眠り姫は夢の中

rui

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運命の赤い糸

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テスに連れられた広場は、大勢の人々で賑わっていた。
皆が皆、空を見上げている。

ジャックも空を見上げてみて、その目に映った光景に言葉を失った。

その目に映るのは……空を自在に飛び交う、箒に乗った男女だ。
箒の上に片足で立ってバランスをとったり、片手で捕まりポーズをとったり、ものすごいスピードで上昇してはクルクルと回転したりと、とにかく衝撃的な光景であった。

ここは、魔法の国。
そういえばそうだったな、と実感した。

「……魔法の力ってやつで飛んでるのか」

信じられない。

「えっとね……飛んでるのは、『浮遊石』の力」
「浮遊石?」

聞いたことがない。
聞き返すと、テスがくい、とジャックの手を引っ張る。

「いいものあげる。お城に行こ?」
「いいもの? あげるって……」

あげると言われても、ここは夢の中だ。
そんなことはテスもよく分かっているはず。
何を考えているのだろうか。


城の中の廊下を、二人は並んで歩く。

「そういえば……お前、お姫様だったな」
「うん。ひとり娘だから、いつか私がこの国の女王にならなきゃいけないの」
「……ならなきゃダメなのか」

まぁ、普通に考えたらそうだろう。
ジャックの住む地上の王家も、だいたいそんなものだ。
しかしジャックは、なんだか面白くない。

「そのためには、私は眠り続けるわけにはいかないんだ」

ポツリと、テスが呟いた。
どういう意味だろうか。

「眠り続ける?」
「ねぇ、ジャック。ジャックはいつか飛空船を造って、旅に出るんでしょ?」

ジャックの質問をスルーして、テスが見上げながら聞いてきた。

「あ? ああ……。そういえば、話してなかったな」
「なにを?」
「最近、街に不時着した飛空船技師のタックスっていう男がいて……飛空船の修理、手伝ってる」

ずっと話したかったことだ。

「そうなんだ! ねぇ、飛空船の修理、楽しい?」
「ああ」

即答してしまった。
すると、テスがクスクスと笑う。
何がおかしかったのか分からないジャックが、テスを見ていると、

「ジャック、楽しそうな顔してる」

そう、教えてくれた。
テスが隣で笑っていると、なんだか安心する。

「あ……着いた。ここね、浮遊石の倉庫」

部屋を開けて中に入ると、いくつものガラスのショーケースに入れられた、たくさんのフワフワと浮いた透明な石……浮遊石。
まるで宝石のように美しい。

「浮遊石は、大きければ大きいほど高く飛べるの。ほら、これとこれをくっつければ……」

ショーケースから、テスが手のひらサイズの浮遊石を二つ取り出す。
そして、二つをくっつけると、浮遊石は更に高く浮いた。

「おもしろいでしょ?」
「へぇ……」

実に、興味深い。
こんなもの、地上では見たことも聞いたこともない。

「……これ、飛空船に取り付けたら……燃料なくても飛べるってことか?」
「うん」
「この空の島国まで高く?」

ジャックのその問いに、テスはほんの少し目を潤ませる。

「……来れるとしたら、どうする?」
「そりゃあ……」

ジャックはまじまじとショーケースの中の浮遊石を見ながら、無意識に答えた。

「お前に会いにくる」
「っ、」
「そんで、飛空船に乗せて地上を見せてやる」

幼い頃の約束だ。

「なぁ、これ……地上にもあるのか?」

テスは、先程見せた浮遊石を手に取るなり、スッとジャックに差し出してきた。

「なんだ?」
「地上にはないと思う。だからこれ……あげる。ちょっと早いけど、誕生日プレゼント」
「……いや、ここ夢の中だろ」

もらったところで、夢から覚めたら意味がない。

しかしテスは、少し茶目っ気のある笑みを浮かべて、

「私もね、こう見えて魔法使いなんだよ? 楽しみにしてて、ね?」

そう言ったあと、ジッとジャックを見つめてきた。

どこか悲しげな表情で。
切ない表情で。

ジャックの胸が、締め付けられた気がした。

「……だから、時々でいいから、私のこと……思い出してほしい」
「どういう意味だ?」

ポロポロと、また涙が流れている。
なぜ、テスはこんなに泣くのだろう。

「私、もうジャックに会えない。会いたくない。
だから、昔の約束は忘れて?」
「……は?」

何を、言っているのだろうか。

「私、楽しかった。ジャックと出会えて、すごく嬉しかった」
「おい、」
「これ以上ジャックといると……辛いよ。だって、これ以上好きになっても、ジャックは私の運命の赤い糸の相手じゃないもの。だから、」

直感的に、別れの言葉なのだと、気づいた。

だから……

テスが続きを言うよりも先に、体が動いた。

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