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【第一章】影の交差
4 : 初演習 ー後編ー
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休憩終了の合図が鳴り響くと、訓練場には緊張した空気が戻ってきた。
いよいよ、班対抗の戦闘演習が始まる。
各組に割り振られた区域に、班ごとに展開し、制限時間内に、設定された任務目標を達成するーー
ただの模擬戦ではない。
目標の確保、情報の奪取、要員の護衛といった条件付き任務をこなす中で、戦闘能力だけでなく、判断力や連携力も問われる。
ルクスとエリオが属する第一班には〈指定地点の制圧と占拠〉が課されていた。
一方、カスパルが属する第二班には〈第一班の進行阻止と拠点防衛〉が任されている。
つまり、両班は真正面からぶつかる構図になる。
「行動開始まで、あと六十秒」
教官の声に、各班が素早く位置についた。
「ルクス・フロレン、君は中央ルートを。攪乱と牽制を頼む」
エリオが短く指示を出す。声は静かだが、従わせる重さがあった。
班のリーダーとしてという以上に、ただ自然にそうある者としての威圧と支配の気配。
その視線は、地図の先にある敵の思考までもとらえているようだった。
班内では、エリオを中心に戦術の骨格が組まれ、他のメンバーはそれに従って配置されている。
無理のない構成だったが、ルクスはそれだけでは終わらないものを感じていた。
「了解」
ルクスは短く答え、開始と同時に、中央ルートへと駆け出す。
それを追うように、地面が震えるような衝撃が走った。
エリオの〈支配域〉が、味方側の進行を助けるよう、進行経路に沿って巧みに展開された。
発動領域に触れた敵側の感覚を鈍らせ、判断を曇らせる。
第一班の突入は鮮やかだった。
しかしそれを迎え撃った第二班ーーカスパルの指揮も、冷静かつ的確だった。
「……右、前方から遮断される。迂回は難しい。……煙幕展開。……十秒後に再突入」
遮蔽壁の向こうから、通信越しのやりとりが断片的に聞こえてくる。
ルクスは耳を澄ませながら、姿を見られないよう、身を置く位置を調整していた。
ーーカスパルは、敵の心理も読んでる……
その思考と動きには無駄がない。
先回りするような配置、追い込まれたと見せての反転。
こちらの攻め手が、寸前のところでかわされ、逆に攻め返される。
エリオの〈支配域〉が、じわじわと引き伸ばされた敵の深部に届く前に、制限時間と範囲の限界を迎え、ひとまず引く。
それを待っていたかのようなタイミングで生じた局面の変動を、ルクスは見逃さなかった。
ーーカスパルの位置が動いた!
攻め込まれた際の指揮点を囮に、後方の補給地点へと自ら移動していた。
指揮の中心を動かすことで、敵の狙いを分散させる狙い――大胆だが、読み切られなければ有効な策。
ルクスは、反射的に判断する。
ーーなら……今!
瞬時に抑制装置の限界まで神経信号を加速し、影のように低く走る。
遮蔽の合間を縫い、無音のまま一気に裏手へとまわりこむ。
そこには、副補佐の後衛を伴ったカスパルがいた。
驚いた顔で振り返った副補佐が声を上げかけた瞬間、ルクスは制圧用の麻痺信号弾を正確に撃ち込む。
副補佐が倒れたその隙を突いて、ルクスはカスパルの足元を制し、仮想ナイフの柄をその首元に押し当てた。
「ーー制圧完了、目標ポイント確保」
訓練場に、終了を告げる合図が響いた。
すぐに教官たちが駆け寄り、装置の安全確認と記録の回収を始める。
他の生徒たちも、演習終了を知って次々に身を起こす。
「さすが、見事な読みと動きだったな」
カスパルが、僅かに口元を緩めた。
ごく自然な賞賛の響き。
「僕が囮にした指揮点は、エリオでも深追いしてこなかった」
「……彼は、囮だと見抜いたんだ。時間内に制圧されなければ、後で仕掛けるつもりだった」
「そうか。君は、それを見越していた……僕が仕掛けた偽の隙と、エリオが動かずにいた理由、その両方を」
カスパルの言葉に、ルクスは頷きを返した。
その少し後ろーー第二班の後衛線を突破し、遅れて追い着いていたエリオが、黙って二人の様子を見ていた。
「やるじゃないか」
静かに見極めるような眼差しとともに、その声には、確かに一つ、評価の色があった。
ルクスは、息を整えながら、ふと空を見上げた。
高く冷たい雲の隙間から、ほんの一瞬、陽が差し込んでいた。
これが、初めての演習。
まだ何者でもない自分が、学院の一角に立った実感が、指先に残っていた。
いよいよ、班対抗の戦闘演習が始まる。
各組に割り振られた区域に、班ごとに展開し、制限時間内に、設定された任務目標を達成するーー
ただの模擬戦ではない。
目標の確保、情報の奪取、要員の護衛といった条件付き任務をこなす中で、戦闘能力だけでなく、判断力や連携力も問われる。
ルクスとエリオが属する第一班には〈指定地点の制圧と占拠〉が課されていた。
一方、カスパルが属する第二班には〈第一班の進行阻止と拠点防衛〉が任されている。
つまり、両班は真正面からぶつかる構図になる。
「行動開始まで、あと六十秒」
教官の声に、各班が素早く位置についた。
「ルクス・フロレン、君は中央ルートを。攪乱と牽制を頼む」
エリオが短く指示を出す。声は静かだが、従わせる重さがあった。
班のリーダーとしてという以上に、ただ自然にそうある者としての威圧と支配の気配。
その視線は、地図の先にある敵の思考までもとらえているようだった。
班内では、エリオを中心に戦術の骨格が組まれ、他のメンバーはそれに従って配置されている。
無理のない構成だったが、ルクスはそれだけでは終わらないものを感じていた。
「了解」
ルクスは短く答え、開始と同時に、中央ルートへと駆け出す。
それを追うように、地面が震えるような衝撃が走った。
エリオの〈支配域〉が、味方側の進行を助けるよう、進行経路に沿って巧みに展開された。
発動領域に触れた敵側の感覚を鈍らせ、判断を曇らせる。
第一班の突入は鮮やかだった。
しかしそれを迎え撃った第二班ーーカスパルの指揮も、冷静かつ的確だった。
「……右、前方から遮断される。迂回は難しい。……煙幕展開。……十秒後に再突入」
遮蔽壁の向こうから、通信越しのやりとりが断片的に聞こえてくる。
ルクスは耳を澄ませながら、姿を見られないよう、身を置く位置を調整していた。
ーーカスパルは、敵の心理も読んでる……
その思考と動きには無駄がない。
先回りするような配置、追い込まれたと見せての反転。
こちらの攻め手が、寸前のところでかわされ、逆に攻め返される。
エリオの〈支配域〉が、じわじわと引き伸ばされた敵の深部に届く前に、制限時間と範囲の限界を迎え、ひとまず引く。
それを待っていたかのようなタイミングで生じた局面の変動を、ルクスは見逃さなかった。
ーーカスパルの位置が動いた!
攻め込まれた際の指揮点を囮に、後方の補給地点へと自ら移動していた。
指揮の中心を動かすことで、敵の狙いを分散させる狙い――大胆だが、読み切られなければ有効な策。
ルクスは、反射的に判断する。
ーーなら……今!
瞬時に抑制装置の限界まで神経信号を加速し、影のように低く走る。
遮蔽の合間を縫い、無音のまま一気に裏手へとまわりこむ。
そこには、副補佐の後衛を伴ったカスパルがいた。
驚いた顔で振り返った副補佐が声を上げかけた瞬間、ルクスは制圧用の麻痺信号弾を正確に撃ち込む。
副補佐が倒れたその隙を突いて、ルクスはカスパルの足元を制し、仮想ナイフの柄をその首元に押し当てた。
「ーー制圧完了、目標ポイント確保」
訓練場に、終了を告げる合図が響いた。
すぐに教官たちが駆け寄り、装置の安全確認と記録の回収を始める。
他の生徒たちも、演習終了を知って次々に身を起こす。
「さすが、見事な読みと動きだったな」
カスパルが、僅かに口元を緩めた。
ごく自然な賞賛の響き。
「僕が囮にした指揮点は、エリオでも深追いしてこなかった」
「……彼は、囮だと見抜いたんだ。時間内に制圧されなければ、後で仕掛けるつもりだった」
「そうか。君は、それを見越していた……僕が仕掛けた偽の隙と、エリオが動かずにいた理由、その両方を」
カスパルの言葉に、ルクスは頷きを返した。
その少し後ろーー第二班の後衛線を突破し、遅れて追い着いていたエリオが、黙って二人の様子を見ていた。
「やるじゃないか」
静かに見極めるような眼差しとともに、その声には、確かに一つ、評価の色があった。
ルクスは、息を整えながら、ふと空を見上げた。
高く冷たい雲の隙間から、ほんの一瞬、陽が差し込んでいた。
これが、初めての演習。
まだ何者でもない自分が、学院の一角に立った実感が、指先に残っていた。
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