないでいる感じであった。

 家に戻るとお母さんが何やら真剣な顔をして、ベッドに横たわっているお父さんと話をしていた。
 まだ足の状態が良くない。高いお金を払えば、中央教会の偉い人に回復魔法をかけてもらえるらしいが、そんなお金はうちにはなかった。
 薬草を使って痛みを抑えつつ、自然に治るのを待つしかない。

「お帰りなさい」

 私たちの顔を見るとお母さんが浮かない顔のまま、こっちを向いて言った。

「ただいま」

 私たちは何かあっただろうことを察する。

「何かあったの?」

「うーん、今お父さんとも話していたんだけど税金がね」

 年明け、それと同時に人頭税の支払期限がくる。いつも徴収は収穫時期だが、うちはこんな状態だったため、年明けまで待ってもらったのだ。その時はお父さんの怪我の回復が、こんなに時間がかかるとは思ってなかったこともある。

「どうしようかね」

 そうぽつりとつぶやくお母さん。それにお父さんも黙って目を伏せた。
 その時、兄が何かを決意したように言った。

「俺が軍隊に入る。そうすれば、3年間免税で少しお金もでる」

 そうこの国には軍に入れば3年間、税金を払わなくていい制度がある。しかも少ないが給料もでるのだ。

「でも兄さんがいなくなったら……」

「しょうがないだろ」

 私の言葉に兄はそう答え、弓と矢筒を下ろすと椅子に座った。
 お母さんとお父さんもそれを黙って聞いていた。でも兄が出て行ってしまったら、借金を返すのもままならなくなるのは目に見えている。私はそう思い、決断した。

「私が軍隊に行く。14歳から入隊できるし、魔法も少し使えるから」

「えっ、でもお前……」

 兄が私を止めようとするが、お母さんがそれを遮るように兄の肩に手を置いた。
 そして私の顔をじっと見る。そう、それしかないんだ。

「大丈夫だから」

 そう言って、私は台所に向かうと晩御飯の準備を始める。
 後ろで兄がお母さんと何か話をしていたが、あえて何も聞かないようにしていた。
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