影の織り手たち

あおごろも

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【第一章】影の交差

3 : 初演習 ー前編ー

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 就寝前の時間、ルクスは翌日の演習の割り当て表を確認していた。ある名前をなぞったところで、ふと、止まる。
 机に向かい端末を操作しているカスパルに、問いかける。

「ねえ、カスパル。グランヴェレス……って誰?」

 カスパルは端末から視線を上げ、少しだけ考えるような間を置いてから、答えた。

「上級生。エリオ・グランヴェレス。第四組の指揮候補。能力は〈支配域〉。昨期の評価は、たしか上位五位内だったと思う」
「……ふうん」

 ルクスは情報を反芻すると、割り当て表に目を戻す。
 カスパルもまた、端末に視線を戻すと、操作を再開した。



 ーー翌朝。
 早朝の冷気が訓練場に広がる中、生徒たちは三々五々、割り当てられた組の集合場所へと集まっていた。

 今回の演習は、学年を越えた縦割り形式で編成された〈組〉ごとに行われ、各組はさらに〈班〉に分かれて任務を遂行する。

 ルクスが属するのは、上級生・下級生が混ざった、第四組だった。
 その中でルクスは、上級生のエリオ・グランヴェレスと同じ第一班に割り当てられている。
 一方、カスパルは同じ第四組だが、第二班に属し、作戦補佐の立場から戦術構築と情報管理を担うことになっていた。

 訓練場の片隅で、教官が名簿を手に、組と班の構成を確認していく。

「第四組、各班、代表、前へ。能力確認を行う」

 低く響くその声に従って、ルクスは小さく息を吸い、前へと一歩を踏み出す。

 第一班の代表として、ルクスは、同じ班のエリオの隣に立った。
 周囲には、同じく各班の代表として並んだ生徒たちが揃っていた。

 この時間帯は、演習本番の前に行われる簡易な能力確認。
 発動時の安定性や、制御状態を教官が目視で確認し、危険と判断されれば、補助具着用や能力制限の範囲が調整される。

 能力を抑えるための抑制装置は、すでに各自の手首や首元に着けられていた。
 ルクスの手首にも着けられたその装置は、極端な力の発動を制限する。

 ルクスが能力〈神経投射〉を発動させた瞬間、教官の表情が一瞬だけ動いた。
 しかし、すぐに無表情に戻る。

 今のは、ほんの一瞬、自分の神経信号を加速させただけ。
 それでも、ルクスの体がごくわずかに震えを帯び、視線の鋭さが増す。

「制御、異常なし」

 教官の声が落ち着いて響く。

 隣では、エリオが淡々と能力を発動させていた。
 地面がごくわずかに軋むような圧力を帯び、周囲の空気が重くなる。
 エリオの能力〈支配域〉が、ごく小規模に展開されたのだ。

「こちらも異常なし。演習時、制限レベルBで」

 それが告げられると同時に、能力の気配は収束していく。

 視線を交わしたエリオが、ほんの僅かに口元を緩めた。

「君、少し風変わりだな」
「え?」
「怖くないのか、俺の能力が」

 その一言に、ルクスは思わず瞬きをする。
 〈支配域〉は、通常、発動領域に入った者の精神面にも強い圧力をかける。
 その作用を自己を脅かす危険ととらえ、本能的に恐怖に近い感覚をもつ者もいるだろう。
 だから、すぐ隣にいながら表情も変えずにいた自分を、不思議に思ったのかもしれない。

「……怖くないわけじゃないけど、あなたが制御してるのが分かったから」

 それが、ルクスの正直な答えだった。
 能力の怖さを知らないわけではない。
 むしろ、知りすぎているからこそ、相手がそれをどう扱っているかに、自然と目が向く。

 エリオは、少しだけ驚いたような顔をしてから、小さく鼻を鳴らす。

「なるほど。君は、下級生だったか」
「はい。ルクス・フロレン。あなたは、エリオ・グランヴェレス……ですよね」
「ああ、そうだ。……よく知っているな」
「カスパルから聞きました」

 その名を出した瞬間、エリオの目がほんの僅かに細まった。
 しかし、何かを言うその前に、教官の合図が入り、簡易能力確認は終了した。

「第四組、全班、演習準備に入れ。五分後、開始」

 訓練場の中心では、模擬戦闘用のエリアがすでに整えられている。
 大小の障害物、視界を遮る遮蔽物、緩やかな高低差。

 各班は、それぞれの作戦を立て、戦闘演習に備え始めた。

 ルクスは、訓練服の袖をまくり、抑制装置を確かめる。
 小さく深呼吸し、隣に立つエリオを見上げた。

ーーこれが、最初の一歩。

 初演習。
 士官学院の、現実の一端。
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