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【第四章】影、点々と
20 : 共有(カスパル、エリオ)
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カマル・セルベの一室にふたりはいた。
音ひとつない静けさの中、カスパルは机に広げた地図の配置案を指でたどっていた。
「この配置、要人の移動経路に兵を張る形だな……防衛というより、確保だ」
エリオは無言で別の紙束を置く。
そこには、各地の情勢と主要家格の動きが細かく記されていた。
「父経由で入った。予想以上に流れが早い」
カスパルはざっと目を通し、視線を上げる。
「……ルクスの能力、あれはこの状況では無視できない」
エリオは眉を寄せる。
「おまえも、そう思うか」
「思う、というより確信だ」
カスパルの声は低い。
「内乱鎮圧や要人警護……ルクスの〈神経投射〉の〈裏〉の使い方なら、戦況をひっくり返せる。あれは、一度知った者なら、間違いなく欲しがる」
エリオは頷きつつ、机の端を指で叩いた。
「問題は、どう扱われるか、だ」
カスパルは短く息をつき、地図を折りたたむ。
「演習の内容も変わることになるな。これからは机上の防衛戦じゃなく、もっと実戦寄りに……内乱や要人確保を想定した動きになる」
「プレフェクト候補やカピタン候補の評価課程もそうだ。おまえやシエルの項目も、大きく変わる」
エリオは視線を落とし、一拍置いてから口を開いた。
「ルクスを、おまえの班に入れる」
カスパルはわずかに目を見開いた。
「理由は?」
「情勢に合わせた評価課程になる。おまえの〈演算〉なら、ルクスの能力の〈裏〉まで最大限に活かせる。実戦面での判断だ」
そこで、エリオはほんのわずかに口調をやわらげた。
「もうひとつは……おまえなら、任せられる」
エリオは机に置いた紙束をさっと集めると、それをカスパルに差し出し、告げる。
「おまえの班で、ルクスをどう動かすかが鍵になる。扱いきれるかどうか……それも評価対象になるだろう」
短い沈黙ののち、カスパルは紙束を受け取った。
「……僕が把握している情報を共有する。君を失神させた時、ルクスは〈神経投射〉を君に直接使ったと言っていた。相手の隙を狙って、意識や動きを寸断させる使い方だ。これは演習の中でも応用しやすい」
エリオは顎に指を当て、わずかに頷く。
「状況からルクスによるものだとはわかっていたが、失神した瞬間のことは覚えていない。対象に認識を残さない精度だ。……以前、演習の中で、俺の〈支配域〉にルクスの能力の介入があった。その時はわずかだが介入の感触があったが……」
「発動中の能力に重ねて使ったんだろう。ルクスが〈神経投射〉で強化した自分の身体に、さらに〈神経投射〉を重ねて使っていたことがある。負荷を調整することで、身体強化の限界を広げていた」
カスパルは、ルクスの身体強化だけではおこりえない数値の波を見た時のことを説明する。
「ルクスが彼自身に重ねて使ったときには、〈演算〉による数値とのズレでしか感知できない精度だった。……だが、他者の能力に介入する場合は、相手に感触として残るということか……」
エリオから受け取った紙束も、小さく折りたたみながら、カスパルは続ける。
「あとひとつ。意識のない相手の身体を一定範囲で操作し動かすことができる。ルクスは、失神している君をその方法でベッドまで移動させたと言っていた」
「……そこまで、できるのか」
エリオの声には、危惧がにじむ。
「整理する。ルクスの〈神経投射〉の〈裏〉の使い方は、主に三つーー直接他者に行使する〈寸断〉、自己または他者の能力に介入する〈重複〉、意識のない相手の身体を動かす〈操作〉。このうち、表に出すのは〈寸断〉と〈重複〉のみ。ただし負荷が大きく、連続使用は不可という枠をつける。〈操作〉は、このまま伏せる」
エリオは頷く。
「推測で上がっているのは〈寸断〉と〈重複〉だ。先に枠つきで報告しておけば、軽々しく要求されない枷になる」
「運用上は、僕の〈演算〉下での行使を条件にする。演習や記録では、高負荷かつ低頻度であることを強調し、教官たちに植えつける」
エリオはさらに頷いた。
「ルクスをおまえの班に入れる件は、その前提で動く。稼働はおまえの設計に合わせる。俺は現場の裁量を担保する」
「僕は、負荷の演出も込みで訓練を組む。ルクスの不利益にならないよう調整する」
エリオは口角をわずかに上げた。
「おまえらしい」
「君もな」
室内に静けさが戻る。
しかし、その静けさの下で、扱いを誤れば一瞬で燃え上がる火種のような危うさが、ひとつの了解として共有されていた。
音ひとつない静けさの中、カスパルは机に広げた地図の配置案を指でたどっていた。
「この配置、要人の移動経路に兵を張る形だな……防衛というより、確保だ」
エリオは無言で別の紙束を置く。
そこには、各地の情勢と主要家格の動きが細かく記されていた。
「父経由で入った。予想以上に流れが早い」
カスパルはざっと目を通し、視線を上げる。
「……ルクスの能力、あれはこの状況では無視できない」
エリオは眉を寄せる。
「おまえも、そう思うか」
「思う、というより確信だ」
カスパルの声は低い。
「内乱鎮圧や要人警護……ルクスの〈神経投射〉の〈裏〉の使い方なら、戦況をひっくり返せる。あれは、一度知った者なら、間違いなく欲しがる」
エリオは頷きつつ、机の端を指で叩いた。
「問題は、どう扱われるか、だ」
カスパルは短く息をつき、地図を折りたたむ。
「演習の内容も変わることになるな。これからは机上の防衛戦じゃなく、もっと実戦寄りに……内乱や要人確保を想定した動きになる」
「プレフェクト候補やカピタン候補の評価課程もそうだ。おまえやシエルの項目も、大きく変わる」
エリオは視線を落とし、一拍置いてから口を開いた。
「ルクスを、おまえの班に入れる」
カスパルはわずかに目を見開いた。
「理由は?」
「情勢に合わせた評価課程になる。おまえの〈演算〉なら、ルクスの能力の〈裏〉まで最大限に活かせる。実戦面での判断だ」
そこで、エリオはほんのわずかに口調をやわらげた。
「もうひとつは……おまえなら、任せられる」
エリオは机に置いた紙束をさっと集めると、それをカスパルに差し出し、告げる。
「おまえの班で、ルクスをどう動かすかが鍵になる。扱いきれるかどうか……それも評価対象になるだろう」
短い沈黙ののち、カスパルは紙束を受け取った。
「……僕が把握している情報を共有する。君を失神させた時、ルクスは〈神経投射〉を君に直接使ったと言っていた。相手の隙を狙って、意識や動きを寸断させる使い方だ。これは演習の中でも応用しやすい」
エリオは顎に指を当て、わずかに頷く。
「状況からルクスによるものだとはわかっていたが、失神した瞬間のことは覚えていない。対象に認識を残さない精度だ。……以前、演習の中で、俺の〈支配域〉にルクスの能力の介入があった。その時はわずかだが介入の感触があったが……」
「発動中の能力に重ねて使ったんだろう。ルクスが〈神経投射〉で強化した自分の身体に、さらに〈神経投射〉を重ねて使っていたことがある。負荷を調整することで、身体強化の限界を広げていた」
カスパルは、ルクスの身体強化だけではおこりえない数値の波を見た時のことを説明する。
「ルクスが彼自身に重ねて使ったときには、〈演算〉による数値とのズレでしか感知できない精度だった。……だが、他者の能力に介入する場合は、相手に感触として残るということか……」
エリオから受け取った紙束も、小さく折りたたみながら、カスパルは続ける。
「あとひとつ。意識のない相手の身体を一定範囲で操作し動かすことができる。ルクスは、失神している君をその方法でベッドまで移動させたと言っていた」
「……そこまで、できるのか」
エリオの声には、危惧がにじむ。
「整理する。ルクスの〈神経投射〉の〈裏〉の使い方は、主に三つーー直接他者に行使する〈寸断〉、自己または他者の能力に介入する〈重複〉、意識のない相手の身体を動かす〈操作〉。このうち、表に出すのは〈寸断〉と〈重複〉のみ。ただし負荷が大きく、連続使用は不可という枠をつける。〈操作〉は、このまま伏せる」
エリオは頷く。
「推測で上がっているのは〈寸断〉と〈重複〉だ。先に枠つきで報告しておけば、軽々しく要求されない枷になる」
「運用上は、僕の〈演算〉下での行使を条件にする。演習や記録では、高負荷かつ低頻度であることを強調し、教官たちに植えつける」
エリオはさらに頷いた。
「ルクスをおまえの班に入れる件は、その前提で動く。稼働はおまえの設計に合わせる。俺は現場の裁量を担保する」
「僕は、負荷の演出も込みで訓練を組む。ルクスの不利益にならないよう調整する」
エリオは口角をわずかに上げた。
「おまえらしい」
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