眠り姫は夢の中

rui

文字の大きさ
12 / 40
緑の大地の野蛮な人間

11

しおりを挟む
***

学校へ通って勉学に励むことは、いつか飛空船技師になるために必要なこと。

というわけで、ジャックはダルそうな授業態度とは裏腹に、しっかりと勉強はしている。

--ドン、と廊下を歩いていたらすれ違い様に男子生徒と肩がぶつかった。
わざとぶつかってきた、とすぐに分かって思わず眉間にしわを寄せる。

「なんだぁ? 先輩に向かってその生意気な顔は」
「お前が噂のジャックだな?」
「ちょっとツラ貸せや」

ガタイのいい上級生3人組が、ジャックの胸ぐらを掴んでニヤニヤしながら言う。
が、ジャックは特に動じることなく、その手を振り払う。

めんどくさい。

「はぁ? てめーふざけんな!」
「領主の息子だからってただじゃおかねーぞ!」
「痛い目にあいてーのか!?」

いや、すでにめんどくさい事になっているらしい。

ジャックが無言で3人組を睨むと、怯む男たち。

学校内で問題を起こすと、停学になることもある。
親もうるさいだろう。
だから、ジャックは相手にせずに無視して歩き出そうとしたのだが。
男たちは歩き出すジャックに苛立ち、突然殴りかかってきたのだった。

「おい、なめてんじゃねぇぞ!」

ガッ、と頬に痛みが走った。
離れたところで見ていたらしい、女子生徒の悲鳴が聞こえる。

どちらが先に手を出したのか、目撃者はいる。
ならば、

「……うぐ!」

基本的に、売られた喧嘩は買う。
やられっぱなしは癪だからだ。

ジャックは無言で、男の一人の腹に躊躇なく蹴りを入れた。

「て、てめぇ!」
「ボコボコにしてやる!」

残りの二人が掴みかかってくるが、ジャックは顔色ひとつ変えず。
……あっというまに、二人まとめて地面にひれ伏させたのであった。

「ジャック様、ジャック様ダメですって!」
「け、怪我……してます……」

騒ぎを聞きつけて駆けつけたジーグとミリアが、ジャックを強引に医務室へと連れて行こうとした時。
3人組から聞こえてきたのは、

「ちくしょお……」
「なんでそんなやつと……」
「可愛い……ミリアちゃん……」

なぜか、ミリアの名前だった。

ジャックが不可解だ、と言わんばかりの表情で男たちを見ると、ジーグがニコニコしながら説明をしてきた。

「ああ。彼らはミリア様のファンクラブ会員らしいですよ。だから婚約者のジャック様にいちゃもんを」

……なるほど。
よく分からない。

ミリアを見下ろしてみれば、彼女はオロオロしながら自分のハンカチでジャックの口もとの血を拭おうとしてた。

「いい」

ジャックは顔を背け、何事もなかったかのように歩き廊下を出す。
大した傷ではない。
何より、人に触れられるのは好きじゃない。

***

「痛そう……。もしかして、喧嘩した?」
「向こうが吹っかけてきた」

夢の中。
草原に並んで座り、ジャックの口もとにソッと優しく触れるのは、テスだ。

夢の中でまで怪我の痛みがあるなんて、なんだか変な感じがする。

「ねぇねぇ、喧嘩は勝った?」

なぜかわくわくしてるテスに、ああ、と当たり前に返事をしたら、

「ジャック、強いんだね!」

説教するわけでもなく。
テスは、どこか楽しそうにそう口にした。

「でも、どうして喧嘩、ふっかけられたの?」
「ミリアの婚約者だから、らしい」

聞かれたから答えた。
それだけなのだが。

…………。
…………。

テスから、何も返事がない。

ふと隣のテスへ視線をやると、どこか作り笑いを浮かべて、

「ミリアさん、って言うんだ」

そうポツリとつぶやくだけだった。
一体、なんなのだろう。

二人の間に沈黙が流れた。

…………。

別に、誰かと話すのは好きじゃない。
めんどくさい。
いつもなら気にもしない沈黙なのだが。

「お前、なに怒ってるんだ?」

気になった。
いつもの笑顔とは違う、なんだか距離を置かれたような、そんな作り笑いが。
不機嫌そうな、雰囲気が。

だから、だ。
だから、 沈黙を破った。

「……怒ってないよ? けど、」

テスがジャックを潤んだ瞳で見上げてきた。
宝石のような緑色の瞳で。

「いいなぁーって」

どこか寂しげに笑ったように見えた。

「……あっ、雨?」

ポツポツと、空から降り出す雨。

ここは夢の中なので、別に風邪をひいたりしないのだろうけれど。
ジャックは立ち上がり、テスの手をとった。

「雨宿りするぞ」
「う、うん」

手を握り合って、雨宿りできそうな場所を探しにしばらく走ると、大きな木を発見できた。
ここならば、雨宿りできるだろう。

はぁはぁ、と息を切らすテスだが、先ほどよりもずいぶんと楽しそうだ。

「夢の中なのに、雨宿りする意味ってあるのかな?」
「……さぁ」
「良かったね。雷、鳴ってない」
「…………」

以前の失態を思い出し、なんとも言えない。

「雨、やまないね」

二人並んで空を見上げてみれば、雨はまだやみそうにない。
しばらくはこのままだろう。

……繋いだ手を離すタイミングを、失ってしまった気がする。
だが、まぁ別にいいか、とも思った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~

高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。 先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。 先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。 普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。 「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」 たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。 そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。 はちみつ色の髪をした竜王曰く。 「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」 番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ化企画進行中「妹に全てを奪われた元最高聖女は隣国の皇太子に溺愛される」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 部屋にこもって絵ばかり描いていた私は、聖女の仕事を果たさない役立たずとして、王太子殿下に婚約破棄を言い渡されました。 絵を描くことは国王陛下の許可を得ていましたし、国中に結界を張る仕事はきちんとこなしていたのですが……。 王太子殿下は私の話に聞く耳を持たず、腹違い妹のミラに最高聖女の地位を与え、自身の婚約者になさいました。 最高聖女の地位を追われ無一文で追い出された私は、幼なじみを頼り海を越えて隣国へ。 私の描いた絵には神や精霊の加護が宿るようで、ハルシュタイン国は私の描いた絵の力で発展したようなのです。 えっ? 私がいなくなって精霊の加護がなくなった? 妹のミラでは魔力量が足りなくて国中に結界を張れない? 私は隣国の皇太子様に溺愛されているので今更そんなこと言われても困ります。 というより海が荒れて祖国との国交が途絶えたので、祖国が危機的状況にあることすら知りません。 小説家になろう、アルファポリス、pixivに投稿しています。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 小説家になろうランキング、異世界恋愛/日間2位、日間総合2位。週間総合3位。 pixivオリジナル小説ウィークリーランキング5位に入った小説です。 【改稿版について】   コミカライズ化にあたり、作中の矛盾点などを修正しようと思い全文改稿しました。  ですが……改稿する必要はなかったようです。   おそらくコミカライズの「原作」は、改稿前のものになるんじゃないのかなぁ………多分。その辺良くわかりません。  なので、改稿版と差し替えではなく、改稿前のデータと、改稿後のデータを分けて投稿します。  小説家になろうさんに問い合わせたところ、改稿版をアップすることは問題ないようです。  よろしければこちらも読んでいただければ幸いです。   ※改稿版は以下の3人の名前を変更しています。 ・一人目(ヒロイン) ✕リーゼロッテ・ニクラス(変更前) ◯リアーナ・ニクラス(変更後) ・二人目(鍛冶屋) ✕デリー(変更前) ◯ドミニク(変更後) ・三人目(お針子) ✕ゲレ(変更前) ◯ゲルダ(変更後) ※下記二人の一人称を変更 へーウィットの一人称→✕僕◯俺 アルドリックの一人称→✕私◯僕 ※コミカライズ化がスタートする前に規約に従いこちらの先品は削除します。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

王妃候補に選ばれましたが、全く興味の無い私は野次馬に徹しようと思います

真理亜
恋愛
 ここセントール王国には一風変わった習慣がある。  それは王太子の婚約者、ひいては未来の王妃となるべく女性を決める際、何人かの選ばれし令嬢達を一同に集めて合宿のようなものを行い、合宿中の振る舞いや人間関係に対する対応などを見極めて判断を下すというものである。  要は選考試験のようなものだが、かといってこれといった課題を出されるという訳では無い。あくまでも令嬢達の普段の行動を観察し、記録し、判定を下すというシステムになっている。  そんな選ばれた令嬢達が集まる中、一人だけ場違いな令嬢が居た。彼女は他の候補者達の観察に徹しているのだ。どうしてそんなことをしているのかと尋ねられたその令嬢は、 「お構い無く。私は王妃の座なんか微塵も興味有りませんので。ここには野次馬として来ました」  と言い放ったのだった。  少し長くなって来たので短編から長編に変更しました。

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

処理中です...