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40喜び
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浄化魔法を掛けサキは『空間』から取り出した予備の服をムスタと共に着ると、静かに眠る赤ん坊を柔らかい布でくるんだ。
ムスタが赤ん坊を抱くに任せて、サキはそれを幸せな気持ちでずっと眺めている。ここが花畑だからというのもあるかもしれないが、ルカーシュにされたこととて赤子を授かるために必要な通るべき道だったような気すらする。指でそっと首筋をたどれば、小さなかさぶたになった噛み痕が触れた。
(この子は半分が獣人で、残りが魔族と人間なんだ。どんな大人になるんだろう)
ムスタの腕の中で眠る赤ん坊の耳がぴくぴくと動く、サキが頬を指先でちょいとつつけば布からはみ出ている尻尾がすいと振られた。ムスタによく似た赤ん坊はただ寝ているだけだというのに、見飽きることがない。
「目が開いたら何色だろ?」
「サキに似れば可愛らしくて良いが」
「えー、男の子に可愛らしいって必要?僕はムスに似てほしいけど」
頬をちょっと膨らませてサキが言えば、ムスタはくすぐったいような顔で笑った。
「サキ、礼を言っても足りぬが……ありがとう」
「うん、僕たちに家族が増えて嬉しい」
「わしは……サキさえいればいいと思っていたんだがの」
「僕だって、」
サキのことばを遮るように赤ん坊が泣きだした。館へ戻って獣の乳を与えなくてはならない。
「戻ったら忙しくて大変だけど、みんなで幸せになろうね。ムス」
「そうじゃの」
サキとムスタが花畑から館へと戻ると、5日間が過ぎていた。
玄関の中で赤ん坊の泣く声に出てきた執事のネストリが、赤子を抱いたサキにまさかと足を止めた。続いて厨房から出てきたカティがサキと赤子とムスタへ順番に目を向けた。サキが微笑んで頷けば理解したカティは前掛けで手を拭くと小躍りして喜び、すぐさま獣の乳を用意いたしますと厨房へと戻っていった。
騒ぎに出てきたキーラとイェルハルドは赤ん坊の誕生に二人して涙ぐんだ、イェルハルドは涙を流しながらカメラを呼び寄せてこの幸せな家族の奇跡の瞬間を切り取ろうと写真を撮り続けた。
「サキ兄さま、何だかさらにお美しくなったようで神々しいわ……」
キーラは頬を紅潮させ、カティの差し出した乳を含んで泣き止んだ赤ん坊をそっと覗き込んでいた。
「ムスタ師匠にとってもよく似ているのね、きっと素敵な子になってよ!」
小さな声で赤ん坊に話しかけるキーラを、懐かしい気持ちで見るのはイェルハルドとサキである。キーラが生まれたときのこと、その後の婚約騒動までを一気に思い出したイェルハルドとサキは顔を見合わせて微笑んだ。キーラはそろそろ10歳になる、あれが10年前のこととは月日の過ぎるのは何と早いことか。
伝魔法でサキがマティアスを呼べば、エーヴェルトが一緒に飛んできた。なぜかフロイラインもいたのだが一瞬で消え、のちに現れた際にはひろきが一緒にいた。
「うわー、ムスタそっくりなのじゃない!どっち?男の子?」
「男の子です」
「わわ、フロウ見て!こんなに小っちゃいのに生きてるって奇跡だよね」
「小さいな」
「ねっ、爪も小っちゃい。獣耳かっわいいなあー。サキ、ムスタ師匠おめでとう」
「ありがとう、ひろき」
飛んできたままの場所で固まっているマティアスをエーヴェルトが呼んだ。
「男の子だぞ。初孫を抱くか、マティアス」
「うるさい、……あ、いや。サキ良かったな、ムスタもおめでとう」
珍しく戸惑ってマティアスが祝いの言葉をかけた。そのままそっと腕を振るえばラミが現れて嬉しそうに微笑んだ。
「サキが幸せー。子どもってかわいいねえ?ムスタも幸せ?」
「あぁこの上なく」
全員が幸せに包まれていた。この世に悪いことなどなくいつまでも幸せに暮らしていける予感がした。サキが乳を飲み終えて静かになった赤ん坊をマティアスに手渡すと、マティアスはぎこちなくはあるが初孫をその腕に抱いたのだった。
「マティアスもおじい様かぁ」
エーヴェルトの茶化しにうるさいと返したマティアスだったが、言葉とは裏腹にその顔は見たこともないほど優しく綻んでいた。
全員で談話室へと移動し赤ん坊を囲んでとりとめもない話をしていれば、玄関扉がやや乱暴に叩かれた。迎えた執事のネストリに連れられるまでもなく、勝手知ったる様子で談話室へとやってきたクラースは走ってきたのか肩で息をしている。
「会議の間からエーヴェルト陛下とフロイライン様とマティアス師が急に消えたから、何が起こったのか確認、を、」
「クラース……」
「……あ、え、何?えぇっ、ムスタとサキの赤ん坊??」
サキがにっこりと赤ん坊を指す、今はイェルハルドが慣れた手つきで抱いているところであった。赤子とはいえ女性の裸を見るのはさすがに、とおむつだけは交換しなかったがキーラを育てたのはほとんどイェルハルドと言っても過言ではない。
慣れた様子で赤ん坊を抱くイェルハルドと手元を覗き込みながら傍に寄り添うキーラを一枚の美しい絵のように眩しい思いで眺めて、やがては彼らもとクラースは柔らかく微笑む。
クラースは微笑んだまま、サキとムスタへ祝福のことばを述べた。
「おめでとう、ムスタ、サキ」
「ありがとう、クラース」
「城から走って来て良かったよ、マティアス師は俺のこと置いて黙って飛ぶから」
「ふふっ、父さん珍しく気が動転してたのかもね」
「ふはっ、そうかもな」
和やかな空気のなか、エーヴェルトがちょうど良いから話しておくねと切り出した。
「サキとムスタの留守の間に、今回の件について星森にヴァスコーネス王国から正式な使者を出してある。途中までは転移魔法で向かっているから、それほど時間はかからないと思う」
エーヴェルトの話を聞いてムスタの表情が引き締まる。ムスタの番を害したのだからそれ相応の責任は取らせるつもりだとエーヴェルトは言った。
「それでどうしようか、サキとムスタの子についてだけれど」
「どう、とは?」
「サキは秘密裏に赤子を産んでいた、といってムスタの嫡男として公表してしまうかという話。その方が政治的にはまぁやりやすいよね」
「うむ、しかしそうなると星森が騒ぎそうだな」
「それって次の宗主がサキとムスタ師匠の子って占星が出たりしないの?」
ひろきの発言にうーん、と全員が頭を悩ませた。星森からの返事次第では荒事になるかもしれない。
「面倒だからそんなもの跡形もなく壊してしまえばいい」
「ははは、まぁたマティアスは物騒なことを」
「エーヴェルト陛下、目が笑ってませんよね?」
古の国が興ったときから存在するという占星とは、そもそも何なのだろうか。一年にたった一度の儀式で、人や国の運命をこうも翻弄する存在。
かつてのムスタの影、そして今回のルカーシュの件。どちらも人の手で歪められた哀しい人生のようにサキは感じた。占星というものは人が自分の生き方を自分で選べないよう縛りつけるための呪いとしか、サキには思えなかった。そしてなぜ占星の言うなりに星森の人々が動くのか、あるいは動かざるを得ないのかがサキにはわからない。
星森も一つの国ならば心の支えは占星でなくとも良い気がする、この世界には根づいていない一神信仰の恐ろしさについてサキは前世に思いを馳せた。人ならば人が律することができる、だが相手が占星という神にも似た唯一無二の存在であれば人は何かあったときそれに縋ってしまう。そして占星という呪いが絶対的な力を持ってしまうのだ。
「ムス、その占星の儀式ってどうやって行うものなの?」
「星森の奥まった洞窟の中に柱が立ちその奥に珠がある、それが我らの問いに対して認めるか認めないか伝えてくる」
「珠……占星の答えを伝える人が必要とか、そういったことはない?」
「珠は心耳に届くし、儀式は持ち回りじゃ」
「そうかあ。じゃあもしかして」
サキはムスタに洞窟の広さや深さ、参加する人々やその人数について細かく尋ねるとにっこり笑った。
「エーヴェルト陛下、占星を僕らで騙しちゃいませんか」
サキの案を聞いてみても、果たしてそれが占星に通用するものなのか誰も答えが出せなかった。しかしそれ以外に占星の出す答えを星森に認めさせる方法も、誰も思いつかないのである。
「危険は危険だと思うけれど」
「だが試してみる価値はあるだろう。駄目なら珠を破壊するまで」
それでは、とエーヴェルトが真っ直ぐムスタと視線を合わせた。ムスタが頷けばエーヴェルトが再び口を開いた。
「皆も知っての通り星森の宗主は18年経ってもいまだにムスタだ。年に一度の儀式で占星がムスタの退位を認めていない。このままではムスタも安心してここで過ごせないだろうし、サキと赤ん坊も心配だ。宗主の件を何とかしたいと我々は思っている」
誰も口を開きはしないが皆それぞれに頷いていた。
「そこでサキの案をよく検討してみようと思う。星森の次の儀式に間に合うように向かうには、準備期間が短いができるだけのことはしてみよう。サキ、本当にいいんだね?」
サキがエーヴェルトの目を見て頷いた。
「ではルカーシュを解放し、星森へ送り届けるとしよう。星森までの見届けはムスタに任せる」
その後はエーヴェルトの指示で次々と作戦内容が進められていった。
その夜遅く、自室へと下がったサキとムスタは赤ん坊が眠る籠を二人で覗いていた。たまに籠を揺らしてやれば小さな獣耳がぴくぴくと動いて大層愛らしい。
「この子の名前はどうしようか?」
「サキがつけてやりたい名前はあるかの?」
「僕はムスにつけてほしいな」
ムスタは赤子を見てしばらく考え、それからサキを見た。
「スルール……星森の古のことばで、喜びという」
「喜びかあ。スルール、素敵な名前ありがとう」
「わしが今感じているような人生の喜びが、この愛し子にも降り注ぐよう願う」
「うん、僕も。人生の喜びがこの子にも降り注ぎますように」
眠る幼子が身じろぎし、小さな獣耳がぴくりと動いた。
ムスタが赤ん坊を抱くに任せて、サキはそれを幸せな気持ちでずっと眺めている。ここが花畑だからというのもあるかもしれないが、ルカーシュにされたこととて赤子を授かるために必要な通るべき道だったような気すらする。指でそっと首筋をたどれば、小さなかさぶたになった噛み痕が触れた。
(この子は半分が獣人で、残りが魔族と人間なんだ。どんな大人になるんだろう)
ムスタの腕の中で眠る赤ん坊の耳がぴくぴくと動く、サキが頬を指先でちょいとつつけば布からはみ出ている尻尾がすいと振られた。ムスタによく似た赤ん坊はただ寝ているだけだというのに、見飽きることがない。
「目が開いたら何色だろ?」
「サキに似れば可愛らしくて良いが」
「えー、男の子に可愛らしいって必要?僕はムスに似てほしいけど」
頬をちょっと膨らませてサキが言えば、ムスタはくすぐったいような顔で笑った。
「サキ、礼を言っても足りぬが……ありがとう」
「うん、僕たちに家族が増えて嬉しい」
「わしは……サキさえいればいいと思っていたんだがの」
「僕だって、」
サキのことばを遮るように赤ん坊が泣きだした。館へ戻って獣の乳を与えなくてはならない。
「戻ったら忙しくて大変だけど、みんなで幸せになろうね。ムス」
「そうじゃの」
サキとムスタが花畑から館へと戻ると、5日間が過ぎていた。
玄関の中で赤ん坊の泣く声に出てきた執事のネストリが、赤子を抱いたサキにまさかと足を止めた。続いて厨房から出てきたカティがサキと赤子とムスタへ順番に目を向けた。サキが微笑んで頷けば理解したカティは前掛けで手を拭くと小躍りして喜び、すぐさま獣の乳を用意いたしますと厨房へと戻っていった。
騒ぎに出てきたキーラとイェルハルドは赤ん坊の誕生に二人して涙ぐんだ、イェルハルドは涙を流しながらカメラを呼び寄せてこの幸せな家族の奇跡の瞬間を切り取ろうと写真を撮り続けた。
「サキ兄さま、何だかさらにお美しくなったようで神々しいわ……」
キーラは頬を紅潮させ、カティの差し出した乳を含んで泣き止んだ赤ん坊をそっと覗き込んでいた。
「ムスタ師匠にとってもよく似ているのね、きっと素敵な子になってよ!」
小さな声で赤ん坊に話しかけるキーラを、懐かしい気持ちで見るのはイェルハルドとサキである。キーラが生まれたときのこと、その後の婚約騒動までを一気に思い出したイェルハルドとサキは顔を見合わせて微笑んだ。キーラはそろそろ10歳になる、あれが10年前のこととは月日の過ぎるのは何と早いことか。
伝魔法でサキがマティアスを呼べば、エーヴェルトが一緒に飛んできた。なぜかフロイラインもいたのだが一瞬で消え、のちに現れた際にはひろきが一緒にいた。
「うわー、ムスタそっくりなのじゃない!どっち?男の子?」
「男の子です」
「わわ、フロウ見て!こんなに小っちゃいのに生きてるって奇跡だよね」
「小さいな」
「ねっ、爪も小っちゃい。獣耳かっわいいなあー。サキ、ムスタ師匠おめでとう」
「ありがとう、ひろき」
飛んできたままの場所で固まっているマティアスをエーヴェルトが呼んだ。
「男の子だぞ。初孫を抱くか、マティアス」
「うるさい、……あ、いや。サキ良かったな、ムスタもおめでとう」
珍しく戸惑ってマティアスが祝いの言葉をかけた。そのままそっと腕を振るえばラミが現れて嬉しそうに微笑んだ。
「サキが幸せー。子どもってかわいいねえ?ムスタも幸せ?」
「あぁこの上なく」
全員が幸せに包まれていた。この世に悪いことなどなくいつまでも幸せに暮らしていける予感がした。サキが乳を飲み終えて静かになった赤ん坊をマティアスに手渡すと、マティアスはぎこちなくはあるが初孫をその腕に抱いたのだった。
「マティアスもおじい様かぁ」
エーヴェルトの茶化しにうるさいと返したマティアスだったが、言葉とは裏腹にその顔は見たこともないほど優しく綻んでいた。
全員で談話室へと移動し赤ん坊を囲んでとりとめもない話をしていれば、玄関扉がやや乱暴に叩かれた。迎えた執事のネストリに連れられるまでもなく、勝手知ったる様子で談話室へとやってきたクラースは走ってきたのか肩で息をしている。
「会議の間からエーヴェルト陛下とフロイライン様とマティアス師が急に消えたから、何が起こったのか確認、を、」
「クラース……」
「……あ、え、何?えぇっ、ムスタとサキの赤ん坊??」
サキがにっこりと赤ん坊を指す、今はイェルハルドが慣れた手つきで抱いているところであった。赤子とはいえ女性の裸を見るのはさすがに、とおむつだけは交換しなかったがキーラを育てたのはほとんどイェルハルドと言っても過言ではない。
慣れた様子で赤ん坊を抱くイェルハルドと手元を覗き込みながら傍に寄り添うキーラを一枚の美しい絵のように眩しい思いで眺めて、やがては彼らもとクラースは柔らかく微笑む。
クラースは微笑んだまま、サキとムスタへ祝福のことばを述べた。
「おめでとう、ムスタ、サキ」
「ありがとう、クラース」
「城から走って来て良かったよ、マティアス師は俺のこと置いて黙って飛ぶから」
「ふふっ、父さん珍しく気が動転してたのかもね」
「ふはっ、そうかもな」
和やかな空気のなか、エーヴェルトがちょうど良いから話しておくねと切り出した。
「サキとムスタの留守の間に、今回の件について星森にヴァスコーネス王国から正式な使者を出してある。途中までは転移魔法で向かっているから、それほど時間はかからないと思う」
エーヴェルトの話を聞いてムスタの表情が引き締まる。ムスタの番を害したのだからそれ相応の責任は取らせるつもりだとエーヴェルトは言った。
「それでどうしようか、サキとムスタの子についてだけれど」
「どう、とは?」
「サキは秘密裏に赤子を産んでいた、といってムスタの嫡男として公表してしまうかという話。その方が政治的にはまぁやりやすいよね」
「うむ、しかしそうなると星森が騒ぎそうだな」
「それって次の宗主がサキとムスタ師匠の子って占星が出たりしないの?」
ひろきの発言にうーん、と全員が頭を悩ませた。星森からの返事次第では荒事になるかもしれない。
「面倒だからそんなもの跡形もなく壊してしまえばいい」
「ははは、まぁたマティアスは物騒なことを」
「エーヴェルト陛下、目が笑ってませんよね?」
古の国が興ったときから存在するという占星とは、そもそも何なのだろうか。一年にたった一度の儀式で、人や国の運命をこうも翻弄する存在。
かつてのムスタの影、そして今回のルカーシュの件。どちらも人の手で歪められた哀しい人生のようにサキは感じた。占星というものは人が自分の生き方を自分で選べないよう縛りつけるための呪いとしか、サキには思えなかった。そしてなぜ占星の言うなりに星森の人々が動くのか、あるいは動かざるを得ないのかがサキにはわからない。
星森も一つの国ならば心の支えは占星でなくとも良い気がする、この世界には根づいていない一神信仰の恐ろしさについてサキは前世に思いを馳せた。人ならば人が律することができる、だが相手が占星という神にも似た唯一無二の存在であれば人は何かあったときそれに縋ってしまう。そして占星という呪いが絶対的な力を持ってしまうのだ。
「ムス、その占星の儀式ってどうやって行うものなの?」
「星森の奥まった洞窟の中に柱が立ちその奥に珠がある、それが我らの問いに対して認めるか認めないか伝えてくる」
「珠……占星の答えを伝える人が必要とか、そういったことはない?」
「珠は心耳に届くし、儀式は持ち回りじゃ」
「そうかあ。じゃあもしかして」
サキはムスタに洞窟の広さや深さ、参加する人々やその人数について細かく尋ねるとにっこり笑った。
「エーヴェルト陛下、占星を僕らで騙しちゃいませんか」
サキの案を聞いてみても、果たしてそれが占星に通用するものなのか誰も答えが出せなかった。しかしそれ以外に占星の出す答えを星森に認めさせる方法も、誰も思いつかないのである。
「危険は危険だと思うけれど」
「だが試してみる価値はあるだろう。駄目なら珠を破壊するまで」
それでは、とエーヴェルトが真っ直ぐムスタと視線を合わせた。ムスタが頷けばエーヴェルトが再び口を開いた。
「皆も知っての通り星森の宗主は18年経ってもいまだにムスタだ。年に一度の儀式で占星がムスタの退位を認めていない。このままではムスタも安心してここで過ごせないだろうし、サキと赤ん坊も心配だ。宗主の件を何とかしたいと我々は思っている」
誰も口を開きはしないが皆それぞれに頷いていた。
「そこでサキの案をよく検討してみようと思う。星森の次の儀式に間に合うように向かうには、準備期間が短いができるだけのことはしてみよう。サキ、本当にいいんだね?」
サキがエーヴェルトの目を見て頷いた。
「ではルカーシュを解放し、星森へ送り届けるとしよう。星森までの見届けはムスタに任せる」
その後はエーヴェルトの指示で次々と作戦内容が進められていった。
その夜遅く、自室へと下がったサキとムスタは赤ん坊が眠る籠を二人で覗いていた。たまに籠を揺らしてやれば小さな獣耳がぴくぴくと動いて大層愛らしい。
「この子の名前はどうしようか?」
「サキがつけてやりたい名前はあるかの?」
「僕はムスにつけてほしいな」
ムスタは赤子を見てしばらく考え、それからサキを見た。
「スルール……星森の古のことばで、喜びという」
「喜びかあ。スルール、素敵な名前ありがとう」
「わしが今感じているような人生の喜びが、この愛し子にも降り注ぐよう願う」
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