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「……ああ、なんということだ! 私の忠実な聖騎士団までもが、あの魔女の毒牙にかかり、無惨にも全滅してしまったとは!」
ウィルフレッド王子は、誰もいなくなった野営地の天幕で、鏡に向かって髪を掻き乱していた。
実際には全滅どころか、全員が私のマドレーヌを食べて「美味しいです、お嬢様!」と感涙に咽んでいるのだが、王子の脳内では「凄惨な魔術による大虐殺」が展開されているらしい。
「このままでは私の面目が丸潰れだ。……いや、これはチャンスかもしれない。あのアマリリスが、隣国の無法者どもと手を組み、我が国へ反旗を翻したことにすれば……!」
王子は邪悪な笑みを浮かべ、震える手で最後の一通となる「特級親書」を書き上げた。
そこには、『アマリリス率いる魔王軍が、隣国の正規軍を密かに取り込み、我が国への侵略を開始した。即刻、国家総動員令を発令されたし』という、もはや妄想の域を超えた大嘘が記されていた。
この手紙が、母国フローライトの国王――つまり王子の父の元へ、最速の早馬で届けられることになるとは。
一方、そんな嵐の予感も知らず、砦の中は大賑わいだった。
「……ゼクスさん、この『お徳用・超大盛り焼きそば』というもの、意外と騎士の皆様に好評ですわね」
私は、大量のキャベツと肉を炒める香ばしいソースの香りに包まれながら、巨大な鉄板の前で満足げに頷いた。
「好評どころじゃねえよ! 聖騎士団の連中、今まで何を食わされてたんだ? ギデオンなんて、さっきから鉄板の端っこにこびりついたソースを、聖剣でこそぎ取ろうとしてるぞ」
ゼクスさんが呆れたように、元・聖騎士団長を指差した。
見れば、かつての威厳はどこへやら、ギデオン様は「この焦げ目こそが至高……」と虚ろな目で呟きながら、必死に鉄板を磨いている。
「よろしいことですわ。食欲があるのは健康な証拠ですもの。……あら、ギデオン様、ソースが跳ねて作業着が汚れていますわよ? 後で私が特製の洗剤で落として差し上げますわ」
「はっ! 恐縮です、アマリリスお嬢様! このシミは、私の忠誠の証として家宝にいたします!」
「それは不潔ですので、すぐに洗ってくださいな」
私がにっこり笑うと、ギデオン様は「はい、喜んで!」と小走りで洗濯場へ向かっていった。
「……アマリリス。お前、本当に恐ろしい才能を持ってるな。あの堅物で有名なギデオンを、たった一日で完全な『下僕』に変えちまうなんてよ」
ゼクスさんが隣に座り、私の焼いた焼きそばを口に運びながら言った。
「失礼ね。私はただ、皆様に正しい生活習慣と、美味しい食事の喜びを教えているだけですわ。それに、ゼクスさんだって、初めて会った時よりずっと素直になったではありませんか」
「……。……。……うるせえよ。俺は最初から、騎士としての職務を全うしてただけだ」
ゼクスさんは顔を背けたが、耳の先が少しだけ赤くなっている。
その時。
砦の屋上にいた偵察兵が、けたたましく鐘を鳴らした。
「団長! お嬢様! 大変です! 国境の向こう側で、見たこともない数の狼煙が上がっています! あれは……我が国の『総攻撃準備』の合図です!」
静まり返る食堂。
騎士たちは箸を止め、一斉に顔を上げた。
「……総攻撃? たかが一人の令嬢……いえ、一人の『魔女』を捕まえるために、国が動いたというのですか?」
私は首を傾げた。
「いや、違うな。……おい、伝令の魔法鏡を出せ!」
ゼクスさんが叫ぶと、ギデオン様が真面目な顔で鏡を持ってきた。
鏡の中に映し出されたのは、母国フローライトの掲示板の映像。そこには、目を疑うような見出しが躍っていた。
『魔王アマリリス、隣国と軍事同盟を締結! 近日中に王都への侵攻を開始予定! 国民よ、武器を取れ!』
「……。……。侵攻?」
私は自分の胸に手を当て、そっと考え込んだ。
「ゼクスさん。私、隣国の王族の方とお会いした記憶はありませんし、軍事同盟を結んだ覚えもありませんわ。あるのは、美味しい焼きそばの作り方を皆様に共有したという、平和な実績だけです」
「お前がそう思ってても、世界はそう見てねえんだよ! おい、これ完全に外交問題だぞ!」
ゼクスさんが頭を抱える。
「あの王子、自分自身の失態を隠すために、戦争を始めやがった! このままじゃ、この砦は二国の戦場になっちまうぞ!」
「戦争だなんて、そんな物騒な……。せっかく床をピカピカに磨いたのに、土足で踏みにじられたら堪りませんわ」
私は静かに、しかし決然と立ち上がった。
「ゼクスさん、ギデオン様。……こうなったら、私たちが『本物の魔王軍』に見えるように、さらに豪華なおもてなしを準備しなければなりませんわね」
「……お前、まだおもてなしで解決する気かよ!?」
ゼクスさんの絶叫が響く中、私はトランクの奥底から、これまで一度も使ったことのない「最高級・パーティ用演出魔法薬」を取り出した。
「喧嘩を売られたら、それを上回る『お祝い』で返すのが、フローライト公爵家の流儀ですの。皆様、今夜は大忙しになりますわよ!」
私の瞳に、かつてないほど「おせっかい」な光が宿った。
ウィルフレッド王子は、誰もいなくなった野営地の天幕で、鏡に向かって髪を掻き乱していた。
実際には全滅どころか、全員が私のマドレーヌを食べて「美味しいです、お嬢様!」と感涙に咽んでいるのだが、王子の脳内では「凄惨な魔術による大虐殺」が展開されているらしい。
「このままでは私の面目が丸潰れだ。……いや、これはチャンスかもしれない。あのアマリリスが、隣国の無法者どもと手を組み、我が国へ反旗を翻したことにすれば……!」
王子は邪悪な笑みを浮かべ、震える手で最後の一通となる「特級親書」を書き上げた。
そこには、『アマリリス率いる魔王軍が、隣国の正規軍を密かに取り込み、我が国への侵略を開始した。即刻、国家総動員令を発令されたし』という、もはや妄想の域を超えた大嘘が記されていた。
この手紙が、母国フローライトの国王――つまり王子の父の元へ、最速の早馬で届けられることになるとは。
一方、そんな嵐の予感も知らず、砦の中は大賑わいだった。
「……ゼクスさん、この『お徳用・超大盛り焼きそば』というもの、意外と騎士の皆様に好評ですわね」
私は、大量のキャベツと肉を炒める香ばしいソースの香りに包まれながら、巨大な鉄板の前で満足げに頷いた。
「好評どころじゃねえよ! 聖騎士団の連中、今まで何を食わされてたんだ? ギデオンなんて、さっきから鉄板の端っこにこびりついたソースを、聖剣でこそぎ取ろうとしてるぞ」
ゼクスさんが呆れたように、元・聖騎士団長を指差した。
見れば、かつての威厳はどこへやら、ギデオン様は「この焦げ目こそが至高……」と虚ろな目で呟きながら、必死に鉄板を磨いている。
「よろしいことですわ。食欲があるのは健康な証拠ですもの。……あら、ギデオン様、ソースが跳ねて作業着が汚れていますわよ? 後で私が特製の洗剤で落として差し上げますわ」
「はっ! 恐縮です、アマリリスお嬢様! このシミは、私の忠誠の証として家宝にいたします!」
「それは不潔ですので、すぐに洗ってくださいな」
私がにっこり笑うと、ギデオン様は「はい、喜んで!」と小走りで洗濯場へ向かっていった。
「……アマリリス。お前、本当に恐ろしい才能を持ってるな。あの堅物で有名なギデオンを、たった一日で完全な『下僕』に変えちまうなんてよ」
ゼクスさんが隣に座り、私の焼いた焼きそばを口に運びながら言った。
「失礼ね。私はただ、皆様に正しい生活習慣と、美味しい食事の喜びを教えているだけですわ。それに、ゼクスさんだって、初めて会った時よりずっと素直になったではありませんか」
「……。……。……うるせえよ。俺は最初から、騎士としての職務を全うしてただけだ」
ゼクスさんは顔を背けたが、耳の先が少しだけ赤くなっている。
その時。
砦の屋上にいた偵察兵が、けたたましく鐘を鳴らした。
「団長! お嬢様! 大変です! 国境の向こう側で、見たこともない数の狼煙が上がっています! あれは……我が国の『総攻撃準備』の合図です!」
静まり返る食堂。
騎士たちは箸を止め、一斉に顔を上げた。
「……総攻撃? たかが一人の令嬢……いえ、一人の『魔女』を捕まえるために、国が動いたというのですか?」
私は首を傾げた。
「いや、違うな。……おい、伝令の魔法鏡を出せ!」
ゼクスさんが叫ぶと、ギデオン様が真面目な顔で鏡を持ってきた。
鏡の中に映し出されたのは、母国フローライトの掲示板の映像。そこには、目を疑うような見出しが躍っていた。
『魔王アマリリス、隣国と軍事同盟を締結! 近日中に王都への侵攻を開始予定! 国民よ、武器を取れ!』
「……。……。侵攻?」
私は自分の胸に手を当て、そっと考え込んだ。
「ゼクスさん。私、隣国の王族の方とお会いした記憶はありませんし、軍事同盟を結んだ覚えもありませんわ。あるのは、美味しい焼きそばの作り方を皆様に共有したという、平和な実績だけです」
「お前がそう思ってても、世界はそう見てねえんだよ! おい、これ完全に外交問題だぞ!」
ゼクスさんが頭を抱える。
「あの王子、自分自身の失態を隠すために、戦争を始めやがった! このままじゃ、この砦は二国の戦場になっちまうぞ!」
「戦争だなんて、そんな物騒な……。せっかく床をピカピカに磨いたのに、土足で踏みにじられたら堪りませんわ」
私は静かに、しかし決然と立ち上がった。
「ゼクスさん、ギデオン様。……こうなったら、私たちが『本物の魔王軍』に見えるように、さらに豪華なおもてなしを準備しなければなりませんわね」
「……お前、まだおもてなしで解決する気かよ!?」
ゼクスさんの絶叫が響く中、私はトランクの奥底から、これまで一度も使ったことのない「最高級・パーティ用演出魔法薬」を取り出した。
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